凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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 なにジョジョ? 勉強ができない?
 ジョジョそれはね できないと思い込んでいるからだよ
 時間の無駄だからと 最初からあきらめているからだよ
 逆に考えるんだ 時間はある 理解るところを掻き集めて武器にすれば理解できるさ と考えるんだ
 勉強なんてものはねジョジョ お前が会話が出来ていることとなんら変わらないのだ
 誰もが先人から倣っているのだよ
 だからねジョジョ 先人に作られた問題なら 先人が出した答えが必ずあると考えるんだ
 それはジョジョ お前が言葉を覚えた時となんら変わらない
 変わらないのだよ ジョジョ

 …………書いてて思った。
 ジョジョってジョナサン・ジョースターの略であって、パパであるジョージがジョナサンをジョジョって呼ぶのって、一緒に苗字も読んでるのと変わらないのでは……? 家族にフルネームで呼ばれるってとっても微妙な気持ちになるのでは……?
 あ、なんか知らんけど急に長ネギみじん切りにして入れたつゆでひやむぎ食べたくなってきた……! なんで……!?

 というわけで寄り道北郷さん。
 今回はぼくたちは勉強ができない、です。



ぼくたちは勉強が……

 ……。

 

「はー……」

 

 ……うん、大丈夫。北郷解ってる。これもう何回目かも分からんし。

 ただ子供の頃からっていうのは珍しいかもだ。

 ふと気づいたらどこかの家の子供。でも鏡で自分を見てみれば、嫌でも見慣れた子供北郷。や、“嫌でも見慣れた”って、自分が嫌なわけじゃないよ?

 けど急に子供から開始、って。

 

「白銀やかぐやの世界じゃ確かに幼めな頃から始まったけど……どっかの家の子供ってことはなかったからなぁ」

 

 苗字はそのまま北郷だった。名前も一刀だ。

 刃牙世界みたく、今回もなにかの物語の世界なのかなー、なんて暢気に思いつつ、やることは変わらないからいいんだがなんて笑いながら外に出た。

 初めて見る家な筈なのに、どこを歩けば外に出られるかを体が知っている。不思議。

 ともあれ外に出て家を見つめてみれば、結構大きめの……あれ? 家っつーか……事務所? 二階が住居部分になっているようで、一階は……ハテ、なんの仕事をお持ちなんでせうかパパンとママン。

 軽く首を傾げて考えてみても、体に宿る記憶はなんにも答えちゃくれない。

 そのままさらに首を傾げると、お隣さんの家に目がつく。

 なにかしらの事務所が隣にあるとか、お隣さんもちょっぴり堅苦しい感じの想いを抱いちゃったりしてないだろうか。ごめんなさい……なんて苦笑を漏らしつつしっかりとそこを見てみた。

 

  緒方うどん

 

 …………。

 

  緒方うどん

 

 目を擦ってみても緒方うどんだった。

 

(あーーーーーーーーーーーー!!)

 

 あー!! 僕勉かー! あー!

 額に手を当てて、目を瞑ってハチャー。せっかくなので漫画的表現で行ってみた。意味はない。たまにやりたくなるんだ。こういう世界を繰り返していると、そういうところに妙に大げさなリアクションを求めたくなるっていうか。

 しかもお隣さん緒方さん家だよ! あらまぁうどんが大好きになりそう! いやうどん普通に好きだけど。

 

「……まあ、うん。出来ない子達が切磋琢磨していく青春物語。混ざってみるにしても、そこまでキツいことにはならないだろうし……」

 

 此度の人生、青春を選ぶか平和を生きるか、ただただ馬鹿な友人枠を突っ走ってみるか。大森奏くんと一緒にモテない男子枠でわいわいやりつつ、スイーツの味に舌鼓を打つのもいいし。

 勉強が出来ない子たちが頑張るラブコメものだもんな! 今回はそんな、ギスギスしたり胃によろしくなかったり、死刑囚とバトルしたりなんてこともなく、学生らしい日々を送れるに違いない。

 

「あ、そう考えたら今回、本当に悪くない───」

 

 ……なんて思っていたら、緒方さん家の引き戸型入口をカラカラと開いて、現れる人ひとり。

 その人は店の前の掃き掃除を軽く済ませると、俺に気づいて「おや」なんて言った。

 

「お隣さんの坊やじゃないか。おはよう」

「あ、お、おはようございます」

「ふふ、ちゃあんとあいさつ出来て偉いねぇ。うちの理珠ちゃんは家族にゃ挨拶できても、他がどうにもねぇ」

「───」

 

 あれ? なんか思い出せそうなんだけど。なんだったっけ。

 思い出したらヤバい香りがプンプン匂うのに、俺が俺として、“女性たちに常時ジャイアントスウィングレベルで振り回されつつ散々過ごす”という繰り返した日々の経験が、俺に“考えるな、思い出すな”と警鐘を鳴らしているのに。

 

(孟徳さん孟徳さん、この世で思い出しちゃいけないことってなぁに?)

(貴様に天下の何が見える? わしを止めたくば、相応の大志を示せ!)

(孟徳さん!?)

 

 この世界で大志は作者さんの名前です孟徳さん! あと天下は見えません!

 などと脳内孟徳さんと話し合っていたら、緒方さん家のばーばが軽く咳払いをした。

 

  ───果たしてそれは、咳払いだったのか否か。

 

 思い出したあぁああああああああっ!!

 え、あ、え!? やばい!? やばすぎるじゃないかこの世界!! うわああ思い出したくなかったけど頭の中の誰かが“グッジョブだよ! 思い出してグッジョブだよ北郷くん!”とか言ってる!

 でも……ああ、いやだってさぁ……! この世界、主要人物が幼い頃に、身近な人が死にすぎる! パッと思い出せるだけでも、緒方ばーばや古橋ママ、そして唯我パパ……あぁあああ思い出すんじゃなかった! でも思い出せてよかった!

 びょっ……病気なら治せる! うん、俺ならいけるけど! なんなら死んで少し経ったくらいなら、今の俺ならいける! ありがとう華佗! ありがとうゴッドヴェイドォー!

 ……でもそれをするリスクとか───ああいやもういい! そういうのうだうだ考えないって決めたでしょ俺!

