凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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 お次はヒロアカ。オリ主モノです。
 ファイターズメガミックスだったっけ? で、聴けたレンターヒーローの歌と、レンタヒーローNo.1の歌、好きだったなぁ。
 光吉猛修さんの歌が個人的には好き。


直訳すれば、賃貸英雄である。

 個性個性個性個性……ええいどこを見ても個性個性と……!

 超常の能力が使えるのがそんなに偉いか! そんなにスゴいか! ……はい、偉くはなくとも凄いですね。

 さてさて自己紹介が遅れたね、俺の名前は弘亜蓮人(ひろあれんと)。この個性溢るるヒロアカ世界に舞い降りた暇人だ。

 今や溢れる程ある転生ものの話の中での例でいうなら、こんな俺のお話にも傍観者というか、読者的な存在がいらっしゃるのだろう。ありがとう、こんな俺の物語なんぞを覗いてくれて。

 まあそれはそれとして、個性だ。ヒロアカといえば個性。個性といえば名前から連想されるあーだこーだ。

 どうだろうか。俺の名前を見てなにか連想できるだろうか。俺はした。

 ちなみに俺の個性は“着るものに力を込める”というものだ。うん、お分かりだろう。

 ヒロアレント……そう、ヒロ、ア、レント。……レント・ア・ヒーロー……レンタヒーローだ。分かりづらいね、すまない。

 早くにそれに気づいた俺は、子供の頃からひっそりと、目立たず騒がず生きてきた。着るものに力を与えるとか、傍から見て分かるわけもない……ので、日々常に能力解放状態よ。こそこそと大人から隠れて個性を発動してぎゃっはっはと笑う小僧どもとは違う。堂々と個性を発動させて、そりゃあもう個性を磨きまくったさ。

 お陰で大学生になった今、親の仕事でもある服飾&ヒーロースーツのデザインやらなにやらを請け負う仕事の手伝いをしながらも、自作のスーツを着た時にはオールマイトにも引けをとらないヒーローになれる。ならんけど。だってヒーローってめんどいじゃん。

 なので平凡な意匠制作メンとして、世のため人のため、超人アルバイターとして働いてます。嘘です。アルバイトじゃあありません。

 

 結局のところ、俺の個性は服を多少頑丈にする、程度の認識で広まっている。むしろ俺がそう広めた。うちの店で服を買うと長持ちするよ! がキャッチフレーズですウフフ。

 しかしそれでいいのである。俺はこう……ねぇ? 強化させたいヤツ以外にはこの能力のことを教えるつもりはない。現在のターゲットは緑谷出久であるが。

 はやく雄英合格しないかなぁイズクくん。あ、はい、ご近所さんなんです。

 店自体は親が自分達の親友に任せて、親は自宅でデザインやらなにやらの制作。俺もそれに混ざって、子供の頃から勉強&個性磨きをしてきた。おまけに容姿もいいことから、親のデッサン人形&出来た服を着つけるためのモデルみたいなものにもなってきた。

 大学終わったらフツーにそのまま親の手伝いをする予定。ていうか決定されてる。わぁい就職先は安泰だー。……まあ、不満は無いので全力で楽しむつもりだ。

 で、イズの話に戻るんだけど……つい先日、個性が無いって知ってしまったばかりだから、まだまだ先になりそう。ハイライト失くした絶望顔って俺初めてみたよ。

 なのでね、ハイ。個性なんぞなくても上は目指せるということを、なによりも大人である俺が教えてやらねばなるまいて!

 

……。

 

 はい、というわけで。

 

「あ、あの、れんにぃちゃん、なにを……」

「イズ……聞いたよ。個性、無かったんだってな」

「っぐ……!」

 

 俺の家にご招待して、早速つついてみれば、一発でじわりと涙を滲ませる緑谷出久。俺はイズと呼んでいる。だがノン。実にノン。

 

「よかったじゃないか、これで妙なクセもないヒーローになれる」

「…………え?」

「なぁ、イズ。キミはもう諦めてしまったか? ヒーローになることを。誰かを助けて人になることを。憧れることさえ諦めてしまったか?」

「…………むりだよ。あきらめられるわけ、ないよ……。でも、ぼくには個性が……」

「なれる」

「……え?」

「きみは、ヒーローになれる」

「……………………でも、個性が」

 

