楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
「コンプ、改めて三冠達成おめでとう」
「色々ワガママ言っちゃったけど勝てて良かった、心の底からそう思う。……それに、トレーナーに『勝負服の似合うウマ娘になった』って言われちゃったし?」
夜。トレーナーと食事を待ちながら今日の事について雑談をする。
もちろんあたしの三冠達成の事だ、あの時は本当に驚いたし本当に嬉しかった。
プリークネスステークスでも結局言われる事の無かった『勝負服が似合うウマ娘になった』という言葉。
それをウィナーズサークルに来たトレーナーはあたしがその事を忘れるくらい勝利に浸っていた時に言ってくれた。
『三冠達成おめでとう』と勝負服の事。それに頭を優しく撫でてもくれたし……不覚にもちょっとドキドキしちゃったのは内緒。
「俺は下手に誤魔化さないタチでな。実際俺の予想を大きく上回るタイムが出た、あそこまでのタイムが出たら流石に俺もビビるってもんだ。全くここまで度肝を抜かれたのは人生で初めてだよ」
「えへへ……そ、そう?」
「ああ、お陰で次のレースが決まったくらいだ」
「え?」
でもやっぱりトレーナーは変わらない。
こんだけ良い雰囲気で浸ってるのに唐突にこんな事を言うんだから恋愛感情なんて湧くわけが無い。
それはそれとして次レース決まったって言った?この人?
なんだろういつものように嫌な予感がする、だってもう日本に帰るんだよね?ここから先国内レース走るんだよね?アメリカ行ったのは気の迷いだよね?
……気の迷い……だと思いたいんだけどなあ……。
「っと、そろそろ料理が来るだろう。この話はまた後でするか」
「……あの、トレーナー?」
「どうかしたか?」
「次のレースがどうたらとかにも盛大にツッコミたいんだけどそれは一旦置いとくとして、あたしはなんでこんな高級レストランに連れてこられてるんですか……?」
そしてツッコミどころはもうひとつある。
それは今この状況にある。
窓からはニューヨークの街並みを一望出来る、綺麗なネオンが見える。
雰囲気も上品な上に料理の値段は三度見するくらい高い。
……そう、ここはニューヨークでも折り紙付きの高級レストラン。
しかも大企業のビル内にある、何もかもがツッコミ対象になりかねないレベルの状況。
「そりゃお前、担当の三冠祝いに少しくらい高い飯食っても良いだろ。金は俺が持ってやるから好きなもん食えば良いんだし」
「少しくらい……?」
「俺から見たら、だがな。というかお前も通帳にゃ3億入ってんだから今の内から高級レストランでの作法とか覚えときゃ良いんじゃね?折角金あるんだから貯金だけじゃつまらんだろ」
「いやあたしまだ100万円の束ですら手が震えるくらいの中学生なんだけど……」
「だから大金の使い道を教えてんだよ。これからお前はもっと稼ぐ、その金は自分へのご褒美にだって使って良い。人生オンオフどちらでも楽しまなきゃ損だろ?」
「言いたい事は分かるんだけど調子乗って遊んでたらあたし破滅しちゃわない?大丈夫?」
「だからそこを大人である俺が教えてやるんだろ、やだなあコンプは」
「おい待て19歳」
お金の使い方とか言ってるけどこのトレーナー良く良く考えたらまだ20歳の誕生日迎えてないんだよね……19歳でどうしてそこまで手慣れてるのかとかも含めてこの状況どういう事なんだと高らかにツッコミたい。
ツッコめないくらいの超高級レストランにいるんだけどね。
「あらあら、まさかブリッジコンプさんがこのお店にいらしているとは思いませんでしたわ」
「……え!?さ、サンライズローズさんまで?」
そして何故か唐突に登場するサンライズローズさん。
何これ新手の吉本新喜劇か何か?ツッコミどころの大洪水過ぎるんだけど?