 

「え、えっと。おばあちゃん」

「うん? なんだい」

「咳してました。風邪ですか?」

「おや、心配してくれてんのかい? ありがとね。けどそんな大したもんじゃないよ」

「んーと……ん、いいや、おばあちゃんなら平気そう。……僕ね、魔法が使えるんだ。おばあちゃんの病気、治してあげる」

「へえ? 魔法? そりゃあすごいねぇ。ふふふっ、それじゃあそれが嘘かどうか、ばーばが見極めてやろうじゃないか」

「っへへー、でも誰にも言っちゃだめだよ?」

「敬語もすぐに忘れる子供が、そういうとこだけはいっちょまえじゃないかい。いいよ、ばーばは口が堅いほうさ、約束は守るよ」

 

 緒方おばばの返事に、俺は白い歯をニィッと見せて笑った。

 さあ御覧(ごろう)じろ、あ、見れませんね、内側の話ですもんね。

 なんともキまらない状況の中、ばーばと手を繋がせてもらって、集中開始。

 

「───」

 

 氣を通して、ばーばの中を調べていく。

 ……異常、まずひとつ。喉がひどい。気管に炎症をいくつか発見。

 肺臓が結構弱ってる……心臓にも負担が行ってるな。

 その割に筋肉とかはまだまだ衰えていない。この外見でピンと背筋の立った人なだけはある。

 あとは───ええいもう片っ端から癒してやる。

 ばーばの中にある眠っている氣と自分の氣を同調させて、反発作用が起こらないように……氣を活性化。

 弱っている部分を癒して……あ、寝不足も溜まってるなこの人。お肌トラブルが少々。

 氣に淀みも発見。血管内にも……まあ、この年齢じゃこれはしょうがない。けど、発見したからには治しますとも。

 

「ん、ん……んん? こりゃあ……」

 

 目を閉じて集中してるから、ばーばがどんな顔をしているかはわからない。

 けれども、癒せるところはとことん癒す。弱っているところも、悪いところも、いっそ細胞が黒くなってそうなところも。

 我が身、我が鍼と一つなり、とばかりに、尖らせた氣でもって淀みを貫いて、病魔を滅する。

 それで───治療は完了した。

 

「……はふ。うん、どう?」

「…………喉が…………えぇ? どうなってるんだい、体がなんだかぽかぽかするし、上手く曲げられなくなってた指まで……」

「じゃあ、約束だよ? しーっ」

「…………はは。こりゃあ、信じるしかないみたいだねぇ。わかったよ、魔法使いさん。ただ一つだけ解消されてないもんがあってねぇ」

「え……」

 

 え? ほんと? な、なんだ? 全部治したと思ったんだけど。

 やり遂げたつもりになってたところにその言葉なもんだから、情けないながらも相当焦った。そんな焦りが年相応に見えたのか、ばーばはくすくすと笑って俺の頭の上で手を弾ませた。

 

「祖母離れ出来ない孫が居るんだよ。魔法使いさん? その子の友達になってくれやしないかね。それが解決されれば、この胸のつかえも無くなるんだがねぇ」

「えー……それ治療と関係ない……」

「知らないのかい? 世の中にゃあ心の病気ってもんがあるんだよ。おぉやおやおかしいねぇ? 病気なら治せるって聞いたんだがねぇ。こりゃあ、約束はこちらの勝ちかねぇ」

「ばーば、ずっけぇ!」

「ふふふふふ、当たり前じゃないか、賢く生きるっていうのはそういうことさ。坊やよりどんだけ長く生きてると思ってるんだい」

 

 マイナス千年くらいじゃないでしょうか。精神年齢幼くてごめんなさい。

 

「それで? どうなんだい坊や」

「むー……とりあえず会わせてよ。言われたから友達になる、なんてのはなんか嫌だから」

「よしきた。そういう返事が出来るなら、きっと理珠ちゃんとも仲良くなれるさ」

「そんなのわからないよ。その子をすごーく大切にしている子が居て、仲良くなるのを邪魔するかもしれないじゃないか」

「あー……心当たりがあるねぇ。よし、そっちはあたしに任せときな。うだうだ言うようなら引っぱたいてやるよ」

「ワー……」

 

 親父さん、ごめんなさい。子を愛すればこその愛が、理不尽に引っぱたかれるかもです。

 言うや否や、ばーばは「さ」と促して引き戸を開けた。え? 今から? と驚愕を顔に滲ませると、「有言実行出来ない男にゃなんの価値もないよ。やると決めたら今やりな。人生ってのは“踏み出すか踏み出さないか”だけさ。その判断をいつ決められるか、出来るか出来ないかが先の自分を決めるんだ」とばーばは仰る。

 この人、いわゆる“食えない人”、なんだろうなぁ。

 まあ、そんな人たちとの関係は、北郷もう慣れっこです。この北郷をどこぞの北郷とお思いか? ……北郷ぞ? この北郷は。つまりはただの、どんな外史でも歴史でも女性に振り回されまくった北郷一刀なわけですが。

 歳がどうとか関係ございません。相手が女性ならば、そこからくるトラブルなんぞ想定できずしてなにが北郷か。

 まあつまり、ようするに、なにが言いたいかと言いますと。

 …………まただよ。俺、女性関連でなにか呪われでもしてるんじゃないかなぁ……。

 

……。

 

 で。

 

「ばーば! そろば───」

 

 そろばんを手に、笑顔で駆けてきた幼女がビシィと固まったわけでして。

 固まったら、次にあわあわとキョロキョロしだすわけでして。

 ああうん、わかるよ、北郷すっごくわかる。きっとばーばの後ろに隠れたいんだよね。でもごめんね、今そのばーば、俺の隣にいるんだ。……なんだこの寝取りチャラリーナさんが俺の隣で寝てるよチックに並べるような言葉。

 

(さて)

 

 身体の記憶が言っている。緒方理珠。同じ小学校で、教室も同じ。話したことは大してなく、謎に対して頑なに真っ直ぐな彼女は、既に孤立気味である。

 そんな自分のところに同い年の、しかも同じクラスの男子が来るなんて、そりゃあ混乱するだろう。

 故にまずは、なんでもないような当たり障りのない言葉から入って───

 

「理珠ちゃん、この子がね、理珠ちゃんと友達になりたいって」

(オヴァアアアッ!?)

 

 ヒィイイなんてことを! それ、友達未満の幼きお子めらが集う場所で大人が言おうものなら、とっても気まずい雰囲気になるアレーーーッ!!

 ぁあああほらー! 大好きなばーばに言われたから、反抗できない、みたいな感じで縮こまっちゃったじゃないかもー!!

