凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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同日投稿⑨話目。あたいったら最強ね!


片馬鹿 -片田舎の剣聖に転生した馬鹿の話-⑨

 はい、ということで。

 

「家を追い出された!? そんな、先生ほどの人が何故っ……!」

 

 漫画とは違った方向で行ってみました。

 アリューシアを伴わず、そのまま冒険者ギルドへ。

 

「まあいろいろあって。それでこっちに住むことにしたんだけど、よければ安くていい宿を教えてもらえればって」

「なるほど……」

 

 アリューシアにはあとで報せれば大丈夫だろう。余計な諍いを起こさずに済むし、ご近所計画とやらも思い浮かべる暇も与えず消えれば、悩む暇もないだろうし。

 そんなわけでスレナの案内のもと、安くて良い宿へと案内された。漫画であったように見晴らしもいいし、安いのに落ち着いた雰囲気の良い宿だ。

 

「へええ……こんないい宿紹介してもらえるとは思わなかったよ。ありがとう、スレナ」

「先生に頂いた恩に比べればこれくらい。それに、変わらず剣が好きという在り方に、感謝したかったというか」

「はは、俺なんてただの剣に夢中なおじさんだよ。でも驚いたよスレナ。ブラックランクなんて、とても立派じゃないか」

「ぁ……んん……はい」

 

 照れているのか、頬を赤く染めて頭の後ろを掻くスレナさん。やだかわいい。

 

「先生はいつまでここに?」

「正式に雇ってもらえるかは団員の総意になるだろうし、どれだけアリューシアが背中を押してくれてもそればっかりはお金次第になるかな」

「ならばもしダメだった時は、私と一緒に冒険者をやってみませんか?」

「冒険者か……はは、それもいいかもしれないね」

 

 おっさん冒険者……そんな選択肢もあるのか!

 ベリル・ガーデナント氏といえば特別指南役、みたいな考えでまとまっちゃってたけど、なるほど、選択肢を狭める必要なんてこれっぽっちもないんだ。

 俺の中のガーデナント氏像が崩れない限り、剣を諦めることなんてないのだろうから。

 

「指南役の仕事も月に数度しかないなら、むしろこっちで出来る仕事を探すのも手だしね。うん、スレナ。状況が落ち着いたあたりでちょっと相談に乗ってもらうかもしれない」

「はいっ!」

「あ、でも普通に冒険者ギルドに行けばいいのかな? 登録くらい普通に出来るだろうし───」

是非! ご相談を!

「うわあ声でっか!」

 

 アリューシアなら結婚がどうたらで声がでかくなるのは分かるけど、なんでスレナまで?

 一緒に冒険者出来るのが嬉しいとか?

 まあ……懐いてくれてたんだろうなって自信はあるし、俺もスレナが一緒なら心強いし。

 あ、でもこの人の実力は最低ランクに納まるようなものじゃ───! とか言い出したら止めようね。

 俺、こういう世界でじっくりランク上げていくの、やってみたかったのよ。

 あの、最初は雑用とかから始まるのがいいんだよなー。ははははは、おっさんくさいおっさんくさい。

 

  で、その日は宿も決まったこともあって、スレナと話しながら酒を交わした。

 

 どれだけ気が緩んでるのかスレナはがぶがぶ酒を飲んで、顔を真っ赤にして酔っ払ったりして。

 あ、ちなみに宿のサービスで部屋まで料理とか酒とか運んでくれるみたい。

 サービスっていうか、まあ金は取るんだけど。

 

「ベリル先生ぇえ……私が私だと、私が先生に気づくより先に気づいてくれたことが、どれだけ嬉しかったかぁああ……!」

「忘れるもんか。また会えて嬉しいよ、スレナ」

「うぅう……会えにいけなくてすいません……。行こうと思えば行ける距離だったのに、私は自分のことばかりで……!」

「新しい環境で生きるっていうのは、自分で思うよりも疲れるものだよ(日本から異世界に来た俺が太鼓判押します)。それより、こうして元気でいてくれることや、力強く成長してくれたことが嬉しい。もう言っちゃったことだけど……立派になったね、スレナ。ブラックランクなんてすごいじゃないか。俺も鼻が高いよ」

