凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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サーン!


片馬鹿 -片田舎の剣聖に転生した馬鹿の話-③

 青年期。

 メッシャメシャに砕けて潰れてしまった枝の束を見下ろしたいつかを思う。

 身体がデカくなってきたことも手伝って、もう枝くらいじゃ軽々と砕けるようになってしまった。

 なので木剣を買っている先に、木剣を作る際に出てしまう棒のきれっぱしなどを頂けないかと交渉してみると、お得意先ということで、譲ってもらえた。

 それからはずっとそれを振るう。

 今のところ砕けたりは───あ、砕けた。

 

「……同じところを握りすぎたかな」

 

 握力、そんなに変わってないと思うんだけどなぁ。

 試しに別の束を握り込み、振り上げ、振るってみる。

 脱力、からの渾身。

 すると木剣のきれっぱしの束はメッシアアと軋みを上げ、砕けてしまった。

 

「………」

 

 OK、振り方が様になってきたんだ、たぶん。

 まあ打ち合ってても剣を落とす~なんてことも無くなってきたし、いいことだ。

 しかし、こうしてなにかしらの結果が見えてくると、欲が出るのが人間でして。

 いやだなぁなんて思いつつ───ある日、実力を知りたくてダンジョンに潜った。いや、潜ろうとした。

 本来のベリル・ガーデナント氏もとった行動だ。

 

 結果はどうかと言えば、原作通り、モンスターを倒せずに入り口近くで敗走。

 え……モンスターってあんなに強いの!? なんなのあいつ! あんなのがそこいらうろうろしてて、あんなのを討伐して回ってるって、冒険者強すぎない!?

 なんなのあいつ! なんか姿消したりするし攻撃も強いし!

 ででででもでもフフフ、やってやりましたよ俺! 結構頑張れたと思う!

 結構斬れたし、痛み分けってことでいいんじゃないでしょうか! ……いいよね!?

 

 けどなぁ……こりゃあベリルが自信無くすのもわかるよ。

 ダンジョンに入ってもいない入り口付近のモンスであれだよ? やっぱり俺ってまだまだすぎて……。

 結局親父様には一度も勝てないままに親父様は剣を下ろしちゃったし、ならばと戦ってみた魔物は強すぎて、俺なんてまだまだまだの雑魚野郎であったことが証明されてしまった。

 ネームドのゼノ・グレイブルを怯ませたガーデナント氏に……届くことが出来るんだろうか、俺は……。

 

「いやいやっ、ここでもにょもにょしてるからダメなんだ俺はっ……! いや、ガーデナント氏も結構もにょもにょしてたけどさ」

 

 ちょっと免罪符を得たい気分だったけど、頭を振って頬をパンパン叩いて気合いを入れる。

 今は俺がガーデナント氏なんだ……ベリル・ガーデナントの名を穢すことは、なにより俺が許しませんし許せません!

 

 なんて思ってはみるものの、実際結構ボッコボコにやられたから数日休んだ。

 休んでる間はストレッチをしつつ、今まで酷使してきた筋肉や体を休めるつもりで、しっかり栄養も取りました。

 そして復帰してからは───もちろん鍛錬である。

 朝から走り込み、食事をし、道場を開け、鍛錬。

 

「もっともっと深く深く───! 集中───!!」

 

 自分の目の前のこと以外の情報を切り捨て、集中。

 まずは型から入り、逸らしの反復動作。

 次いで型から成る派生の動きを一通りこなして、最後は木剣ではなく剣を手に、試し斬り用の藁束を用意し、それを斬る。

 

 強く強く集中して、体の振り、足の入り、関節の動きと、あとは剣の“鋭き”をどこまでも使って───シン───と、藁束を通す。

 斬れた藁束は斬った藁束に乗ったままだ。

 これを、ガーデナント氏は完成前のなまくらの剣でやってみせたんだ。

 普通の切れる剣で喜んでるようじゃ、まだまだだ……!

