楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
それもこれも全て日間ランキングってやつのお陰なんだ(15日夜ランキングから5日連続1位キープらしい。化け物かな?)
「…………あたし、勝ったんだよね」
ウイニングライブを終えて、センターで踊っていた実感が後から湧いてくる……全てやっぱりまだまだ無我夢中で、とにかく必死に1着だけを目指して走った。
最初は包囲網も敷かれてて本格的にマズいと思ったりもしたけど、ここもまたトレーナーの言葉に助けられた。
『前回の走りを見るにハナに立つ前に強引に前に出てきて潰しに掛かるウマ娘がいる可能性がある、そしたら隙を狙って後退しろ。先行組の先頭集団と併走するような形でシレッと外に出すんだ』
『……斜行にならないか?ならないようにこの2週間弱はそれだけ練習するんだよ。特別に現地の元競技者ウマ娘集めて俺の全ての時間をお前に捧げてやるから絶対モノにしろ良いな?』
その言葉通りの展開が来た時は凄く驚いたし、何も考えずに実行に移せた自分がちょっと怖くなった。
でもそれだけあたしに期待してくれてるって事でもある……それが何より嬉しかった。
実際サボり魔だの銭ゲバだの思っていたけど、徐々にそれだけじゃない事も分かってきたし。
「優しい人だよ、本当に」
相談も無しにローテを決めたり最早日本でほぼ走ってないくらい海外で走らされてるとはいえ、ローテーション自体に無理が無い。
自主練習が出来ないのは少しムズムズする事もあるけど練習管理も徹底してるし、エネルギー消費コントロールも凄い。
食べる量やモノによってトレーニングを変えられるように何パターンもメニューを用意してくれているのがその証拠。
……そして、だからこそ。
自分のワガママを飲み込む。
二冠達成、自分の中でも縁遠いどころの問題ではなくGIII1つすらも手の届かないものだと思っていた中でのそれはあまりに充分過ぎる称号。
「出たい……」
ただ、全ての理屈とか過去の感情とかかなぐり捨てて。
今の感情だけで物事を考えるなら。
ベルモントステークスに、三冠目に、挑戦したい。
「いやあMr.トキサカ!君の教え子はとても素晴らしい!!」
「おやおやこれは、ニューヨークウマ娘協会会長デービッド・クルーガさん。お褒めに預かり光栄の極みです、当方自慢の教え子ですよ。……ところでクルーガ会長が来たと言う事は、何か私に用事がおありでしょうか?」
「ええそうです、そうなんです!是非とも貴方の教え子ブリッジコンプをベルモントステークスに招待したいと思いましてね。……勿論、二冠チャンピオンの三冠目挑戦としてですが。やはり貴方達がこのプリークネスステークスで去る、ベルモントステークスに出ないというのはあまりにも勿体ない。チャンピオンの枠はいつでも予約出来ますよ」
そんなまだ消えない心の火をどうしようか、なんて考えていたらトレーナーの話す声が聞こえた。
話してる相手は……良く分からない。けれど聞こえた、確実にあたしの耳に聞こえたんだ、ベルモントステークスに招待したいって。
それはつまり『そう言う権限を持つ人と話している』という事で。
……だったら、あたしは。
「俺の担当を二冠チャンピオンとして特別オファーですか。……有難い申し出なのですが、如何せんあの子の距離適性を考えると」
「トレーナー、あたし出たい!ベルモントステークスに!」
「……コンプ?」
そう叫んでいた。
トレーナーはああ見えて一度決めた事は覆さない主義、イレギュラーをとことん排除するタイプ。
だとしたら突っぱねられてもおかしくない、それでもこの心の中に灯る火を消したくないと心が訴えかけているから。
あたしは叫んだ。
「……分かってる。あたしの距離適性は2200まで。でも……出たい」
「俺は最初に言ったはずだろ、このアメリカクラシック三冠路線の挑戦はプリークネスステークスまでだって。勝てる見込みの無いレースには出さない、誰になんと言われようがこれが俺の流儀なんだからな」
「初めて……なんだ」
「何がだ?」