「先生はもっともっと鼻を高くするべきです! 謙虚がすぎます! もっとふんぞり返っていてもいいくらいなのに!」

「それもう俺じゃないと思う」

 

 仰け反った天狗様がいらっしゃるだけでは? そのくせ判断が遅ければビンタが飛んで、一方的にボコってきたかと思えば『覇王翔吼拳を会得せんかぎり貴様が儂を倒すことなど出来ぬわ!』とか言い出すんだきっと。

 そうしてわいわい騒ぎ、酒を飲み干しお腹も満たしたスレナは、よっぽど気でも緩んでいたのかそのまま寝てしまった。

 さすがにそのままにはしておけないので、俺のベッドで寝かせることに。

 俺はどうしようか、とも考えたんだけど、なんとスレナが寝入ったままに俺の服を掴んで離してくれない。

 (ヌン)ッ!! と渾身を込めてみても外れる様子もなく……

 

「───」

 

 俺もちょっと飲み過ぎたこともあって判断力が鈍っていた。

 ので、なんかもうそのまま寝ることにした。ベッドで川の字。いやさⅡの字。仲睦まじぬことなどあるはずもなく……!!*1

 

  …………うん、まあ、翌日。

 

 ふと目を覚ますと、横向きに寝る俺の胸に身を寄せ、牙を抜かれたごろにゃんタイガーさんのごとく油断しきったブラックランクさんが居たわけで。

 そんな彼女をおーうよしよしと撫でると、びくーんと肩どころか全身を弾かせ驚かれた。

 

「せせ先生!? 起きていたのですか!?」

「今起きた。んん~……っ!! ~……ぁぁ、おはよう、スレナ」

「~……」

 

 伸びるついでに、というか拍子に、ぎゅぎゅ~っとスレナを抱き締めてしまう。

 するとスレナは声にならない声をあげ、真っ赤な顔のまま目をぐるぐるにしてらっしゃる。

 おはようの返事もなく、あわあわしたのち───……力を抜いて、ぽすむと俺の腕と胸に治まった。

 

 ……あ、今意識が完璧にはっきりした。おお、あのリサンデラ殿が俺に抱き着いてきておる。

 やっぱりアレか、会う機会は無かったけど、当時親代わりみたいなものであった俺にはそんな警戒してないってことか。

 俺自身、自分の傍で酔っ払って、寝てくれたこと、結構嬉しかったのよね。

 なので、ん~よしよしとばかりに頭を撫でた。

 

 ……なぜかちょっと拗ねてるっぽい顔で睨まれたけど、自分から離れようとはしないようです。

 これはあれか? ラノベや漫画のラブコメ系でありがちな、『子供扱いしないでください』的な───……いや、でもなぁ、最後に会ったのがほんとに子供の頃だったこんなおっさんに、今さら憧れだの頼れる大人~だのの感情以外を抱くもんかね?

 久しぶりに会ったガーデナント氏のイケオジっぷりに惚れてしまうとかなら有り得なくもないけど、今のところ格好いいところなんて見せられた気がしないし。

 

 田舎で引き篭もってた道場師範が国王命令で弟子に引きずり出されて

 首都のお土産店や武器屋のアレコレも知らんと案内されて

 帰ってみれば道場追い出されて

 かつて保護して面倒見てた現在ブラックランクさんに融通を頼み込んで

 宿ひとつさえ自分で見つけられずにいた自分

 

 ……あれ? 自分のこととはいえ並べてみたら泣きたくなってきたんだが?

