楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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Q.どうして時坂は移籍するにしても南関東だったの?
A.時坂「中央が1番『効く』移籍の仕方をしたかったからな。海外じゃ半ば納得されかねないから地方で脳みそ破壊。んで暇な時国内ダートGIを走りやすい地方っていったら南関東ってワケ。良かったね年度代表選出して^^」


26(番外編).そりゃ黙ってなんていられない

 人生は一度きりだ。

 いや。この世に生きる全ての時間は一度きりだ。

 通り過ぎた時間は決して戻す事が出来ない、取り戻す事が出来ない。

 後悔したってあの日あの時した選択肢に帰る事なんて不可能だって誰だって分かっている、小学生でも分かっているくらいの常識だ。

 

 だが、戻す事は出来ずとも。

 やり直す事は出来る。

 夢はいつでも見れるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

『1000mを通過してブリッジコンプ依然先頭!しかしその差は2バ身程か!?今回は大逃げせずという陣営のコメントがありましたがどうでしょうこの展開』

 

『ここからサウジカップ、ドバイワールドカップも控えているのを鑑みてのリスクコントロールですね。しかし彼女の強味は逃げて差す、その驚異的な末脚にあります。大逃げが出来ずとも問題は無いと思いますよ』

 

『ええ、彼女は何度でもその末脚で我々を驚愕そして魅了して来ました。さあそしてブリッジコンプ先頭のまま最終コーナーに差し掛かる!』

 

『サウジダービーから彼女を見始めましたが……あの時を思い出してしまいますね……』

 

『後続は追いすがれるか!?いや寧ろリードを開いているッ!?栄光まで残り200!!ブリッジコンプ先頭!!ブリッジコンプリードを開いている!!行ってしまうぞ!?行ってしまうぞ!?2番手外からリリカルブロッサムだが前とは離された!!前人未到のアメリカ完全統一六冠王者へ!!その夢はッ!!今ッ!!今ッ!!!果たされたああああああああ!!!!!ブリッジコンプ、アメリカを完全統一!!!今彼女は永遠に降りる事の無い王座へと至りました!!!』

 

『最早解説なんて出来ませんよ……ただ今は、この瞬間に立ち会えた事への感謝と感傷に浸りたいと思います』

 

 

「……私も走りたい」

 

 最初に私の口から漏れ出た言葉は、驚愕でも祝福でも嫉妬でも無く、ただただひたすらに『走りたい』という溢れ出る欲求だった。

 トゥインクルシリーズを実質的な引退をして去ってからどれだけの時間が経っただろう、いやブリッジコンプちゃんとは話をした事があるからまだそれ程経っていないのか。

 

 しっかりとケジメを付けてドリームトロフィーリーグへ移籍するはずだった。

 後悔はあったけれど、何度もやり直したいと感じた事もあったけれど、最後には笑って終われたはずだった。

 

『これで良い』そう思ったはず、だった。

 

 でも、結局私はドリームトロフィーリーグ移籍を決断しきれずに、トレーナーさんと相談してサポート研修科に編入して。

 このモヤモヤは一体何なんだろう、悩みながら過ごしていて。

 

 そのモヤモヤが、今日、今、このレースを見て晴れた。

 ああ、そうか、そうだったんだ。答えはこんなにも近くに、目の前に落ちていたんだ。

 

 それに、あの子のこの言葉もあった。

 

 

『私、ホッコータルマエは4月の川崎記念*1を持ってトゥインクルシリーズから引退します。……体力の衰えもあります、能力自体の衰えは無くても少しずつ自分の身体の回復が遅くなっている、それは1つの大きな理由です。

ですが、私の中で1番突っかえていた、そして何より原動力だった「海外ビッグタイトルGIでの戴冠」をTCダートマイルで成し遂げた今、やり切ったという気持ちになりました。同時に、ここが引き際なのだと悟り今回この場を設けていただきました』

 

『長い間、本当にお世話になりました。次走はドバイワールドカップ、そしてその次に川崎記念を走って引退になります。……最初で最後、ブリッジコンプ選手へ挑戦をしに行ってきます……!最後まで応援、よろしくお願いします!!』

 

 

『やり切ったという気持ち』――確かに私はあの日、納得して、笑顔で別れを告げたはずだった。

 ただ、やっぱりどこかにずっと後悔が残っていたんだと気付けた。

 だから私は、ずっと、トゥインクルシリーズから去ったあの日からも同じトレーニングを続けていたんだ。

 

