昔すぎてうろ覚えなんですけどね。
というわけで同日投稿7話目です。
で、寝てしまったわけで。
誓ってなにもしてないけど、貧民街育ちの子だ。
ミュイは疲れてたのかすぐに寝てしまったけど、ヘリカは別だ。物音には敏感みたいで、なにかしらの音が鳴るたびにびくっとしていた。
だから抱き締めて、背中を撫でながら大丈夫、大丈夫……とあやすように唱え続けると、やがて眠った。
そうして迎えた朝は、もちろんなんだが気恥ずかしいわけで。
けれどもそれも、時や回数を重ねれば自然になる。日常になる。
せっかく布団を用意したのに、いつの間にか俺の布団に潜り込んできているミュイや、それを追ってごめんなさいと言いつつも、やっぱりミュイを羨ましそうに見ているヘリカとか。
……仕方ないので、貰った端材で木製のベッドを改良して、用意した布団を並べられるようにした。
今では抱き締めて寝かし付けなくても安心して眠れるはずなのに、なんでかおそる……と抱き締めてほしそうに手を伸ばすヘリカさん。
……あれ? これヘリカルート始まってらっしゃる?
いやいやそんな、俺もう結構おっさんな感じですよ?
だから俺べつに鈍感とかそんなんじゃない。ないったらない。
むしろ明確な感情表現とか、告白とかされたわけでもないのにその気になる方がおかしい。
ので、俺は今日も普通に日々を生きているわけです。
女性が隣で寝てるからなに? おじさん、それくらいで眠れないとか手が出そうになるとかそんなん無いから。
性欲と無縁の生き方を今日までしてきた俺に、明確でもない色仕掛けなんて通じぬわ。
そしてこの体はベリル・ガーデナント氏! ベリルがそんな簡単に女性に手を出すとお思いか!
なので鋼の精神なんて必要じゃなく、俺は普通~に暮らし、普通~に鍛錬を続けているわけです。
わかりやすいですか?
「なんだろう……今なら悟りでも開けるような───」
剣を持つ。
構える。
狙う。
振り下ろす。
その動作を超自然的にやった時、音も無く───ぬるりと藁束が二つに斬れた。
シン、とすら鳴らない。
ただそこに通せば剣は通る、みたいな確信があって、通した。それだけだった。
ただそれだけなのに、息を吐くと……どう、と汗が出てきて、自分でも気づかない内に相当集中していたことを知る。
え……なにこれ。直死の魔眼でも開眼した?
いやいやそんな大それたことは。
人を見たって『線』が見えるわけでもない。
代わりに、なんとなくどこを攻めればいいかが分かるような……?
……これか。これがガーデナント氏が見ていた、あの景色か。
漫画のシュプール相手に先の先を見るように動いていた、あの……!
こっちのシュプールとも剣の読み合いはしてるけど、こうまでハッキリ見えるようになったのは初めてだ。
も、もしかして間に合ったのか……? 俺、ちゃんとガーデナント氏の域にまで達せたのか……?
「───」
マテ。
これで油断というか慢心するからダメになる。
使えるようになったからなんだ? これがたまたま今日は賢者っぽい気持ちだからなれただけだったら?
「……いつでも使えるようにならないと……!」
漫画のガーデナント氏はその先に居る。
集中せねば───! 集中───!
そうして集中した先で、気づけば藁束は上から下へと蓮斬りにバラバラになっていた。
「……あれが卒業試験だとか言わないっすよね」
「……あれはさすがに無理」
「先生に見合う剣を、俺に作れるかどうか……! こりゃあ腕が鳴るぜ……!」
集中を解いてみれば、見ていたらしいクルニとフィッセルとバルデルがなにやら話し合っていた。
やあ、と声をかけると挨拶をくれる。いい人たちだ。ネームドみんなやさしい。おじさん嬉しい。
なので精一杯教えることにした。俺にはどうせそれしかしてやれない。
俺なんぞの教えでごめん。親父様ならもっと、ガーデナント氏ならもっと本物の教えが出来たかもだけど……!