 こりゃあガーデナント氏も自信無くすよー……俺はただのおっさんなんだよって言いたくもなるよー……。

 

「ん、よし。じゃあ軽く運動してメシ食って、早めに庁舎に行こうかな。スレナ、酒は残ってないか?」

「はい。あれくらいの量は翌日に残さないくらいには飲んでますので」

「そっかそっか。でも、だったら飲み席で寝るのは危ないからダメだぞ?」

「あれはっ! ~……相手がベリル先生で、気が緩んでいたから、というか」

「ん、分かってる。俺が同じく寝ちまった時は、気にせずほったらかしにしてくれていいから」

「いいえ。その時は私もベッドまで運びますよ。……横抱きにして」

「恥ずかしくて死ぬからやめてね?」

 

 言って、くっくと笑い合って、お互いベッドから下りた。

 さて、軽く体動かしてからメシ! そして仕事だ!

 今日はきっとヘンブリッツ君からの仕合の申し込みがあるだろうから、ナマケた体じゃあいられないしね。

 

……。

 

 で。

 

「……………」

「あ、あー……」

 

 今朝のことを、道場を追い出された経緯を話すついでに言ってみれば、騎士団長様はものめっさ膨れた顔をしてらっしゃった。

 ちょっと考えれば分かることでしょーに、俺は話題のないおじさんのごとく自分のことをベラベラ話してしまったわけで。

 

「私よりリサンデラを先に頼るなんて……」

「ごめんね。騎士団っていう組織より、冒険者って立場のスレナの方がそういう方向には詳しいって思ったから」

「むうっ……」

 

 納得出来ないわけではなかったらしく、ふくれっ面なままに隣を歩くアリューシア。

 そう、今日は訓練所にて初の指南役をするお仕事がございます。

 ガーデナント氏も言ってたけど、こんなおっさんから学びたいと思う人が実際居るのかどうか。

 一応挨拶の時にはそれっぽいことは言っておいたものの、あんな言葉があったからって俺と稽古がしたい、なんて言ってくる人がヘンブリッツ君以外に居るのかどうか。(2回目)

 

 まあそんな思考もそこそこに訓練所に着くと、早速回転斬りをするヘンブリッツ君を発見。

 シュカァンッ……と木剣で木剣を破壊してみせる様は、さずがの剛力。

 俺の場合は精々で鋭氣を宿したナマクラーで巻き藁が切れる程度だから、力がどれだけあってもあんな風に出来るかなぁ。

 なにより、『動かない標的』をどれだけ綺麗に斬れたとて、それがどれほどの自慢になるのか。

 

 最初はね、斬れた! 斬れたー! って喜んだもんだけど、俺の中のガーデナント氏像が天狗になるのを許してくれない。

 『そち、ガーデナント氏ぞ? 出来て当然であろう?』って声が紛れもない俺の声で聞こえてくるのだ。

 憧れってスゴいです。

 

「傾聴! 本来の予定を繰り上げ、本日よりベリル氏にもご指南いただくことになった!」

 

 わお。ぼーっと考え事をしていたら、早速アリューシアさんが『いいから指南受けろオラァ』と騎士たちに言い放ってしまた。

 するともちろん、こんなおっさんに教わることなどないとばかりにヴォソォリ……と小声で話す騎士たち。

 

「年齢で人を判断するなら、キミたちはどんな人になら教えを乞うのかな」

「むっ……」

 

 聞こえた声ににこりと笑んで返してみれば、ぎろりと睨まれる。

 や、でも実際そうじゃない? 自分より年上と考えれば中年か老人になる。同い年ならいい気はしないだろうし、年下だったらもっとじゃないか?

 ねぇ、キミら本当に強くなりたいとか思ってる? ねぇ。

 素晴らしき我が憧れの象徴たるガーデナント氏に教わることなどないと言う輩に、ちょっとムカっときたところで、「先生!」と手を挙げる何者か───あ、そっかここだったか。クルニだクルニ! うわぁお久しぶりィ!

 

「お久しぶりっす先生!」

「クルニ!」

「やっと挨拶できたっす、また先生に教えてもらえるの嬉しいっす! 道場には2年くらいしか通えなかったので!」

「うん、これからよろしくね。まあ……他の騎士たちに認めてもらえたら、だけど」

「いえ先生。国王様からの命令ですので、騎士らがどう言おうが指南役は続けてもらいますが」

「ですよね!」

 

 そういえばそうだった、もはや俺の意思とかどうでもいいのだ。

 クビになる可能性があるとしたら、俺が誰かに教えられるほどの実力が有るか否かにかかってるわけだ。

 

「失礼。団長殿」

 

 ややっ!? そうこう考えているうちにヘンブリッツ君が来た!

