凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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二話目です。


片馬鹿 -片田舎の剣聖に転生した馬鹿の話-②

 少年期。

 木剣を手に体を動かしまくり、基礎を固めては打ち合い稽古をする。

 走り込みで体力の増強も忘れずに、体にダメージを残さないギリギリを攻めるように鍛錬鍛錬鍛錬……!!

 思い通りに体が動くようになると、これが嬉しくて楽しくて。

 心が調子に乗ってきたらとりあえず深呼吸。

 

 目指すものがあるからって、悶々黙々とするよりはそりゃあ楽しい方がいいに決まってるってもんで。

 身体が柔らかい内からストレッチも欠かさず、前世で見たストレッチ動画を思い出しながら、人体の何が何処に影響するかを考えながら、そりゃあもう鍛えた。

 そしたらもう楽しいの。子供の頃の伸びってスッゲー! って、そりゃあ鍛えたね。夢中になるよそりゃあ。

 

 行住坐臥(ぎょうじゅうざが)……っていったっけ? 常に武を思うって、中々キツいものがある。

 だからこそ楽しもうって思った。子供がゲームに夢中になるように、武に、剣に、心から、でも……心ごと身も放る。つまり、全身全霊ってやつ。

 自分がこれが好きなんだ。だから、他を忘れるくらいに没頭する。

 自分のなんらか、自分以外のなんらかが言い訳にならない、なれない、そんな“楽しい”の世界に、自然と身を置いていた。

 

 実際、剣は楽しかった。自分がベリルであることはいつでもプレッシャーにはなっていたけど、剣を学ぶこと、剣に学ぶことに否やは無く。

 学び、学ばされ、それが楽しくて、立ち合いで負けても、次の瞬間にはどう攻略するかを楽しめる自分が在った。

 それはとてもとても幸せなことで、自分が、ベリル・ガーデナントが成長することがこんなにも嬉しく思える。

 

 だからこそ、のめり込んだ。

 この体の可能性に。ベリル・ガーデナントの成長に。

 

 道場の弟子の何人かに勝てようが、中身は俺な時点で慢心なんて出来るわけがない。

 そのくせ剣が楽しくて、剣を信じて、剣に委ねて。

 本格的に道場の手伝いをするようになってから、小遣い的なものも貰うようになったけど、それは未来のためにひたすら溜めた。

 俺は剣があればいいとばかりに。

 

  趣味:剣。

  好きなもの:剣。

  誇れるもの:剣。

 

 頭の中を剣で埋め尽くしてようやく到れるであろう、あのベリル・ガーデナントまで到れるようにと……どこまでも真剣に、どこまでも純粋に、どこまでも楽しんで。

 父の型が我が身の中で、やがて自然となると……次第に自分の動かしやすいものが見えてくる。

 それに抗うこともなく、ただひたすらに、ただひたぶるに、まるで恋に恋焦がれた少年少女のように、没頭した。

 

 我が身に足らぬはなんたる業や。

 我が身に劣るはいかなる道や。

 磨き、研ぎ澄まし、焦がれて熱して、また鍛えて、打って、整えて、磨き、研ぐ。

 やがて見えてくる剣の道は、細り、細り、尖り、けれどもその尖りを溶かし、またなまくら(・・・・)から始める。

 

 ()は一つじゃない。そして、未知(・・)はひとつにしちゃあもったいない。だから未知は道となり、学ぶ道もまた鋭いものから鈍らから始めなきゃいけない。

 知らぬなら歩めばいい。回り道はどうせ糧にしかならないのだから。

 それを無駄足と語る己こそが一番の足手まといだ。

 全てを経験して、全てを剣に活かせばいい。

 俺は、剣に関するそれすらもが、もはやたまらなくいとおしい。

 

「ベリルよぅぃ」

「? なに? 親父様」

「剣に身をゆだねるなとは言わん。だが、修羅にはなるなよ」

「いや、言ってる意味がさっぱりなんだけど。しゅ……修羅? なにそれ」

「………」

「?」

「かっはっは、いや、いい。お前にゃ修羅とか無理だと分かった。お前はアレだ、ほれ。あー……馬鹿だな。修羅にゃあなれん。馬鹿だ。剣馬鹿(つるぎばか)だ」

「? よく分かんないけど、馬鹿になれるくらい没頭出来てるってことでいいんだよな? っへへー、そーだぜぇ~っ? 俺、剣のこと大好きだからなっ!」

 

 たまぁに親父様が、俺を見て渋い顔をする時がある。

 修羅がどうとか言われてもいまいち分からんし……や、言いたいことはなんとなく分かるよ? あれでしょ? 人斬り抜刀斎みたいになるな~とかそんなんでしょ?

