凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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四話目です。


片馬鹿 -片田舎の剣聖に転生した馬鹿の話-④

 スレナが居なくなってからの日々は、いつにも増して鍛錬漬けの日々となった。

 そりゃあね、スレナに割いていた分を自分に使えるんだから───などと言うつもりもなく、ただ単に寂しさを紛らわすために鍛錬に没頭しているだけだ。

 いい大人が情けないったらない。

 けど、いいのだ。こうなったらもう我武者羅に進むしかない。

 きっとガーデナント氏も弟子たちの卒業のたびに、こんな気持ちで乗り越えていったに違いない……!

 

 今なら茂吉に憧れた天人大工たちの気持ちが分かる……! 茂吉ィィィィ!!

 憧れは理解から最も遠い感情だよとどこぞのヨン様が言ってたけど、そんなことないね! きっとない! 憧れはこんなにも人の気持ちを強くするんだからッッ!*1

 

「次はアリューシア達か……そういえば一番最初に来るネームド門下生って誰なんだろ。スレナは結局保護ってかたちで、門下生ってわけじゃなかったし」

 

 年齢からしてランドリドとかかなぁ。

 あの作品、年齢関係なく門下生になりに来るからなんとも言えないんだよな。

 バルデルとフィッセルとクルニが並んで剣を振ってた描写があったようななかったような。

 7巻ラストに出てて、名前が分からんくて調べたロゼは……結構後だよな、たぶん。

 んー……んー……!

 わからん! もう普通にやってくしかないだろ! 今から考えたって何がどう出来るわけでもないし!

 

 ───というわけで、やっぱり鍛錬。

 鍛えに鍛えて鍛えまくり、息を抜く時はたっぷり抜いて。

 ランドリドやアリューシア、フィッセルにクルニにバルデルが門下生としてやってきても恥ずかしくないようにと鍛えて、己が憧れるベリル・ガーデナント氏に少しでも近づけるようにと頑張った。

 結果として───どうなんだろう。

 ランドリドは普通に入門してきて、『あっ、この人かぁ!』ってなって、普通に学んで、普通に頑張ってくれた。

 他の門下生より呑み込みが早かった~っていうのはあったと思う。

 

 問題はアリューシアだ。

 入って早々……とまではいかないまでも、あるきっかけの後はすごかった。

 教えれば飲み込み、自分のものにして、当然のように扱う。そこに速度が足されたガーデナント流剣技のやべぇこと。

 やべぇ、この娘ほんとやべぇ。

 漫画では確か、見様見真似で俺の剣をモノにしちゃったんだっけ? 4年くらいで教えることが無くなった~とか回想で言ってたような。

 そりゃ教えれば飲み込むのも早いよ。

 

「アリューシアは本当に覚えるのが早いね。教えるこっちが嬉しくなる」

「いえ、先生の下で学んだのならこんなことは当然です」

「お、おう……」

 

 漫画でもそうだったけど、なんなのこのベリル・ガーデナントへの異常な信頼。

 ち、違うんだぞ~? 俺なんてベリル・ガーデナント氏の足元にも及ばない存在でね……?

 この前だって例の道場破り相手に、ベリル・ガーデナント氏のようにスマートに勝てなかったわけだし。

 

 いや、すごいよねあれ。相手の攻撃すり抜けて、顎に一撃ッ!

 俺もやりたかったんだけど、相手が俺をナメすぎて素早い攻撃とかしてくれなくてさ。必殺の一撃に合わせてパコーンといきたかったのに、それを待ってた所為で時間ばっかりかかってしまった。

 仕方も無しに、相手がこちらを舐めくさりすぎたから在った隙だらけを狙った攻撃で、勝利。

 なんとも格好よくもなく、相手の油断を狙った結果になってしまった。

 くそう、俺もベリル・ガーデナント氏のようにやりたかったのにのにのにのに……!

 なかなか上手くいかないもんである。

 

 アリューシアとはまあ……打ち解けられたと思う。

 交流試合でアリューシアが相手をブチノメした~って話を実際にやったあとから、妙~に俺のこと持ち上げてきたりはするんだけど。

 先生の弟子として情けない~とか。

 先生に顔向けできません~とか。

 いやそんなん気にしなくてええのよ? 俺なんてまだまだまだのまだ男だし。

 ただそれからは一層に教えることになった。

 剣の間合い、寸止めのための体幹作り、相手の動きの見切り等。

 

 みっちり教えていたら、親父様にアホウと頭こづかれたけど。

 なんで?