 俯かせていた顔を上げてみればヘンブリッツ君! ……わあ、しっかり木剣二本持ってきてる。

 早速ですか!? 早速なんですかヘンブリッツ君!

 

「ヘンブリッツ? どうしました?」

 

 アリューシアに一度頭を下げ、俺を見るヘンブリッツ君。

 

「ヘンブリッツ・ドラウト。騎士団の副団長を任されています」

 

 知っています。よくご存知です。

 おおしっかし……こう見てみても、剛力が宿る腕とは思えん細さだ……。

 やはりマッチョであればいいというわけでもないのだろうか。わからん。

 

「これはご丁寧に。自分はベリル・ガーデナント。ガーデナント流の道場で剣を教えておりました」

「…………レベリオは誇り高き騎士団。その指南役ともなれば、相応の“格”が求められます」

「うん、そうだろうね」

「団長殿が推挙なされたその実力……如何ほどか。一手お手合わせ願いたい、ベリル殿」

「うん、いいよ」

 

 即答。

 散々と仕合や稽古はしてきたけど、こんなに殺気をぶつけられるようなものは初めてだ。

 これは俺にとっての実戦に近しいものとなる。

 あ、スフェンドヤードの方で起こったこととかは別ね? あれは盗賊狩りみたいなものだし。

 シュプールとの稽古はそりゃあいつだってヒリつくような緊張感はあったけど、殺気があったかっていえばNO。

 だから、魔物や盗賊蛮族以外でこうも殺気をぶつけられるのは初となるんだろう。

 なので否やはござらん。

 ヘンブリッツ君から木剣を受け取り、お互いが一定距離まで離れ、意識を沈ませる。

 集中───

 

「───始め!」

 

 ズンッ、とヘンブリッツ君が石畳を踏み抜く勢いで地を蹴り、疾駆。

 来るのは漫画と同じように突きだ。

 それに対し、漫画と同じように───突きから横薙ぎへと変化したそれに剣を被せ、弧を描くように下へと弾く、

 体勢を崩したヘンブリッツ君の首元へ剣を下ろし、とりあえず一本。

 

「───!」

「さ、元の位置へ」

 

 殺気が増した。

 驚愕の後の殺気がぞろりと首元へとぶつけられるような……!

 でも集中。

 ガヤガヤと騒がしい周囲の音を遮断し、ただひたすらにヘンブリッツ君のみに集中。

 

「……、───!!」

 

 位置に戻れば開始の合図はない。構えれば再び開始し、打ち合い、いなし、逸らす俺へと剛力を込めた一撃を振るうヘンブリッツ君。

 それを、斜に構えた木剣でカシュアァッと滑らせ、木剣の持ち手をヘンブリッツ君の顎へとコツッとぶつける。

 

「……!」

 

 漫画だと撃ち抜いてたけど、寸止め……なんとか出来た。

 よ、よーしよしよし、ガーデナント氏出来てる! 俺……ガーデナント氏出来てる!

 

「───」

 

 そうして幾度も幾度もの打ちのめす。

 その全てを寸止めし、相手の一撃は逸らし、いなし、弾き、スレスレで避け。

 しかしさすがだガーデナント氏。

 目が本当に良い。

 相手がどう動いてくるのかが分かるし、どうすれば相手に届くのかも分かる。

 体力作りも欠かさず続けていたお陰で疲れもないし、まだまだ……まだまだ行ける!

 

「───まだだ!」

 

 楽しくなってきてほんのちょっぴり口角が上がりそうになった瞬間、ヘンブリッツ君が足元目掛けて剣を払う。

 あ───来た! ヘンブリッツ君必殺の回転斬り!