 俺の言葉に、ふるふる……と弱弱しく首を横に振りながら言う。涙はもうぼろぼろとこぼれている。苦しいだろう、辛いだろう、悲しいだろう。

 けど、どこの誰でも───いや、きっとキミなら。キミだからこそ、まだまだ悪者を倒す正義の味方に憧れているはずだ。やろうと思えばなれる。キミでも今すぐヒーローになれる。でも、まだその時じゃあない。

 

「俺が訊きたいのはひとつだよ、イズ。きみは、ヒーローになりたいかい?」

「っ……なりたいっ!! なりたいよっ!! ~……っ……なりたい……! ぼくはっ……ヒーロー……にっ……!」

 

 迷いはなかった。OK最高だ。泣きじゃくりながらも真っ直ぐに俺の目を見て言うその姿……素晴らしい。

 

「じゃあ今から俺が、君に、キミだけに、俺の持つ全部を以って英雄にする行動を始めていく。結構大変だけど、ついてこれるか?」

「……本当に、なれるの?」

「イズ。信じるのが先だよ。なによりまず、キミがなる、なれるって信じなきゃ。あとは努力と根性と腹筋でなんとかなる」

「腹筋!?」

「だから筋肉を鍛えよう!」

「……! う、うん! はいっ!」

 

 そう、なにはなくとも筋肉だ。まあもっとも、その中でも呼吸法を叩き込んだりもするわけですが。……え? 全集中? ノンノン、筋肉を発達させるなら全集中より波紋法です。この仕事のお陰で顔が広い俺は、呼吸の個性を持つ知り合いに呼吸の矯正をしてもらったのだ。それがきっかけで見事に波紋法を会得できた。俺の呼吸を変えてくれた彼は、なんのこっちゃって首を傾げていたけれど。

 そうして会得して、今日まで鍛えたのなら、あとはもう……ネ?

 いずれオールマイトがワンフォーオールを譲渡するのだとしても、その時が来たら俺からは究極・深仙脈疾走(ディーパスオーバードライブ)で俺がその日までたっぷりと蓄積させてきた生命エネルギーを譲渡するのもありだと思っている。無理に原作に介入したいわけじゃないし、ヴィランとのいざこざに巻き込まれるのなんてそれこそ冗談じゃない。そういうのはヒーローの仕事であって、服作りスキーな俺には関係ないのさ。

 というわけで、俺が譲渡するかどうかって日が来るのなら……いや、それまでに俺を抜くほどの呼吸法をイズが得られるのであれば、それもまたよし。自力って素敵だと思います。

 まあ今はとにかく、イズの横隔膜をパウッと刺激して、ちょっとの波紋でも練れるかどうかの確認からだ。さあて忙しくなるぞう!

 

……。

 

 と、いうわけで。

 親が店の方に出ている間、庭に昔使ってたプールを設置、その上に立ちつつ、イズにこれからのことを話していく。

 

「いいかぁイズ。人の可能性はほぼ無限大だ。なにせ人体にはまだまだ謎な部分が多々ある。能力の20%程度しか使ってない~とか実は使ってました~とか、脳を100%使い切れてない~とか実は使えてました~とか、どれをどう信じるかは個人の自由だ。そして俺は使い切れてないって信じたほうが伸び幅がアホなほど広がるって思う方だから、俺達にはまだまだ伸びしろありまくりんぐなのだ。OK?」

「ぇええええええええっ!? れんにぃちゃっ……み、水ッ!? 水の上に立って……!?」

「その未知の内の一つがこれ。仙道・波紋法っていうんだ。呼吸が生み出すエネルギーで、様々な超能力が使えるようになる」

「本当!? 個性じゃなくて!?」

「練習すれば、大体の人が出来るようになれるさ。ただ、むしろこれは無個性の子の方が覚えやすい。言った通り、妙なクセが付かないからだ。これも個性に違いない、なんてイメージで使うと、大体失敗するからね。」

「無個性の方が……!」

 

 あ。ここ最近で一番目が輝いた。

 そりゃそうか、無個性だって言われてどん底を味わったのに、その無個性だからこそ、なんて言われれば嬉しいもんだろう。

 

「池の水の上に立つ以外になにが出来るの!?」

「骨折が治ります」

「すごい!」

「腕が伸びます」

「すごい!!」

「痛みを相当なレベルで軽減できます」

「すごいっ!!」

 