 俺べつに人斬りの趣味とかないよ? ただ俺は凡人だから、一層の努力をしないとベリル・ガーデナントとしての名が廃れてしまうって、それに一生懸命なだけで。

 

 鍛錬すればするほど身に染みる。

 あれほどの領域に到るには、まだまだ足りない。きっと中身が俺だから。

 だから頑張らなくちゃいけないのだ。

 

 まだスレナは来ていない。

 彼女に会った時に、足りていないベリル・ガーデナントで居たくない。

 己を高めて、その上で“それが自然じゃなきゃいけない”とくる。

 まだまだ足りてないんだ、俺は。

 

「しかし……なぁベリルよ。お前は何を目指している? こんなにちっこい頃からず~っと、なにかを目指していたのは知っている。訊いてみるのは初めてになるが」

「………」

 

 そりゃバレるか。しかし、ううむ、なにを、と言われても。

 ベリル・ガーデナント氏を、と言ったって通じるわけもない。

 理想の自分を目指している~って言ったところで、たぶん『じゃあその理想とは?』とか訊かれると思うし、そしたらまた詰まるわけで。

 

「……ガーデナントを、って……言って通じる?」

「ガーデナント? ………」

「通じないならそれでいいよ。でも、俺は真面目に真剣に、それを目指してるから」

 

 だって説明のしようがないもの。

 それだけ言って、鍛錬に戻る。

 

「ガーデナントって………………え? 俺? 息子が俺を目指して……エ?」

 

 この時の俺は既に集中領域に埋没してしまっていて、親父様がなにを言っていたのかは聞こえなかった。

 ただ、なんか、たまたま道場に入って来た弟子によると、なんか親父様がポッと頬を赤らめて照れていたとかなんとか。

 なんのこっちゃだった。

 

 以降、なんか知らんけど親父様がモノスゲー鬱陶しくねちっこく構ってきたり、今さら構えがどうたら~とか指導してきたりした。

 いやなんなの親父様……。

 

……。

 

 季節が巡る。

 何度目かの秋の日、また親父様に負けた。

 その時、ふと思い出す。

 漫画版の巻末おまけ小説で、親父様から目がいいんだから目を使えって言われてたっけ、と。

 

 俺は使えるものは何でも使って意地でもベリル・ガーデナント氏を目指している最中だから、正直ちゃんと使えているのかどうかも分からないくらい我武者羅なわけだけど。

 どうなんだろう。言ってこないってことは使えてるのかな?

 それとも俺がまだまだちっさいから言ってこないだけなのか。

 ……使えてないんだろうなぁ。使えてたらたぶん、相手の動きとか予測できるんだと思う。ベリル・ガーデナント氏とシュプールがやっていたあの読み合いのように。

 

 だから、今日も集中する。

 意識しろ。見えるもの全てから学べ。

 目がいいっていうのはなにも、遠くのものが見える~とか、相手の行動の読み合いだけに使えるものじゃあない。

 親父様の動き、姿勢、呼吸、門下生がたまに見せて、親父様に褒められる動きも……その全てをものに出来るように。

 集中───!

 

「…………やべぇな。うちの息子が確実にバケモンになってきてやがる。しかも自覚してねぇぞこりゃ。……まあでも、面白そうだから放置でいいな。無駄に自覚させると成長止めちまいそうだ」

 

 続けていくうちに、出来ることも増えていく。

 脱力、力み、振り幅の調節に、疲れない最適な力の籠め方に、籠める時に込める全力の解放。

 それらを追求し、やがてものにすると、綺麗に斬れなかった藁束も斬れるようになる。

 けどそこで終わらせず、自分の中の理想のベリル・ガーデナント氏を構築、それを埋めるための努力を続けていく。

 集中、集中……集中───!