「あら、ご存知ありませんでしたか?このビルは元々お父様の持っている企業のニューヨーク支社。つまりこのレストランもお父様の部下の方が経営しているレストランですの」
「お、お嬢様だ……本物のお嬢様がいる……」
「いや知らなかったのかよ」
珍しくトレーナーがツッコミを入れているがそれどころではない。
ライバルとして話していたウマ娘が実は先輩GIウマ娘どころの問題じゃなく大企業の社長令嬢、あたしの頭の中はぐるぐると星が回っている。
「しかし本日は負けましたわ。完敗でした……改めてワタクシからも、三冠達成の祝言を差し上げます。おめでとうございます、ブリッジコンプさん」
「あ、ありがとう……でも最後後ろにいたのサンライズローズさんだよね……?」
「ええ、そうですわ。貴方の背中をやっと捉えたと思ったら貴方は1着でゴール。これでは為す術もございません。しかしこれでハッキリしました、ワタクシに1800m以上を走る技量はまだまだ無いのだと」
「絶対それは無いと思うんだけどなあ……」
そんなあたしを知ってか知らずかお祝いの言葉を向けてくるこの人を素直に受け止める。受け止められなければそれは逆に失礼になっちゃうしね。
でもそれはそれとしてサンライズローズさんに1800から上を走る技量がまだまだとか絶対に思えないんだけど……残り214mの時点で多分15バ身くらい離してたと思うのに気配を感じるくらいまで迫られてたんだし。
間違いない2400mまでは超一流で走れるウマ娘だ。
「と、言う訳でワタクシこれからはスプリントとマイル中心で邁進して行きますので!トレーナーズカップ*1にも是非来てくださいな!観客としてワタクシの走りを、そしてワタクシ自身も観客として貴方の走りを見たいんですもの!」
「……トレーナー?もしかして行くの?」
「あ?聞く必要無いだろ。ダートで金の入るGIなんだから」
「だよねー……そんな訳で、まあまた会えると思うよ……」
「あらあらそれは!楽しみにしていますわ!是非ともライバルとしてではなく1人のお友達としてワタクシを応援してくれたらとても嬉しいですし!」
……そしてそんなウマ娘に『友達』と言われてしまった。
この人としては立場は同じレースを戦った戦友、そして同年代としての存在から友達と気軽に呼んでるんだろうけど……あたしとしては呼んで良いものかどうかと少し気後れしちゃう気持ちもある訳で。
「……もしかしてお友達と呼ばれるの、嫌でしたか?」
とはいえ……とはいえ!
そんな悲しそうな目でそう言われて嫌ですなんて言える訳が無い。
更に言えばサンライズローズさん自身とても真面目で真っ直ぐで明るくてあたしに勇気もくれたし、異国で友達の1人でも作れれば自分自身少しは安心出来る空間も作れるはず。
何よりこんなに良い子の事を断る理由が無い。
「嫌じゃないです!あたしで良かったら是非お友達になってください!」
「本当ですの!?ありがとうございます!」
「……ローズお嬢様、少し興奮しすぎですよ」
「あ……!」
それにご令嬢らしい佇まいと同時に同年代らしいはしゃぐ姿は同じ女であるあたしから見ていてとても可愛いと思ってしまう。
黙っていれば深窓の令嬢にも見えるからギャップ萌えというものかも……?
「コホン、失礼しました。とても嬉しいですわ……そう言えばまだ帰国までには数日時間がありますわよね?」
「そう……だね。あと1週間くらいあるんだっけ?」
「ああ。ここから何日かは三冠達成インタビューにテレビ出演もあるからな。俺はだらけるがお前の気は引き締めておけよ」
「アンタはだらけるんかい。……まあ、あるみたい」
「でしたら是非時間が空いた日にワタクシのお家に来てくださいな!ウマホの番号を交換してメッセージを飛ばして下されば執事をお迎えに行かせますので!」
「ええ!?良いの!?」
「はいっ。ワタクシお友達を家に招待するのが夢でしたの!」
「……じゃ、じゃあお言葉に甘えて?」
…………拝啓、日本のお父さんとお母さん。
あたし、なんかアメリカで凄いお友達が出来ちゃったみたいです。
サンライズローズの執事
いつもローズの後ろに控えている若い男性。兼任トレーナー
今回もシレッといたしセリフもあった
見る人が見ると2人からはピンク色の空気が出ているとか
トレーナー「(サンライズローズが中距離に向いてない…?)」
トレーナー「(あの子も2分25秒ジャストだと思ったんだが…ふむ、日本語を使い間違えたかな?)」
※ベルモントステークスはブリコンが6バ身差勝利しています
※2分25秒ジャストはベルモントステークス走破タイム歴代2位です
※サンライズローズと3着の差は15バ身(表記上大差)です