 説明するたびにお目目爛々である。ここまで素直な反応されると、教える方も嬉しいってもんで。そして呼吸の個性を持った我が友よ……なんか俺が直伝するような状況になってしまってすまない。

 そんなわけで早速パウして、イズにも波紋の世界に入門してもらったわけですが。

 ……コツ掴むまで苦労すると思ったんだけどね。ハングリー精神の所為かなぁ、一発でモノにしちゃったよ。たぶんほんと、妙なクセがなかったからなんだろう。“自分にはもうこれしかない”って思いが、どこまでも与えられるものを貪欲に吸収した。その結果が───

 

「COOOOOO……!!」

 

 コオオオ、と波紋の呼吸をして、俺が買ってきたTHE・TANSANに波紋を流しているイズくん。

 まだまだ微弱だけれど、しっかりと中の炭酸が軽く暴れているのが分かる。ただ、未開封のキャップを外すほどではないようだ。パンパンに膨れてしまったTANSANはしかし、そこままで動きを止めてしまった。

 

「できた……すごい……! あははっ……できた! できたっ! れんにぃちゃん! これ!? これが、はもん……? なの!?」

「おう! 一発目から成功するなんて、イズはこっちに向いてたのかもしれないな!」

「~……!」

 

 無個性は馬鹿にされる。見下される。そんなことを身を以って知っているからか、自分が認められたことが嬉しいのか……イズは涙を滲ませながらオールマイトスマイルを見せた。そうしてから、嗚咽でつまる喉をなんとかしながらも波紋の呼吸を練習する。

 おうおう、泣きたい時は泣きなさい。強がりたい時は思いっきり胸ぇ張りんしゃい。

 そして、明日へ向かおうって心に決めたなら、走り出すのも歩き出すのもお前のタイミングで全部決まるんだ。ブッ殺すって頭ン中で決めたなら、明日って今さ! ……ちょっと違うな。まあ受け取る部分はそう違わないか。

 

「んじゃ、ますは習得記念だ。イズ、これ着てみ」

「? なに? これ」

「コンバットアーマーっていってな? どこの誰でもヒーローになれるスーツだ。アーマーなのにスーツなのは気にすんな」

「え? ぇで、でもこれ、ただのシャツじゃ……」

「いーから着てみ? 今日からお前に、最強のヒーローになるための試練を課します」

「最強のヒーロー……! 試練……!」

 

 おお、さすが男の子。最強とか試練とかにめっちゃ目ぇ光らせてる。

 イズは早速自分が着ていた服を脱ぐと、肌の上にそのシャツを着て……

 

「ふえっ!? うわっ、わわわっ!?」

 

 その重さに、驚いた。や、厳密には重いんじゃないんだけどね。

 

「いーか、イズ。それは“借り物の力”で着ているものの力を引き出す。それでヒーローになる、いわば“賃貸英雄”変身グッズだ」

「ちんたいえいゆう……?」

「レンタヒーローっていう。今のお前は、お前の中の体力や筋耐久度を消費して力を引き出している状態だな。だから重く感じる。でもな、これを着て鍛錬を続ければ、お前はお前の成長の可能性を最大限伸ばしながらの鍛錬が可能だ。なにせ全身の筋肉を消費しながら活動するわけだから、無駄なく、けれど身長とかの成長も阻害せずに伸ばせる」

「全身の筋肉……よ、よくわからないけど、これで鍛錬を続ければ……ぼくでもヒーローに……」

「なれる」

「───!!」

 

 自信を以って、真正面から、彼の目を真っ直ぐに見つめて言って、頷く。

 それだけで、もう彼の心には一本の芯が完成した。

 そう、信じるんだ。平凡な人も不死身になれると。

 それはあくまで着用者の様々を消費しながら力を引き出す、俺が考えた俺の個性で引き出せるものだ。俺の能力、レンタヒーローはなにかを消費しないと力が出せない。実は売り出している強度がステキな衣服なども、着用者のカロリー等を微妙に消費しながら維持されているものだ。言わないけどね。

 けど、これなら本当に、最強で最高の状態でイズは体も内臓も鍛えられる。肺臓にも負荷がかかるようになってるからね。彼の成長に合わせて、いずれは波紋マスクと同じような負荷をかけられるようにするつもりだ。

 