 

「ほい」

「ごっ!?」

 

 なので、足への払い斬りを避けるために持ち上げた足を即座にダンと落として、払いの勢いのままに回転せんとしたヘンブリッツ君の頭にゴンと木剣を落とした。

 

「!? !?」

 

 そして痛がるヘンブリッツ君。

 

「ごめんね。それはさっき見せてもらった」

「───! 一度見ただけで……!?」

 

 初見の人にはそりゃあ有効だろうけど、一度見たことある人にはちょっと。

 それよりも、さあ、もっと殺気を! この戦いを続けましょうぞ!

 ガーデナント氏の力、強さ、存分にお知りなさい!

 俺の憧れは、まだまだこんなもんじゃないぞぉおおおおっ!!

 

……。

 

 で。

 漫画の通りにヘンブリッツ君を地面に叩き伏せたところでヘンブリッツ君との稽古は終了。

 周りからの拍手とともに、アリューシアの「そこまで」の声で皆様からの納得は得られたのだろう。

 だが。

 

「よし。じゃあ手隙の人から順に俺と打ち合ってみようか。指南するにもどこからどう教えたらいいかもそれで分かるだろうし」

「「「「───え?」」」」

「あ。アリューシアでもクルニでもいいよ? どれだけ腕を上げたか見せてくれると嬉しい」

「───! は、はい先生! では私から───」

「あぁっ、ずるいっすよ団長!」

「はは、大丈夫だよクルニ。俺がどれだけボコられようがちゃんと相手するから」

「いえあの……正直そこは心配してないんですけど……」

 

 え? ではどこを?

 考えもそこそこに、アリューシアと手合わせをした。

 や、これがまた速いのなんの。

 でもそれならこちらも、と相手の速さに合わせ行動し、間に合わない時は死角を自ら作って、そこに突っ込んできてもらう。

 見事に突っ込んできてくれたアリューシアを叩き伏せ───るのはもったいないので、一撃を受け止めてそれをくぐるようにして、きっちりとアリューシアと向き合い、打ち合う。

 

「ああやっぱり……。先生私が出て行く前よりもよっぽど強くなってるっす……」

「クルニ。ベリル殿はいったい普段、どういった鍛錬を……?」

「木剣で大木斬ったり、一振りの速度で手に持った棒を粉砕したり、かと思えばひどくゆっくりの動作を汗がだくだくになるほど続けて……えと、とにかく恐ろしいほどっす」

「………」

 

 いけるかを試すように、速度でアリューシアとぶつかってみる。

 驚いた様子のアリューシアだったけど、臆することなく真っ直ぐにぶつかってきてくれて、あとはもう完全な読み合い。

 完全に速度最優先の攻撃がゴカカカカカカカカァンッと弧を描き線を描き、その全てを弾き弾かれ。

 その速度のままに“目”の良さを思う存分活かして戦い、やがて剣に気を取られたアリューシアの足を払うと同時に弧月一閃。

 上から圧するように振り下ろした木剣が、アリューシアを地面に倒した。

 

「うん。強くなったね、アリューシア」

「……! は、はいっ、はいっ……!(褒められた誉められたほめられた……!!)」

 

 なにやら顔を赤く、テレテレしているアリューシアに手を差し伸べて立ち上がらせる。

 うーん、普通部下の前で負けるのって恥ずかしいとか思うものじゃないのかな? や、アリューシアなら自分の敗北よりガーデナント氏の勝利か。うむ納得。

 

「よし。じゃあクルニ、お待たせ」

「あの……勝てる気がしないっす。あと団長が負けたあとに戦うのって、すっごく気まずいっていうか……」

「気にしないでいいよ。これは勝ち負けっていうよりは、なにをどう教えるべきかを確かめる手合わせなんだから」

「うう……では、一手お願いするっす!」

「うん、かかっておいで」

 

 両手剣……ツヴァイヘンダー型の木剣を手に、クルニが一気に攻めてくる。

 最初っからツヴァイヘンダーっていうのが嬉しい! ちゃんと教えたこと活かしてくれてる! 嬉しい!