 

  シン───シンッ───シヒィンッ───!

 

 ……藁束を、下から上へ三回斬る。

 当然、下から斬るのだから“入り”が雑なら一回目で藁が飛び、二回目など斬れる筈もない。

 斬っても、乗っていること前提で振るった結果……藁は、見事に斬った分だけ分かれ、一番上だけが床に落ちた。

 

「……だめだ。これくらい、楽に出来る筈だ……出来なきゃガーデナント氏じゃない……」

「(怖ぁ……)」

 

 一部始終を見ていた親父様に、真顔でドン引きされていたなど知らぬまま、俺は剣を振るい続けた。

 三回斬って、最後に縦に斬るくらい出来る筈だ。

 うそだろって芸当をやってのけるのがガーデナント氏。

 ますたぁは神ってくらい、きっと簡単に出来るだろうから……俺も、その領域に……!

 

……。

 

 木剣を振るうだけでも、案外握力は備わっていくもんだ。

 けれども俺は、それだけに終始しなかった。

 門下生らが帰り、掃除のチェックを終えると、外へと出て無造作に置かれている木の枝を握る。

 それぞれ細いものばかりだけど、薪を燃すためのものとして集められたもの。

 それを束にするように握ると、踏み込みと一緒に思い切り振るう。

 

 関節を痛めないよう、振り方にも気を付けながら、なにより振るった枝が手からこぼれぬように思い切り握って。

 最初の頃はひどいもんだった。

 振るうと束にした枝の隙間から、枝がピョーイと飛んでいってしまうのだ。

 握りが弱い証拠だとさらにさらに握り締め、今では枝のひとつも飛ばなくなった。

 

「むんっ!!」

 

 振るう。

 どこぞの宮本武蔵さんが竹を振るうように。

 もちろん一振りで砕ける、なんて芸当はまだまだ無理だ。

 でも、振るうたびに千切れ飛ぶ、枝についたままだった葉が、自分は強く振るえている、という実感を与えてくれる。

 

「むんっ!!」

 

 頭上へ掲げ、一気に下ろす。

 両手持ちでやっているものだから、真っ直ぐには振るわない。

 右に左にと袈裟懸けに振るい、また持ち上げ、振るう。

 

 頭の中に帽子を被ったウマ娘さんが居て、ゆっくり持ち上げるたびに『えいえい~……』って溜めて、振り下ろすと『むんっ!』ってガッツポーズ取るもんだから、集中集中と頭を振るって、自分の中へと埋没する。

 最初はね、武蔵氏のように片手ずつに枝を持って~ってやってたんだけどね。そもそもガーデナントの流派が両手持ちの剣なんだから、二刀流前提でやるのはなんか違うと、こうして両手持ちの鍛錬に戻った。

 いつかは一振りで、余計な枝とか葉が吹き飛ぶようになってみたいなぁ、なんて思いながら、今日も日が落ちそうになるまでそれを続けた。

 

……。

 

 朝。

 めっちゃ走る。

 ガーデナント氏は体力が少なかったイメージだから、それはもう走った。

 走って走って、疲れ果てて戻って、タオルで汗を拭って朝ご飯。

 よく噛んで食べて、食事が済めば食器を洗い、親父様が持っている剣に関する書物を読ませてもらい、門下生が来れば道場へ。

 

 そして鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬……!!

 門下生が来ない日には泥のように眠り、休み、体をこれでもかってくらい休ませ、夜が明ければまた鍛錬。

 ああっ……成長してる……! ベリル・ガーデナント氏の成長速度、半端無し……!

 やればやるほど成長するってスバラシイですね!

 

 しかしだ。まだまだこんなもんじゃないだろう……! 俺の知るガーデナント氏はこれの遥か先をユクノデス!*1

 もしや今!? 今が成長期ってやつですか!?

 だったら今ぞ! 今こそ今ぞ!

 鍛えて鍛えて鍛えまくって、いつかは親父様に勝てるように───!!

*1
*大人なんだから当たり前です




アニメ刃牙道の宮本武蔵編、楽しみです。
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