「じゃ、イズ。これからいろんなことを学んでいこうな? 俺が絶対に、お前をヒーローにしてやる」

「うんっ!」

 

 もう、イズの顔に絶望なんてものはなかった。

 早速、COOOOと呼吸を開始して、それらで全身を活性化させる方法の反復練習を再開する。

 

「あ、そういえば……ねぇ、れんにぃちゃん。この呼吸で、腕が伸びるっていってたけど……」

「おっ、見たいか? えっとな、こうやって……ズームパンチ!」

「わっ……わああっ! すごい! ほんとに伸びたっ!」

「まあ、ようするに腕の関節を外して無理矢理伸ばしてるんだけどな。その痛みを波紋で和らげるわけだ」

「すごい力技だった!?」

「でも、無個性だって油断してる相手に一撃くらわすには、これ以上のものはそうそうない」

「あ……そっか、それにこれは個性じゃないんだから個性の無断使用だなんてことにもならないんだし堂々と胸を張ってブツブツブツブツブツ……」

「あー……」

 

 デクくんってこんなちっこい頃からぶつぶつ癖あるのんなー……。

 や、たぶんまだ始まったばっかりだろうけど。

 個性オタクになったのは、自分が個性持ちじゃないから、だった気がしたし。でも、分析できるのはいいことだ。上手く伸ばしんしゃい、それもキミの人間性方面の個性だ。

 

……。

 

 鍛錬の日々は続く。

 4歳で無個性を知り、俺との鍛錬が本格的に始まってからは、イズはバクゴー・オヴ・カッチャリーヌ男爵とは遊ばなくなり、俺との鍛錬や夢語りや知識や経験などに夢中になり、学校で分からないことがあれば俺に訊くようになり、そういった様々を独特な呼吸法を続けながらこなしていった。誰が彼を馬鹿にしようと、もう彼は気にしない。

 それから数年。小学半ば、先日のテストではバクゴー・オヴ・カッチャリーヌ男爵より成績が良かったとして、俺にテストを見せてはニカッと笑ってみせた。当然頭をガシガシ撫でて、最大級に褒めましたさ。

 もう少しでテスト用紙、爆破されるところだったと苦笑いする彼は、もう心の方も大分タフだ。逆にカッチャリーヌ男爵ってば心狭ぇなおい……大丈夫なの? こう……人として。

 

……。

 

 中学に入って、彼はクラスの誰より背がデカくなった。筋肉の成長も目覚ましく、細マッチョでタッパもある彼は、爆豪勝己にモジャ頭だのワカメだの言われていた髪に波紋を通して、軽いオールバック風に整えている。まだヒューハドソン校の雄、といったほどのマッスルではないものの、もう岩くらいだったらメメタァとカエルを無視して破壊出来る。

 本当に本当に、愚直なまでに教えを吸収してくれた。どんな無茶だと思うような鍛錬にも真っ直ぐにぶつかり、最初は本当に苦労し、けれど乗り越えていった。

 波紋法のお陰かお肌もツヤツヤ、曲がり角たるニキビもなく、ソバカスも気づけば滅んでいた。これには誰より早く引子さんが気づいて、いろいろ追及しているうちに、まあその。言っちゃなんだけど、波紋法教え始めて一週間経たずに引子さんにはバレた。

 

「蓮人くん……ありがとう。あと……ごめんなさい。私じゃ出久をあんなに元気にさせることなんか出来なかった。出久があの時……望んでいた言葉は、ごめんなさい、なんかじゃ……なかったのにね」

 

 その時の引子さんの顔は、ほんと見てられなかった。

 イズもだけど、引子さんにもメンタルケアが必要だってマジで思ったほど。

 そりゃ自分が原因で息子の心がくじけたかも、なんて考え続けてたらストレスだって溜まらぁ。過食だってしちまわぁ。こんな時に単身赴任とか、ほんとマジでなにやってんだよえーと、緑谷久さん……。

 だから支えた。イズも、引子さんも。あ、バクゴー・オヴ・カッチャンのことは、なにか起こす度、仕出かす度に彼の両親に告げ口した。連絡先知ってるから、やるたびにメッセージアプリでポンと。

 そうして成長を見守り、褒める時はめっちゃ褒めて、喜びはともに分かち合い続けていたら───

 

「あ、あの……蓮人……くん? その……」

「? はい? どうしました? 引子さん」

「そのっ……こ、こんなこと言われると困ると思うんだけどっ……! ……その。出久の……ううん、ここで出久の名前を出すのはずるいよね。……弘亜蓮人くん」

「へ? お、押忍」

「……わ、私と。結婚を前提に付き合ってください」

「──────」

 

 ワッツ?

