楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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 ――なんであの記録と並んでるんですかねこの子…

とある実況スレ民の1レスより引用


12.214m未知の領域。限界を超える為の道標

『注目の2番人気は18番、ここまで無敗アメリカクラシック二冠のブリッジコンプ。電撃参戦が決まった当初は距離適性が不安視されていたもののここまで強い勝ち方で二冠を手にしただけあり2番人気に付けています』

 

『それだけ彼女への全米の期待は凄まじいものがありますからね。2414を走れるか走れないか、ではなく彼女に勝ってもらいたい、夢を見せて欲しい、その想いの表れが良く出ています』

 

『懸念点はやはりスタミナでしょうけれど、他には何がありますか?』

 

『やはり前回同様マーク対応ではないでしょうか。今回はただでさえ不利な彼女にとっての長旅、一度包囲網を作られてしまえばひとたまりも無いですからね。そこを囲まれずにハナに立てるか、そこがひとまずの分岐点といったところになります』

 

『なるほど、では最初の数百メートル、そこを注目していきましょう。そして1番人気はここ2戦どちらも2着とあと一歩としながらもブリッジコンプに敗れているサンライズローズ。デルマーフューチュリティステークス、シャンペンステークス、フロリダダービーのGI3勝ウマ娘の意地を見せられるか注目が集まりますね』

 

『ジュニア期に既に重賞3勝GI2勝、クラシックの出だしもGI勝利で重賞計4勝、デビューレース含め5戦5勝で迎えたケンタッキーダービーは圧倒的1番人気でしたからね。彼女の後方一気の末脚の斬れ味はここ2戦も全く変わり無く披露されています』

 

『地元開催GIであるフロリダダービーウマ娘の看板を背負って、チャンピオンへ二度目の挑戦。彼女は前回唯一包囲網には加わりませんでしたよね』

 

『彼女は元よりバ群を嫌う性質なのでそうなったのでしょう』

 

『解説ありがとうございます。今回は絶対的存在もおらず混戦必至!さあ、間もなくレース開始となります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 多分、このレースは今まで走ってきたものの中で1番勝つのが難しいレースになるはず。

 元の距離適性が1800までだったのを2200まで引き伸ばしてくれただけで奇跡なのはわかってる。負けてもおかしくないし何ならトレーナーですら負けて当然のレースだと感じて出走回避しようとしていたくらいだ。

 

 ――未知の領域、その距離214m。

 

 プレッシャーに弱いあたしが1番無理な未知という言葉、本来ならどれだけ胃が痛くなっても当然のもの。

 それでもそうなっていないのは、これがあたし自身の始めた物語だったからか。

 確かにそれもあると思う、でも理由はきっと他にもある。

 

 

『――ブリッジコンプさん、ベルモントステークス参戦を申し出てくれた事心から感謝申し上げますわ』

 

『あ、貴方は確か……サンライズローズさん……感謝って……?』

 

『覚えていてくれたのですね、嬉しいですわ。ええそうですわ、感謝です。なんたってこの三冠路線に最後まで貴方がいてくださらないと張り合いが無いですもの。このサンライズローズ、ワタクシの滾る炎を全力で貴方にぶつけて差し上げますわ!』

 

『……うん。あたしも走りたいって、心の炎が燃えてたからここに来た。距離適性云々はあるけど、負けないよ』

 

『ふふ、良いですわ。今日ここにいるワタクシ含めた全員は貴方の距離適性なんかに興味はございません。ただ1つ《最上のチャンピオンをぶち倒す》それのみですから。では次はダートの上で、脚で、ぶつかり合いましょう』

 

 

 ライバルの存在。

 これまでダートの上では完全アウェーだったはずのあたしを認めてくれた、サンライズローズさん。

 思えばこの人はケンタッキーダービーまでに既にGI3勝してて、この2戦もずっと2着であたしの後ろにいた。

 あたしがいなければ二冠はこの人のモノだった、なら恨まれてもおかしくないというのにただただ笑顔で、それでいて真剣な顔であたしの事を『最上のチャンピオン』だと認めてくれた。

 

 敵に塩を送る行為なんじゃ、と一瞬思った自分に呆れ返ってしまう。

 サンライズローズさんはきっと、どこまでも真っ直ぐなウマ娘なんだ。

 だからお互いベストを尽くせるように言葉を送ってくれた、そう思うと競技者としての経験値はあたしはまだまだ少ないんだなと痛感させられる。

 

『各ウマ娘がゲートに収まりました』

 

 だからこそ、感謝を尽くそう。

 未熟なチャンピオンの為にGIウマ娘としての先輩が手を貸してくれたんだから。

 全力で、ぶつかろう。

 

 

 

 ゲートが開く――あたしは力の限り走り出す。

 そう、包囲網される前にぶっちぎる。本当はもう少し抑えて走るべきなのは承知でも包囲されたら終わりだから大外から一気にハナに立つ。

 

「――は?」

 

 それは誰の声だったか。

 いや、そんなもの分からなくて良い、あたしは『ハナに立った後も加速を緩めずに後続を引き離していく』。

 グングンと更に更に加速をする、最早何バ身離れたかも分からない。

 

 

『唯一勝てる可能性があるとすれば、それは大逃げだ。俺の予想以上にお前には加速力があると見たからな。……脚に負担を掛けるなと言いつつその選択肢を突き付ける俺もどうかしているとは思うが……やるか?』