 ならばこちらも───誠意を以って応えねばならんな!

 

「ふっ! せいやあっ! ───ういっ!? うひゃあっ!?」

 

 まず刃渡りを活かした一閃をスレスレまで下がって避け、踏み込んでのもう一撃へと、今度は自ら突っ込む。

 そして剣が勢いに乗る前に鍔に鍔を押し当て圧し、クルニの意識がそこへと向った瞬間にスパァンと足払い。

 倒れるクルニの首にトン、と木剣を当てて終了。

 

「よし次っ」

「瞬殺だったっす!?」

 

 こうなればもはや疑う者など居ないとばかりに、次は自分がと挙手する騎士たち。

 そりゃあね、騎士や冒険者になるのは剣を持つ者の誉れだ、的なことを漫画の初期でも書いてあったし、強い騎士になりたくない者など騎士の中には居ないだろう。

 ただ騎士の肩書だけが欲しい金持ちのボンボン貴族とかは除外するとして。

 

  というわけで、百は居ると言われた騎士たちと連続稽古をした。

 

 一人あたり一分もかからなかったから、時間もそうかからなかった。

 疲れ? 体力を鍛えたガーデナント氏がこれしきで疲労するとでも?

 さすがやでぇガーデナント氏のボディ……!!

 けど言おう。心の中で。

 

  正直、がっかりした。

 

 こんなものか、他国の騎士10人分と呼ばれたレベリオ騎士団の騎士の実力。

 こんなもので、ガーデナント氏に教わることなどないと呟きおったか。

 ……おじさん、ちょっとムカっときちゃったよ?

 俺の才能じゃあそりゃあガーデナント氏の実力の半分も出せていないだろうけど、それは俺の才の問題であって、うぬらが侮る理由になぞなりはしねぇのだ。

 故に、立てよ騎士ども! その在り方、鍛え直してくれるわー!!

 

「うん、よし。じゃあ基礎から叩き込んでいこうか。さすがはレベリオの騎士だって思うところもあるけど、磨ける部分も結構ありそうだ」

「団長!? だだ団長!? あの人、怪物かなにかで!?」

「全員と仕合って、何故息ひとつ乱していないのですか!?」

「言っただろう。先生は私など比ではないと」

「にしたって、他人に剣を教える者の顔とは思えませんよ!? 何故ああも嬉しそうなので!?」

「? 先生は言ったはずだ。剣が好きだと。それは他人に教えるのも己を鍛えるのも同じであり、自分以外が剣を好きになることを喜べるお方だ」

「……………」

 

 騎士の皆様が俺を見て、『この人やべぇ……』って顔をした。

 フフッ……愚かな。やべぇのはこの身、ガーデナント氏の実力よ……!

 俺の意識なぞ所詮ガーデナント氏に乗り移らなければ四天王にもなれぬ最弱のザコよ……!

 

「うん。もう一度改めて言うけど、俺は剣が好きだ。押し付けになるかもだけど、みんなにも剣の良さを知ってほしいと思ってる。仕合いたい時はいつでも声をかけてくれ。気になる部分があっても話を聴くよ」

 

 言ってみるんだけど、なんでかみんな俺を神妙な面持ちで見つつ、ゴクリ……と喉を鳴らすだけ。

 あれ? あのー……ならば今すぐ! とか言って、木剣手にしてもそのー……いいのじゃぜ?

 むしろ仕合わない? 稽古とか楽しいよ? 自分の実力も知れるし、実戦はそりゃあ緊張感もあって、成長にはうってつけってもんで…………アルェー?

 ええい貴様らそれでも他国の騎士10人力の精鋭かウダラァー!!

 とか思ってたらヘンブリッツ君が「ベ、ベリル殿!」と手を挙げてくれた!

 ヘ、ヘンブリッツくぅ~ん!!

*1
酔っ払い特有の謎言語




結局。ラフィが奇跡で助けた衛兵も、スフェン教に殺されたのか、それとも元々スフェン教スパイだったのか。
もはやスフェン教には疑いの目しか向けられぬ……!
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