六話目です。おっさんの話だからオヤジギャグかましてみたけどどうしてかな……寒気がするんだ。
で。
「この娘たちを引き取ることにした」
「なに言ってんの?」
親父様に言ったら真顔で言われた。知らん。
首都に行ってきました。
木剣の注文と、要らん木材の端材とかもらってきました。
その後、貧民街に寄ったら、丁度彼女に出会いました。
で、連れ帰ったらこれですよ。
「お前いきなり首都に行ってくるとか言い出したと思ったら……」
「あ、大丈夫。生活費とかなら問題ない」
「いやそういうこと言ってるんじゃなくてだな!?」
連れてきた娘は二人。
一人はヘリカ・フレイア。もう一人はその妹のミュイ・フレイア。
貧民街を歩いていたら、ひどく緊張した面持ちで、どこぞの小汚い男に声をかけようとしていたヘリカを見つけ、事情を聞いた。
このままじゃなにも食べられず死ぬだけだから、身売りをしてお金か食事を、と。
あっぶなァァァ……今回が初めてだったらしいけど、宮本武蔵流鍛錬しててよかったぁぁぁ……!! やってなかったら端材貰いに貧民街近くまで寄り道してなかったよ俺……!
とまあそんなわけで、身元引受人になろうと決意して、こうして引っ張ってきたわけです。
まだ不安そうな顔をしているヘリカと、状況を理解していないちっこいミュイ。
うん…………
原作とかこう、ひん曲がっちゃうかもだけどさ。ようするにバルトレーンに着いたら宵闇とかいうドレッドヘアーを探してブチノメーションして、死者を生き返らせるなんちゃらの情報を引き出せばいいわけだ。
生憎タイミングが分からないからシュプールの恩人さんを助けることは出来ないけど。
なんていったっけ……シュプールの話は好きだからシュプールは覚えてたんだけど、あの令嬢の……えーと……なんたらテール! そうっ、テールがついてた!
ビザンテール? ツインテール……じゃないし、あれ? アイレンテールってシュプールの名前だよな?
それとも……お嬢と結婚してシュプール・アイレンテールになったんだっけ? いやラフィがこの人と結婚しますって言ってたのは覚えてるんだけど。
結婚式の描写があったかどうかまではそのー……騎士爵を叙勲して、それから……? ……ん? あ、ラフィか! 名前ラフィか! シュプールの恩人さん!
いや、いい。ともかく、教会の上役がクソだってのは覚えてる。
結構前にスフェンドヤードバニアには行ったこともあるけど、どこもかしこもスフェン様スフェン様ばっかだ。
そのくせ、信仰を盾にお偉いさんしか助けない。腐ってるよ、ほんと。
それも一部の教会の連中だけかもだけど、実際に見た教会の連中がそういう人ばっかりだった所為か、もうなんというか信用できない。
だから、たまたまだったんだ。
忌み子として幽閉されてた少女を引き取れたのは。
あ、ヘリカとミュイのことではなく、その前のこと。
ええ、皆様ご存知、スフェン狂もといスフェン教に命を懸ける女、ウロさんだ。
俺が引き取る~って言ったら、こんな気味の悪い忌み子を引き取るなんて、とかぶちぶち言われたよ。あ、スフェンドヤードバニアのやつにね? こっちの皆様は喜んで受け入れてくれたよ。親父様は困惑していたけど。
どうして、と見上げてくる少女の姿に、にっこり笑って「だって、キミは何も悪いことをしていないだろう?」と至極当然のことを言った。
ただ生まれながらに病に侵されていただけ。それを周囲が寄って集って、幼子へ忌み子だなんだって。許せんよなぁ?