 

「アホウ、言ったろうがお前は目がいいって。お前の目を前提にものを教えんな」

「えぇえ……? や、そりゃ目がいいとは思うけど。俺程度が出来るなら、他の誰でも出来るんじゃないか……?」

「だからなぁ~んでお前はそう自分に自信がねぇんだよ。言うほど弱いならお前を慕うやつが先生先生って集うわけねーだろが」

「え? ははっ、親父様ついにボケたか? これは親父様が伝える剣の基礎がいいから慕ってくれてるだけだって」

「………」

「………」

「いや……いやマジかお前。ベリル……お前マジか」

「せ、先生っ! 私は、先生が先生だから学びたいと思ったんです!」

「? でも門を叩いた動機とは違うだろう?」

「それはそうですけどっ!」

「そう言ってくれてありがとう、アリューシア。俺も期待に応えられるよう全力で頑張るよ」

 

 そう……理想のベリル・ガーデナント氏になれるように───!!

 何度だって心に誓い、そうしてまた鍛錬。

 教えるのも反復に丁度いい。

 基礎は何度だって学ぶ価値がある。

 親父様になんでか「だめだこりゃ……ほっときすぎた、もう聞く耳持たねぇぞこりゃ……」と呆れられ、その頃からアリューシアにも「先生はご自分が凄いことを自覚してください!」とよく言われるようになった。

 まったまたぁ~と返すのは出来るけど、弟子の言葉を信じないようでは師としてアレです。

 

 なので、ちょっとはベリル・ガーデナント氏に近づけたのかな……とか思ってみたり。

 

 イメージの中のあの化け物とも結構やり合えるようになってきたし、動きにも磨きがかかってる気がするし。

 ……なんだけど、俺の中の憧れが、『あのモンスターはそんなにやすやすと敵う相手じゃねぇYO!』と叫んでいるのです。

 だ、だって本物のベリル・ガーデナント氏が敗走するような相手だよ!? 偽物の俺が数年イメージと戦っただけで敵うわけないじゃん、ムリムリ!(*ムリだろ)

 というわけで、追い付けそう……! と心が油断するたびに、相手の強さを引き締めて強化していった。

 俺の心の怠惰が勝手にイメージを弱くしてるに違いないのだ……! だから、もっと、もっと強く……!

 

「集中───!」

 

 シン───

 剣を閃かせ、藁束を斬る。

 ひと呼吸、連ねること四閃。

 振り切ったところで、藁束は……乗ったまま。

 けれど、ハッと気づいたようにズレると、道場の床に落ち、バラバラになった。

 

「……うん、よく斬れる剣ならこれくらいは出来るか」

「……………」

 

 ある日、藁束を斬る、を実践して見せてみると、アリューシアは固まっていた。

 『アリューシアは速度を活かした剣を伸ばしていこう』、って話になって、まずは~って感じで素早い攻撃というのを参考までにと見せたんだけど。

 たぶんこれくらい、成長したアリューシアなら楽々出来るんだろうなぁ。

 なので脱力の仕方……筋肉の弛緩からの緊張が産む爆発力から、切れるもの、の鋭さを十分に利用した斬り方等々を教えることになりまして。

 

「さ、アリューシア。まずは剣ってものの鋭さと、そこに自分を足した行動、というものを学んでみよう。剣は切れるものだ。斬りたいなら、そこに自分が出せるなにかを足してあげればいい。振るっただけじゃあ斬れないものでも、斬れるに到るものを持ち主が足すことが出来れば、斬れるようになるんだ」

「え……あ……はい……」

 

 なんだかぽかーんとしたまま、生返事みたいなのが……うーん?

 まあいいや、きっと俺には理解できない深い考えがおありなのでせう。

 なにせ漫画ではガーデナント氏と結婚するとまで仰るお方。

 きっとなにか深いお考えが……!