 なんてことしてくれたんすか! とばかりに見上げてみると、(これくらい乗り切ってみせるんだよ、男の子だろう?)みたいにニッと笑われた。

 ……この人の旦那さん、すっげぇ苦労しただろうなぁ。わかる。男ですものすっごいわかる。その代わり、充実した人生を送れただろうなぁ、なんて思いました。マル。

 

「あ、あー……あの」

「!」

 

 そして、声をかけた途端にドが付くほどビックゥと跳ねあがる肩。

 あわあわワタワタと彷徨う両手は、普段だったらばーばへ向けられたんだろうけど。肝心のばーば、俺の後ろに回り込んでニマーと笑っております。はい、見上げれば笑顔がありました。とことん食えません。

 

「知ってるかもだけど、俺、北郷一刀。その……言われたからなるんじゃなくて、お前とふつーに友達になりたい」

「!? !?」

 

 本心を語ってみると、なにがどうしてそうなるのかが理解できない様子で、ばーばに救いの手を求めてる。こう、手を広げてたっけてーって感じで。

 

「……はぁ。同年代の子が話しかけてくれてるってのに、あたしを求めてどーすんだい……」

 

 ばーばは理珠ちゃん大好きだからなぁ。心を鬼にしてまで、友達を作ってほしいがために突き放すほどには。

 

「理珠ちゃん。実はね、ばーばは近いうちに死んじまう筈だったんだよ」

「え……」

(エ!?)

 

 え……まさか自分でわかってたの!? もしや病院でも言われてた!? ……そりゃ言われるか、あの内側だもんなぁ。

 そういえば、漫画の中でも“ずっと一緒には居てやれないから”って……なるほど。ある意味覚悟が決まっていたからこその振る舞い方っていうのもあるよな。なんか、乙女心がわからない代わりにそんなところばっかりわかる自分が嫌だ。

 すごいだろ、千年近くを生きてみても、乙女心ってやつだけは本当にわからないんだ、俺……。

 あれね、わかったつもりで居るとしっぺ返しどころか地獄の断頭台返しレベルで痛い目見るからね?

 

「最近咳がひどかったろう。肺のほうに……呼吸するための大事なところにひどい病気を抱えていてね。お医者様からは、理珠ちゃんが小学校卒業するまでも保たないって」

うそです!!

「……っと……?」

「ば、ばーばは死んだりしません! ばーばは死にません! ばーばは! ばーばはー!」

「………」

 

 ぴぎゃーとばかりに叫ぶ孫を前に、ばーばはぽかんとしたあとに……やれやれと溜め息を吐くと、俺の後ろから歩いて……いくことはせず、俺の頭でぽんぽんと手を弾ませた。え? 俺に行けと? 見上げれば、“そこまでは求めちゃいないよ”って顔。

 

「大丈夫だから、泣き止みなさい」

「えぐっ、うぅう、ばーば……ばーばぁああ……!」

「なんて顔してんだい、せっかくの可愛いお顔が台無しじゃないか」

「うぅうう、うぅうーー……」

「大丈夫だって言ったろう? この子がね、ばーばの病気をぜーんぶ治しちまったんだから。せ~っかくゆっくり休めるかもって老体に、まだまだ働けっていうんだ、とんでもないやつさ」

「……!? …………ほんとう、ですか?」

 

 緒方少女が涙をぽろぽろこぼし続ける瞳でこちらを見て、こてりと首を傾げながら問うてくる。

 突っ走ると決めたからには半端は無しだ。なので、事実は事実としてきちんと認めた。

 

「俺は魔法使いなんだ。だから、いろんなことが出来る。全部は無理だけど、その時困っている人を軽くでも救うことが、出来てると思ってる」

「まほう、つかい……?」

「うん。ほら」

 

 なおも首を傾げる緒方少女の前で、氣を具現化させて猫の形に固めてみせ「「!?」」……あ、はい、たいへん驚かれたようで。

 ばーばも驚いたのか、なんだか後ろからソワソワオーラが放たれている気が……!? や、まあ。どんな事情があるにしろ、やられたらやり返させていただきますが。よくも外見小僧の俺をつかまえて、口八丁で丸め込もうなんてしてくださった。

 いろいろ打ち明けなきゃ、信じてもらえないような状況に誘導させられた気分だよ。

 

「あのな、緒方。緒方のばあちゃまがな? ばーばは理珠ちゃんのことがとても好きだけど、ばーば以外の子と一緒になって遊んで笑っている理珠ちゃんも見たいんだって」

「え……ば、ばーば?」

 

 少し焦った様子でばーばを見上げる緒方。対するばーばは……そんな暴露も何処吹く風。自分を利用することで緒方の友好関係が広がるなら、どうぞ好きにするがいいさ、って感じだ。

 

「なぁ、緒方。緒方は他のみんなと友達になるの、嫌か?」

「………」

「ちなみに俺は嫌だ」

「えぇっ!? な、なぜですかっ!?」

「いや、だって……なんか知らんやつらと急に、言われたからハイ友達とか嫌だろ……嫌じゃない?」

「……嫌です」

「うん。たぶん今の緒方も同じ気持ちだと思う。大好きなばーばに言われたから強く反対出来ないだけだよな」

「はい」

(あっ……キッパリ言っちゃうんだ……!)

 

 地味に突き刺さった。しかしこの程度の痛みを表情に出す程度では、猫耳フード軍師とともに魏の乱世を駆け抜けることなどとてもとても。

 

「というわけで、まずは自己紹介だ。あ、自己紹介し合ったからって友達になれとか言わないから。俺はこの緒方うどんの隣の……家? 事務所? に住む北郷一刀。よろしくな」

「……緒方理珠です」

「よし。じゃあ友達未満のお隣さんだ、せっかくだしゲームでもしないか?」

「いやです。私はこれからばーばとそろばんで遊ぶんです」

「フフフ、残念だったな。そのばーばとは俺が先に遊ぶ約束をしているのだぁあ……!! だからお前はばーばとは遊べません。出直してください」

「!? だ、だめです! なにを言ってるんですか! ばーばは私のばーばです!」

「じゃあ勝負だ。緒方が勝ったらばーばとのゲーム対戦権はお譲りしようじゃないか」

「いいでしょう望むところです! ばーば、待っていてください、必ず勝って、ばーばを取り戻します!」

「はいはい、待ってるから楽しんどいで」

「楽しみません! 勝つだけです! フンス!」

 

 あ。フンスしてる。

 

……。

 

 さ、そんなわけで、第一回ばーば争奪戦スペシャルバトルが始まったわけである。

 その熾烈なるバトルを言葉で表すのなら───

 

  レディ───ファイッ!!