だから連れ帰って、ますますスフェンドヤードバニアへの嫌悪が増して、でもこの子は悪くないからと笑顔で受け入れて。
が、病に侵されてるってのはマジだった。顔がその、結構おヤヴァイ状態が続いていた。
言っちゃなんだけどぐじゅぐじゅ。膿んで崩れて……いや、崩れてとまではいかなかったけど、病ってスゲェ……って辛くなるくらいには、アレだった。
だから、馬車の御者に乗車を拒否されてしまって、歩く帰り道の途中、彼女をおんぶしながら言ったんだ。
「ごめんなウロ、おじさんがもうちょっと交渉上手だったら馬車にも乗れたのに」
「…………わた、しが……こんな、だから……」
「違うよ。それは違う。確かに病はあるけど、伝染るようなもんじゃない。それはウロが悪いことじゃないんだから」
「………」
「んー……そうだなぁ。ウロ、祈ってごらん。世の中には神様もなにも居ないかもしれないけど、自分が寄り添いたいと思えるような存在に向けて」
「い、の……る……?」
「そう。『主よ。我に御加護を与え給う』って。強く、強く祈るんだ。なんだっていい。誰に向けてもいい。でも、どうせならこれだけは裏切りたくない、って思えるなにかに向けて」
「…………」
「こうして、な? 両手を合わせて目を閉じて。ほら」
「…………『主……よ……。われ、に……ごかご、を……あた……え……たも、う……』……?」
「そう。どうだ?」
「───」
「ウロ?」
「あ……え、あ───……?」
聞こえてきたのは……なんと例えればいいのか。ミチミチとか鳴ってたし、びちゃびちゃとか鳴ってた気もする。
自分の肩越しに振り向けば、ぐじゅぐじゅだった顔が治っていくウロ。
……おお、漫画で見た通りだ───とか思ってたら、ウロは俺を熱のこもった潤んだ瞳で見ていて、「主……? お兄さんが、私にとっての……神様……?」とか言い出して。
あ、これやべぇ。
そう思った時には既に手遅れでした。
えーと……連れ帰ったのに道場にウロが居ない理由、知りたい?
主(俺)の御加護の力を以って、自力で教会(秘密基地レベル)建てて、ベリル教作ってんだよあいつ……。
なんなの主の御加護って。俺そんなの与えられないよ?
でも実際身体強化もされて、傷もモノスゲー速度で回復するし、一応教えたガーデナント流剣技もマスターしたし、餞別の剣も渡した……んだけど、村の方でベリルお兄さまの素晴らしさを教え広める道に歩を進めてしまって。
やめて? それを知った時の親父様とお袋様のあの顔、今思い出すだけでも罪悪感と居心地の悪さが天元突破しそうだから。
俺、実の両親に『弱ってた子を引き取って衣食住を提供、剣を教える代わりに、俺教を広める信徒になれと躾けた外道』って思われたのよ? 誤解解くのにどんだけ時間必要だったか知ってる?
俺、今世の母親の涙なんて初めて見たんですが? 親父様が後悔に喉と口を震わせて、振り上げた拳を力無く下ろすのなんて初めて見たんですが? 俺……人の唇があんな風に震えるなんて知らなかったんだ……(ホリミヤ)。
なお、祈ったり思い募らせたりが行き過ぎると、興奮しすぎてヤベェことになります。
最初の頃は俺の部屋で一緒に寝てたんだけどね? 毎日毎日起きた時と寝る前に俺に向って祈るんだけど~……いつだったかなぁ。ウロが怪我した時に慌てて治療して、包帯とか巻いて、大丈夫か!? とか痛くないか!? とか心配しまくった日があって。
で、その日の夜はやけに熱心に祈ってるなぁと思ったら、なんかはぁはぁ言い出して……あの、なんか、頂に達したらしいです。
いや……うん。助けられてよかったけどさ? 未来的にフィッセルが苦戦することもないって考えればいいんだけどさ?
……やべぇ子拾っちゃったなぁと、どうしても思っちゃうんだよねぇ……。
で、話を戻そう。
スフェンドヤードバニアの話ね?
