楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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Q.本作でロード・トゥ・ザ・ケンタッキーってなんで作らなかったの?
A.テンポ良く進める為に取り外した(建前)

本 音 は ジ ャ ス テ ィ フ ァ イ の 為 で あ る
出す前に言える訳が無い…!本音を…!


あと、今回だけ話が重たいかも知れないのでそこだけ注意で!


21.オモイツムグ

「……おや、サンデーサイレンス先生」

 

「時坂くん、頑張ってますね」

 

「いえいえ、ふふふ……俺の活躍はここからが本番ですから。それよりコンプは宜しいんですか?折角の機会ですが」

 

「私は先生もしていますから、他の方より知ってる事も多いので譲っても大丈夫なんです。……それよりなんだか、時坂くんと話したくなってしまって」

 

 ウチの教え子ブリッジコンプは絶賛サンデーサイレンス先生以外の三冠ウマ娘達に色々と話を聞かれている、完全無名の芝スプリンターが何をどうしてダート2414mを走るまでに至ったか全員気になるのだろう。

 まあ大した話は無いがそれでも一つ一つが彼女らには面白いらしく大層盛り上がっている。

 なおコンプはワーラウェイ氏への発言を俺に弄ばれたのが死ぬ程不本意だったのかこの渡米までに英語を死ぬ気で習得している。努力の賜物だねえ。てかアイツの吸収力はピカイチだよほんと。

 で、そこで異質なのがこの先生、何故かこの人だけ俺の方に来た。

 

 ……ふむ、大層な美人ではあるが人妻なんだよな。

 独身ならお茶の一つでも誘うんだが、如何せん火遊びはしない主義だ。

 

 ま、この人に限ってそれはないと思うが

 

「俺と、ですか」

 

「……時坂くんは『想いの力』って信じますか?」

 

「想い……まあ、信じる信じない以前にベルモントで実際体験してしまってる以上『ある』としか言えないでしょうね」

 

 ベルモントステークスのあの日。

 届くはずが無いと分かっていて呟いた『行け』という2文字。

 しかしコンプは言っていた『トレーナーの言葉のお陰で諦めずに走り切れた、ありがとね』と。

 アイツ自身聞こえるはずが無いと分かっていた。だからこそこれは想いの力だと、そうとしか言えないのだと確信している。

 

「そっか……貴方も体験していたんですね」

 

「と、言うと先生も……?」

 

「ええ。もし貴方が信じてくれるなら、話そうと思っていた話があるのだけど……聞いてくれるかしら」

 

 そしてそれは先生も体験している、そう話した。

 ともすれば、その該当レースは間違いなく一つに絞られるだろう。

 

「……アメリカ史上最高のウマ娘レース、そう謳われる『1989年奇跡の同着優勝・ベルモントステークス』ですか?」

 

「ふふ、さすがに分かっちゃいますよね」

 

「是非ともお聞かせ願いたいくらいですよ。あのレースはウマ娘史上最高のレースとも言われていますが多くを語られた事は無い。……それをまさか当事者の1人である先生の口から聞けるとは」

 

 アメリカクラシック三冠路線史上唯一の同着決着にしてサンデーサイレンスの三冠達成となった1989年、あのレースは映像を見た事がある。

 残り400m、イージーゴアに交わされた彼女は3バ身程無抵抗で引き離された……だがそこから突然不死鳥のように蘇り残り200m弱を一気に追い付き、そしてそのままゴール。

 長時間の写真判定の結果映し出された『同着』を意味するランプ。

 

 果たして彼女に何があったのか。

 三冠を決めた彼女は何故泣き崩れていたのか。

 

「……私はそもそも、一度事故にあって友を1人失っている。それは知っていますか?」

 

「ええ……スクールバスの事故。貴方の友人も多く乗っていたそこでの事故で貴方を除く生存者は全員競走能力を喪失、そして死者1名。それは先生の1番の親友……そうでしたよね」