 

「イヤーッ!」

「グワーッ!!」

 

  YOU WIN!! ファッハッハッホッホ!(エドモンド本田)

 

 ……こんな様子であった。つまり瞬殺である。

 

「………………」

「弱ぇえ……超弱ぇえ……」

 

 緒方理珠は悲しくなるほどゲームが弱かった。

 思わず遠慮もなしに超弱いと言ってしまえるくらいには、激烈雑魚だった。

 ところでYOU WINって言葉的に合ってる気がしないんだが、いいんだろうか。

 

「じゃあ……約束だし───」

「ぐすっ……い、いいですしょう……! お友達だろうとなんだろうと、なって───」

「いやなに言ってんの、ばーばは俺と遊ぶって話でしょ」

「!?」

「可哀想になぁばーば……緒方が弱かったばっかりに、命を救われた俺と一緒にゲームをしなきゃいけないんだ……!」

「なっ……なななっ……だめです! だっ……だめ、だめ……! ばーば、ばーばは、私と……!」

「ノゥ、だめです。あなたではまだまだばーばの相手にもならない。経験が足りていないのです。故に───」

「ゆ、ゆえに……? ぐすっ……」

「俺とゲームをし続け、いつか勝てたのなら……その時は堂々とばーばを取り戻せばいいのです」

「!!」

 

 あ。なんという名案、って顔してる。

 リズりんってたまにけっこーポンコツですね。あ、ゲーム関連だと大体そうだったか。

 

「わかりました……では早速勝負です! 勝ったらばーばを返してもらいます!」

「よしきた! じゃあ俺が勝ったら理珠って呼び捨てにするな?」

「!? さ、さらに条件をつけると!? 勝ったらばーばと遊ぶ権利を得るだけでは───」

「や、俺まだばーばと遊んでないし。そこに緒方が割り込んだかたちになるから、条件は別につけるよ?」

「!?」

 

 ズガァアアンと心の中に雷でも落ちたかのようなショッキングフェイスだった。

 ……なんだい、結構感情表現豊かじゃないか。ってことは、やっぱりばーばが早くに亡くなったのと……だいっきらい、って言ったきり仲直りもできないままだったのが相当尾を引いたってことか。……普通そうだよなぁ。

 

「あ、それともばーばと遊んでいい? 緒方そっちのけで、俺とばーばだけでたぁ~のしく」

「だめですさせません! ば、ばーばは私と! 私と遊ぶんです! だからっ……い、いいでしょう勝負です!」

「勝負方法は?」

「このカードゲームで!」

 

 レディ───ファイッ!

 

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

 

 ユーウィェ~~~ンヌ!! フォハッハッホッホ!!(E・本田)

 

「で、ではこのボードゲームで!」

 

 レディー───ファイッ!

 

「イヤーッ! ターン封じ!」

「グワーッ! 麻痺毒!」

 

 YOU WIN!! フォッハッハッホッホ!!(エド本)

 

「で、では……」

 

 イヤーッ! グワーッ!(E本)

 

「これで───」

 

 イヤーッ! グワーッ!(エ田)

 

「ここここれならばーばにも勝ったことのある───」

 

 イヤーッ! グワーッ!!(本D)

 

…………。

 

……。

 

 コーン……

 

「ばーば……ばーばぁあ……」

「………」

 

 いっそ可哀想になるくらい弱かった。

 しかしめげず、次です次ですと勝負を挑んでは敗北するリズりん。

 勝者権限で呼び方も緒方から理珠に変わって、理珠からの呼び方も変えてもらって。

 呼び方を変えてもらっても苗字も名前も呼ぼうとしないから、意識して呼ぶようにしてもらうことにしてもらい、北郷さん呼びから一刀さん呼び、やがてカズくん呼びになり───

 

  一週間が、経過した。

 

 この一週間、そんなことを繰り返した結果。

 

「それでカズくん。今日の勝負はどうしましょう」

「………」

 

 現在、ガッコの教室にてこの会話。

 理珠は学校でも家でも事務所でも、ところ構わず遠慮せず、話しかけてくるようになった。

 原作で塾通いになった頃には既に他人にも遠慮無用だったらしい理珠だけど、その数年前ともいえる今の時期に、俺に対しては余計に。

 カズくん呼びの頃から友達としての関係にもなったし、なんなら幼馴染としいう枠の話もして、そういった関係も頷き合っていくと、気づけば対ばーばレベルで懐かれていた。

 

「今日はばーば巻き込んでゲームするか。それともクラスメイトを巻き込んで……」

「おまっ……やめろよカズ! 巻き込まれるこっちの身にもなれよ!」

 

 後ろの席の理珠と話し合っていると、前の席の砂田くんが振り向きつつ言ってきた。

 生意気盛りの砂田くんは、理珠相手でもあまり物怖じしない性格だ。ただ面倒なヤツだなぁとは思っているっぽい。

 

「ややっ、キミは前の席の砂田くん」

「おう砂田だよなんか文句あんのか。ていうか遊びだよ遊び。ゲーム。お前らさ、もうちょい機械的ゲームとかしない? クエクエとか」

「逆に砂田くんももっとボードゲームとかするべきだろ。昨日だって理珠のばーばが作成した“伝説のオガタバトル”で大爆笑してたじゃないか」

「いやだってアレずるいだろ! 緒方のばあちゃんが作ったんだよな!? 面白すぎだろあれ! また持ってこい! 次こそ俺が勝つ!」

「……!」

 

 あ。フンスしてる。ばーばが褒められて大変に気分がいいらしい。

 

「でもさ、一緒にゲームして競い合った仲だから訊くけどさ。緒方、なんでお前ってこう……わからないとか謎なことにあんなにばかみたいにしつこい───」

「真っ直ぐなだけね?」

「……んん、じゃあ、なんであんな真っ直ぐなんだ? 真面目っていうか頑固っていうかさ。“余計なこと言わないでさっさと話終わらさせてくれよ”って思うことがよくあるっていうか」

「? 学校とはわからないことを知る場所ではないのですか? 知らない、わからないことを質問して、それを確実に知らなければ、通わせてくれている親やばーばに悪いと思います」

「……やっぱ真面目ちゃんなのか? どうなんだよカズ」

「頭が硬いとかじゃないんだよ、砂田くん。理珠の場合、本当に不思議だから訊いてるんだ。砂田くんもクエクエをやったとして、“え? なんでそうなるんだ?”って思うこととかあるだろ? そういうのを現実で解き明かそうとしてみれば、理珠の気持ちもちょっとはわかると思う」

「………………おお。おおお! なんだそうなのか! わかったよ俺なんだそっかぁ! ようするにあれか! 緒方はなんてーかあのー……不器用!」

「!?」

 

 あ。ズガァアアンってショック受けてる。まあ、器用ではないよなぁ。

 そしてたぶん、こうした質問を原作でもされて、器用ではない質問返しを続けた結果、周囲から距離を取られるようになったのではと。

 なんて理珠の百面相を見ていると、ソワソワしていた隣の席の神田さんが、質問に加わった。

 

「ね、ねぇ北郷くん。緒方さんって───」

 

 や、理珠関連の質問は理珠にしない?