 結局漫画を最後まで読むことは叶わなかった俺だけど、彼女のみならず登場キャラの皆様には幸せになってもらいとうございます。

 

 なので教えた。

 教えれば覚える。物凄い速さで。

 まるで憧れそのものを見て、なぞるように。

 最初はこんなに覇気のある子じゃなかったのに、心境の変化ってすごいんだなぁ。 

 

 ……そう、最初は本当に、ただ親に言われたから門下生になったような子だったんだ。

 親からの手紙を手に、一人で道場の門を叩いた。こんなちっこい子がだ。

 『うーん、俺の漫画の知識って単行本7巻までだから、その先知らんのよな~』と迷っていたところにだった。

 ランドリド? うん、その時は既に居たんだ。才能もあったし、普通にめきめきと腕を伸ばしていた。や、物理的にじゃなく。

 

 アリューシアは違った。

 教えれば飲み込む。型だってすぐ覚えた。

 ───が、なにかと対峙すると、体が強張ってだめだった。

 藁束にすら緊張してしまう有様で、ゆっくりと慣らしていかなきゃだめってレベル。

 代わりにこう……雑用? 掃除も頑張ったし稽古も頑張った。

 ───あくまで、親に言われたから、ってレベルで。

 

 その後にあれだ、交流試合……というか稽古があって、アリューシアは上手く立ち回れた───といえば聞こえはいいけど、打ち込みはせず型通りに、相手がこう攻めてきたら受け流す、みたいなことを繰り返すだけだった。

 やがて相手の方がしびれを切らして無茶な突撃をして、自爆。

 気絶してしまった相手を見て、まだ小さかったアリューシアは逃げ出してしまった。

 

 あとで聞いた話だけど、親にも言われたように『出て行け』と追い出されるかと思ったんだそうだ。

 体の弱い父の助けになるのなら、と商会の手伝いをしていたのに、急に出て行けと言われ、知らない片田舎の村で一人で住むことになり、道場に向かわされた。

 そりゃ、説明もなく急に出ていけとか言われたら、嫌われることが怖くなるよ。

 

 ……ようするに、この子は人に嫌われ、居場所から弾かれてしまうのが怖かったのだ。

 期待には応えたい。でも、応えられなきゃ捨てられる。

 そんな気持ちに板挟みになって、でも……わけもわからないままに道場に向わされ、一人で村に住み、剣を学んで。

 相手と打ち合っている最中に、『どうして自分はこんなことをしているんだっけ』と考えてしまった瞬間、気づけば相手が気絶していた。

 

 ……どんな気持ちだったんだろう。

 小さなこの子が。

 親に説明もなく出て行けと言われてしまったこの子が。

 ひとり村で住み、明確な理由も説明もなく剣を握らなきゃいけなかったこの子が。

 剣を学ぶことしか親に言われなかったこの子が。

 他流の子を教えられた剣で気絶させた、なんて事実をぶつけられた瞬間なんて。

 

 俺だったら。

 きっと怒られる、拒絶される、嫌われるって思っちまう。親にさえ捨てられたんだからって思っちまう。

 なんの説明もなく、出て行け、この手紙を持って道場に行け、なんて言われたら当然だ。

 捨てられた子供はどう思う?

 寄る辺もなく、最後に親に言われた道場にすがるしかない。

 そこでちゃんとしなきゃ、また捨てられるって思う。

 藁束を前に、やってみてと剣を渡されれば、ちゃんとやらなきゃ捨てられるって思っちまう。

 

  “がんばるから”

 

 “邪魔にならないようにするから”

 

     “怒らせないようにするから”

 

   “もっとしっかりするから───”

 

  “だから───捨てないで───”

 

 だから、怒れるわけがなかったんだ。

 怒るつもりなんて最初からなかったけど、それでも。

 だから、心から。俺が思う通りを。俺は本物じゃないけど、今俺が思う素直なことを伝えた。

 相手を気絶させ、逃げて、一本の丘の木の下で泣いていた彼女に───姪にもスレナにもしたように、その小さな姿に寄り添うように。

 

「なにがあってもキミの味方だ。お父さんも俺も。だから、『キミの未来のためになるなら』を貫ける。お父さんはきっと、商会のことを気に掛けながらじゃ身に付かないと思ったから、突き放すしかなかったんだ。自分が嫌われるくらい、娘が死ぬより全然いいって思えるやさしいお父さんだ。もうちょっと説明はあってもよかったのかもだけどね」

「………」

「言った通り、最近は……いや、もっと前からか。商隊の馬車を襲う賊やモンスターは増えてきている。以前、うちでもモンスターに襲われてひとり生き残った子を預かったことがあるんだ。そんな前例を知っている以上、お父さんが君に強くなってほしいと願うことを否定は出来ない。でも否定しないからってアリューシア、キミの敵になるわけじゃないんだ」