結構前に首都に行ったことあったじゃない? そのついでっていうのもアレだけど、スフェンドヤードバニアにも行ったんだけどさ?
道に迷って夜道歩いてたら、でっかい屋敷にコソコソと入ろうとする輩がおるじゃん?
注意したらひと呼吸も置かずに殺しに来たんだよ? そりゃもうボコってボコって再起不能にしましたよ。
足と腕完全に破壊したし、死にゃしないだろうけどほぼなにも出来ないだろうね。
きっと翌朝には家の人に見つかって、しょっぴかれたりしたんじゃないかな。
しかもさ、その連中がこぼしたのよ。教会がどーのこーのって、まるで自分達は教会の信徒でありますよみたいな物言いで。
きっと俺を確実に殺せる自信があったんだろう。よくある『冥途の土産に教えてやる!』ってやつだったんだと思う。
連中はあっさり反撃されて、足の腱や腕の腱も斬ったし、翌朝には屋敷の使用人に報告されたりしたんじゃないかな。
ていうか、中の人たちが無事かどうかだけでも調べておくんだったと今さら後悔している。
その遠出の帰りにウロさんを引き取ったんだけど、乗車拒否された馬車に乗ってった男女が居たなぁ。
「乗らないんだったらすまない、急いでるんだ」って言って、背負っていた女性は寝てるみたいで。
で……それから少し。ウロをおぶって帰った先で、村に新しい居住者が来た~って話があって。
挨拶がてら見に行ったら、その二人だった。
相変わらず女性の方は寝てたけど……あれ? な~んか引っかかるような。
寝てる女性と……なんだろ、そういや彼の髪型、なんか不自然だったよな。
なんか乱雑に切ったような。服装も体形に合ってないようなものだった気がするし。
でもなぁ、それだけで人を疑うのもな。ていうかもう随分打ち解けたし。
女性の方も今はもう起きていて、名前はラフィア。男性の方はレンテル。
雰囲気からして偽名だろうなぁ~ってのは感じてる。あと男性の方。ありゃ相当なやり手だ。
なんでもどこぞの狂信者に家族を殺されて、二人で逃げてきた、とのことだけど。
これがシュプールとラフィだったらなぁと願うのは贅沢かね。
二人とも髪型も雰囲気も違うから違うんだろうけど。
ラフィアがラフィならおかしい。
なにせあのわんぱく元気っ子な様子がカケラもないしね。
シュプールをしておてんば娘と言わせる破天荒令嬢だというのに、あんなに落ち着いてるなんてねぇ?
レンテルがシュプールだったら、ラフィの“奇跡”の恩恵もなくあのどっしりした強さはちょっとおかしい。
大体、あの二人は死に別れする筈だ。ラフィは教会に襲われて死ぬし、それを蘇らせるためにシュプールは教会入りをするんだから。
その二人が生きてこんな村にとかアッハッハ、ないない。
まあ、あれからもう数年経ってる。今ではあの二人も大事な村の仲間だ。
たまぁに剣の相手をすることもあるけど、今まで戦った中じゃあダントツだ。
魔力持ちの剣士、なんて珍しいけど、魔力を上乗せするとこれがまた強いのなんの。
でも魔力持ってるのを知られると、どこからともなく勧誘が来るから秘密にしてくれって頼まれてる。
似たような状況の所為で、住んでた場所を追われたんだとか。それってさっき言ってたどこぞの狂信者が襲ってきたとか? ……漫画の方でもフィッセルが言ってたっけ、魔術を嫌う連中もいるとかなんとか。怖ぁ……。
そりゃあ秘密にするっきゃねーべさ! おらさ村は仲間を売ったりなんかしねーだ!
それに魔力持ちってことで、フィッセルの相談にも乗ってくれてるしね。ラフィアが。
喋れないらしく、身振り手振りで。
というわけで、レンテルとお外で剣の読み合いとかした。
その時ね、ラフィアがね、すっげー嬉しそうにニカッて笑ったのよ。
それ見たレンテルが動き止めちゃって。
本気で止めにかかんなかったら木剣頭に直撃してたよこの馬鹿!
