凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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同日投稿8話目。
8……なんかあった気がするんだけど。なんだったかなぁ8……。



片馬鹿 -片田舎の剣聖に転生した馬鹿の話-⑧

 そして……時は、いつかの日へ。

 

「…………はぁ。休みの朝っぱらから稽古か、ベリル」

「親父様」

「そろそろ親孝行と思って、孫の顔でも見せてくれんか」

 

 その言葉に、『あ、もうそんな頃合いなの? え? 俺まだ顔とか若くない?』と戸惑いつつ、用意していた言葉を届けようと───

 

「そうですよお義兄さん。な、なんならその、養子縁を解いて、わたしと───」

「うふふだめですよーヘリカさん。お義父様にお孫さんを見せるのは私ですからー♪」

「…………ていうか、ベリルよぅぃ。お前、なんでこれで孫が出来てないわけ?」

「………」

 

 ヘリカも大人になって綺麗になった。ロゼは一層に綺麗になったし、やたらぐいぐいくるし。

 ウロの俺を見る目も結構やばいし、村歩いてるとベリル様だー! なんて子供に言われる時がある。タスケテ。

 あ、ちなみに、なんか女性陣たちで話し合った結果、ベリル教って一夫多妻制らしいです。勝手に制度作らないでくださいます?

 

「エットソノゥ……ど、道場も継いで、弟子も増えた。……じゅ、十分そのー……孝行しただろう?」

「いや……儂、教徒を作れなんて頼んどらんのじゃけど……」

「……………」

 

 俺も頼んでないんだよ……どうすんだよアレ……。

 

「それに、道場は色恋の場じゃないだろ? 現実的に考えてこんな田舎の道場に嫁ぎたがる女性なんて───」

「「はい!!」」

「手を挙げないで!?」

 

 俺ここで回想に入って、騎士や冒険者になって身を立てるのは、全ての剣士の目標だ~とか憧れのうんたらを語るんだから!

 い、いや、うん。護身程度の剣を教える立場、という辺りからは既に離れてる気はするけれども。

 

「(弟子か……あ)」

 

 そうそう、ここで俺が『弟子か……』とか考えて、幼いアリューシアの告白劇場を思い出していると、アリューシアがやってきてさぁ。

 

「ごめんくだ───なぁあああああああああっ!?

「うわうるさっ!?」

 

 アリューシアが───来た! でも女性に迫られてる俺を見て、素っ頓狂な声をあげてわなわなと震えてる。

 ていうか実際にアリューシア装備見ると……やばいな。そりゃシトラスパパも手紙にしたためるわけだよ。

 あのー……防御力って知ってる? あ、全部躱すから関係ないのか。

 でも実際に目の当たりにすると、目のやり場に困ります。

 おじさん、そんな子に育てた覚えはありませんよ? ……たぶんシトラスパパも。

 

……。

 

 レベリオ騎士団団長、アリューシア・シトラス。

 王国お抱えの精鋭たちを束ねる、生きる偉人。

 彼女は俺の弟子だっ───

 

「で。先生? 横の二人はいったい……?」

 

 ───った、って回想から入らせてほしかった。

 円卓を偏って囲むように座る四人……なんで四人? 二人でいいでしょちょっと、ヘリカ? ロゼ? なんで四人で円卓囲むんじゃなくて、三人と一人みたいな図になってんの? 近いよ?

 

「えっと、こっちは親父様の養子になったヘリカ・ガーデナント。俺の義理の妹ってことになる。こっちはロゼ・マーブルハート。来る途中に孤児院があったろう? あそこの経営をしてる、元弟子だよ」

「卒業するつもりはないって言っているのに、無理矢理剣を渡してくるんですよー? まあ、近いこともあって稽古には参加させてもらっているんですけど」

「…………なるほど」

「はい。一番の愛弟子なんです」

「───」

 

 あ。なんか今日一番、アリューシアの肩がぴくりと動いた。

 早くない? 今日一番。

 

「あ、あーその。まだ、その剣なんだね。街ならもっといい剣もあるだろうに」

「む。……いえ、私はこの剣がいいのです」

「そ、そうか……っと、そういえば今日はどうしたんだい? ただ懐かしくて顔を出したにしては、物々しい格好だよね」

「はい。実は───」

 

 アリューシアが語る、漫画のままの言葉にほっこりしながら、「へえ! 凄いじゃないか」とか「俺も鼻が高いよ」とか言う。

 これこれ、こういうのをやってみたかった。

 剣は教えられたけど、日常をなぞるのにもう何年かかってるのやら。

 長かったなーここまで。

 そしたらアリューシアがね、うん。ここで俺を特別指南役に推薦したーって言って───

 

「ときに先生、ご結婚は?」

───なんて?

