凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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片田舎のおっさん、剣聖になる
漫画で初めて知ったんですけど、ステキなおっさんです。
これは『漫画版』しか読んでなかったおっさんが、ベリル・ガーデナント氏になってしまった努力と根性と腹筋の物語です。腹筋関係ないけど。


片馬鹿 -片田舎の剣聖に転生した馬鹿の話-①

 サンタクロースを、いつまで信じていたか~なんて問いかけには、あのスギータ氏独特の声質へと届けたい言葉がある。

 たぶん、多少は信じていた。けど、『裕福な家にしか訪れない差別主義の赤いおっさん』程度の認識だったと声を大にしよう。

 我が家にサンタクロースは訪れなかったし、大人になっても誰かに高価なプレゼントをしてやれるほど、自分の懐が豊かだったわけでもない。

 

 それでも───いつまでサンタという存在を信じていたかというと、自分が、誰かが喜んでくれるものをプレゼント出来る瞬間まで、と言っておこう。

 『子供にプレゼント出来るようになったらね? サンタクロースなんていらねーのよ』……そう思えるくらいには、大人になったのだ。差別主義のおっさんよりマシだろ? などという一種の反抗的抵抗的反骨精神的な気持ちもあったと今なら言える。

 結果として少女は喜んでくれたし、いつだって、肌身離さず持ってはニッコニコしていた。……まあ、兄の娘なんだが。

 そんな笑顔を見るたび、自分は彼女にとってのサンタになれたんだろうか~なんて考えては、ひとりニヨニヨと頬を緩ませていた俺なのだが。

 

「………」

 

 ふと気づくと……知らない天井。

 見知らぬ誰かに覗き込まれながら、俺は……俺であることを認識した。

 鈴宮ホルヒのにゅうツー*1の始まりを意識するようなサンタクロース的な喩えを出してみたものの、現状はやっぱり変わらん。

 現状はね。思考は結構進んでると思う。

 

 あ~……この展開は知ってますよ~? うん、おじさん知ってる知ってる。

 これあれでしょ。異世界転生~とかいうやつでしょ。

 まあね? 暴走スポーツカーから姪を守るために飛び出したのは覚えてるし、余裕で自分も逃げられる状況だったのも覚えてる。

 でも姪の手からこぼれてしまった、俺がプレゼントしたものを見てしまったら、足が止まって手が伸びてしまったのだ。

 掴んで、投げ渡す。

 たったそれだけの時間を待ってくれなかった車は、俺を盛大に撥ねて電柱に衝突した。

 アスファルトはめっちゃ硬くてザリゾリゴツゴツしてて、コケちゃった時もそうだけど、なんでこんな作りなんだよ! って苦言を呈したいくらいには……まあ、痛かった。

 

 意識があったのはそこまで。

 俺が放り投げた姪も、プレゼントも受け止めた兄が俺の名前を叫んで、姪がおじちゃーんって泣き叫んで。

 ああ、勘弁してくれ。泣いてほしかったわけじゃないんだ。

 そうじゃなかったらプレゼント優先して投げ渡すわけないだろ? 笑ってくれ……ってのは無茶かもだけど、どうか───

 

「あー……」

 

 なんて思ってたら……赤子です。

 どうやら産まれたてってわけでもないらしく、腕は動かせるし、動かした手も見えた。

 考える脳ももう発達してらっしゃるようで、いろいろ考えることは出来たのだが───

 

「ん~? どうしたの~ベリル~。お腹空いちゃった~?」

 

 どうやらベビーベッドで寝ているらしい俺を、見知らぬ女性が見下ろしてくる。

 俺はベリルという名前らしく、なんとも穏やかな場所に───

 

「おう起きたかベリル。───おう? かっはっは、なんだなんだ父親の顔が珍しいかぁ?」

 

 ───やべぇ。俺この人知ってる。 

 俺が知ってるのはもっと年老いたこの人だけど、やべぇ間違い無ぇ。

 しかもベリル? ベリルと申したか我のことを。

 

(このっ……この人の子供で、ベリル……ベリルって……!!)