 

 ………………なんで!?

 

……。

 

 秘宝。もとい悲報。この世界、久さんが単身赴任中に不倫して離婚した世界だった件。……ていうかなんでもイズに個性が出なかったことを電話で知らせたら、なんか様子がおかしくて、溜め息とともに言ったんだそうな。

 

  無個性を育てる余裕はない、と。そんなことのために頑張るのは無理だ、と。

 

 将来性もなければ働き先さえ怪しい子の、成長もメンタルも見守るのは疲れるだけだと。慰謝料は払うから別れてほしいということ。既に自分には良い人が居て、妻子が居るからと断っていたものの、そういう事情なら面倒は見切れないと言われたと。

 ……そりゃ支えてやらなきゃやべぇって思うわけだわ。え? これ俺が関わった所為? どっかでバタフリャーエフェクティヴなことが起こっちゃったとか?

 ともかくそんなこんなでイズのことと夫のことで心がめちゃくちゃになっていたところに、息子を笑顔にしてくれて、自分のことにも手を差し伸べる男の登場ですよ。ええ俺なんですけど。なにこの字面にするとすげぇ間男っぽいチャラ男な感じの俺! 俺だったよ!

 いや俺喋る時とかなんかお気楽な感じでやってるけど、外見ほんとパリっとしつつも穏やかな笑みを浮かべるイケメェン? ですからね!? 疑問符入るのは見栄だと思ってください。

 

「えっと……その、だな、イズ」

「うん、なに? れんにぃ」

 

 で、現在に話は戻るのだが。

 現在の俺、社会人数年。イズ、中学三年。俺を見る目がオールマイトの映像を見てる時と大差ないほど尊敬に満ち溢れているのはアレだけど、真っ直ぐに育ってくださいました。

 それはそれとして、そんな彼には隠れつつ、引子さんとデートすること何十回。

 メンタルの所為で過食しちゃうのは知ってたから、そのストレスを上手い具合に発散させつつ、波紋の呼吸も教えたので若々しいままの引子さんは、俺より年上だけど案外甘えたがりで―……うへへ。いつしか大人な関係にもなったりして、結婚まではあとはイズの許可、ってところまで来ていた。

 そんな俺。

 どこか誇らしげな顔をして帰ってきたイズを見て、アッ……こりゃ今日オールマイトとイベントこなしてきたんやな、と悟る。

 だって目尻に涙の痕とかあるし。

 

「えっと、ところでツッコんでいいかな」

「お、おう。なんだ?」

「な、なに? 出久」

「えーっと……かあさんとれんにぃが並んで座ってることに対してと、僕がその正面い座らされてることに関して……えっと。何度か、どころか何度も僕がれんにぃを連れ込んで、一緒にご飯食べたこととか、れんにぃがかあさんと僕を連れて外食、っていうのは何度もあったけど……たぶんこれ、そういった雰囲気とは違う感じ……だよね?」

「イズ」

「うん」

「俺な」

「うん」

「…………引子さんにプロポーズされた…………ッッ!!」

「うん。…………うん? …………ぇえええええええええええっ!?」

 

 俺氏、カッコよく行こうとしたけど、真っ赤になって顔を両手で覆って、絞り出すように伝えるの巻。

 

「い、いやっ、誤解がないように言っとくけどなっ!? 俺もちゃんと引子さんが好きだ! 最初はめっちゃくちゃ辛そうにしてる引子さんを放っておけなくて、お前が無個性を突き付けられた日の一週間後あたりにその……支えてやらなきゃやべぇって思って、そこから始まった!」

「あ……う、うん。覚えてる。覚えてるよ僕も。僕を見る度、ごめんねって謝ってたかあさんが……いつかの日、僕に……かあさんも一緒に頑張るからって言ってくれて───」

「……うん。ごめんね出久。出久が一番辛かったのに、お母さん、自分のことばっかりで」

「そ、そんなっ……そんなことないよ! あの時一番辛かったのはかあさんじゃないか! 僕こそ自分のことばっかりで、かあさんがとうさ───あの人にひどいこと言われてたのも知らないで……っ! ~……謝らないでよ……! 僕こそ謝らせてよ! ごめんかあさん、ごめんなさい……! 僕は本当に自分のことばっかりで……!」

