無能【愚者】の俺は、燦然たる【太陽】を拾う〜ダンジョン攻略よりもバズる配信の方が大変な件~   作:雨在新人

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裏切りと不死鳥

「うわぁぁぁっ!」

 「な、何っ!?コイツ、何処から!?」

 光源も無いのに明るい、黒曜石のような石壁に囲まれた大部屋の一室に大声が響き渡る。

 「え、皆虚空に向けていきなり叫んでどうしたんだ?」

 

 2011年3月11日。世界各地に突如として湧き上がるハニカム模様の謎のノイズの出現により、地球は未曾有の危機に包まれた。各国軍及び自衛隊と在日米軍がそれらの内部へ突入するも、内部は明らかに外観よりも巨大な謎の空間を備え謎の怪物が彷徨く異界と化しており……彼等の殆どは戦闘行為すら行わず、世界に消されたように最新の武装毎存在を霞ませ消えた。

 が、ダンジョンの出現に何かを奪われた復讐心、異様な世界を許さぬ正義感、或いは……未知への好奇心か。様々な思惑に駆られるままに神託のタロット(オラクルタロット)と呼ばれる力に選ばれたダンジョンに入っても消えない人々が現れ、ダンジョンの内部は段々と明らかにされていくようになった。

 そうして、探索者(クエスター)と呼ばれるようになった彼等の出現からまもなく10年、国家管理の元組織として成立してから約8年が経った2021年2月27日。連合国立異界探索者大学日本京都キャンパスの三次試験、数人組での安全確保済みの練習用ダンジョントライアルに挑む最中の幼さが勝ちすぎたくらいの年格好の青年、佐天司(さてんつかさ)は……

 

 「あー、キッサ、そのカメラ渡して死んでくれよ」

 試験会場の旧太陽の塔ダンジョン最奥、かつてボスモンスターが君臨していた部屋で仲間に裏切られていた。

 

 は?と司は己の手のカメラを見下ろす。元となった建造物内として扱われるのか、ダンジョン内は自棄に電波の通りが良い。それもあってか、危機察知や人々の好奇心を抑えるため、ダンジョン内部に入る際はライブ配信が義務付けられている。

 

 「その発言、配信されてるんだぞ大貴」

 キッサ、と今では侮蔑を込められた愛称で己を呼ぶツンツン頭の青年を司は静かに見据えて返した。

 「……本当に?」

 が、受験生の中では唯一の同校である青年、佐藤大貴は学校指定制服のブレザーの上からマントを羽織った珍コスプレでにやりと口元を歪ませた。

 

 言われ、試験用の配信カメラを見下ろす司。が、カメラの画面にはノイズしか走ってはいなかった。

 「壊れてる……けれど、何で」

 「知ってるか、キッサ?この試験……波乱を超えると高得点なんだぜ?」

 けらけらと笑いながら軽く脚を出して司の向こう脛を蹴り、大貴は告げる。

 

 「試験官が用意した仕掛けによるハプニングを如何に切り抜けるか、そしてそれを如何に面白く配信出来るか。それで評価高まるのは知ってるけれど、壊れたら意味が」

 「ばっかだなぁキッサは。ってか倒れろボケ、カメラ回収出来ないだろ」

 不満げに更に今度は手にした黄金色のフレイルを片手持ちして振り上げる青年を前に、司は仕方ないとカメラを手渡した。

 

 「とっとと渡せよ」

 背後でけらけらと笑うのは、今回即席で組むことになった他の受験者。司を助ける気はなさげである。

 

 「……でも」

 受け取りざまに噛まされた腹パン一発。立ち上がって制服腹部の汚れを払いながら、司は反論する。

 「それらはカメラで撮影してるからだ。カメラが壊れて何になる」

 「……カメラが壊れる程の事が起きたってするんだよ。そう、凰源(こうげん)の不死鳥……知ってるよなぁ?」

 言われ、司は頷く。打開のために、話を聞き続ける。

 

 「同じダンジョンから出ない普通のモンスターとは異なり、幾つものダンジョンに渡って同じ個体が徘徊していると思われるモンスター。F(フィールド)O(オーバー)E(エネミー)の一体だろう?」

 「そう、そいつは別のダンジョンにまで行けるFOE。だからそいつが此処に現れてカメラが壊されてしまった。オレ達は何とか逃げ延びようとして、カメラを回収しつつ……」

 にっ、と意地悪く笑った青年は、ぽんと司の肩を叩いた。

 