 

 片田舎のおっさん、剣聖になる。というタイトルが頭に浮かんだ途端、俺は実に赤子らしくほんぎゃああああと叫んだ。それはもう泣き叫んだ。

 父親であるこのお方(たぶん元剣聖さん)が慌てるくらいには。

 そして、前世の俺が好きだった作品の中の主人公に、あろうことか俺なんぞが転生してしまったことに、未来へ向けての絶望を胸に抱いたのでした。

 

 ……そういえば、転生特典~とかあったのかな。俺、別に神様にも女神様にも天使さんにも会っておらんと思うのですが。

 会ってないよね? え? 会ったっけ? うーん……。

 ……思い出せないのは兄さんが満たされてるからだよ。よし俺は満たされてる。

 満たされてるならしょうがない。けっして、俺の記憶力が悪いわけではない筈だ。

 

 スッ、スススティタスッ! とか言って、ステータスが見れるわけでもないし。

 あるとするならなんかこう……ステキなものだったらいいな。

 せめて俺が、ベリル・ガーデナント氏を殺さないで済むような素敵な……いやいや! その甘えた根性が俺を歪ませるんだ!

 ベリル・ガーデナント氏がそんなものを欲しがるか!?

 俺が頑張るんだよ……! 俺が頑張らなきゃ、俺がベリル・ガーデナント氏の名を守護らなきゃ、誰が守護るっていうンだッッ!!

 

 

 *なお、女神様には会ってるし、なんだったら三つ特典を貰っていたりする。

  が、結局ステータスなんて見れない世界なので、一生知ることはない。

 

 特典1:憧憬一途(しょうけいいっと)(リアリス・フレーゼとは読まない)

 効果 :早熟する。思いが強ければ強いだけ早熟効果が強まる。

     ただし強まるのは早熟の効果だけである。

     思いの強さでマッチョになるわけではない。

     つまり鍛えなきゃ雑魚のままである。鍛えろ。(女神談)

 特典2:戦闘民族

 効果 :戦うための全盛期の肉体年齢がひどく長い。

     挫けそうになっても立ち上がるたびに潜在能力の上限が高くなる。

     瀕死にならんくてもいい。ただしやっぱり鍛えなきゃ意味がない。

     軽くでも心が敗北を感じればそれが負けたことになる。

     憧れの人の足元にも及ばない、とか認めたものでも敗北になる。

     ただしあくまで上限を広げるだけである。鍛えろ。(女神談)

     鍛えないやつがどれだけ敗北から立ち上がっても意味がない。

     瀕死から回復しただけで戦闘力が上がる?

     上がった能力に体が勝手に適応してる?

     んーなわきゃないでしょう。強くなりたけりゃ頑張れ。楽すんな。

 特典3:人体能力向上(身体能力ではない)

 効果 :人体に備わっている能力が向上する。もちろん回復力も向上する。

     たとえば体力などの回復力や、筋疲労の回復、超回復が早くなる。

     人体の能力なので、意図的に血流を速くしたり、痛みを抑えたりも可能。

     ただしタンス等に小指をぶつけた時の痛みが倍になる。

     その痛みは抑えたり出来ない。頑張れ。

 

 

 

   ◆  ◆  ◆

 

 

 作品の主人公になるってどんな気分だろう。

 そんな暢気さを抱いていた自分をブン殴りたい。

 おっさんとしてあの穏やかな性格、謙虚な在り方には好感を抱いていたし、強さにも憧れを抱いていた。

 

 見ていたのは漫画だけだったものの、ヘンブリッツ君との戦いとか好きだったし、シュプールとの『……ああ そうだな ───楽しいな』はほんと胸にきた。

 ミュイや、ミュイの姉のヘリカのことでお子にはやさしくなろうと強く強く思ったし、お陰でリアルの姪には滅法好かれていたと思う。

 けど───けどさぁ! 憧れは憧れに留めさせてくれません!?

 おぉおおおおお俺にベリル・ガーデナント氏は荷が重すぎますよ!?

 あわぁああばばばばばどどどどうすれば! どうすればぁあああっ!!(早速心の敗北→限界突破×ウン十回)

 

(いぃいいいやいやいやいや待て待て落ち着け……! 俺はまだまだ赤子……! 今から未来に向けて自分を高めていけば、門下生やスレナ、アリューシアらの弟子に落胆されることもないのでは……!?)