 

 おい。

 おい違うでしょう。

 待ちなさいちょっと、良い子だから。

 

「い、いや……結婚はしてないけど。好きこのんでこんな田舎の道場に嫁ぐ女性なんて居な───」

「「嫁ぎます!」」

「ちょっと待っててね!? すっごいややこしくなるからっ!」

「…………先生」

「ひゃいっ!?」

 

 怖っ! 目が暗殺者のソレだって一発で分かるくらいに鋭い眼光!

 暗殺者じゃないのにそう感じちゃうのは、相手が気づかない速度で閃光の如く抹殺する戦い方からくるものですか!?

 

「こほん。先生はご結婚はされていない。そういうことで、よろしいのですね?」

「ああ、うん。結婚はしてないよ、うん。してない」

「ではその。騎士団の特別指南役として、首都へ来てほしいのです」

「エッ……あの、結婚云々の話はどこに……」

「外に馬車を待たせています。首都で日程などの調整をしましょう。国王御璽印象付き任命書もこれこの通り」

「聞いて!? ねぇ聞いて!? てかなんか滅茶苦茶早口で喋るね!? こっ……国王様の命令なら行くしかないわけだけど……!」

「確信しました。一刻も早くここから離れるべきです。そしてあちらの方で関係を築いていき、いずれは……!!」

「んー……あちらでの宿などはどうするおつもりですかー? 指南役として任命、というのは分かりましたけど、毎日ここから首都へ、では大変ですよ?」

「もちろん私の家で───」

「「「絶対ダメでしょ……!!」」」

 

 三人でツッコミつつ、話をする。

 ロゼの心配はそもそも無用なのは分かってるんだけど、今のアリューシアの勢いだとそのままアリューシアの家に押し込まれそうなので。

 

「月に数度? そんなものでいいのかい?」

「はい。先生は今も多くの門下生を抱える身ですから。時折こちらに足を運んでいただければ結構です」

「さっきの口ぶりだと、家に引きずり込みそうな勢いでしたけどねー」

「むぐっ……それはその。危機感というか……」

「では、私も同行していいですか? 宿でのベリル先生のお世話は、私が───」

ダメです。命令はあくまでベリル先生へのものなので」

「(怖ぁ……)」

 

 圧がすごい。

 でも逆らえないものは仕方ない。

 田舎だって言ったって、結局は国に存在する場所ではあるのだから。

 

「そもそも日程の調整と言った通り、話が纏まれば本日中に戻ってこれるはずです。その。どうせなら私の家などでゆっくりしてほしいものですが───」

「はいっ。ではベリル先生、すぐに発ってすぐにお話纏めてきてくださいっ♪」

「なんなの!? ねぇなんなの!? 俺もうどうしたらいいか分からない!」

「お話が纏まったら、こちらでも話しましょう、お義兄さん。私たちもそれから、いろいろと考えますから」

「ヘリカ。俺にはその話の内容こそがそもそも見えてこないんだけど……?」

「簡単ですよ、お義兄さん。首都へ行って特別指南役の話を纏めて、帰ってくればいいんです」

「そうですそうです、ですですです」

「あのロゼ? 押さなくていいから。行くから。どの道行かないと王命無視とかでめんどいことになるから行くから」

 

 民の悲しいところ。王には逆らえない。

 お、おかしいなぁ……もうちょっとほっこりしながら向かうハズだったのに……。

 

「お? なんだ、出る用事でも出来たのか? 茶ァ持ってきたんだがの」

「親父様が!? ……ああ、おふくろの淹れたのを持ってきただけか」

「やかましい。いやあ、それにしても大きくなったのうアリューシア。何処に行くかは知らんが、その格好からして首都か? この引き篭もりをよろしくな」

「はい。先生をお借りします、モルデアさん」

「ところでアリューシアはご結婚されてるのかの?」

「親父……!」

いいえ!!

「うわあ声でっか!」

「ガハハハハ、そうかそうかっ。こいつは近くにこぉんなべっぴんさんが居るってのに孫の一人も見せんと、もしアリューシアにその気があるなら───」

「はーいはいはい、ベリル先生早くでましょうねー♪」

「お義兄さん、御者さんを待たせては悪いですよ。ほらほら出てくださいっ」

「…………なんというか。先生、しばらく見ない内に随分と周囲に振り回されるようになりましたね……」

「見せたくなかった! こんな情けない姿!」

 

 女性に押されるがままに道場を出て馬車に乗るおっさん。ああ情けなや。

 一応馬車に乗る際、土足で大丈夫かも訊く。

 いや、作品なぞりたいんじゃなくて実際大丈夫なのか気になるし。

 

……。

 

 そんなこんなでやってきました、レベリス王国首都、バルトレーン。

 何度見てもでっかい。やばい。

 そして案内されるままに騎士団駐屯庁舎へ。

 団長であるアリューシアが騎士たちを集め、壇上から説明をしてくれるわけだけど……うわぁ。うわーあああ……。

 あの、あのアリューシアさん? そんなハードル上げないで?