そしたらね、レンテル、涙こぼしながらやさしく笑って言ったんだ。
「ああ……そうだな。───楽しいな」
……それ聞いたらね。ああ、って。
レンテルの目を見て、なんとなく分かってしまったのだ。
正体について訊くことはしない。でも、彼は正体は隠したままに語ってくれた。
ラフィアの親父さんは間に合わなかったんだそうだ。
逆に、ラフィア……ラフィを殺す筈だった教会のやつらは時間になっても現れなかったとかで、彼女は無事だった。
でもレンテル……シュプールの傷を見て真っ青になって、最大出力で奇跡を発動させたらしくて。
彼女は昏倒。
シュプールは教会の手先だった衛兵の連中を皆殺しにして、アイレンテール領から逃げ出した。
ラフィには親父さんにさよならも言わせてやれなかったと。
すぐにバレないようにと髪をナイフで斬り、服も適当なものを着て逃げ出した。
途中、町で馬車を止めてた人に横入りして譲ってもらい、アイレンテール領をあとにした、とか。
あー……それ俺だ。あの時のだ。なるほど。
いやさぁそれが聞いてよ。
一度行ったくらいでスフェンドヤードバニアのことを分かった気になって、嫌いになるのが嫌だったからさ? もう一度って気分で行ってみたらさぁ。
なんか忌み子がどーだか言うやつらが居るし、生まれながらに病で苦しむ子を牢獄に幽閉してヘラヘラしてるヤツも居るしさ? その子引き取るからって身元引受人になって、手続きに時間がかかるそうで、それまでちょっと探索しようって歩き回ったら見事に道に迷っちゃって、あれこれ歩いてるうちにお屋敷……かな? 広い家を見つけてさ。
帰り方教えてもらえないかなーってそのお屋敷見てたら、なんか黒い服着た男たちがコソコソと入って行くじゃない?
賊かと思って声かけたら急に殺しにかかってくるもんだから、返り討ちにしたんだけど……失敗したなぁって。
いや、中の人が無事であるかも確かめないで帰っちゃったから、その後が心配で。
「……あんただったのか」
「え? なにが?」
「……アイレンテール領のことや、その娘のことは知ってるか? その名に聞き覚えは?」
「ああ、よく知ってるよ。アイレンテール領の人はいい人ばかりだ。他の人が教会教会言ってる中でも、あそこの人はお貴族様ばかりを思う人じゃあない。なにより領主さんがいい人だった。平民にもやさしい───」
「………………知ってて助けたわけじゃないのか?」
「? いや、ほんと道に迷って声かけたら襲われたんだよ。教会がどうとか言ってたけど……」
「……あんた、おかしな奴だな」
「ああうん、よく言われるよ。それでえっと。シュプール・アイレンテール、でいいのかな?」
「!?」
「ああ待った待った、警戒しないでほしい。こっちが一方的に知ってるだけなんだ。そっちの……ラフィ・アイレンテール嬢のことも。でも、ちょっと知ってる話と違ってたから今まで気づかなかった。その……言っちゃなんだがお嬢さん。あなたもうちょい元気な子じゃなかったかい?」
「───」
「───シュプール。笑いたいなら笑っていいよ」
「───ぶっは! ぶははははははは!!」
「笑うなー!!」
突如として笑うシュプール。そして笑っていいと言いつつ、笑われるとぷんすか怒るラフィ。
ハテ? ときょとんとする俺だけど、理由があったそうだ。
「はぁははは、ああ、はは、悪い。そうだな、それについても……話していいか? ラフィ」
「好きにしたらいいんじゃない? ふんだ」
「やれやれ…………ああ、そうだな。……さっきも言った通り、親の死を見届けることも出来なかった。させたくなかったってのもあるが、それじゃあどう死んだかも分からない。部屋に居て、いきなり敵襲があって、よく知ってた筈の衛兵が教会の回し者。たまらねぇよな。父親も殺されて。あれから随分経つが……しばらく、こいつは声が出せなくなっちまってな」
「え……大丈夫なのかい?」
「聞いてた通りだよ。まあ、俺としては……またこいつの大きな声が聞けて、嬉しい」
「………」
俺も嬉しい。なんだろう、思わずほろり。
「で、だ。夜の屋敷であんたがブチノメしたってのが、ラフィを殺す筈だった教会の刺客だったんだと思う」
「え? …………マジで?」
「両手両足、完膚なきまでに叩きのめしていったろ」
「ああうん俺だそれ」
え……じゃああそこにシュプール居たの!? ラフィ居たの!?