「……ぐすっ……ふぁい……!」

「大丈夫。キミはひとりじゃないよ。頼ったっていいし甘えたっていいし、信じてくれていい。……もう一度言うよ。なにがあっても、俺も、キミのお父さんも。キミの味方だ」

「~……」

 

 俺に抱き着き、俺の服を見事に鼻水べっとりさんにしたアリューシアの鼻を、ごしごしとぬぐいながら言ってやる。

 他流の子を気絶させたことで逃げ出した彼女に、アリューシアに怪我がなくてよかったってことと、自分の弟子となるとそこまで大人になれないな、って。漫画であった通りのことを……意識するでもなく自分が思った通りに伝えた……ら、抱き着かれた。ここまでは知ってるけど、そこからのアリューシアの泣きながらの告白に、さすがに頭が痛くなった。

 さっきの『あとで聞いた話だけど』がこれだ。

 

  アリューシアは、自分は親に捨てられたと思っていたらしい。

 

 だから掃除も頑張っていたし型の練習も言われるがままにやっていた。

 相手……先生である俺を怒らせないように、困らせないように。

 たった一人で急に片田舎の村に住むように言われ、知り合いも居ない道場の門を叩いて。お父さんさぁ……そりゃ捨てられたって思うよ……勘弁してください。

 

 だから、俺は聞かせた。これ言っておかなきゃアカンやつやと聞かせた。

 アリューシアが門を叩いたあの日、持ってきた手紙に書かれていたことを。嫌われたままだと思い続けるのはしんどいだろうから。

 

 というか、まさかアリューシア自身が親に捨てられたと思ってるとか思わないじゃん!

 俺にしてみりゃフツーに門を叩いて入門してきた門下生で、父親からの手紙には『最近賊や魔物に襲われる商隊が多いから、自分なんかにはもったいない可愛い娘を鍛えてあげて』的なことが書かれてただけで、まさか実際は『荷物まとめて出て行け』とか言われてたなんて知るワケないじゃん!

 

 可愛い子には旅させろとか前世の言葉にあったけど、この歳の子にいきなり荷物纏めて出て行けとか、知らん村でいきなり一人暮らししろとか、理由は教えんけど知らん道場訪問して剣を学べとかアホですか!?

 

 なにやってるのダートハルト・シトラス氏!

 そういうことちゃんと手紙にも書いといてよ! じゃないと───マテ。まさか親の方も、まさか娘が捨てられたと思ってるとか思いもしてない状況?

 …………マジか。お父さんマジか。

 

 なんてことを、アリューシアの鼻を拭いながら思いふける。

 アリューシアはまさか自分の鼻を、俺の服の袖で拭われるとは思っていなかったらしく、驚きのあまり固まってるけど……その隙に綺麗に拭うと、涙も散ったその少し赤い顔を見て、思わず自然な笑みがこぼれる。

 

「うん、綺麗になったかな。ごめんな、拭うのが俺の袖なんかで」

 

 風で涙のあとにくっついた髪を、さら……と指で流してやると、その手をそっと両手で包み、彼女は顔を赤くしたままに言った。どこか、心ここにあらずというか、ぽーっとしたままの顔で。

 

わたし───大きくなったら先生と結婚します……!

 

 ………………。───ヘァアッ!?

 なんかとんでもねぇこと言われて、思わず固まった……ら、先にアリューシアの方がぐぼんっと顔を真っ赤にして慌て始めた。

 あ、無意識に言ったってこと? ていうか待って? 結婚したいと思うほどの要素あったか!? 慰めただけですよ俺!

 

へあっ!? ごごごごめんなさいわたしったらなにを! 忘れてくださいぃいっ!!」

「アリューシア!? アリュ速ぁああああっ!?

 

 速さこそをと思ってたけどあそこまでとは! じゃなくて───え!? ここで!? ここなの!?

 1巻で見た『先生と結婚します』がまさかここで言われたことだったなんて!

 あ、いや、案外違う場所の俺の知らない場所でなのかもだけど、まさか俺も言われるなんて……!

 ああガーデナント氏……俺は……俺はちゃんと正解の道を歩めているのでしょうか……! 俺はそれが不安で仕方ないのです……!

 ちゃんと弟子たちに胸を張れるガーデナント氏で居られるようにしないと……!

 あ、でも今はアリューシアを追おうね! ってほんと速いなおい!