 苦笑しつつ、砂田くんから始まった質問は、周囲を巻き込んだものとなって───

 

  一ヶ月が経過した。

 

 その後の理珠はといえば。

 

「5番2番が次のターンまで手を繋いだままゲームをする!」

「2番! 砂田! 5番の神田と手を繋ぎます!」

「砂田うるさい! んっ……と、結構腕疲れる……砂田、もっとこっちに手、伸ばしてよ!」

「次行け次! 俺もこれけっこうキツい! 次誰!? 町田!? 町田ー!」

「砂田うるさい! 言われなくてもやるってばもう! えーと……“2番に日頃の感謝を伝える”? ……砂田に感謝ぁ……?」

「さあ、きたまへ」

「んん……やかましいけどまあ、退屈はしないところとか? 賑やかにはなるわよね。うるさいけど。あとは……うるさいけど空気最悪の時とか居ると役立つとか?」

「俺の評価そんなのなん!? つ、次! 時田! ってこの苗字の“田”率! なんの集いだよこれ! 田圃(たんぼ)のお祭り!?」

 

 家にクラスメイトを招いて、わいわいとボードゲームを出来るくらいになっていた。

 理珠本人は相変わらず真っ直ぐな性格だし、言葉足らないし失言することもあるけど、席が近いこともあって、みんなもう理珠の性格はわかっていた。や、そうなるように上手く仕向けた下手人がここにおりますが。

 そうした日々に、ばーばは笑みをこぼして理珠の友達の輪を見ていた。

 勉強もする。遊びもする。人の気持ちを考えることもオススメして、友達が居ない時はばーばと理珠の情操教育? も続けた。

 

  ……そんな中。

 

 とある場所、とある家の前にて。

 

「あった……! あっちまったよオウマイガァ……! オウマイガァだよ俺……! いや無いと困るんだけど……!」

 

 家がございました。FURUHASHI家です。

 小学生の内にここに来なければならない理由が俺にはあったのだ。

 なにせなにもしなければ古橋ママンが死んでしまう。

 なので夜、こっそり家を抜け出してまでこうしてやってきました。

 夜な理由? こんな雲ひとつない夜であれば、絶対に天体観測しているだろうと踏んだからだ。

 古橋家のママンが死んだのは、原作時期高校3年生から10年前。文乃っちが父親のREIJIさんと決裂した時期だから、7・8歳あたり。

 で、俺と理珠がまさにそんな年齢なので、今年中に探さなきゃマズかった。

 夜に出歩いて氣と呼吸と身体能力駆使して駆けずり回ってきた日々が、ようやく報われた……おめでとう、俺!

 

「というわけで」

 

 いきなり夜に子供が来訪……怪奇じゃないでしょうか。

 やばい、後先考えてなかった。どうする? 明日出直すか? ……いやいやいや、今日いきなり逝ってしまったらどうする!

 なので時は今! 場所はここ! ……でもいきなり謎の小僧が来たら、文乃っちはもちろんママンも相当警戒するのでは?

 パパンは居るかどうか知らんけど……あ。

 

「…………居る、な」

 

 ベランダから空を見ている。天体望遠鏡とかかなり高いの使ってるんだろうなぁ。

 そんな彼女が居る二階のベランダまで、まずは風の呼吸。次に軽氣功を全身に巡らせて、天内流柔術奥義、なんか滞空時間の長いジャンプで空を跳ぶ。飛ぶじゃなく跳ぶ。

 そう……天体望遠鏡の範囲の外から、あたかも空から降って沸いたように……!

 すると、望遠鏡で俺の姿を確認したちっちゃな文乃っちが、きょとんとした顔で望遠鏡から離れて肉眼で俺を確認。

 俺はといえば……流れるような動作でフワリとベランダの豪華な手すりの上に降り立つと、滑らないように踏ん張って……

 

「ボンソワール、マドモアゼル。ジュスィユヌ・マジシアン」

「……?」

「…………日本語」

「!?」

「失礼しました。こんばんわ、お嬢さん。私は魔法使いです」

「まほうつかい……? お、お空から来た……フワッ……って」

「魔法使いですから」

 

 顔バレの心配は無い。何故って、ウサギマスクを被っているからだ。

 わざわざ夜に彼女の家を探す理由は、星といえばなんだろう……とか考えてたら、まず思い浮かんだのが月だったから。

 急に夜に訪問したってキャア変人ー! で終わるに決まってる。

 最初はカボチャを刳り貫いてジャックランタンでも被っていこうかと思った。思ったんだけど……今何月だと思ってんだてめぇ……とか言われても困るし、星関係ないし。

 お約束の校務仮面も、ここで被っちゃ変人だ。

 今にして思えば、理珠の家にあったパーティーグッズのヒトデマンの被りものでもよかったかなぁ……とか思ってる。星っぽいし。

 でも近くで見ると普通にヒトデだし、つぶつぼボコボコしてるから、間近で見られるとヒトデだー! で変人扱いである。

 星と月って関係なくね? なんて言う人も居るが、とんでもない。光って見えるものとカタチとして見えるものとで分けたい気持ちもわかるけど、月だって衛星だ。名前に星がついてる。それ言ったら地球も惑星で星だけど。

 

「わああ……! もしかして星の魔法使いさん!? 私とお母さんが星を探してたから、教えに来てくれたの!?」

「違います」

「違うの!?」

 

 あ。ズガァアアンってショック顔。かわいいなぁウフフ。

 こんな純粋な子供が、成長するとコノヤロウだよ魔人になってしまうなんて……!