 漫画読んでたからある程度の覚悟はしてたけど、なんかめっちゃ持ち上げるじゃん……!

 

「───以上から今後、ベリル・ガーデナント氏に騎士団の特別指南役としてご協力頂く。各員のより一層の研鑽を期待する」

「───」

 

 無心だ。

 教え子が増えると思ってやってれば、いずれこのいかつい騎士達の視線にも慣れるさっ!

 

「ガーデナント氏は私など比にならないほどの実力者だ。皆、進んで稽古を願い出よ」

「!?」

「では先生、一言お願いします」

「!?」

 

 そして考え事をしてた所為でフツーに驚いた。

 はっ……話せと……!? この、いっそ睨むような視線を浴びながら、一言言えと!?

 ……言うけど!

 

「えー……ご紹介に与りました、ガーデナントです。片田舎の道場で剣を教えているしがないおっさんです。今、みなさんの心にあるのは『団長のいう実力など、団長が子供の頃の話だろう』などといったものだと思います」

 

 ざわついていた声が、ぴたりと止んだ。たぶんその通りだったのだろう。そりゃそうだ。

 

「けれど、それでいいんです。疑問に思ったのなら、疑問を晴らせばいい。団長の言葉に倣い、団長の言葉通りに、進んで稽古を願い出てみれば、化けの皮があるのなら簡単に剥がせるというものでしょう」

 

 言いながら、ぐるりと百を超えるであろう屈強な剣士たちを見渡しアァァァアアア!! 居たァ! ヘンブリッツ君居たァアア!! 生ブリッツ君だ! 睨んできてる! めっちゃ殺気込めて睨んできてる!

 

「皆さんに、なによりもまず知っておいてほしいことがあります。───俺は、剣が好きだ」

 

 と、ヘンブリッツ君というネームドに興奮しつつも、これだけは譲れない。

 

「剣に嘘は吐きたくないし、それを否定されるのなら自分の全てで以って意思を貫こう。もしも我こそを思う者が居るのなら、次にここへ来た俺へと挑んでほしい。逃げも隠れもしないし、喜んで受けて立とう。今日は挨拶だけという話なので、是非次回。……」

「!」

 

 言って、ヘンブリッツ君に視線を送りにっこりと笑んでから圧を出してみる。……出てる? 出てるといいなぁl!

 

  そんなこんなで挨拶は終了。

 

 日程の調整なども終えると、アリューシアに手伝ってもらいつつ親父様へのお土産選びをする。

 いやー……こういう世界にもお土産屋とかってあるものなんだなぁ。

 手持ちは結構ある。ベリル教の所為……もといお陰、ではあるんだろうけど、ある。

 これで親父様が好きそうなお土産を買っていけば───って、そういえばそろそろだっけ。

 たしかこのあたりでスレナが───

 

「天下の騎士団長様が男連れで買い物とはな」

「!」

 

 来た!

 と振り向けば、赤を基準にした服装で、大きなバンダナで髪を結った───うぉデッッッッ!! ゲフンゲフン!

 

「随分と腑抜けたものd」

「スレナ!」

「だ、って、な、なんっ───ベリル先生!?

「うわぁやっぱりそうだ! 大きくなったなぁ!」

 

 まあそれはそれとして、あのちっこかったのがこう大人になってるのを見ると、やっぱり普通に嬉しいもんだ。

 わざとらしい演技なんて出来っこないくらい、純粋に喜びの声が上がった。

 

「そんな……っ……覚えてくださったとは……! 20年も経つというのに……!」

「あっははは、当たり前だろう? 俺がスレナを忘れるもんかっ、はは、元気そうでなによりいでででで……!!

 

 肩を掴まれてミシメシと力強く圧された。なるほどこりゃ痛い! これがブラックランクの握力……!!

 

「うん、大きくなって、そして、綺麗になった。でも面影はそのまんまだ。立派になったなぁスレナ」

「~……!!」

 

 いつかのように頭を撫でると、その顔が恥ずかしさと、けれどそれよりも強い喜びで朱に染まる。……だよね? 滲み出る笑顔っていうのか、表情は普通に……いや、めちゃくちゃ嬉しそうだし、いいんだよな?

 

「…………リサンデラ。先生はお忙しいのです。その手を離しなさい今すぐ」

「……あ?

は?

「………」

 

 そうだった。

 この二人、基本的にソリが合わないんだっけ。あ、ああほらほら、歩こう?