「いつもいつもトレーナーに振り回されて、あれに出ようこれに出ようってちょっと強引だけど手を引いてあたしを導いてくれて。でもそこに辿り着くまでずっとあたしはアタフタしてて、次何に出たいなんて考えた事も無くて。だから、これが初めて。あたしが初めて明確に、勢いじゃない、トレーナー任せじゃない、出たいって強く強く思ったレースがベルモントステークス。……お願いしますトレーナー、出させてください」
頭を下げる、深々と。
ウマ娘として、今まで気合いはあったし全力で走ってきた。
でも同時になるがままに流されても来た、それは多分これからもこの人に振り回されるだろうからそうなんだと思うけど。
――後悔したくないから。
「……全く。それこそ、だな」
「え……?」
「分かった、そこまでの覚悟があるなら今回だけは折れてやるよ。但し、今回に限っては『確実な勝算は無い』からな」
「ほ、ほんと……?出て、良いの……?」
「ああ。代わりに後で色々制約と誓約は付けさせて貰うがな。……と、言う訳ですクルーガさん。やはり前言撤回して出させてもらいます」
何度だって交渉する覚悟はあったけど、トレーナーは少し溜め息を吐いたかと思ったらすぐに認めてくれた。
出られるんだ、自分の想いが通じた事が分かって昂る気持ちを抑えるように目をギュッと瞑る。
「なんと素晴らしい覚悟、それに決断でしょう!やはり貴方達にオファーを出して正解でしたよ!それに貴方の走りを我がレース場で見られるなんて最高ですよ、ブリッジコンプさん!」
「ありがとう……ございます……!!会長さん!!それにトレーナーさんも!!」
「はぁ……俺はどうやら身内にはとことん甘いらしい……」
「次はベルモントステークスで、良い走りを期待していますよ」
「はい!」
その足取りは、多分今までで一番軽かった。
「良いかコンプ、認めはしたが俺は2200までの管理しか覚えさせてないのは分かってるな?」
「うん、それを承知でお願いしたのはあたしだし」
「なら良い。ベルモントステークスは2414m……未知の領域が214m分ある。その分脚への負担も大きくなるからな、もしも一瞬でも脚に痛みや違和感を覚えたらたとえどれだけ1着になれそうでも競走を中止しろ。無理矢理走って再起不能なんて真似は何があっても許さない。
代わりに三冠が取れなくても他のGIでいくらでも稼がせてやる。だからケガだけはするな、無事で帰ってこい」
これまでにない程の真剣な声色でトレーナーが語り掛けてくる。
銭ゲバだ変人だと言ってはいるものの、こういう優しさやいざとなったら真剣になってくれるところがあるからあたしは付いていってる。
そして初めて、暗に言われた『勝てなくても良い』という言葉。
ネガティブな言葉を使って来なかったこの人から聞くそれは、他の人とは違う重たさを感じた。
「……心配、してくれるんだ」
「は?何寝ぼけた事抜かしてやがる。三冠だろうがなんだろうがその1レースの為に残り走れた5レース10レース捨てたら本末転倒だろうが。俺はこれからも稼ぐ、コンプはその分GIが勝てる、だから無理しないOK?」
「ありがとう、分かったよトレーナー。ちゃんと守る、自分が後悔しないように」
「ああ、そうしてくれ」
昔の自分はデビュー出来ただけでも心の底から嬉しかったんだ。
それを忘れちゃいけない、負けたくないけど怪我をするくらいなら負けても良い。その分別のレースを頑張れば良い。
忘れないように心に刻む。
「……いやしかし、お前がワガママを言うなんてな」
「だよね、自分でもらしくないって思ったけどさ」
「なに、それはお前の成長の証だろ。気にする事はねえよ。ガキみてーな奴が成長したんだなとしみじみ噛み締めていただけだ」
「いやトレーナーまだ若いよね?」
「あん?まだ誕生日来てねえから19だな」
「やっぱりおかしいよこの人……」
それはそうとしてこの人はどこまで行っても変人である事には違いないと実感するのであった。
デービッド・クルーガ
ニューヨークウマ娘協会会長でありベルモントステークスが開かれているベルモントパークレース場のオーナー、日本語は割と行ける
つまり唯一ベルモントステークスへのオファーを掛けられる人材でありわざと枠に空きを作っていた策士
多分結果次第で後に影の英雄とか言われてる