 

「いつも星を愛でてくれてありがとう。星を綺麗と言ってくれて、ありがとう。そんなキミへのお礼に、ちょっとした魔法を使いにきたんだよ」

「ちょっとした……? なに……?」

「困ってることとかないかな? 僕はその困りごとを、一発で解決してあげる。たとえば大事な人が病気だとか、元気がないとかだったら、僕の魔法でとても元気に───」

「! お、お母さんが病気なの! ウサギさん! たすけて!」

「………………うん、任せて。素直に助けてって。誰かのために泣ける人を、“俺達”は見捨てやしない。」

 

 小さな体で、未熟な知識で、それでも精一杯助けを求めた少女に、笑いかけた。

 瞬間、ともに鬼と戦ってきた仲間が笑ってくれた気がした。

 

……。

 

 そして。

 

「ちーっす魔法使いでーす」

「うぺぇいっ!? え、や、ちょ、だだだ誰!? 魔法使い!? ウサギ!?」

 

 カラララと窓を開けて中に入れば、なんかカメラっぽい機械の前でわたわたする……名前なんだっけ。ママンでいいか。ママン。

 そんな彼女のベッドの前までを歩き、もう一度魔法使いですと名乗る。

 

「文乃の……お友達? 急に窓から来るなんて、びっくり───」

「魔法使いです。どこぞの星からやってきて、お嬢さんのお願いを叶えてあげる魔法使いです」

「……ええと? あの、私今結構大事なことしてて。あのね? ビデオレターっていって───」

「このままだとあなたは近い内に死にます」

「っ」

「その後、零侍さんはあなたの棺にすがりついて泣いて、お子さんはそんな彼の喜ぶ顔が見たくて、努力をします。頑張って説いた算数の問題集を見せるんです。お母さんみたいに上手くできたの、と。どうしたと思います?」

「え……あ、の……零侍くんのことだから、褒めて───」

「ひっ叩きました。娘さんを」

「え───」

「以降は人が変わったように家庭を顧みなくなり、娘さんとの関係もひどいものになります。そして、それが10年も続くことになります」

「な、なに言ってるの? 零侍くんはそんなこと───」

「するような人に、なってしまったんです。あなたが死ぬことで。星の巡りのおまじないで、未来のお話を少ししました。このままではあなたの娘は笑顔もないまま小学、中学、高校を生きることになります」

「───」

「私はそんな未来をぶち壊してやりたい。そんな想いを胸に、やって参りました」

 

 言ってみれば、ママンはぽかんとしていた。けれども最愛の旦那さんを疑う気持ちなどないのか、難しい顔でぶつぶつと呟き始めている。

 

「これからあなたの中の病気やらなにやらを取り除きますが、なにか言いたいことは?」

「あ、それじゃあ質問質問! 零侍くんとの仲が悪くなるとして、10年後になにがあって和解するの!?」

「あなたが今撮っていたビデオレターを、零侍さんが見ることで」

「え……だって、こんなのいつでも見れるんじゃ」

「パスワードをあなたが星の名前にしたから、彼はわからなかった。だって、」

「───! 零侍くんが、文乃を叩いた、から……?」

「そういうことです」

「で、でも和解するんだよね!? じゅっ……十年……十年後……!? でも、和解……するんだよ、ね?」

「他者の介入があって初めて、って感じですけど。つまりそれがなければ、」

「……どっちも歩み寄ろうともしない…………?」

「………」

 

 頷いてみせた。

 するとしばらく沈黙したのちに、彼女は訊ねてきた。「……星の名前。知ってるの?」と。

 だから答えた。

 

「このあとに文乃嬢が言いますよ、二人で見つける新しい星につける名前なんだから、二人が一番大好きなものの名前じゃなくちゃいけない、って」

「………」

 

 知らず、スゥ、と……彼女の頬を涙が伝った。

 自分の死で変わってしまう愛する人と、変わってしまうことを止められない自分と、変わってしまったことで10年も親の愛を受けられずに生きる愛娘を思ってか。

 やがて彼女は言う。

 

「……星の名前ならね、さっきもう決めたの。今はもう、肌寒くなったからわたしだけ戻っただけで。……星の、名前は?」

「レイジ。旦那さんの名前です」

「………………そっか。本当に、魔法使いさんなんだね。……ねぇ、病気、本当に治せる?」

「もちろん。じゃ、手を出してください」

「治ったとして、長生きできるかな」

「もちろん。あの、手を」

「文乃のっ……文乃の成長を、まだ、もっと……見ていけるのかなっ……!」

「…………もちろん」

「結婚式とかっ……ウェディングドレス姿、とかっ……! 中学の入学式だって、高校だって、大学だって……! 制服姿も、大人になった姿も、きっと叶わないって諦めてたいろんなものもっ……!」

「わかったから。全部全部叶えますから手ぇ出しやがれ、だよ」

「なんか急に辛辣!? 魔法使いさんひどい!」

 

 しゃばばっと涙を散らしつつも手を出してきた。それを手に取ると、集中開始。

 …………うわぁあああーああああよく生きてたなこれ!

 ちょ、やばいほんと今日来て良かった! 笑顔でいられるのが相当無理してる証拠だよこれ!

 ええい治療治療!

 

「………」

 

 氣脈活性……の前に、血管の淀みとか老廃物の塊を一つ一つ氣の鍼で破壊して……塵は氣で消滅させて、と……筋肉疲労、というか弱体化が凄まじいなぁ……! そりゃ寝たきりみたいな状態になってるんだもんな、布団からベランダに行くだけでも重労働だったに違いない。

 これじゃあ温度差にも相当弱くなってるだろうに、娘さんとの約束優先させて、体冷やして……ああもう!

 

「…………えいっ♪」

 

 スボッ!

 

「………」

「……わっ、キリっとした顔っ」

 

 やあ、視界がとってもクリアだ。

 おかしいな、さっきまでウサギフェイクを被っていた筈なのオワッ!?

 え、や、ちょ……なにをするだァーーーッ!!

 

「やっぱり被りものだったんだー♪ うーん数年後が楽しみなカッコイイ系少年。魔法使いさんは本当に星からやってきたのかな?」

「───」

 

 スパコーンとスリッパででも叩いてやりたいところだけど、今は集中しないとヤバい。ていうかお静かに!? 今あなたの治療をしているのですが!? あ、お静かにで思い出した! この人の名前、静流さんだ!