 

 ……結局、それから他流の対戦相手であったセドリックくんにアリューシアが頭を下げて謝り、自分も師に注意されていたのに焦って飛び出したのが悪かったと謝り、再戦ということに。

 けれどアリューシアはまるで別人のように堂々とした振る舞いになっており、チラリチラチラと俺を見ては、顔を赤くして、けれどセドリックくんを見ては木剣を構えた。

 

「……まるで別人だ。なにがあった?」

「え? あー……」

 

 なにって。慰めて俺もお父さんも味方だよと言って? なんかプロポーズされて。

 ……あれ? なにがあった?

 えーと……あ、捨てられたんじゃないって分かったって、心強いことだ!

 つまり心の負担から解放されたんだ!

 

「心構えが変わったんだと思います」

「ほう……」

 

 他流の師、ローデウスさんはアリューシアを見てううむと顎を撫でた。

 さっきまでの彼から見たアリューシアの評価は『普通』。

 足運びがいいとは言っていたものの、剣の腕の評価はそんなものだった。

 けど、今は。

 

「そこまでっ!」

「……っ!」

 

 相手の動きを見て、型の通りに動くのはさっきまでと一緒だった。

 ただ、今度は次があった。

 さっきまでの攻めずに守るだけだった動きではなく、まるで俺の動きをなぞるような攻撃。

 一瞬で詰められたセドリックくんは訳も分からないままに打倒され、ポカンとしていた。

 で、それまで、の合図が出た途端にアリューシアが今まで見せたこともなかった弾ける笑顔で俺を見るの。まるで褒めてください褒めてくださいっ! とおねだりするように。

 …………あれぇ? 俺慰めただけだよね? なにが起こった?

 乙女心はわからん……けど、もしかしてあれか? 親に捨てられて心細いところに寄り添ってくれたから、とか? いやいやそんな単純な話……なのか?

 そりゃ子供の頃にそんな心細さを体験すれば………………なぁ?

 

 と、まあその翌日から俺がする朝のルーティーンにアリューシアが参加するようになって、朝の挨拶のたびに顔を赤くして来るもんだから、最初は風邪を疑ったんだけど、そういうわけでもないらしく。

 

「───」

「───」

 

 それからだ。

 アリューシアの見様見真似の……いや、見取り稽古っていうのか?

 異様な速さで俺が見せる型を憶え、俺が教えることを学び、そこに持ち前の速さを活かした剣を足した(すべ)を、急速で育てていく。

 こりゃ負けてられんと俺も鍛錬をするわけだけど……まあ、俺基準で教えてたら親父様にゲンコツくらったわけでして。

 

「日に日に速くなってますね」

「うん」

 

 ほら、ランドリド君も大絶賛。いやほんと速いのよ上達が。

 免許皆伝をあっさり言い渡してたベリル・ガーデナント氏の気持ちも分かるってもんだ。

 でもまだだ。もっと磨ける。

 だから、教える側の俺ももっと頑張らないとだ。

 

「アリューシア」

ひゃいっ!?

 

 おおうっ!? どどどうされた!? 後ろから声かけただけなのに……え? そんな集中してた? だったらごめん、急に声かけて。

 でもやっぱり気になったから。

 前に訊こうとした時は……いや、楽しんでおいでって言った時は、その言葉の意味も分かってなかった様子だったけど。

 

「どうだい、最近は。楽しめてる?」

「……! はいっ、楽しいです、とってもっ!」

 

 よい笑顔だった。

 そしてなんか顔が赤かった。

 剣振るってる時はあんな涼しい顔なのに。

 

「目指す壁が高すぎるから、退屈なんて出来ないよなぁ……」

「? ランドリド、どゆ意味それ」

「ははは、なんでもないです」

「せ、先生っ! また型を見せてもらってもいいでしょうか!」

「え? 型かい? いいけど……いや、うん。基礎は大事だもんな。いいよ、やろうか」

「~……はいっ!」

 

 元気に返事をするアリューシアを見て、ランドリドくんがくすくす笑ってた。

 まあ、いい。教えてと言ってくれるなら教えましょう。

 そして俺も学ぶのです。

 さあ、ともにガーデナントの頂へ───!!

*1
*分かってません。分かってませんが───

憧れが心を強くするのなら、知らぬが仏。

知らぬままホットケってやつである。





ガーデナント氏に惚れ始めの頃のちっこいアリューシアさんが可愛いかった。
あと一巻では回想で顎髭があったガーデナント氏だけど、8巻では顎髭がなく若々しい。
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