などと考えつつも己の剣に集中していると、ふと頬を伝う汗を、ソッと拭われる感触。悪意も殺気もなかったから気づかなかったけど、ヘリカがタオルで汗を拭ってくれていた。
「ヘリカ? ああ、ごめん、集中しすぎて気づかなかった」
「それにしても汗を出し過ぎてると思いますが……あの、水分補給などは……?」
「あ」
指摘されて、喉が渇いていることに気づいた。拭ってくれていたタオルをそのまま受け取りつつ、水分補給に向かう。
生憎と殺菌消毒された塩素入り水道なんてものはないから、沸かして冷ました水をいただく。
体を拭くためのお湯みたいなもんだ。用途は違うから、温める容器も違うけど。
つくづく思うけど、太古の皆様って塩分どうしてたんだろうね。気軽に塩も舐められなかった時代とかさ、塩分不足でよくぶっ倒れなかったよね。
思考にふけりながら飲んでいると、心配そうに俺を見る視線がひとつ。ヘリカだ。
「あぁ、はは、大丈夫大丈夫。というか、うん。心配してくれてありがとう。汗を掻くのはいつものこととはいえ、確かに汗の掻きすぎは危険だね。言ってくれてありがとう」
「~…………」
感謝され慣れていないのか、なんかテレテレしてる。
まだまだ少女の彼女の頭をやさしく撫でて、っとと、急におじさんが触るとかびっくりするよな。
や、まあ、もう撫でちゃったんだけど。
ほらみろ、びっくりしてる。
あ~……と気まずい気持ちのまま、感謝だけはきちんと伝えて、また鍛錬に戻る。
気にせず好きなことしてていいんだよ? と伝えるのも忘れない。
「だったら───見ていていいですか?」
「え? ああうん、面白いものじゃないかもだけど」
「はい」
にっこり笑顔が返ってきた。
いいんだけど……そういえばミュイは?
訊ねてみれば、まだ寝てるとのこと。寝る子は育つ。いいことだ。
「先生!」
「ん、っと。クルニ? どうかしたかい?」
「この長い剣の……距離感を掴む方法とか、教えて欲しいっす!」
「ん、いいよ。じゃあまずは構えから───」
我がガーデナント流は来るもの拒まず。
老若男女問わずに門を開けているので、剣の相談なんでもござれ。
剣以外? あ……ちょっと分からないです。剣以外はからっきしなおじさんでごめんね?
◆ ◆ ◆
ヘリカルートが始まってるかもと夢想したな。アレは嘘だ。
というか、まだまだ少女な彼女に俺がそういう気持ちを持つのはマズイでしょ……。
そう、ここで必要なのは父性。
姉として振る舞うばかりだったであろう彼女に、甘やかす存在というのを確立する……今が好機ぞ。
なのでやさしく接する日々が続いた。
護身術として剣も少し教えたりして。
しかし、ヘリカはよく笑う少女だった。ミュイの前では特に。ええ子……!
けれどもまあ、時間はどうやったって過ぎていくもので。
気づけばフィッセルもバルデルもクルニも道場を発ち、教えごたえのある弟子が居なくなってしまう。
寂しさを感じた時は、シュプールと手合わせなんかしたりもして、それでも……交流稽古では負ける子は多いし、ネームドほど実力がある者は現れない。
そんな日々でもやることは変わらない。
剣を楽しむことを教える。
なんだかんだ、楽しんだもん勝ちなのだ、こういうのは。
下手な嫉妬は向上心を濁らせるし、要らない自信は伸びしろを潰す。
だからやることなんて変わらないし、変わりっこないのよなぁ……と考えている日々の中、彼女は来た。
ロゼ・マーブルハート。
スフェンドヤードバニヤの教会騎士団の副団長……だったっけ? ということくらいしか俺の知識にはない。
なにせキャラだけを知っていて、HPで調べただけの知識だから。
名前以外のことはほんのちょっぴり知ってる、ってだけで十分だようん。
剣の腕だけど……既に別の流派の剣技を修めていたようで、いっそなんでガーデナント流を学ぼうとしてんの? と訊きたくもなったけど。
来る者拒まずだ。身に着けたいっていうなら教えようじゃないの。
というわけでまずは修めた剣技を味わうため、実戦形式の木剣稽古をしてみた。
……うん、防御主体で、相手の間隙に一撃必殺の突きを混ぜる感じ……かな?