 

「………」

「……ありがとう。それと、ごめんね。やっぱり、お礼とかはちゃんと目を見て言いたかったから。すごい勢いで自分の中が変わっていってるの、わかるよ。きっと本当に治っちゃうんだろうねって確信が持ててる」

「………」

「死んじゃうの、とっても怖かったんだ。大切なものを残して、自分だけが先を知れなくなる。それってさ、すごくすごく寂しいことで……悲しいことだよね。こんな体になっちゃって、毎朝まだ二人の顔を見られることがどれだけ嬉しいかを何度も体験して、結論は出ました。悲しい。辛い。私だけ零侍くんの、文乃のこれからが見られないなんて不公平だ。綺麗ごとじゃなくて、結構ずるい考えとか出てきたんだ」

「人間ですから」

「あはは、天才とか言われてもさ、そうなんだ。私だって人間なんだ。好きになった人に振り向いてほしくて、頑張って、努力して、結果が後からついてきて。でも、そんなのたまたまいい格好してたところが他人の目に留まっただけ。必死に努力している人にしてみれば、なんだそりゃー! ってくらいの……ほんの少しの奇跡みたいな時間だった。その間に零侍くんに好きになってもらえて、結婚できて、文乃が産まれただけ。……私の時間は、奇跡の魔法みたいな時間は、その代わりと言っちゃーなんですがー! ってくらいにあっさり、私の時間を奪って行った」

「治りますけどね」

「……うん。もう、苦しくないの、わかる。わかるから…………逆にこれってずるいんじゃないか、なんて思えちゃって」

 

 ぐすっ、と鼻を鳴らす静流さん。

 集中のために閉ざしていた目を開いてみれば、涙でぐちゃぐちゃな顔で、静流さんはこれからの未来を怖がっているようだった。

 

「いいに決まってるじゃないですか。奇跡の魔法? 削られて行った時間? 努力していた人の気持ち? ……他人に迷惑をかけるどころか、人が幸せになれる時間を作れるなら、それらを作る努力をしてください」

「……それは、誰に対して?」

「今まで通りの自分で、自分が思って感じた通りに、自分を殺すことなく。生きてしまってごめんなさいとか言い出したら、全力でお仕置きしますんでどうぞよろしく」

「あはは、子供の容姿でお仕置きって言われても、どんなものがあるのかなーとか逆に気になっちゃ───」

「あなたの口からじゃなく、俺の口から零侍さんにあなたがついてきた嘘八百を最悪の形で暴露して───」

「わぁああああああごめんなさいやめてやめてそれ年齢とか一切関係ない特大爆弾だからやめてぇええええっ!!」

「あー! お母さんいじめちゃだめー!」

 

 場はカオスとなった。

 文乃っちがぷんすか顔で乱入してきたのである。

 

「……はい、ということで治療の魔法は完了しました。今なら“飛んで跳ねて”も出来るでしょ」

「え? …………あれ? …………わわっ」

「……? お母さん?」

「───! 文乃ー!!」

「ふみゅっ!?」

「文乃文乃文乃! 文乃―!! あはははは軽い軽い! 身体がかーるーいー!! ほらほら見て見て! 文乃抱えたまま跳んだり跳ねたり! 回転だってしちゃうわよー!!」

「ひゃわぁああっ!? え、え? お母さん? 痛くないの? つらくないの?」

「うんっ! お母さん、魔法使いさんの魔法で強くなっちゃった!」

「~……ほんと?」

「うんっ、ほん───」

「あ、今体の修復に体内カロリーのほとんどを使ったんで、動きすぎるとカロリー滅びますよ」

「ふんんっっぬ!?」

 

 言った途端、かくーんと膝を折る娘ハグ状態の母が居た。

 そしてこちらへ振り向くや、“それ第一に教えろやー! だよ!”な感じの恨みがましい視線を送ってきた。

 

「……まあ、零侍さんとも積もる話もあるでしょうし。しなきゃいけない暴露話もしなきゃでしょうし。どうぞ、魔法使いの国の秘密アイテム、カロリー摂取食料です」

「…………思いっきりキャロルィーメイツって書いてるんだけど」

「言ったモン勝ちです。というわけで他に異常もなさそうなのでどこぞの星の我が家に帰ります」

「その星って惑星? 衛星? 恒星?」

「地球って惑星です」

「ここだよ!? ……ぷっ、くふふふふっ……あはははははっ!」

 

 言うや、おかしそうに笑う静流さん。

 母親が元気で嬉しいのか、ぱあっと表情を明るくして同じく笑う文乃っち。

 俺はといえば、奪われたマスクを被り直して、アッディーオと手を振ると、普通にベランダに移動してスパーンと飛び出した。

 「うわちょここ二階っ───!?」と驚く静流さんに軽く手を振り、天内流なんか滞空時間が長いジャンプと風の呼吸とで、風に流されるままアディオスした。

 

……。

 

「……魔法使いさん、行っちゃった」

「不思議なことってあるんだねー……お母さん驚いちゃった」

「……だいじょうぶ? お母さん、もうお胸痛くない?」

「……ん、本当に大丈夫だよ文乃。それより……」

「それより?」

「零侍くんとちょおっと大事な話、しなきゃだよねー……! まあその、私の嘘は一度棚に上げまして」

「お母さん?」

「……頑張った文乃をひっぱたくとか! それから10年も家庭を冷えたままにするとか! 不器用な人だなぁ、とかそんなところも支えてあげたくなっちゃうなーとか思っちゃったこともあったけど! あったけどー! ふざけんなだよ! ふざけんなだよ零侍くん! もうっ……もう絶対に! 生きて、生きて生きまくって、一緒に幸せになってやるんだからー!!」

「……! お母さんが元気だぁ……! えへへ、ありがとう、ありがとう魔法使いさん……!」

「零侍くん! 零侍くん! お話があるから今すぐ家族会議ー! ってこの時間零侍くんどこだっけ!? 大学!? 零侍くん!? 零侍くーん!?」

「わわっ、お母さんまってー!」

「ん、待つから行こう文乃! お母さんは、今日からとっても強いお母さんになるから!」

「えー? お父さんより?」

「え? ん、んんー……その、零侍くんにはやっぱりそのー……ままま守ってもらったりとか、支えられたいなー、とか……! えへへ、あのね文乃、零侍くんてばねー」

「あ……いつものお母さんだ……」

「って流されないんだから! もう絶対怒ってやるんだから! 零侍くんのアホー! 零侍くんはアホー! 零侍くんでしかもアホー!!」

「お母さん! お父さんの悪口言っちゃだめー!」

「文乃っ……いい子っ……!」

「わぷぎゅっ!?」

 

……。

 

 ……それから、一年が経ったいつか。

 

「あ」

「「あ」」

 

 ある日、デパートの中、親娘さんに、出会った。

 

「魔法使いさんだー!」

「アーーーッ!!」

 

 当然逃亡! 神々のかなでし夜の調べを口ずさみつつ、レッツ運動とばかりに逃げ出した。

 

「ちょっと北郷一刀、また緒方理珠が迷子になるからあまり動き回るんじゃないわよ」

「ウンガッゴッゴ!?」

 

 しかし紗和子に捕まった。

 襟首をグワシと掴まれれば、人体ウィリーを成し遂げ、尻から床に着地する。

 

「放っておくとすぐに何処かへ行きたがる。カズくんは落ち着きのない人です」

「ンンッグ……グフッ、ブフッ……! 弟をたしなめるみたいな言い方、やめてくれません……?」

 

 見上げれば、とほーと呆れ顔で俺を見下ろす関城紗和子と、小さい体に大きなリュックをショルダーストラップに手を徹すかたちで背負って、フンスしている理珠。

 さて、この時期に関城紗和子と知り合えたのはまったくの偶然だったわけだが、関係を繋いだのは結構強引だったわけで。

 これも理珠の情操教育のためだとめぐり合わせてからは、関城は随分と明るいものだ。

 

 

 

 

=_=/回想

 

 古橋さん家の静流さんの病気を完治させたのち、様子を見るために遠目から古橋家を見守っていた俺が、その帰り道に通りかかった公園で関城紗和子を発見したのはまったくの偶然であった。ていうか住んでるのここらへんなの? と疑問をぶつけたい気持ちでいっぱいだったが。

 この頃はまだ保健室登校はおろか、中学にもなっていないので夫婦喧嘩的なものも始まっていないはずなのだが。

 ホワイ? 何故に一人で公園?