 「でも、一人犠牲が出てしまったって訳」

 「無茶苦茶だ」

 「そういうシナリオになってんの。これで凰源の不死鳥から生き残ったオレ達の評価は鰻登りで合格確実、人々の覚えも良く、あの探索者(クエスター)集団に見初められ人生の花道って事」

 「それに誰か死ぬ必要は」

 「リアリティが無いだろ?死人まで出れば逆に口裏合わせてるとは思われない」

 あっけらかんと非道を言われ、司は何も言葉が思いつかず黙り込んだ。

 

 「……そして、俺が贄か」

 「そういうこと。あ、この辺りの試験官にもとっくに話は通ってるしよ。みんなお前ならどうでもいいからって認めてくれたぜ?」

 だから、と青年が肩を掴む手の力が強まり、司の肩から異音が響く。

 

 「心配すんなって、ちゃんと死骸は不死鳥にやられたっぽく細工してやっから」

 

 「大貴、何で俺なんだ……同校で」

 「だからだよ、バーカ」

 冷たく突き放す声が響く。

 「オレは府議会議員の父と、社長令嬢の母を持ち、【戦車(チャリオット)】のタロットに選ばれ!」

 ぶん、と染めた金髪の青年は手のフレイルを振るう。風が巻き起こり、青年が羽織る制服の上には相応しくない赤いマントと司の頬を軽く裂いた。

 「更にはタロットを手にした直後なのに武装以外まで展開でき……」

 突如として、フレイルの先の棘付き鉄球が人を超えて巨大化すると、そのまま転がり始める。

 「あまつさえオラクルスキルまで既に一個使える天っ才!

 それでよ、お前のタロットは、何?」

 「【愚者(ザ・フール)】。折れた剣を呼び出せるだけで、その先に何も使えるようにならないらしい、他に前例の無い最弱のカード」

 ポケットの中で、司は何故か手にした瞬間、既にボロボロだった己のタロットを握り込む。

 

 「だろ?それによ、オレ優しんだぜ?

 キッサお前、ウザったく言ってた夢は何だよ?」

 「ダンジョン、『神曲(しんきょく)』の踏破」

 「はっ!無能愚者には無理だっての!だからよ、天才最強のオレの為に死ねよ、キッサ。

 そうすればよ、トップ探索者(クエスター)となりいずれてめぇの言うダンジョンだって攻略する男の!伝説の一部になれんだよ。間接的に夢叶って良かったろ?」

 にぃと金を埋め込んだ前歯が輝く歯茎を剥き出しにして、脱色した司の前髪を掴んで顔を近づけた男は、ぽいと司を投げ捨てた。

 

 「んじゃ、そこの【魔術師(マジシャン)】、使えるようになった炎の魔法でコイツ焼け。同じ高校だったってだけで、この天才の経歴にこんな愚者が交じるってのが嫌だったんだ」

 

 「どうしてだ」

 何を言って良いのか答えは見つからず、司は譫言のように呟く。反撃の糸口らしいものは、何も無い。

 

 「テーネーに言ったのにわっかんねぇの?さっすが天涯孤独……いいや、家族全員ダンジョンの発生に巻き込まれて行方不明だったのに一人だけなぁにしていたのか、一週間後に近くの喫茶店の厨房に忍び込んで倒れてるところを見つかった……親から逃げて喫茶店盗み食い現行犯な親不孝者のキッサ君?」

 「そう、かもな」

 内心気にしていることを言われ、司は己の目を閉じた。

 

 「無駄死によりは、マシかもしれない」

 それでも司の身体は言葉とは裏腹に、タロットが託した剣を黒ずんだ鞘から引き抜く。それは幅広い割にカッターナイフかというくらいに刃が短く、その先は折れ砕けて存在しない愚者の末路を教えてくれるような武器。妙に柄の装飾が凝っていて、でも宝石でも嵌ってたろう中央部は抉れて無くなっている。

 

 「はっ、お前と【愚者(ザ・フール)】にお似合いの下らねぇボロ剣だな、キッ……」

 

 青年の嘲る声が止まった。

 

 たらり、と。残骸剣を手に立ち上がる司の背に、冷たく濡れたものが触れた。

 

 「な、何だコイツ……何で!?」

 ついさっき、この茶番を起こした時に発せられた言葉とほぼ同じ台詞。だが、しかし……

 

 『キャシャギィ……』

 今度こそ嘘ではなく、忽然と大部屋の壁には体育館よりも高い天井に届くほど大きい黒い金属光沢のある蜘蛛が貼り付いていた。

 大きく刺々しい甲殻のようなものに覆われた腹部、2本ずつ纏めて近いところから生えた八本の脚。後ろ四本は太く、前四本は血のような真っ赤な体液を滴らせ、妖刀の如くに細く鋭い。そして複眼があるはずの顔は、赤い鬼面に覆われて瞳の部分に炎が灯っている。