でも生憎と突き攻撃はシュプールで散々味わってるから、避け方と、その後の対応もお手の物だ。
「…………驚きました。こうも簡単に返されるなんて」
「騎士団の剣技なのかどうかは知らないけど、突き対策は随分としてるから。ともあれ、ようこそガーデナント流剣術道場へ。歓迎するよ、ロゼさん」
「はい。……あ、でも、さんは要りませんよ、ベリル先生。これからお世話になるんですし、どうぞロゼと呼び捨ててください」
「そうかい? キミがそれでいいのならいいのだけど」
なるほど、こういう口調なのか。
おっとりだけどしっかり者のお姉さんタイプだな。たぶん世話好きの。
「けれど、あれだけ動いて汗ひとつかいてないなんて」
「はは、鍛えているからね。これくらいしか取り柄がないから、それで負けたら情けないだろう?」
それしかできないなら、それを極める。
そういうスタンス……嫌いじゃない。
「先生、もう一本お願いしていいですか?」
「いいよいいよ。気の済むまでやってみよう。俺も新しい技を目に出来るのは嬉しいから」
なにせここ以外に行く予定もない。交流稽古とシュプールくらいしか新しいものを見る機会もない。
なので遠慮なく稽古を重ねた。
負けることはなかったものの、ロゼの防御を崩すのは中々考えさせられた。
まあ、崩したんですが。
「汗だくだくじゃないか。ほら、拭いてあげるからこっちおいで」
「えっ……!? いえあの、自分で───」
「いーから。話してみて、剣を交えてみて分かった。ロゼは自分より他人の世話を焼きたがるタイプだろう。子供たちが居たら、たとえ他人だろうと世話を焼きたがるような」
「……そのー。私は、孤児院出身ですので、子供のお世話などは自然と───」
「なるほど、じゃあさぞかし子供に慕われただろう。───でもね、甘やかす人っていうのは甘やかされることを知らない。それはだめだ。助ける人が助けられちゃいけない、なんてことは、絶対にないんだから」
「あ───」
言って、やさしく彼女の顔を、髪を拭っていく。
この世界にももふもふのタオルが存在します。お高いですが、案外女性の弟子も居るこのガーデナント流道場。
出費は俺のものではありますが、女性の柔肌用のタオルくらい用意がございますとも!
けど、孤児院か~……。
スフェンドヤードの方だとどうにもきな臭いとか考えちゃうのは、シュプールのことやミュイ関連のことでのクセかなぁ。
ちょっとシュプールとも相談して、その孤児院のこと、調べてみようか。
……。
で、一年ちょい。
「先生先生っ、剣、試させてくださいっ」
「うん、いいよロゼ」
やっぱりきな臭いどころかドス黒い陰謀が渦巻いてた孤児院事情をシュプールとともにブチノメ……もとい解決し、それがあっさりロゼにバレた日からしばらく。
いやっ、俺はちゃんと内緒にしようとしたんだよ!? 安心させたかったってのはそりゃああるけど、孤児院の子を人質に陰謀を企んでた悪い組織が居てさぁとかわざわざロゼに言う必要ないじゃん!?
もっと別の言い方を~とか考えてたら、シュプールがニヤァ~ンってすっごい悪いこと考えてるって笑みを浮かべて、全部バラしちゃってさぁ!
