楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
『いやぁまさか敦史が予定変更するとはな。最初速報見た時は我が目を疑ったぞ?』
「だろうな。俺も本来予定変更なんてするとは微塵も思っていなかった。折角の商売道具である脚を壊されちゃ俺の計画はご破算だからな」
『はは、ったく相変わらず言い方の癖よ。……っと。取り敢えずまずはお祝いから言っとくか。ケンタッキーダービーとプリークネスステークス優勝おめでとう、日本ウマ娘界隈はお祭り騒ぎだが正直俺からしたらお前ならやらかすと思ってたわ』
「光利は親父と母さんより俺の他称珍事と呼ばれるものを見てきているからな。俺からしたらあんな事で珍事と呼ばれたくはなかったが」
アメリカでコンプがベルモントステークスへ電撃参戦することが発表された同時刻程、日本ではニュース速報としてネット記事が乱立していたらしい。
とはいえ日本で人気なのは芝ウマ娘のレース、あっちならテレビで大々的な特集が組まれるのだろう……実際凱旋門賞は毎年特集が組まれているがダートというだけで盛り上がりは1/100程度に収まっている。
……逆にアメリカではどうか?
ケンタッキーダービーを勝った1週間後には缶バッジとウマ娘カードが販売されURAでこじんまりと販売されていた応援タオルと団扇も化け物レベルでアメリカへ輸送される事となった。あと今緊急でコンプのウマ娘ぬいも作ってるとか言ってたか。勿論俺達陣営にもグッズ代の一部は支払われるから賞金外でもボーナスガッポリってワケだ。
あとあまりに唐突な出来事と発注量に理事長は腰を抜かして30分くらい立ち上がれなかったらしい。
まあアメリカじゃ『あの伝説を1つ塗り替えた』事が意味するものの重大さがとんでもないから仕方ないかも知れないが。
『きょ、驚愕ッ!!米国ではそこまでのフィーバーを起こしているとは!?新しい風を起こしてくれたこと感謝するぞ、時坂トレーナー!』
理事長に関してはこんな感じで電話もくれたりした。あとめちゃくちゃお祝いもしてくれた、そりゃ日本勢初の快挙だし当然だが。
それと電話口の向こう側ではたづなさんらしき声が忙しなく何かを指示しているのが聞こえたがきっとグッズ発注の指示だろうな。
そんな訳でネット記事を見た光利から久々に電話が来て今に至る。
正直言って俺自身もベルモントステークスへの参戦は予想外で、現状でも自分が許可を出した事が少し信じられないくらいだ。
『お前はいつだって変人だったよ、自信持っていい。……ところで追加の遠征費用とか大丈夫なのか?かなり唐突に決まったみたいだが』
「ククク、俺をナメてもらっちゃ困るね。億が一にも圧倒的な勝ち方をして出れそうってなった事態に備えてベルモントステークスまでの遠征費用は持ってきてるんでね!使わないと思ってたがな!」
『……敦史、お前ほんと頭のネジ吹っ飛んでるわ。勝つ前から勝った後の事考えてるやつとかバケモンだろ』
「ま、とはいえケンタッキーダービーは5バ身、プリークネスステークスは3バ身。初戦こそレコードだったが2戦目はマークされてタイムは大きく落ちた。……使うはずの無かった費用だったんだがな」
『でも使う事を決めた、違うか?』
「そうだな……」
珍しく光利に言いくるめられているのも含め、何だか自分の心境の変化に戸惑いを隠せないみたいだ。
あれだけ金稼ぎに固執して『勝算の無いレースには出さない』そう言っていたのに。
『もう敦史自身自覚あるんじゃないの?ブリッジコンプちゃんの事、完全にビジネスパートナーじゃなくて身内として見てるってさ』
「いや、なんというかアイツトレーニングメニューは素直に過不足無しで従順にやってくれるし吸収も早いんだが雑談になると俺に結構ツッコミとか入れてくれて面白いんだよ。俺のノリに着いて来てるのも悪くない。自然とビジネスパートナーで終わらせるには勿体なく思ったんだよ」
『そんで敦史は身内にはゲロ甘だからな。意志を聞いたら断れなくなった、大方そんなところじゃないのか?』