 

 「多乱修羅(タランシュラ)-鬼面・村正!?」

 その存在を見て、司は目を見開いた。かつてこのダンジョン最奥……正に司達が今居る部屋に陣取り、ダンジョンを生成しているコアを守っていたボスモンスターである。

 コアは定期的にモンスターをそのダンジョン内の特定地点へと何処からか出現させる。だが、初めてダンジョンが踏破され研究のために管理されてから9年間、ボスモンスターが再度現れたという報告はない。モンスター自体、リポップする部屋以外に再出現した報告もない。その始めての例外がその眼窩を燃やしていた。

 

 「どうなってるんだよ!?」

 「大貴さぁん!天才無敵の【戦車(チャリオット)】で何とかしてくれよー!」

 「ばっか!天才でも初陣で勝つ相手じゃねぇよあれ!?ボスだぞボス!ってか鋼の蜘蛛なんだから炎で溶かせよ!」

 「無理に決まってんでしょうがぁぁぁっ!あいつ炎無効ってボス戦配信で聞いたんですが!死ねと!?」

 そんな混乱するわいわいガヤガヤを他所に、司は静かに今度は蜘蛛に向けて剣を構えた。

 

 「大貴ぃっ!俺を生贄にして逃げ帰るのに成功するんだろうが!」

 そうして、煤けた鞘を投げる司。鞘は蜘蛛の前腕の刃の一振りでバラバラになって砕け散った。鞘内部に残ってじゃらりと音を立てていた剣の破片が床に転がる。

 

 「言われた通り、囮してやるよ大貴」

 どうして、ああも言われた相手にそう言ったのか、司自身理解は出来なかった。ただ、こうすべきだという暗いキモい無表情と馬鹿にされる司自身でも不可思議な高揚が、こうすべきだと身体を突き動かしていた。

 

 「……は?」

 「ボスモンスターは!コアを守る為に部屋を出ない!現場職員がグルでも配信が途切れたら察知して誰かが来る!

 少し時間を稼げばそれで良い!本当に緊急だと伝えるなら、身体能力が上がる【戦車(チャリオット)】が一番早くて、ふざけた計画を周囲に通してたお前の方が言葉も信用されやすい!」

 床へと落ち、轟音を鳴らす蜘蛛から目線を逸らさず、司は叫ぶ。

 

 「とっとと行けよ大貴!」

 「最期までウザってぇなキッサがよぉっ!」

 それでも弾かれたように駆け出す青年と、漸く逃げるという選択肢を思い出したのかもう逃げ始めていた計画に相乗りしただけの二人。

 

 それらを尻目に、司は苦情する。

 「死ぬ気はないんだけどな。皆が逃げ切れたら、気を引いていた此方も逃げれば良いんだから」

 そうして、飛び掛かってくる鋼の大蜘蛛の懐に潜り込むべく、姿勢を低くして床を転がった。

 

 そして数分後。懐に飛び込んで一拍、軽く持ち上がげられる蜘蛛の腹を見て、司は熱された蜘蛛の胴部に左手をついて急制動。

 「二度目は許して、くれないか!」

 掌の皮膚が焼け爛れるのを無視して手に力を込め、右方面へと身体を押し出して横転。直後そのまま行けば司が居たろう位置に、鋼の腹のボディプレスが炸裂した。

 

 「体育の成績だけは基本良かったんだよ、舐めるな」

 膝をついて体勢を整える司。姿勢を落としたまま、立ち上がらずゼロヨンスタート!

 その上空を、立ち上がった司の首を刈り取る為に振るわれた刃が通り抜けていった。

 

 (こんな痛み、今もダンジョンに喰われたままの友梨羽(ゆりは)達に、比べればっ)

 もう痛いと叫ぶことすら出来ない妹達を思い出して心を鼓舞し、皮膚が剥がれ軽く焦げた黒煙を立ち昇らせる掌を黒曜石の床に押し当てて司は立ち上がる。

 

 だが、次の一撃は無かった。大貴達が完全に部屋を出てから、一分は経っている。もう、彼等は今は通路を駆けている頃だろう。

 まさか、部屋を出たら追ってこないからとのんびり観戦なり司が死ぬのを待って悠々と歩いて移動なんかはしていない、と司としては信じたかった。

 