……以降、ロゼの甘えっぷりがヤバイです。
『困ったことがあるなら、大人に頼りなさい』とかキリっとした顔で言ってたこともあって、信じられないくらい甘えられてるって実感がある。
それでもまだ人質に取られたら~とか、これはわたしたちの問題なんです! とか強情にも木剣を手に、俺に向かってきたいつかを思えばまあ……うん。
とりあえず一撃でブチノメしたよね。動揺しまくってた所為で剣の冴えもこれっぽっちもなかったし、楽勝だった。
で、悪いことした子には説教だよね。それでもパニック起こして、私はお姉ちゃんだからって、どうにもならないことを叫ぶくらいには余裕がなかった。
説教も聴く耳持たない悪い子には、アレだよね。そんな、大人なお姉さんっぽい印象さえあった子の動揺と暴走を前に、やっぱり一撃で無力化し、膝を立てるように跪き、そこに彼女の腹を乗せ、スチャリと構えるはお手々様。
ずっぱーん! ってすっごい音が鳴ったよね。「きゃぅううううんっ!?」って可愛らしい悲鳴もあがったわけで。
聞き分けの無い悪い子にはおしりぺんぺん。常識です。
物理的痛みと状況的羞恥の痛みのダブルダメージで泣いてしまうまでそれは続き、尻餅をついた女の子座りをして、涙の溢れる目尻を軽く握った手でこしこしするアレなポーズで泣いてしまった彼女に、はぁ~っと拳に熱い息を吹きかけて、げんこつ。
「仕方ないとはいえ、悪いことをしたなら?」「…………ぁぅ……ご、ごめんなさい……」「ん、よろしい」……で、問題は解決した。
シュプールなんかは爆笑して、嫁さんに尻抓られてたけど、まあ、こんな日常こそがこの村の在り方だ。
誰々を利用する~だとか、悪い話なんてのはさっさと滅ぼして忘れるに限る。
だから、頼りないのかもしれないけど、俺に出来ることなら力になるから、頼ってくれると嬉しい。
そんなことを、泣いているロゼの目線に合わせて屈み、その頭をやさしく撫でながら言った。
……以降、なんか距離が近いというか、頼ることにも甘えることにも遠慮がなくなったっていいますか。
や、数ヶ月前まではそうでもなかったんだぞ? でも甘えることにも頼ることにも慣れてきたのか、俺がそれを「任せなさい」と受け入れてくれるのが嬉しいのか、小さなことでも頼ってきて、俺が頷くとすっごい嬉しそうな笑顔を見せるのだ。そりゃもう、ぱああって花が咲くような笑顔~っていう表現が似合うような。
キミ、スフェン教としてお祈りとかしてる時、そんな笑顔見せたこともなかったでしょう。どっちかっていうとうすく笑うような……さぁ。
これアレか。環境の所為で甘えられなかった子が、初めて甘えてみせた……みたいな?
髪の手入れを頼んでくるようになったし、ヘリカに頼んでみたら? って言ったら頬膨らませるし、いじけるフリをしつつ、俺が構わないと自分から近づいてきて、んー! んー! って頭擦り付けて来るし。
でも誰かが居る前ではしっかり者の顔のロゼさん。甘えるのは俺にだけらしい。
……こんなキャラだったんだなぁ。ホームページの紹介だけしか見られなかった俺には、理解が及ばなかった。
まあ、そういうの……嫌いじゃないですが。
甘えられなかった子が唯一甘える対象が、こんなおっさんでいいのかなぁとか思わないでもないけど……なにせこの俺ガーデナント。ベリル氏なら仕方ない。包容力満点だもの、このおじさん。
……あのー、でもさ、なんか思ってるほどおっさんぽくないの、なんでかなぁ。
漫画の方、もっともっと老けてたよねぇ?
俺、まだ青年でフツーに通りそうな見た目なんだけど。えぇえ……?