「出久……!」

「……れんにぃ。僕は、れんにぃがとうさんになってくれるなら、これ以上嬉しいことなんてない。今日、とっても嬉しいことがあったけど……僕は今、きっとそれ以上に嬉しいって思えてる。あの頃から僕を、無個性でも見捨てずに、傍でずっと見守って、褒めて、頭を撫でてくれたのはれんにぃなんだ。あの頃、泣くことしか出来なかった僕に、ずっとずっと真っ直ぐにヒーローになれるって言ってくれた、れんにぃなんだ」

「イズ……」

「僕からもお願いしたいくらいだよ……! れんにぃのこと、とうさんって……呼ばせてほしい……! それで、かあさんを幸せにしてほしい……!」

「出久……!」

 

 ……うん。ここまで言われて黙ってちゃ、大人失格だ。

 見ていた漫画の世界だとかアニメの世界だとか、そんなことはどうでもいい。今目の前に居る二人を幸せにしたい。だったら、俺に出来る全部で……その幸せってのを掻き集めて……幸せにしちゃろう。

 

「緑谷引子さん」

「はい……」

「俺と、結婚してください」

「……っ……はい……!」

「……~っ……!」

 

 引子さんは頬を染めて涙をこぼし、イズはその大きな目を涙で潤ませ、口を波線にして……やがて笑顔を見せた。

 それは、憂いなんてどこにもない……幸せになっていく人の、嬉しそうな笑顔ってやつだった。

 

……。

 

 仕事は順調。むしろ俺が実家を出て、緑谷家に住むようになると、そこでもリモートで大体を終わらせられる環境を整えた。

 引子さんはやっていた仕事をやめて、俺の仕事を手伝ってくれている。稼ぎも随分と安定している……っていうか調子に乗った俺が個性を強めて、限定品とか出してからは売り上げは伸びるばかり。

 なので関係はそりゃあもう順調。新婚カップルなみにイチャコラして、イズにたはは……と苦笑いを送られるくらいには順調。

 イズが学校に行ってから、しっぽりとITONAむことだってあるし、彼女を波紋で包みながらイタす日々を続けていたら、気づけばプロポーションがやばくなっていました、なんてこともあった。

 いつまでも若々しいですね、なんて合言葉並みに言われているらしい。やっぱ波紋法ってスゴイ。ていうか緑谷家には波紋法がよく合っていたのかもしれない。だって俺、呼吸の個性で無理矢理矯正してもらわなきゃ出来なかったのに、緑谷家ったらパウで出来るんだもの。俺みたいに“個性っていう能力”で芽生えたわけじゃあないのよ? おかしいでしょ。

 そんな人たちが今では俺の、愛すべき家族です。

 イズの俺を見る目はいつだって憧れのヒーローを見るような目で、母を見る目は喜びに満ちていた。引子さんが俺を見る目は幸福に満ちたやさしい目で、イズを見るめはやさしさと喜びに満ちていた。

 だったら俺も全力で愛さなきゃそりゃおめぇ……嘘だろ?

 

 そんな日々が続いたある日……イズがどっからかトレーニングメニューを持ってきて、食事のメニューにも要望を出してきた。アメリカンドリームプラン(厳しめ)が始まったらしい。

 それを、波紋の呼吸をしつつ、かつ負荷効果のあるコンバットアーマーを着ながらだから、効果はばつぐんだ!

 おそらくオールマイトが思うよりもめちゃ早い速度で、プランは終了するだろう。

 

「おかえり、イズ。……はは、随分へとへとだな。海浜公園のゴミ掃除、してるんだって?」

「うんっ……ただいまぁっ……! はぁ、はぁああ……! あー……お家の中って落ち着く~……!」

「ん~……なぁイズ。体の中の水分を意識するの、まだ続けてるか?」

「え? う、うん。とうさんの教えてくれたことは忘れたことなんかないし、なんならずうっと続けてるよ!」

「…………」

 

 ああ……真っ直ぐ……! ケナゲ……! 眩すぃい……!

 尊いって、こういう時に使う言葉なのかなぁあ……!!

 普通漫画でもなきゃこんな真っ直ぐな人間いねぇよなぁ……!