 

『やる。そして怪我もしない、そうすれば良い……でしょ?』

 

『……ったく、いつから俺に似始めたんだかね。大逃げと言っても普通の大逃げじゃない、どこまでも緩めない加速をして限界まで加速したらそれを維持しろ。出来る限り……いや、限界まで他を突き放せ。どれだけ加速しようとお前の脚が2200まで保つのは実証済みだからな……214m、抜かされないだけの距離を離すんだ』

 

『あたしは良いんだけどさ……それしたらトレーナーさんが批判の的にされない?大丈夫?』

 

『あ?世間の声なんて知らねえよお前がそれで良いと言うなら俺とお前が正義だそれ以上も以下も無い。俺はコンプ、お前以外の声は何も聞かないし聞こえない、何故なら俺が信じたお前以上に信じるべき存在なんている訳が無いからだ。あとどうせ色々考えてるんだろうがお前に向いた批判も全部俺がガードしといてやるから何も考えるな。んで……良いって言った以上俺とお前は最早一蓮托生、ベルモントステークスまでサボり魔休んでみっちり鍛えてやるから覚悟しとけよ〜』

 

『はい!』

 

『あ、でも大逃げするって言っても怪我しそうな感じしたらちゃんと中止はするんだぞ。そこは変わんねーからな?』

 

 

 破滅的な走りをしていると言われるのは元より覚悟の上。

 そしてあたしの何倍もの批判を受けるのをあっけらかんと受け入れてトレーナーは送り出してくれた、だったら絶対に、絶対に。

 勝たなくちゃならない理由がある。

 

 ケンタッキーダービーは『訳も分からない』だった。

 

 プリークネスステークスは『あたしの願いの為に勝ちたい』だった。

 

 ――このレースは、ベルモントステークスは。

 

『トレーナーの為に勝ちたい』……!!

 あの人の事だから「バカな事言いやがって、俺の事なんぞ気にしなきゃ良いのに」とか呆れ顔で言ってくると思う。

 それでも、ここまでしてくれて、批判すら全て自分が受け止めると言って、ただのあたしのワガママで出るはずのレースで何もかもからあたしを守ってくれる。

 最初はあたしが走りたいからって志願したのに不思議だとは思うけど、これが本音。

 

「お願い……耐えてよね、あたしの脚……!!」

 

 残り500の標識を通過する。

 後ろなんて振り返れないけど異様なほどに静かだ。

 一体何バ身開いたのか分からない……だけど勝負はここからだ。

 耐えてよ……そして逃げ切ってよあたしの脚……!!

 

「ぐっ……あと少し……!!」

 

 いきなり脚が重たくなってきた、呼吸も少しずつ苦しくなってくる。

 ここからだ、ここからがあたしが自分の限界を超える為の214m、未知の領域。

 

「はぁ……はぁ……クッ、ソォ……!!」

 

 減速が止まらない。

 静かだった後ろからもドンドンと音が近付いてくる、たった214mがこんなに長く感じるなんて初めてかもしれない。

 

 ――無理をするくらいなら、怪我をして更にトレーナーに批判が集まるくらいならここで競走を中止したって……

 

 

 

「行け!」

 

 

 

「ッ!!」

 

 何の変哲もないたった2文字。

 でも確かに聞こえた、あたしの耳に届いた、届くはずの無い2文字。

 力が抜けたはずの脚に一瞬だけ力が戻る、諦め掛けた想いにもう一度火が灯る、瞑った目を開く。

 そうだ、このレースは、勝利は……トレーナーに届ける為に。

 

「うああああああああああああ!!!!!」

 

 それは……限界を超える為の、道標だッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ほんっと、らしくも無い事をしたもんだ。っと、さてさて俺はただの観客じゃなくトレーナーだからな……迎えてやるとするか。そして言ってやるよ」

 

「『その勝負服が似合うウマ娘になったな』『三冠おめでとう』くらいは、な」

 

 俺はウィナーズサークルへと向かう。

 電光掲示板には『2分24秒0』が確かに点滅していた。




この話だけは何がなんでも日間上位でお披露目したかったから達成出来て嬉しい気持ち
あとどこかの感想で「トレーナーの見立てと実数値に剥離があるのでは?」と言われていたけれどまさかまさかの大正解予想でした

サンライズローズ
フロリダ州出身であり幼少期から地元レース場GIで戴冠するのが目標だった銀髪赤目のウマ娘
貴族という程では無いが大企業のお嬢様であり典型的なお嬢様っぽい喋り方をするがサンライズの名の通り圧倒的光属性であり炎属性
日本オタクであり来日回数は両手では足りない程。ベルモントステークス出走者でブリッジコンプ以外で唯一日本語で自然な会話が可能だったウマ娘でもある
好きな食べ物は納豆と温玉牛丼とそうめんとうな重
嫌いな食べ物はうなぎのゼリー寄せ

サンライズローズ出走ローテーション
デビュー戦(8月)→デルマーフューチュリティステークス(ジュニアGI 9月)→シャンペンステークス(ジュニアGI 10月)→ロスアラミトスフューチュリティ(ジュニアGII 12月)→フロリダダービー(クラシックGI 3月)
ここまで全て1着。獲得賞金67万ドル

アメリカクラシック三冠はオール2着計79万ドル

合計146万ドル(約2億2560万円)
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