 そして、その瞬間……大蜘蛛はしぶとい司を一瞥すると扉の方を向き、重厚な鋼に見える扉をその四本の刃でバラバラに斬り裂くと、猛然と通路へと突貫。やや狭すぎる幅のそれに己の身体を捩じ込んで強引に通路を進み始めた。

 

 「……は?」

 残された部屋の中で司はとっくに投げ捨て剣を持たない右手で額の滝のような汗を拭いつつ呆ける。

 ボスは部屋を出ない。それはコアを護る為に居るから必然だ。そもそも復活することも可笑しいが、更なる異常事態。

 

 不意に、司の脳裏に悪魔が囁いた。

 このボス部屋の真ん前には分岐通路がある。そちらへ今のうちに逃げ込んで、角を曲がった先に隠れてしまえば自分は助かるのでは?という誘惑だ。

 逃げた大貴達を殺して蜘蛛が戻ってきた後、分岐まで司を殺しに来るかは未知数。少なくとも、時間は稼げるし部屋の中で死の鬼ごっこよりは勝算がある。

 あの巨体では、分岐通路で方向転換など不可能。いくつかダンジョン内にある部屋まで突き進まなければそうそう戻れないしあの通路は行き止まりだ。万一探しに来られても横をすり抜ければ勝ちだ。

 

 「……馬鹿馬鹿しい」

 けれど、司はその想いを振り払う。それは、両親と妹がダンジョン出現に巻き込まれた後、そんなの現実に居やしないと捨ててしまっていたヒーロー願望故だったろうか。司には分からなかった。

 

 そうして、司は焼けた左手でポケットのタロットを握り込む。カードに呼ばれ、折れた剣が再び司の右手の中に現れた。

 眼前には、ブラックホールのように光を吸っているようにも見える黒い球。ダンジョンのコアだ。これを破壊すれば、ダンジョンは崩壊しダンジョン化した建造物や自然は元の世界に戻る。中に居た者も放り出される。

 そして、人がタロットに選ばれなければダンジョンに居られないように、地球に放り出されたモンスターは地球に居られず砂になって消える。

 

 勿論、此処は踏破された上で破壊されず管理されているダンジョン。コアを攻撃したら重要物損壊で試験は問答無用の一発不合格、それどころか逮捕されて罪人だ。それでも、此方のほうが良い!

 覚悟を決めて、司は振り上げたカッターナイフくらいの刃渡りの剣を振り下ろし……しかし、それはコアに届かずに虚空で止められた。

 

 よくよく司が目を凝らせば、周囲には無数の鋼糸が張り巡らされ、コアを守っていた。光があまり反射しないでコア周囲が薄暗く、見えなかったのだ。

 

 「守りは万全ってか」

 更に、愚痴る司の耳に轟音が響く。鋼の糸を壁に引っ掛けて巻き取り、曲がり角の先から腹を前にして鋼の大蜘蛛がかっ飛んできた。そのまま吐き出される糸が、司の真上の壁に貼り付いたかと思えば、弾丸の速度で大貴達を追ったはずの蜘蛛がかっ飛んでくる。糸を何とか斬ろうとする余裕すらない、司は転がってそれを避けるしか無かった。

 

 だが、そんな司の右足首に伸ばされた糸が引っ掛かる。

 「っ!がっ!?」

 咄嗟に地を蹴った司。その右足が膝上で両断された。勢い余って吹き飛び、床を転がる小柄な少年の身体は、壁に激突して止まった。

 

 そんな司の頭上で、後ろの脚四本で胴を持ち上げた鬼面の大蜘蛛は、己の四本の剣腕を打ち鳴らし、異様な金属音で嘲笑(わら)った。まるで、与えられた偽りの希望に縋った少年を愉悦するように。

 扉は鋼糸で修復され硬く閉ざされた。逃げ場は無い。

 

 静かになった鋼蜘蛛の下で、司は血を吐き、這って手を伸ばす。目指すのは、衝撃で落として大きな魔法陣の上に転がった折れた剣。

 効くわけがない、意味もない。それは司も知っていて、それでもせめて、抵抗をしたかった。それを蜘蛛は見守る。最後の希望に手を届かせた瞬間に命を断つべく刃の腕を振り上げて、時を待つ。

 

 だがしかし、此処に有り得ない事実があった。そう、魔法陣である。

 この地の支配者である多乱修羅-鬼面・村正は物理一辺倒のモンスターだ。魔法は使わず、当然魔法陣など描かない。

 そしてまた、今正に対処に遅れている探索者組織だって、こんな何かに使えそうな魔法陣を書いている筈がないのだ。

 

 そう、ならばこれは忽然と現れた謎の第三者が何処かから描いたものである。そして……

 