 

 やっ……でもさ、あの凛ッと磨かれた強さはガーデナント氏がひたすらに頑張った証であって……! あの人あれだぞ!? その剣で多くの人々を助ける、なんてすっげぇ立派な志を以って、子供の頃から鍛錬してたんだぞ!?

 俺にそれが出来るか!? なんかいきなり転生して、憧れのベリル氏になって……!

 

 やべぇ……! 死ぬ気で努力しないと届く気がこれっぽっちもしねぇ……!!

 身体がガーデナント氏だったとしても、体なんて志ひとつで簡単に崩れてしまう。

 筋トレする人ならご存知だろうけど、体を理想に近づかせるには、それこそ理想をきっちり思い描くことが重要だ。

 重要……なのに、俺にはこの体に産まれて“するべき目標や指標”っていうのが……未来が見えてない。

 だめじゃねぇかこれ……! やべぇよ俺がベリル・ガーデナントを終わらせてしまう……! オールマイトを終わらせちゃったバクゴーのかっちゃんな気分だよコレ……!

 空手を終わらせた愚地克己とはワケが違い過ぎる……!

 

 ◆例1

 愚地克己(おろちかつみ)ってのはオメェ……アレだァ、空手を終わらせちまった男なんだよ……

 *空手をこれ以上進化できない場所まで引き上げた偉大なる男的な意味

 ◆例2

 爆豪勝己ってのはオメェ……アレだァ、オールマイトを終わらせちまった男なんだよ……

 *平和の象徴のヒーロー生命を自分の所為で終わらせてしまった男的な意味

 

 ◆この場合、俺は例2に該当します。

 

(い、いやだっ……! 俺が、俺が落胆されるのはいい……我慢できるよ……! でもベリル・ガーデナントが落胆されるのは……嫌だ! 許せない!!)

 

 瞬間、俺の中に目標と指標が生まれた。

 ガーデナント氏ならそうするだろうという判断基準をもとに、誰にも落胆されないベリル・ガーデナントを目指す。

 俺がやるんだ……! もう、他に誰も居ない……俺がベリル・ガーデナントを完成させなきゃなんだ……!!

 

「あうー!」

「おおっ? どうしたどうした、急に叫んで。んん?」

 

 親父様が覗き込んでくる。

 あっ、親父様、ごきげんようです。俺、頑張ります! 親父様や、これから道場に集まるであろう人や、既に居る人たちに呆れられないよう、頑張りますから!!

 おやじ殿、なんてベリルのようには呼べませぬ。そう呼べるようになるのはきっと、俺がベリル・ガーデナントに到れた時だと思うから───!

 

「あうあー!(やっるぞぉおーっ!!)」

「かっはっはっはっは! おうおう、なにを言いたいのか知らんが、元気なのはいいことだっ! いいぞいいぞー、元気に育てよベリル!」

「あうー!(頑張ります! 死ぬ気で!)」

 

 そう。この時の俺は、誇張でもなんでもなく、ほんと死ぬ気で頑張る気でありました。動かせる時に体を動かし、休む時はきちんと休む。

 首が座れば動かす幅も増やして、道場に行けるようになれば、日々鍛錬をする親父様の弟子たちの動きを真似ていた。

 どうやらこんな俺にもガーデナント氏に宿る“目”の良さはあるようで、何度か真似てみればその動きをトレースすることに成功した。

 

 親父様は、そりゃあもう楽しそうに、嬉しそうに笑っていた。

 で、出来てますか!? 俺、ちゃんとベリルを出来てますか!?

 あぁいやいやここで調子に乗っちゃだめだ、親なんだから子供を褒めるのは当たり前なんだ。もっと磨こう。もっと高めよう。

 あ、目の良さは母親譲りらしいです。ありがとうございます母上殿!

 

*1
【ガチッホモンスター・匠に10ウォンセントポンドパール】をこよなく愛する高校生美少女、

鈴宮ホルヒが隠しガチモンである『にゅうツー』を仲間に出来ると噂される行動で、

データを破壊されて憂鬱になっているところ、

キョンと呼ばれる鹿と遭遇することから始まるハートフル鹿色デイズ。

もちろんンな作品(モン)は存在しない。




ちなみに総文字量が7万とかでした。
また分けますね……。
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