「……すまん! あの時、急いで中に住む人のことを守ろうと入っていれば───」
「気が立ってた俺と鉢合わせて、殺し合いになってただろうな」
「───………………」
「いいんだ。あの人は……俺になら任せられるって言ってくれた。あの人を守れなかったのは悔しい。どんだけ後悔したか分からねぇよ。だが……任されたんだ。それだけは、絶対に守る」
「わ……シュプールったらもう。あ、じゃあそろそろキッスのひとつでも」
「お黙れお転婆」
「シュプールひどい!」
「あの……彼女、ほんとについさっきまで塞いでた子と同一人物?」
村じゃどこまでも物静かで、どこぞのやんごとなきおぜう様に違いねぇとか言われてたんだぞ……?
「うん。なんだろ……私、今までずっと世界が真っ暗に見えてて。そんな中でもシュプールのことは見えてたんだけどさ。その見えてるシュプールがすごく辛そうなの」
「───」
「ずっとず~っとそれが続いてて。私がなんとか出来ないかなって思ってるのに、声が上手に出せなくて。でも……今日。久しぶりにね、シュプールが笑ってたの。楽しそうに、嬉しそうに。そしたらね、シュプールを中心に、世界が明るくなっていって」
気づいたら、笑ってた! ……そう言って、彼女はまたニカッと笑った。
「お父様のことも、衛兵のことも悲しいけど……もう、何年も前のことだし。それでシュプールが悲しむのは私だって嫌。だから───」
「だから?」
「結婚しよっ! シュプール!」
ブーウゥウウウッ!! って音だったと思う。
水分補給用に持ってきていた水を口に含んだシュプール氏、噴射。
おまけにヘンなところに入ったようで、ガホリゲーホリ。
「……いい教会を紹介するよ」
「お前それ噂のベリル教の教会じゃねぇよな……?」
「───」
「おい。俺の目を見ろ。逸らすな。おい」
だってこの村教会なんてないんだもん!
それを好機と捉えてウロが小さいながらも作っちゃって!
村の人たちもなまじ俺が妙に頼りになったりするからって、面白半分で入信する人も出て来ちゃって!
どうすんのアレ! 俺教祖様らしいのに教を潰す自由さえ無いんですが!?
「ま、まあどこぞの教会でひっそりと、でいいと思うぞ。偽名でいくか本名かは任せるけど……あ。もしかしてレンテルって、アイレンテールから取ってたのか?」
「……そこは気づいてもつつくなよ……!」
赤い顔を手で覆い、俯いてしまった。
そんなシュプールを見て、ラフィも笑って、俺も笑って。
そうして俺達は同じ村の民として絆を深め、時には酒を交わし、結婚式も見届けて……
「あの」
───今、こうしてヘリカやミュイを迎えているわけである。
あれから何年経ったかなぁ。いろいろありすぎて、時間の……感覚? 間隔? が狂ってるよ。
「っと、ごめんぼうっとしてた。なんだいヘリカ」
「本当に、その……いいんでしょうか……。お世話になって、しまっても……」
「いいよ。そのために連れてきたんだ。豪華な接待なんかは出来ないけど、ここを自分の家だと思ってくれていいから」
「~……ありがとう、ございます」
「………」
ヘリカの言葉に続き、ミュイが言葉もなく俺を見ながら軽く頭を下げた。
それでいい。
もしも出来るなら、とか考えていたことが出来たんだ、今はそれで。
親父様にはそりゃあ怒られたけどね。
や、お金のことに関してはほんと大丈夫なのだ。
そりゃあ贅沢は出来ないけど、その……アリューシアの親からお金を融通してもらっているというか。
いやおかしいんだよほんと! 断っても押し付けるみたいにさ!