「ご名答。アイツはもう欠かせないコンビの相方みたいな存在なのかもしれないな。まあ、マックイーンやアルダン、キングヘイローとこのトレーナーみたく恋情みたいなものは一切無いが」
そうやって身内判定になったキッカケは本当に些細だった。
素直にトレーニングメニューだけこなして、吸収率も高く、それ以外ではノリ良く意思疎通も軽い空気の中でやれる。
そんな相性の良さが自然と俺の懐を開けていった。
プレッシャーへの弱さだけが欠点とは良く言ったものだ。
『そこはもうお互いに付き合う前から脳みそ破壊し合ってる相思相愛カップルだしイレギュラーだよイレギュラー。にしたってトレセンでの生徒とトレーナーのカップル率高いけどな。どうなってんだよそこら中ピンク色の空気滲み出てるぞ』
「ふーん、てかお前んとこはどうなんだよ。割と年齢も近いし恋愛とかしない訳?」
『俺はそれどころじゃないよ。まずはひたすらオープン入り目指してみんな走り続けてる。数こなして勝ってかないとなんないから月1で走らせないと行けないのが心苦しいよ』
「なるほど、それもそうか。しかし月1でコンディション問題無く全員走れてるなら身体の頑丈さは折り紙付きだな」
『まあな』
ふむ、そう思うと光利のトレーナーとしてのウマ娘との接し方はとても健全なものに見えてくる。
俺とコンプ程距離感は近くなく、だがそこそこには近い。
良い教育者になれるんじゃなかろうか。
ま俺は教育者なんて面倒なものなる気は更々無いんだが。
「さてと、それじゃ俺はそろそろ切るわ。これから本番まではサボり魔封印しねえとなんないからな」
『肝心なところでちゃんと面倒見良いのは昔から変わんないよな。遊ぶとか言っときながらテスト前の後輩の面倒見たり迷子の婆ちゃん助けたりさ』
「ハッ、その方が後々有名になってからも楽に生きられるからそうしただけだ」
『それも含めて、昔から変わんないよお前は。じゃあ、健闘を祈るよ』
「ああ。……もしかしたら、コンプは俺の予想を超えてくるかもしれない。それだけは先にお前にゃ伝えとくぜ」
『楽しみにしてるよ』
電話を切って伸びをする。
最後に言った言葉、あれが果たして本物になるかどうか俺でさえ分からない。予定、予測、全て完璧に調整して勝たせて来た俺でさえ未知の領域。
……しかし、1つだけ気掛かりな事があった。
それは決してネガティブなものではなかった。
『今までは大逃げでも良かったが今回は出来ると思っても控えろ。最終直線まで逃げながら脚を溜めるんだ、溜められるように俺は2200までのスタミナを作ったんだからな。丁度良い、後でビデオ通話でサイレンススズカに逃げて差すやり方を伝授してもらうぞ』
『いやいやあたしは今までずっと
ケンタッキーダービー練習の時、敢えて力をセーブさせて俺はアイツを走らせた。
そうすればサイレンススズカ程の大逃げからの差しみたいな頭のおかしい曲芸は出来ずとも擬似再現程度なら可能だと思ったからだ。
しかし問題はここでコンプに言われた事だ。
俺はそれまでコンプに『得意な走りをすれば良い』としか言ってこなかったから逃げの一種である大逃げが得意なものになったのだと思っていた。
だが実際は本人すら意図しないある種『暴走』に近い走りになっていただけ。
「確かにスタミナ管理は2200までしか覚えさせていない」
それは単に教えていない訳ではなく、2300を覚えさせようとしたところクオリティが目に見えて下がったから断念した為だ。
――しかし、しかしこれなら或いは。
「……無茶するなと言いながら飛んだ無茶をさせようとするとか、俺も大概まともとは言えないかもな」
そう呟いてトレーニングへと向かうのだった。
追記
皆さんアンケートのことで心配して下さりありがとうございます
これに関してですが、ストックが追い付かなくなったら毎日投稿が多くても毎日にはなりません
現状確認の方向が大きいだけなのでこれからも変わらず気ままにやっていきますよ
と言いつつ継ぎ足し製法のストックが切れるまでは毎日投稿ですが