「というわけで、孤児院のみんなも村の新しい孤児院に移動が出来まして、ここでなら安心だろうって」
「うん………………なんかごめん」
「どうして謝るんですか? 私、感謝しかしてませんよ? 先生」
「いや……孤児院建てるのも子供たちの移動も、そこで働いてた人(善人に限る)の移動にかかる費用も、全部ベリル教からお金が出たっぽくて……スフェン教とかと、なにか対立したりしやしないかな~って……ほら、ロゼってスフェン教の信徒だったろう?」
「あ、はい、もうスフェンドヤードの役職からは退きましたし、なんなら改宗しましたっ。今のわたしは熱心なベリル教ですっ」
「ウロォオオオオオオオッ!! お前ぇええええええっ!!」
俺の知らないところで、ベリル教が広まっていっていた。
そして孤児院を建てて子供たちや一部の大人を雇い入れるほど実入りがあるとか怖すぎる。
え、なに? 俺そんなに誰かに信仰されてるの? 怖いんだけど?
そんなやりとりを、剣をぶつけ合いながらしてる時点で、もう剣の腕とかすごいよね、ロゼも。
あれ? でも……あ、じゃあ、そっか。ロゼは教会騎士団副団長にはならないってことだよな?
ここで、この孤児院を見守りながら、なにかしらの仕事に就くのかな。
一応、託児所としての経営もするつもり、とはウロからは聞いてるけどさ。
「そして子供の頃から道場で心技体を磨き、村を発つ頃には立派なガーデナントの剣士の出来上がりです……骨身にまで染みついた信徒が増えますよ先生……!」じゃないんだわ、ウロさん。怖いよ。
「はい一本」
「あっ……えへへ、やっぱり先生はお強いです。頼りになって、尊敬できる大人で……」
負けたのにすっごい嬉しそうなんだよなぁ……。
今ではスフェンドヤードの技にガーデナント流を器用に混ぜた、綺麗な戦い方をするんだけど……負けても嬉しそう。
どうやらロゼの中で、俺は自分が信じる立派な大人、という枠に入れられてしまっているっぽい。
だから俺が勝つのが当然で、負けるなんて有り得なくて、それはそれとして憧れの人が勝つ姿は、たとえ負けるのが自分であっても嬉しい、みたいな。
それでも汗だくだくになるまでは全力でねばるんだもの、したたかだ。
なので今日もロゼはとととっと近づいてきて、にこー、と汗をかいた自分を見せてくるのだ。
「すっかり甘えん坊になっちゃったなぁ」
「そうしたのは誰ですか、もう。お姉ちゃんを妹にした責任、取ってくださいねー?」
「こんなおじさん捕まえて、妹はないだろ。娘でも通用するんじゃないかな」
「? おじ……え? あの、先生ってそういえばおいくつで……?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 俺はね、今年で───」
自分の年齢を思い出しながら言ってみる。
なにかに没頭しながら生きてると、正直誕生日は覚えてたとしても、自分の年齢とかって案外興味なくなったりしない?
……あ、ちなみに、俺の年齢を知ると、ロゼはそりゃあもう驚いていた。
2歳くらいしか違わないと思ってた、とか……あっはは、お世辞ありがとう。
正解はただの剣が好きなおじさんです。若作りなだけだよー。
でも、強いおじさん、っていうのがいいのだ。
ベリル先生、いいよなー。……あ、今は俺か。
でも俺だってちゃんと、ロゼには大人に頼りなさいって散々言ってきたじゃない。
それでなんだって……え? 親父様とかのことかと思ってた? “俺を頼れ”とかだったらすぐに頼ってた? ……あ、あー……なんというかそのー……ごめん。
「……あのっ。ついでで訊きますけどっ。……ヘリカさんとは、どういうご関係で……?」
「? 家族だけど……。あ、ちょっと特殊ではあるかな? 首都でその、ちょっと危ないことしそうになってたところを引き取った、って感じなんだ。一応親父様の養子ってことになってるから、まあ……歳の離れた俺の義妹ってところかな」
「先生って、周囲のことになるとなんでも首を突っ込んで、感情を破壊していくような厄介な先生ですよね……」