 

「あの子は……アングレカムは、私より速くて強かった。数年後には世代の一番星になるって言われていたし私もアングレカムに憧れていた。しかも世話焼きで人懐っこい子だったから大人しくて無口の私でも仲良くなれた。本当に1番の親友だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私が走るのは、走れなくなったみんなの、そしてアングレカムの無念を晴らす為だ」

 

 当時の私はあの事故で唯一競走能力を失わなかった自分自身に呪いを掛けた、走れなくなったみんなと死んだアングレカムの為に自分が壊れてでも三冠を獲るのだと。

 たとえベルモントステークスを走りきった瞬間に死んでしまうのだとしても構わないとすら思って。

 

 ですが私の脚は事故の影響で不格好になってしまった。

 

 

「ねえキミ、良い脚してるね!ちょっとボクのスカウトさ、受けてみない?話だけでもお茶でも飲みながらさ」

 

「……私の脚は醜いですよ」

 

「そんな事無いさ、見れば分かるその上質な筋肉の乗り方!それに細くて美しい!今まで周りに何を言われてきたか分からないけどそいつらの目が節穴なんだよ」

 

 

 そんな脚を『綺麗』だと言ってくれた人もいました。

 それがトレーナーであり今の夫ですが……能天気で楽天家、ナンパ師でおバカ、それでも私の意志を尊重してくれる献身的なトレーナーのお陰で呪いに押し潰される事無くデビューし、そして二冠までこぎ着けた。

 

 

「はぁ……はぁ……あと少し……」

 

 

 そんな献身的なトレーナーの下でもやはり私は徐々に壊れていった。

 勝つ為ならどんな破滅的な走りも辞さないそれが身体への大きな負担になっていたのは明白でした。

 しかしそれでも歩みを止めてはいけない、全てを背負って生きていかねばならないのだと自分自身を脅迫して、ムチを打って。

 

 ――ベルモントステークスの日、私は彼女、最大のライバルイージーゴアに問いました。

 走る事は好きかと。

 

 

「貴方は走る事が好きですか?」

 

「勿論!大好きだよ!」

 

「……私は貴方が大嫌いです。走る事が、走れる事が何でもなく享受されるものだと信じて疑わない。そんな恵まれた貴方が大嫌いです」

 

「え?あ、ちょっと……」

 

 

 普通のウマ娘としては普通の回答。

 ですが当時の私はそれが心底気に入らなかった、勝っても負けても最後には笑顔で去っていく彼女が、走る事をさも当然のように語る彼女が。

 

 

「負ける訳には行かない。私には背負ってるものがあるんだ」

 

 

 ですが結局のところ、折れるのは私の方が早かった。

 

 

「なんで……脚が……」

 

 

 既に限界を超えていた脚は途中まで順調だったはずのレースで失速、そのまま残り400m地点でいーちゃん……イージーゴアの事ですね、彼女に抜かれてしまった。

 

 

「……届かない……今の私じゃ……絶対に……」

 

 

 皮肉なものですよね、背負ってるもので身体を壊して楽しく走ってるウマ娘に抜かされる。

 ポッキリと心が折れたのを今でも覚えています。

 

 

「ごめんね、ごめんねみんな……アングレカム……」

 

『諦めるなァ!』

『頑張れサンデー!!』

『負けるな!!』

 

「……え?」

 

 でもそんな時聞こえてきたそんな言葉の数々。

 聞こえるはずが無い、それはトレーナーやかつて競走能力を喪失していったあのバスに乗っていた友人達。

 

 ――そして

 

 

『もう、良いんだよ』

『自分の為に走って、良いんだよ』

 

 

 死んだはずの親友の声が聞こえた。

 それこそ、何をどう足掻いたって聞こえるはずが無いのに。

 でも、確実に、鮮明に、それがアングレカムだって分かった。

 その瞬間、私の脚はまるで疲れなんて一切無くなったかのように軽くなった。

 