 

「うわあ、またやってるぞ師範代……」

「あの若さであそこまで腕上げといてまだまだって……」

「……てかさ。あの剣、どっから出してきた? あれ研ぎ直すってんで、師範がそこらに置いといたやつじゃなかったっけ?」

「………………いやおい。でも斬れてるぞ? 藁束斬れてるぞ? し、しかも乗っかってるぞ……!?」

「………」

「………」

「ていうかさ。あの師範代を出戻りさせた魔物……って。どんなやつなんだろうな」

「そりゃお前……特別討伐指定対象……ネームドしか居ねぇだろ」

「やっぱそうだよなぁ……。で、師範代は絶対それに気づいてないと見た」

「俺もそう思う」

 

 剣はいい。

 好きという気持ちだけですべてを委ね、埋没出来る最高のものだ。

 この世に剣があることをただただ感謝しよう。集中───!

 

「───」

 

 命のやり取りをした相手のイメージと、ひたすら戦う。

 強かった。バケモノ、と呼ばれるだけはある強さだった。

 が、見たのなら、イメージ出来るのなら、いつかはきっと越えられる。

 

 越えて見せろ、超えて魅せろ。

 自分が納得いく強さへ到れ。自分が納得いく姿へ到れ。

 それすら出来ずに、俺は俺がベリル・ガーデナントであることを認めることなど出来ない。

 俺の憧れは、まだまだこれっぽっちも彼に追い付いてなんかいないんだから。

 

(まずの目標……! あの魔物を楽に倒せるくらいに……!!)

 

 目標は決めた。

 相手の動きはこの目で散々と見た。

 あとはそのイメージと、とことんまでぶつかるだけだ……!

 自分の都合のいいように行くだなんて錯覚するな……結局敗走した俺が、好き勝手に弱体化していいような相手じゃないんだから……!

 

 そ、そう、そうだ。元のガーデナント氏すら敗走させた魔物だぞ? 俺が調子づいて、どうせこの程度だから~なんて時間の経過で見下していいような相手じゃない。

 相手は、常に最強の、けれどそこらに居る魔物だと知れ……!

 ………………きっついなぁそれ。

 

「…………なぁ。師範代の動きがいよいよヤバい方向に飛びぬけてってる気がすんだが」

「奇遇だな。俺もそう見える」

 

 思い出せ。優れて産まれたこの目に焼き付けた……いや、目に焼き付けなければきっと殺されていたであろう、あの魔物の強さを。姿を。

 注意深く用心深く様子見をしていたあいつを、同じく観察し予測し用心し、身も心も備えた上で勝てなかったあいつを。

 集中───

 

「……なぁ。魔物ってあんな早く動く師範代に勝てるほど強いのか? ダンジョンに出るでもないフツーの魔物が?」

「俺、外出るのが怖くなってきたよ……てか師範代、今腕がブレて見えなくなったような……」

「なにあれ……怖ぁ……」

 

 そうして今日もまた剣に埋没し……それからしばらく経った頃だった。

 ある山道で馬車がなにかに襲われ、崖から落ちた先で───少女が見つかった。

 他には誰も見つかっておらず、ただ血にまみれた荷物や残骸が残っていただけ。

 川の傍で見つかったのは一人の少女だけであり、少女の名は───スレナだった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 特に語ることはない……と言いたいところだけど、俺が俺である以上、原作……もとい、漫画通りに~とはならない。

 スレナがトラウマを抱えたのは仕方ないことだし……吹雪の中、熱を出したスレナを医者のところまで運んだのもそのまま。

 しかし姪を喜ばせることには一日の長があった俺は、スレナと打ち解けるのもそりゃあ早かった。早ければ、スレナが剣に興味を持つのも速いってなもんで、俺は早速スレナに剣を教えるのとともに、自分自身ももう一度、基礎からみっちりと鍛えることにした。

 

「……うん。スレナは体力方面に長けているみたいだね。それを伸ばしていこうか」

「………」

 

 こくり、と頷いてくれる。

 最初はそんな反応もなかったんだから、これでも慣れてくれた方だ。

 まあねぇそりゃあねぇ、目の前でさ? 謎のモンスに親を殺されたってんじゃあこうなっちまうよぅ。

 