「破壊!? いやいやいやっ、力になりたいとは思ってるけど、人の感情を壊すみたいなことはしてないつもりだよ!?」
「ふふふっ……大丈夫ですよー。壊されるのはいっつも大体、悪い感情の方ですから。でも……困りました。これはライバル、多そうですねー……」
「ところで最近、いやに稽古を~って言ってくるけど、どうかしたのかい?」
「はい。とりあえず一番の愛弟子を名乗ることにしました。ただのお弟子さんじゃあありませんよー? なんと、愛がついてるんです」
「え? う、うん、ついてるよね、愛弟子だもの」
「はい!」
「なにが!?」
はい、って言葉に、なんかどーんとかいうオノマトペが見えた気がした。思わずなにが、と返してしまうほど見事に。
アリューシアもそうだったけど、うちに来る女の子の弟子って変わり者が多いような……。
まあ、それも個性か。
みんな違ってみんないい、だな。
……。
それから───
「先生!」
月日が───
「先生っ!」
流れて───
「先生っ! 稽古を───」
あー……
「あの。もういい加減教えることがないんだけど……」
「そんなっ! まだ覚えられます! 私、記憶力はいい方ですよ!?」
「そういう意味じゃなくてね!?」
あれから6ヶ月。
シュプールをして「正直攻め辛い」と言わしめた守りを魅せたロゼは、今もなお剣術道場に通っては構ってくださいオーラを隠すことなく俺にだけ見せていた。
「でもでも私ほら、愛弟子さんを名乗ってますから。他のお弟子さんよりももっともっとガーデナント流を知っておくべきですからして」
「愛弟子が誰より師匠を言動行動で困らせてるってなんなの……!」
「私も孤児院住まいですからいつでもここに来られますし、出て行ってしまってからは一度も顔を見せていないらしいお弟子さん方よりも愛弟子感ありませんか?」
「そういうのは比較するものじゃないの。俺にとっては全員が全員、大事な弟子なんだから」
自称愛弟子さんは、自称するだけあってすいすいと技を吸収していった。
あのアリューシアでも数年かかったところを、基礎が出来ていたとはいえ一年半程度で。
「ところで先生」
「うん? なんだい、ロゼ」
「ヘリカさん、おっぱいおっきくなりましたよね……!」
「世話話みたいにそういうこと言わないの! ていうかきみ、話題を剣のことから逸らすのに必死になりすぎてやしないか!? 目がぐるぐるしてるぞ!? 声震えてるし!」
「教わることはあります! そういう話で終わったから別の話に移ってるんです! 必死なんかじゃありませんから! ありませんからー!」
「無理にその型にハマる必要なんかないんだって! むしろロゼは別の剣技を上手く混ぜることで、自分の型っていうのがようやく出来始めてるんだから、むしろ今こそ離れるべきで───」
「いやですいやですまだまだ先生に甘えるんです! 先生に頼るんです寄り掛かるんですー! こんな私にしたのは誰ですかー!」
やだかわいい。まさか足パタパタさせながらワガママ言われるとは思わなかった。
でもキミも胸おっきいんだから、おじさんの目にはちょっと毒です。
い、いや、出来れば見たい。見たいけど、ベリル・ガーデナント氏としてはそれは見るわけには……!
「先生がそんな意地悪なこと言うんだったら、私だってガーデナント流の先生はいたいけな少女におしりぺんぺんする人だ~って言いふらしてやるんですからー!」
「お前それは卑怯だろ! やめなさい! やめっ……やめろー!!」
思わず素の声が出た。
拝啓、ダートハルト・シトラスさま。
あなたの娘以来のちょっぴりやべぇ女の子が弟子になりました。
いつかの日、あなたから、『弟子に送り出し、戻ってきてから年々、娘の露出度が増えていきます。何事でしょうか』、などの相談のお手紙をいただきましたが、原因とか俺に訊かれても正直謎すぎてどうにもできません。
言えることがあるとするならええとそのー………………女の子って、分からないなぁ……。
シュプールとラフィの間に子供が出来たら、二人よりもガーデナント氏が感動でむせび泣く未来。
そして二人よりもお子を甘やかして、両親よりもガーデナント氏に懐くお子。そんなやさしい未来。