手紙と一緒に金を届けられた時はほんと悲鳴出そうになったから……!
お手紙配達の人じゃないなーとか思ったら商人らしく、賊狩りとかをやってくれたお礼も兼ねて、ってお金を。
ダートハルト・シトラス氏は、なんか娘からやべえくらいのお金が仕送られてくるらしく、届く手紙にも俺のことばっかりで、なんかもう自分だけが受け取ることに妙な罪悪感が出てきちゃってるらしくて。
そりゃねぇ……荷物纏めて出ていけって言って追い出した娘がさ? ケナゲにも給金から仕送りしてくれるって。ありがたいけど胸に痛いよね。
追い出すまでは体の弱い自分に代わって商会の仕事の手伝いをしてくれた娘をだよ? 出て行けって追い出したのに孝行してくれるんだもの、そりゃ罪悪感のひとつやふたつ。
……つまり、娘の優しさが辛いから一緒に担ってください料ってやつです。
勘弁してくださいって思って今まで使ってこなかったけど、使う理由が出来た。
使ってしまった分は、いつか指南役で得たお給金から返すと誓い、今は使わせてもらおう。
そうしてヘリカとミュイを家に招いた俺は、まずは体を綺麗にすることとお食事、家の案内などを済ませた。
貧民街では体を洗うことも中々出来ず、言っちゃなんだけど結構香る。
汗の匂いには慣れてるつもりだったけど、それ以外の香りもするからそれは仕方ない。
ので、温水を用意して、奮発した石鹸も使って、彼女らをぴっかぴかにした。
……石鹸の使い方知らないっていうんだもの。や、見ないようにしたよ!? 誓って見てない!
そうして身綺麗になって、食事も食べて、案内もして。
休みの日が終わろうって時、寝室に案内したら、腕を引かれた。
「……たぶん、そう思ってるんじゃないかとは思ったけど。そういうつもりで受け入れたんじゃないから、大丈夫」
「で、でも。返せるものが……ここまでしてもらって、私……」
「キミがどんな思いであの場所で生きてきたかは知らない。知ってる、なんて適当に言えるものじゃないと思う。でも、だからこそ、少し休んだほうがいい。見合う対価なんて考えなくていい。ゆっくり休んでたっぷり食べて、元気になったら……それからちょっとずつ考えるのでもいいよ」
「……!」
とか言っておかないとこの娘、考えすぎて潰れちゃうだろうし。
「ごめんね、寝床は今のところ俺の布団しかなくて。毎日干してるからへんな匂いとかはないと思うけど、使ってくれていいから」
「え……でも、あなたは」
「俺は道場で───」
「だめです!」
「お、おう……」
道場でと言った途端に手を掴まれ、ダメです言われてしまった。
いや、ほんといいのよ? 疲れ果てて道場で寝ちゃうなんて、案外結構あったんだから。
と何度も何度もあーでもないこーでもない言ってたら、ミュイが俺の服を引っ張って、
「一緒に寝れば、いいよ」
と。
えぇええええっ!? と俺もヘリカも赤くなりながら声にならない声を上げ、けど、ヘリカも離してくれなくて。
あの。服掴んだまま上目遣いで見て来るなんて誰に教わったの。やめなさいかわいいから。
良い闇を作りましょう。
宵闇に関わってなければどんな娘になってたんでしょうね、ミュイ。