 いやだねぇ、こんなさ? 幼い子がさ? 原作キャラとはいえこんなひっどい目にさぁ。

 だから彼女を鍛えることにした。

 原作のガーデナント氏はみっちり教え込むことはしなかった筈だったけど、俺は違う。いずれ竜双剣に到る彼女に、両利きになってもらうことも並行して修行させて、体力づくりと剣の型を、基礎から叩き込んでいく。

 

 スレナも辛い思いを振り切るかのように剣に没頭し、俺の言葉を真っ直ぐに受け取って、日に日に力を、技術を身に着けていった。

 現代医学的筋トレも混ぜ合いつつ、けれど剣に必要な筋肉以上を無闇につけたりはしない。動きを阻害するほど発達した筋肉は、剣の道には不要だ。

 だからこそ、自分が振るう剣にこそ訊ね、語り合いながら理想を目指すのだ。

 

「よし、いいよ。左、左、左、右───」

「ふっ! ふっ! ふっ! たぁっ!」

「そう。力任せじゃなく、必要最低限。その動きに必要な力だけを使うんだ。余計はそれこそ余計になる。疲れないことと、いつでも同じ力を引き出せること。それが大事だ」

 

 そうして教えるべきは教えて、ストレッチもきっちり。

 鍛錬が終わったら、用意した温水でタオルを絞って、汗をきっちり拭う。

 石鹸やシャンプーとかはないけど、頭皮も洗わないとだから、女性は結構大変だ。

 汗を拭ってさっぱりしたあと、スレナと落ち合うと、スレナの髪はまだまだ結構濡れていた。

 

「今日も頑張ったね、スレナ。こっちおいで、髪もしっかり拭かないと、風邪ェ引いちまう」

「う、うん」

 

 ひとたび剣を離せば年頃の女の子。

 庭のお花にふわりと微笑むことだってある、まだまだ小さな女の子だ。

 けど……教えないといけない。伝えないといけない。

 

 この娘がこの先、貰われていった先でもちゃんと生きていけるように。

 俺の、まだまだ至らない教え方なんかできちんと成長してくれるかなんてわからないけど、今出来る全力で、彼女に生き方を、剣を、そしてやさしさを伝えよう。

 それが、今の俺に出来る精一杯だろうから。

 

「ごめんね、スレナ。俺には剣しかないから、教えてあげられるのが剣しかないんだ。もっと女の子らしいこととかも教えてあげられたらよかったんだけど」

「そ、そんなことないっ! あっ……ない、です。おにいさっ……先生は、すごく、いい人で……その」

「……そっか。ありがとう、スレナ」

「~……」

 

 髪をタオルでやさしく拭い、十分に水分を取れたら、……まあ、ドライヤーなんてないから、自然乾燥。

 それまで足の間にスレナを座らせ、話をするのも慣れたもんだ。

 どうやら危険な存在ではない、くらいには認識されているようで。

 

 教えられることは教えて、ダメなところはダメと注意して、褒める時はそりゃもうベタ褒める。

 そうした関係を続けていれば、まあ懐いてくれるってもんで。

 三ヶ月も経てば遠慮は消えて、一年経てばもう家族。

 

「行きます先生っ!」

「よしこいっ!」

 

 木剣二刀流も様になってきて、扱う利き手も両利きとくる。

 まだまだ体力は無尽蔵ではないものの、こちらに向かってくる速度が落ちていくことは、立ち合いの最中は一切無くなっていた。

 ……まあ、それは俺もですがね!

 

 俺頑張ってるよ親父様! モルデア・ガーデナント氏の名だって穢すつもりはございません!

 剣に加えて走り込み、筋トレ、食事内容の吟味、睡眠時間の計算(時計がないので体内時計だけど)など、出来ることは全部やってます!

 まあちっともベリル・ガーデナント氏に近づいてる気がしないんですけどもね!