 『キシュ・フニシュ』

 異音と共に蜘蛛が刃を振り下ろすと同時、魔法陣から爆炎が噴き上がり、大蜘蛛を煽り吹き飛ばした。

 焔はそのまま大きく拡がると、翼開長10mを優に超え優雅な長い尾羽根を嵐に揺らす、青と金を差し色にした焔色の鳳へと姿を固めた。

 その姿に、司は覚えがあった。様々なダンジョン配信で探索者の前に姿を見せては、モンスターも人々も関係なしに動くものが無くなるまで暴れまわるFOEの一種類。

 「凰源の不死鳥!」

 『キュォォォォッ!』

 司の叫びと同時、不死鳥は高らかに鳴いた。そして……キッ!と吹き飛ばされた己の身体を鋼の糸で空中に留めた蜘蛛を睨みつける。

 

 それだけだった。あまりの温度に明るい白にも見える光色の炎が噴き上がり、蜘蛛を焼き尽くす。鋼の糸がドロドロに溶け、振るおうとする端から刃は蒸発し、段々と全身が砂と化して内部の恨みの鬼炎が燃える空洞を晒し……それすら焼き尽くす白炎の前に掻き消える。

 地面に崩れ落ちると、原型を留めることすら出来ずに風化して完全に砂と化した。残された仮面も司の前に転がってきて、そのまま砂に変わる。

 ただ睨んだ。それだけで戦いは終わっていた。

 

 が、司にとってはまだ終わってはいない。不死鳥は動くもの全てを薙ぎ払って何処かへ飛び去っていくのが通例だ。まだ、司という憐れな贄が居る。

  

 だというのに、ボロボロの司は動いていないと判断したのだろうか。キョロキョロと周囲を見回した不死鳥は鋼糸で閉ざされた扉の方を見て動きを止めた。

 

 (駄目だ)

 そう、司は感じた。あの不死鳥がもしも此処から飛び去り、そして大貴達と遭遇したら、もう即死だろう。全員即座に灰にされて終わりだ。

 ならば、足止めしなくては。せめて逃げ切れるように、と思えど……司に手はない。

 それでも目立つべく壁にもたれながら立ち上がろうとした司の残った足に何かが触れた。

 

 それは、完全に砂になった画面が遺した黄金のカードであった。

 モンスターとて地球では基本生きられない。だから地球絡みの相手に傷付けられ死ねば砂になる。だが、例外は探索者(クエスター)のように存在するのだ。

 それが、ドロップアイテム。人々が湧く、地球に持ち帰れる超常の力の一端。そしてこのカードは、有名なその一つであった。

 

 名をブランクカード。モンスター相手に使うことでそのモンスターと契約し、縛りを付けてダンジョン外へと連れ出せるようにする強大なモンスターが持ってることが多い謎のアイテムである。

 

 ……別に、問答無用で契約できる訳では無いが。そもそも、ダンジョン間を単独で移動する不死鳥が縛られてまで一応地球含めるそのダンジョン外へと行けるだけの契約に応じるとも思えないが。

 けれどそれを最後の希望として拾い上げ、司はカードを構えた。

 

 「来いよ、凰源の不死鳥ぉぉっ!運命のタロットの下」

 カードが祝詞を感じたのか火を灯す。が効くはずもない。効いたら苦労なんてしない。当然何1つ意に介さず不死鳥は炎を纏って司へと突撃し……

 

 「我が意に共鳴せよ!」

 「キッサぁぁぁーっ!」

 思い切り良い突撃に片足の体が揺らぎ、司は地面へと倒れ込む。その手の中で、カードは姿を変えた。天空に太陽の如く燃える不死鳥を描くそのタロットの名を【太陽(ザ・サン)】。そして空白のカードが特定のタロットへと変わるのは、契約の証である。

 

 つまり、契約成功。

 「寧ろ何故成功してるんだ……」 

 そんな言葉は、司の胸元に頭を擦り付ける少女の衣音にかき消された。

 

 「……というか、だ。契約してるってことは、君は凰源の不死鳥なのか」

 「むっ?違います」

 しかし、不死鳥と思われる少女はそれを否定した。既に不死鳥の姿は何処にもない。

 「違うんだ」

 「凰源の不死鳥とは人間の付けた名。ふーちゃんは凰源の不死鳥ことプリミティブ・グランフェニックス。キッサには特別にふーちゃん、と呼ぶことを許しますよ?」

 少女は漸く司の胸元から顔を上げ、豪奢な何処となく中華風の多数の布が合わさった服をはためかせてそう告げたのだった。

 「……何でだ!?」

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