 

「ああああああああああ!!!!!」

 

 

 ただひたすらに叫んで、叫んで、叫んで。

 あの時初めて、デビューしてから初めて。ただ目の前のレースに勝ちたい……そう思って走った。

 

 

「なんと同着!!写真判定の結果イージーゴア選手とサンデーサイレンス選手全くの同着決着での優勝だああああ!!!」

 

 

「…………ぁ」

 

 

 そして結果を見て、ようやく『自分自身が勝てた喜び』を感じて。

 何より、ずっと親友が死んだ後も私を見ていてくれた事を知って。

 その場でどうしようもなく泣き崩れて、涙が止まらなくて。

 

 優しく抱き締めてくれたトレーナーの胸の中で、初めて声を上げて泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、これが『あの日の真相』になります」

 

「…………」

 

 言葉にならなかった。

 ただ、間違いない。あれは単なるオカルトではない。実際にこうした『科学では解き明かせない想いが紡がれる』事があるのだと知れた、これだけは間違いないのだと確信出来た。

 

「少し、重すぎましたか?」

 

「いえ……ですが、何となく……先生がその後どうやってイージーゴアさんと仲良くなったりとか、今の性格になっていったかとかは……何となくですが想像が付くようなエピソードでした。とても貴重なお話でしたよ、聞かせてもらえて恐悦至極」

 

「それなら良かったです」

 

 ……だが、最後にどうしても聞きたい事があった。

 

「最後に一つだけ、良いですか?」

 

「なんでしょうか?」

 

「『想いの力』を信じる人間は俺以外にも割といるはずです。ですが今聞いた話はどこでも聞いた事の無い話だった。貴方の話なら誰か1人にでも話せばどこかしらで聞くはず、それくらいの存在なんですよ、先生は。どうしてですか?」

 

「うーん……なんと言うか、時坂くんは『あの人』と似てる気がしたから……かな」

 

「あの人?」

 

 

「旦那に……ね。あの日までも、あの日も、あの日以降も、そして今も。ずっとずっと支えてくれている人と何となく重ねちゃったのかも。それくらい、あの子の事を大切にしてるのを感じたから」

 

 そう言った先生はウインクをしてそそくさとコンプを取り囲む輪に戻って行った。

 

 ……さっきも聞いたが先生と当時のトレーナーは夫婦だ、それも何十年も共にいる。

 

「それくらい大事にしてるのを感じた、ねえ」

 

 ともすれば俺の感情は無自覚にそうなっているのか。

 

「……最近は有り得ない、とも言い切れないのがどうにも厄介な話だ」

 

 いや、今の言葉は忘れよう。

 溜め息を吐き零し弄られるコンプを遠目から眺めるのだった。

 

 




自分の中で『結果を捏造して同着優勝させるのは作中何があっても一度まで』という誓約が実はあったりする

イージーゴア
あの後、サンデーサイレンスの背景を知った彼女は無神経な答えを言ってしまったと謝ろうとするも逆に謝られそれをキッカケにして親交が生まれ今でも定期的に会う程の無二の親友になった

サンデーサイレンスのトレーナー
現夫、キザでナンパで良く女性をお茶に誘ってはサンデーに耳をつねられているがその実ちゃんと一筋の財閥出身のおぼっちゃま
『あの日』はサンデーサイレンスのかつての友人達たっての希望を飲んでレース場に招待し共に応援していた
三冠獲得後冷遇され掛けてたサンデーを優遇するように実家の財閥の力を使ってその勢力を一掃していった影のMVP

サンデーサイレンス
日本へは日米の友好を深いものにする為に仕事で行ったが夫婦共々気付いてたら親日家になっていてそのまま住み始めた


アングレカム:星型の花を咲かせるランの一種
花言葉は『いつまでも貴方と一緒に』『祈り』
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