 

 そんなわけで、すっかり遠慮なく打ち込んでくるようになったスレナの猛攻を受けて逸らしてまた受けてを続けて、こちらも隙を突くように攻撃を割り込ませる。

 今の行動はここに隙があるぞと教え込むように。

 スレナはそれもきちんと飲み込むと行動をコンパクトに、けれど最小限でも最大の攻撃を繰り出し、こちらを驚かせてくれる。

 本当に……子供の成長っていうのは物凄い。

 その力強さに、眩しさに、思わず頬が緩んでしまう程。

 

「たぁああああっ!」

「───」

 

 あ、ここ。

 ふと、漫画の中のワンシーンが頭の中に浮かんだ。

 ので、木葉崩しからの流れを出来るかなと動いてみたら───出来てしまった。

 木葉崩しでスレナの左手の剣を宙に飛ばし、屈せず振るわれた右の剣を手に持った木剣でいなし、木剣の柄で押さえ、落ちて来たスレナの剣を右手で迎え、トン、と……抑え込まれたスレナの首筋に当てた。

 

「……強くなったね、スレナ」

「~……!」

 

 誇らしい思いとともに言ってみれば、スレナはぱあああっ……と花開くように微笑んだ。

 そうだ、それでいい。辛い気持ちは辛い気持ち。無くせって云われたって時間しか解決してくれない。

 でも、だからって楽しい嬉しいにそれを混ぜる必要なんてないのだ。

 楽しかったら笑え。嬉しかったら微笑めばいい。

 いつか来る別れの日まで、辛さも楽しさも、悲しみも喜びも、全部一緒に噛み締めてやる。落ち込むために下を向けるなら後ろだって見てみろ。

 

 後ろを向けるんだったらその後ろだって見て歩いてみろ。

 歩けたなら上を向け。躓いたらまた下だって向けばいい。

 いいかいスレナ。俺達は、どこだって見れるんだ。

 世界が見えるならどこだって見ればいい。見たくないものが怖くてたまらないなら、怖くなくなるまで強くなればいい。それでも怖いなら、一緒にその怖さ、やっつけよう。

 その手伝いが出来るよう、俺ももっともっと頑張るから。

 

 ───そういったことを、今日も今日とて足の間のスレナの髪を頭を撫でるように拭いながら、伝えた。

 

 スレナは俺の顔を見上げ、しばらくの間なにも言わず、ただずーっとそうしていた。

 けれどおずおずと手を動かし、ぽすんと俺の胸に頭を預けるようにして、手では俺の服をきゅっと握ってくると……俺を見上げたまま、こくこく、と頷くことだけをした。

 その日を境になんか日に日に距離が近くなった気がするけど、まあ、いいことだ。

 笑顔も増えたし、スレナの好きなことに俺が引っ張り込まれて、困惑するのだってそれもまたいい。

 そうして二年が経ち、三年が経ち───

 

「ベリル」

「んぁ? どしたの親父様」

「スレナの引き取り手が見つかった」

「え?」

「え───?」

「え?」

 

 ───スレナの引き取り先を探していたらしい親父様が、そんなことを言ってきて……すっかり家族になったつもりでいた俺、困惑。

 いや、それよりスレナの方が一層に困惑。

 そしてそんな俺達の困惑っぷりに、親父様まで困惑。

 

「い、いやいや、儂言ったよな? 首都の方でそういう話を進めとる、って……」

「何年前の話じゃあっ!! ここ二年ほど音沙汰ないからすっかり家で引き取ったもんだとばかり思っとったわぁっ!!」

「そんな……先生、私……やっぱり居たら迷惑───」

そんなことあるもんかっ!!

「っ!!」

「親父様っ! なんとかならないかっ!? 今まで暮らせてこれたのに、急にダメだとか───」

「剣しか知らんお前に、それを言う資格なぞねぇよ、ばかもん」

「っぐ……!」

 

 痛恨である。

 そうだ、とんだスネカジリもいいところだ。

 親父様の道場を使わせてもらい、親父様の門下生からお金を貰い、それで食わせてもらっておいて、もっと齧らせろとか図々しいにも程がある。

 

「スレナよ。確かにな、一人養う余裕くらいうちにもある。が、言っちまえばそれだけだ。お前さんがこれから成長していく過程、こんなくたびれたおっさんどもじゃあお前さんを棘無く育てることなんざ出来やしねぇ。妻にそれを強いるってのも酷な話だ」

「………」

「生き残ったお前さんを立派に成長させる。それを、亡くなったお前さんの家族に誓い立てることが出来やしねぇ。だから、こんな場所で剣に埋もれるでもなく、可能性のある方へと旅立ってほしい。言っちまえばお前ぇ、ここに居続けたら確実にベリル頼りになっちまう。剣しか選べねぇ」

 

 言い返せない。

 剣を学んでくれた。懐いてくれた。

 でも、じゃあ、事故さえなければ歩んでいたであろう、少女らしいスレナの先は、漫画にも無かったその先は、在っちゃいけないって俺が断言していいものか?