 っはぁーーーーっ……! 尊い……!!

 

「じゃあ完全に慣れたところで、気配探知の仕方を教えよう」

「気配探知?」

「そう。相手が何処に居て、どう動こうとしているのか。壁を通してだって分かる方法だ」

「えっ……すごい! どうやるのとうさん!」

「よーし、まずな……?」

 

 ワイン用のグラスを用意して、100%ぶどうジュースをそそぐ。さすがにワインを渡すわけにはいかないから。

 

「波紋は生命エネルギーを生み出すっていうのは教えたよな? まあ生み出すっていうか活性化させるっていうか、まあそんなところなわけだけど」

「うん」

「で、そのジュースは今、お前のエネルギーを受けて、お前の正面側から外に向けて揺れてるな?」

「あ、うん。動いてるわけでもないのに、波立ってる」

「じゃ、そこで集中。そのグラスの中のジュースを、自分じゃなく他人のエネルギーを受け止めるように操作する」

「……出来る出来ないの疑問より、信じることが先、だよね。んっ……」

 

 ……本当に真っ直ぐだよなぁ。ていうか俺への信頼がやべぇ。なんで?

 とか思ってる内に、まずは俺のエネルギーに反応して、ジュースがピィーィィン……という音を立てて、静かに揺れた。

 

「わあ……! とうさんの生命エネルギーはやっぱりすごいね! グラスが音を鳴らすくらいに振動してるのに、波はすごい穏やかだ!」

「はははよせやい照れるじゃないか。……さ、じゃあ次は……」

「……うん」

 

 次は、微笑みながら壁の先で仕事をしているであろう引子さんの生命エネルギー。

 その探知を、と集中すると、ジュースは静かに波紋を打った。それは、洗濯物を畳んでから歩いた引子さんの行動に合わせて、きちんと波紋の発生場所を変えていく。

 

「すごい……! これが……わあっ、とうさんが後ろに回ったら、ちゃんとそっちからも!」

「よし。じゃあそれを、今度は自分の体の水分を使って感知できるようにするんだ。あ、もちろん振動なんかさせれば自分が参っちゃうから、人の気配を感じ取れる程度の探知でな?」

「そっか……! じゃあ……」

 

 イズが目を閉じ集中する。……と、早速感じ取れたのか、壁の向こうの引子さんの動きに合わせて、目を閉じたままに顔をそちらに向けていき……やがて体ごと左を正面に捉えたあたりで、

 

「こら」

「わあっ!?」

 

 引子さんに、ぼふっ、と。イズの衣服を顔面に押し付けられていた。

 

「波紋の修行もいいけど。そろそろ晩御飯の準備、始めるわよ」

「たはは……うん」

「近づいてくる生命エネルギーにも反応出来るようにしないとな」

「うん。方向だけわかってもどうしようもないや。もっともっと頑張ってみる」

「ちなみに慣れると、目を瞑りながらでも敵の攻撃を避けられるぞ」

「ほんと!? すごいや!」

 

 イズは本当に真っ直ぐで、時に天然。嬉しいこと楽しいこと、驚くことには素直に驚く、なんというかこう……鍛えがいがある子だ。

 そんな素直さでありながら、体は無駄な贅肉などない細マッチョの完成形まであと一歩といったところ。身長もあるし、顔も……幼さを残した凛々しさがある。まあ、ヒーローを見ると残した幼さが一気に爆発してぶつぶつ言うところはいつまで経っても変わらないけど……これこそが緑谷出久ってもんだろう。

 だからこそ基本に忠実、退屈な鍛錬も地道にこなしたお陰で、もう10分吸って10分吐く、が出来るし、指先から放つ波紋理論も習得済みだ。これなら柱の男たちとも戦えるでぇ! とりあえずの教えることが無いレベル、といった証として、逆さにした水がコップからこぼれない、というレベルに到った。その先はもう深仙脈疾走授与しかない。まるで滅却師が能力解放をした所為で力を失う前のアレみたいでドキドキする。

 まあ、今まで蓄積させてきた生命エネルギーを与えるだけなんで、俺がツェペリ男爵のように白髪になって死ぬなんてことはないけれど。……ないよね?

 

 





 そして続かない。
 しばらくジャンプも単行本も見れてなかったけど、時間があったらまた見始めよう。
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