 べつに睨むなとは言わんよ、うん、そりゃあべつにいいんだけど、人を挟んでの睨み合いとかやめませんか?

 

「そうだ、先生。ぜひギルドにも立ち寄ってください。私が案内します」

「はは、スレナ。敬語とかいいよ。そっちの方が喋りやすいだろう?」

「いいえ。先生は特別です。むしろ特別でなければならないんです」

「えぇえ……そうなの……? よく分からないけど……」

 

 や、ベリル・ガーデナント氏は特別でなければならない、って単純な意味でなら俺もそりゃあ頷くんだけど。

 でもそれって俺の中じゃ、敬語で呼ばれなきゃいけないとかそういう意味ではないんだけどなぁ。

 

「おぉお……アリューシア騎士団長と“竜双剣”のリサンデラだ……」

「すげぇ組み合わせ……」

間のおっさんはなんだ?

 

 たすけて……。

 そこでぼそぼそ噂話しているあなたたちでもいいから……タスケテ……。

 なんでこの二人、人を挟んで殺気撒き散らしながら歩いてるの……?

 土産のこともそうだけど、アリューシアの提案で街を見て回ってるだけなのに。

 あ、うん、親父様への土産もそうだけど、やっぱ武器とか見たいじゃない?

 道場用の木剣を発注するんじゃなくて、普通に刃物も見ておきたい。

 なのでアリューシアの案内のもと、騎士団ご用達の鍛冶屋に来たわけだけど。

 

「おお……」

 

 へええ……見事な剣が揃ってる。いいなぁやっぱり、剣はいい。

 見るだけでも切れ味がいいって分かるものもあれば、これ……やばくね? って剣もある。

 あ、でもこれは仕上げ前の例のアレだな? 名付けよう! キミの名は聖剣ナマクラーだ!

 などとわざとらしくシャキーン! と仕上げ前の剣を掲げてみたら、目敏い店主に「よければ試し切りなどは?」と言われてしまう。しまった。

 

「ぁ、ぃゃ」

先生の試し切り!?

ぜひ!!

「あぁあああもう!!」

 

 手に取るんじゃなかったぁあ!!

 俺ただほんとにコレがあるかなぁって見てただけなのに!

 

……。

 

 通された店の奥にある、試し切り用に立てられた巻き藁。高さは俺の背ほどの大きさで、結構大きい。

 それを前に、聖剣ナマクラーを構え、剣の隅々に鋭氣を満たしていくつもりで……構える。

 木剣で木を斬ることに比べれば、仕上げ前とはいえ『剣』として作られてるならこの程度。

 集中───

 

「───」

 

 シンッ───

 体が動くまま、自然のままに振るう。

 すると、引っ掛かりを感じることもなく剣が通った。

 ……どうだ?

 

「さすが」

「の…………乗ってる……」

 

 スレナが呟き、店主が呆然と呟く。

 巻き藁は切られ、乗っかったまま。落ちることもなく、ズレることもなくそこにあった。

 

「…………おお」

 

 実は緊張していた。

 道場の方ではこれくらいなら出来てたけど、こっちの藁じゃ質が違ってダメなんじゃ、とか考えた。

 集中領域に入ればそんなもんは吹き飛んだけど、だからって成功するとは限らない。

 出来てよかった……! ここでミスってたらスレナにもアリューシアにも冷たい目で見られてたかもだし……!

 

「……店主さん、これ」

「お買い上げっ───あぁっ!? こりゃあ失礼しました! まさか仕上げ前のなまくらが混ざって…………───え?」

 

 切れたまま乗っかってる巻き藁と剣とを見比べ、困惑顔の店主さんをよそに、スレナとアリューシアを促して歩く。

 持ち合わせは……今回はあるけど、いずれゼノ・グレイブルの剣を買うことになるだろうし、今はいいかなぁと。

 

「先生、今の剣───」

「剣だからね、そりゃあ切れるよ」

「リサンデラ。先生は木剣で木を斬れる腕前です。なまくらとはいえ、木剣よりも鋭いのであればあの程度は当然です」

「……お前は?」

「無茶言わないでください」

 

 なんかひどいこと言われてる気がする。

 や、そりゃあ俺もね? なまくらの剣でものを切るとか普通じゃないとは思うよ? そりゃ思う。

 でもそれが出来るのがガーデナント氏なんだから、あれは出来て当たり前なのだ。

 ……さて、お土産探しを再開しようか。

 冒険者ギルドに寄るのもいいだろうし。

 どうせ帰っても追い出されるだけだし、今のうちに泊まれる場所を探しておくのもいいかもしれない。





ヘンブリッツ君はヘンブリッツ君であるが故に!
……なんか君つけたくなりません?
フリーザ様を自然と様付けで呼んでしまうような……ねぇ?
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