 役に立てばと剣を教えても、未来が変わって慎ましく可愛らしいお嫁さんになっているかもしれないのに?

 

 そうだ、もうここは原作だとか漫画だとか言っていい世界じゃない。

 スレナ・リサンデラは冒険者でブラックランクじゃなきゃいけない、なんて思い込みは捨てるべきで───今までそうしなかった自分こそが、間違いだったんじゃ、ないのか?

 

「……なにも剣を捨てろと言うわけじゃねぇよ。だが、可能性は潰すな。花を見て微笑む気持ちも捨てるこたぁねぇ。そう言いてぇんだよ、儂は」

「…………もう、決まってること……なんですよね?」

「ああ。人となりは確かだ。そういう人をちゃんと選んでもらった。厳選しすぎて今までかかっちまったってのもあるが」

「……っはは……なんだよ。結局親父様だってめっちゃ可愛がってるんじゃねぇか」

「うるっせいよばかがっ! んなこと言ってる暇あったら嫁の一人でも連れてこいっ!」

「───まあでも俺はスレナが出ていくのは嫌なので文句は言うぞこの野郎」

「てめぇ大人げねぇぞ!!」

「やっかましい! スレナ! スレナはどうしたい!? 俺、スレナがそうしたいっていう方向を全力で応援するぞ!? 親父様を倒してでもここに居たいって言うなら全力で協力するぞ!? まだ一度も勝てたことないけど!」

「……まあ、こんな感じなわけだ、スレナよぅ。悪ぃんだが、こいつに頭ぁ冷やす時間を与えてやっちゃあくれねぇか」

「───……」

「……あれ? なに? 俺が悪い流れなのかこれ」

 

 何故!? な───……あ、ああ、あー……いや、うん。ちょっと冷静になれた。

 なるほど、これは俺が悪い。

 

「…………先生」

「……うん、スレナ」

「私、行こうと思います」

「───」

 

 あー……うん、やっぱそうなるよなぁ。

 スレナもそうだったけど、俺もだったってことだ。

 俺も、スレナの成長を見守りながら、懐いてくれる彼女の傍に居たかった。

 もちろん家族として受け入れてたってこともある。

 けど、それ以上に……彼女の成長が嬉しかったんだ。

 誰かの成功を実感できるのが嬉しかった。

 そして、自分も一緒に成長出来ていることが嬉しかった。

 

 勝手に人に……夢ぇ持っちゃあ……そりゃあ迷惑だよなぁ。

 だって、懐いてる人が自分に夢なんか持っちゃあ、それしか道を選べないもの。

 それは、師としても家族としても、とても残酷なことだ。

 だから一度離れるべきで、そこんところは俺なんかよりスレナの方がよっぽど早く理解出来ていたみたいだ。

 

「そっか。それじゃあ……20年後あたりにでも、首都でたまたま会ったりとかしようか」

「20年後!? たまたま!?」

「なんだかね、そんな感じがするんだ。まあ、ここはスレナにとって第二の家みたいなものなんだから、またいつでも帰っておいで」

「………」

「………」

「いやあのー……見つめ合ってるところ悪いんだが、今引き取り手がそこに居る~とかそういうわけじゃないぞ? 今生の別れじゃあるめぇに」

 

 んなこたわかっとるわい。

 けどこういうのはきちんと伝えなきゃでしょうが。

 

「んじゃ、別れる時まで俺が教えられること、まだまだ教えなきゃだな。親父様の言う通り、俺には剣しかないから」

「───はいっ!」

 

 戸惑いはあったけど、今は飲み込もう。

 そして、俺の教えでどこまで伸ばせるかは分からないけど……教えられること、全部教える気でいこう。

 それが将来の彼女の助けになるならよし。ならずともよし。護身術程度のものにはなるだろう。

 だから、引き取り手の御方が来るまでの間、出来るだけ、可能な限りに、限界まで───!!