 

「疑問に思ったならば普通に質問。暇してる?」

「え……誰よあんた」

「転校生!(嘘)」

「自分で嘘とか言って、なにがしたいのよ……いいからちょっとほっといて。考えたいことがあるの」

「……この世界の子供ってほんと子供っぽくないよなぁ」

「そう? 十分ガキっぽいでしょ。正直小学生になってから、周りと自分の考え方の違いに驚いてるくらいだし」

「いや、それ自分が完全に周囲と違うって言ってるようなもんだろ」

「違うでしょ実際。……周りがガキっぽいって言えるあんたなら、わかると思う。私は……ただお父さんとお母さんが褒めてくれるのが嬉しくて頑張った。でも、二人は笑ってくれても、他は違う。最初はすごいすごいって言うのよ。みんなそう。でも……」

「……ふむ。えーと、俺、北郷一刀。お前は?」

「? 関城紗和子だけど。……なに?」

「自分の考えが馬鹿に思えるくらいのナンダコイツに会わせるからついてきてくれ」

「??? え、だからなに? 話が見えないんだけど」

「褒められたいから頑張った。他人は理解してくれない。いいじゃんそれで。他人と家族なら家族を取れよ。それで親が笑ってくれるなら、これが私だワッハッハーってその……知り合い? どもに笑ってやれって」

「……さっき言ったことやっぱり無し。あんたも普通にガキっぽいわ」

「ガキだから。お前もガキでいればいーじゃん。というわけで、お前これから用事は?」

「ないけど……お父さんもお母さんも仕事だし」

「じゃ、ウチ来て遊べ! 帰らなきゃいけない時間とかあるか!?」

「だ、だからなんなのよ! 勝手に話進めてんじゃ───ぎゃわーーーっ!?」

 

 しのごのやかましいので誘拐した。いわゆるお姫様抱っこして、雷速歩法で地面を蹴って。

 これ被っとけとウサギマスクを被せて、俺はヒトデマスク。

 そんな状態で炸雷の音とともに地を駆け、赤信号の上を跳び、塀を蹴って壁を蹴って屋根を駆けて、最短距離で緒方うどんへと文字通り跳んでいった。

 

「え、え!? なに!? 空跳んで!? えぇええっ!?」

「周囲なんて気にしない気にしない。被り物渡しておいて言うことじゃないかもだけど、子供なんだから子供らしく我儘言おうぜっ☆ ……たぶん、両親だって真面目だけな子供は望んじゃいないだろ。もっと困らせてやれ。で、二人がもっとラブラブイチャイチャできるように仕向けてやれ」

「あんた私の何を知ってんの!?」

「似たような境遇の奴なら何人か。だからどんな感じでどう悩んでるかーとかな~んとなくわかるんだ」

「……じゃあ、どんなことで悩んでるって───」

「周囲の目。めんどくさくなってきたんじゃないか? テストで100点取ったって、運動出来るやつの方が褒められてるし人気者、みたいな感じで」

「なんでわかるのよ!」

「子供の頃なんて、いっぱい動けて元気な方が人気者になれるもんだよ」

「……今のあんたみたいに? ……ちょっと。今ひとっ跳びで屋根越えたわよ。あんたほんと人間?」

「ここまで来るとドン引きされる。ヒーローどころじゃない」

「でしょうね」

 

 素直な呆れ顔を向けられた。その頃には暴れることもせず、むしろ俺が会わせたい相手に興味を抱いたのか、大人しくしていた。

 

「お前はこんな身体能力の俺を見て、すごいって無邪気に褒められるか? 無理だろ」

「これと比較されるのはすごく嫌だけど、確かに無理ね。……ちょっと待って。私の頭脳レベル、周りからみればこんな感じなの?」

「クラスに“そこまでレベル”の頭の良さを持つやつが居なければ普通に目立つし、理解出来ないってなるだろ。ちなみに俺は天才を二人ほど知ってるから、それほど驚きはない」

「天才……頭がいいのね。どれくらい?」

「テストがあっても開始二分も経たずに全問解いて、隣の席の俺に遊びましょうと言ってくるくらい」

「……あんたその時普通にテスト続けてるのよね?」

「続けてる」

「…………」

「………」

 

 学年が低ければ低いほど、失敗は出来ないと意地になるもんだ。

 当然俺も、かえって慎重になって問題を解く中、となりの理珠は遊びましょうと誘ってくるわけで。

 やめて? テスト中にキミに声かけられると、“俺がカンニングしている疑惑”が飛び交って大変なの。

 そんな俺の悲しみなどどこ吹く風。なんとしても俺に勝ちたい理珠は、何処でもどんな状況でも勝負を挑んできたりする。

 違う時があるとすれば……俺があぐらをかいている足に座ってきて、後ろから抱きしめられている時くらいだ。

 カードゲームのコツを教えている時、うつらうつらと船をこいでいた理珠を、そうして座らせて後ろから抱きしめつつ、娘を寝かしつけるように氣で包んでゆーらゆーらとゆりかごのように揺れたことが何度かあった。

 その感覚がやたら気に入ったらしく、以降も結構頼まれ、カードゲームのコツを教えながらもそれは続いている。

 この頃はまだまだ男女の背格好も変わらないから、女の子を足の間に抱いて、肩越しに手元を見る~とかも難しいし。

 

 





 なおこのルートだとなりりんは先生orうるかルートに入ります。
 はい、相変わらず最初に主人公に惚れた女性に主人公と幸せになってほしい凍傷です。
 先生の場合、惚れたというか気になったというか……?
 時空を越えてまでフラグを作ったなりやん、さっすがやでぇ……!
 なりやんのパパも死なないので、原作よりは貧乏ではなさそう。
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