 

 …………あ、ちなみに。

 なんかその日から、スレナが俺の部屋で一緒に寝るようになりました。

 預かった日からしばらくは手を繋いでないと眠れなかった~とかあったし、なんか懐かしかったので、手を繋いだり頭を撫でてやったりしていたら、やたら密着してくるようになったので、気づけば抱き締め、頭を撫でながら寝たりするようになった。

 

 そうしていつかの日、スレナは涙を浮かべながら引き取られていって、俺もまた、ひとり鍛錬に明け暮れる者となった。

 ちなみに、スレナ用に用意した双剣はきちんと卒業の証として彼女にあげた。

 ……ら、なんかめっちゃくちゃ喜んでくれた。

 

 あ、あのー……スレナさん? あなたこれから将来を選びたい放題なんですよ?

 なにも無理して剣を活かす道を見つけなくても、お花とか愛でて過ごす~とかでもそのー……いいと思うんだけど。

 え? いやだ? 絶対に続ける? お、おう。

 

「まあ、じゃあ、これも」

「……? 先生、これは……?」

「バンダナ。結構髪も伸びたからね、これをこうして……うん、どうかな」

「あ……」

 

 スレナの髪を纏めて、後ろでやさしくバンダナで結わう。

 うん、幼い竜双剣さんの出来上がり。やっぱスレナはポニテでしょう。

 一応ゴム……じゃないなこれ。紐で縛ってあったようだけど、どうせなら。

 

 ……ちなみにだけど。双剣を渡した時の反応はこんな感じだった。

 

「この三年、よく頑張ったね。餞別……と言っちゃなんだけど、この双剣を。卒業の証だ」

「───!!」

 

 バンダナより喜ばれましたよオイ。

 なかなか重量があるそれをきっちり受け取って、あ、でもやっぱり重そうで、なのに意地でも手放さないつもりでぱああって喜びに満ちた顔で俺を見上げてきてくれた。

 なんで重いのかって? ちゃんと剣だからだよ。木剣じゃない。

 

「わああ……! せ、先生! 私、向こうでも頑張りますから! 先生に教えられたこと、きっと忘れませんから!」

「え? いや……あくまで餞別だよ? 剣のことを忘れて、綺麗なお嫁さんになる~とか、忘れずとも護身のために~くらいの気持ちで───」

「絶対に絶対に! 頑張りますから!」

「いい……ぃ、お、おう……」

 

 嬉しさに染まっていた。けれど、確かに真剣な目だった。

 そんな目ぇされちゃあ駄目とは言えないじゃないか。

 ……ま、いっかぁ。これで彼女の未来もきっと安泰! まあ、俺がなにをするでもなくフツーにブラックに上り詰めていたであろうことは、想像に容易いけどさ。

 

 そして結局、餞別あげちゃった所為で剣しか選べない始末。ごめん、親父様。これは本気で俺が悪い。

 でもさあ、こんな泣き笑顔でこんな風に言われたらさぁ……。

 うう、バンダナ、結構迷って買ったのになぁ……。





ところで。
DBのバーダックの頭のアレはバンダナだと言われてるけど、元々アレってトーマの腕に巻かれてた白い謎のハンケチーフなんですよね。や、ハンカチっていうか……布?
果たしてアレはバンダナって言っていいのかどうなのか。
とか思ってたんだけど、ようはファッションに使う大き目の布をバンダナっていうらしいので、腕に巻こうが首に巻こうが頭に巻こうがファッション目的ならバンダナらしい。
ハンケチーフは手拭き用の布であればハンケチーフ。厚さ云々での違いもあるそうですけど、種類的な区別をするならそういうことらしい。

関係ないけど。
ソリッドステートスカウターを知ったあと、恋のダイヤル6700を知りたくなかった。
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