「……正直、スタミナは衰えてる。――出れるなら、スプリント一択。走った事はある、でも私が欲しいのはGI。それも、国内じゃない場所で。……やれるかやれないか、じゃないよね。やるしかない。走るなら今年が……きっとラストチャンスだから」

 

 まだ歓声鳴り止まない観客席から立ち上がる。

 やると決めたからには1分1秒が大事な時間になる、このレースを観に来たのも答えを知れるかもしれないと来たんだし。

 それが分かった以上、祝福をそっと呟きつつもここにいる理由はもう無くなってしまったから。

 

「あっ」

 

「あっ……」

 

 そしてそうやって考えていたのは私だけじゃないという事も分かった。

 後輩のリッキーちゃんもまたそこにいた。

 この子もトゥインクルシリーズからは去って、ドリームトロフィーリーグ移籍をどうするかと言った中で私と良く話し合っていた事もあった。

 

「……ファル子さんもやっぱり?」

 

「うん。やっぱりリッキーちゃんの中にある気持ちも同じだったんだね」

 

「本当はもっと早くに決断したかったんだけどね、一度引いた身で復帰なんて前例無かったから。でも決めた、私も現役復帰するよ」

 

「よしっ、それじゃ帰ったらまずは2人揃ってトレーナーさんに会おう!」

 

 そもそも制度上現役復帰出来るかは分からないけれど、それでもやってみるしかない。

 もしかしたらダメかも知れないけれど、と思いながらも今は前を向いて2人で空港へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで帰国早々話がしたいなんて、最近は無かったのに珍しいじゃないか。それにリッキーも一緒か」

 

「道理で僕も呼び出された訳か。それで話って言うのは?」

 

「その……秋までで良いから、トゥインクルシリーズに復帰したいの」

 

「風水とか、そういうのじゃない。今までドリームトロフィーリーグに移籍を迷ってた理由がようやくわかったから」

 

「『海外GIを勝ちたい』……!!あの時叶えられなかった夢を、やっぱりもう一度見たいの!」

 

 私達は帰国したその足でトレセンへと向かいそれぞれのトレーナーを呼び出していた。

 自分の気持ちは伝えた、やれるかどうかは分からない、それでもこの中にある想いを伝えないまま終わりたくはなかったから。

 

 2人は顔を見合わせている……凄く緊張するけど、どんな答えが返ってきても大丈夫だと震えるリッキーちゃんの手を強く握る。

 

「あー……その。ファル子もリッキーも知らなかったみたいだから言っておくが」

 

「今の2人は制度上『競技からは引退してないリーグ無所属のプロ』って事に一応なってるからな。復帰は普通に可能だ。*2というか俺も一豊さんもそういうの想定してたしな」

 

「……え!?私達復帰出来るの!?」

 

「や……やったっ!やったよファル子さん!!」

 

「正直俺も裕輝もその為の準備はしてたから、逆に『しないの?』ってそろそろ聞こうかと思ってたところだったぞ?」

 

 ニヤリとトレーナーがいたずらっ子のように笑う。

 まさかこんなにあっさり、それも2人ともそれを望んで待っていてくれたなんて……

 嬉しくて涙が零れそうになってしまう。

 

「ははは、珍しいなあファル子が泣きそうになるなんて。だがそれは勝ってから……だろ?」

 

「……うん!」

 

「さーてリッキー!また明日から忙しくなるぞ!準備は良いか?」

 

「もっちろん!いつでも行けるよ!」

 

 期間限定の夢の続き。

 それはきっと短いものになると思うけれど。

 絶対に叶えて見せると誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ 翌日の朝刊の一面

『スマートファルコン、コパノリッキーがトゥインクルシリーズに帰ってくる!?超電撃!現役復帰へ!!期間は秋まで、双方照準はTCシリーズ!日本ダート界隈の伝説が蘇る!!』

 

『スマートファルコン:やっぱり自分の中でどうしても、もっと海外に挑戦する機会があったと思っていたのが心残りで現役復帰を決断しました。スタミナが徐々に落ちてきてしまっているので走れるのは秋までだと思います。狙うのはTCスプリントです、またファル子の事を応援してくれると嬉しいです!』

 

『コパノリッキー:ブリッジコンプちゃんのペガサスワールドカップを見て、やっぱり私の中の闘志はまだ消えてなかったと確信して現役復帰します。TCダートマイル、そこが私の目標になります。応援よろしくお願いします!』

 

*1
本来ホッコータルマエが川崎記念を走ったのは1月だが24年より4月に移行された。ストーリー構成上こちらの方が綺麗になると言う考えの元こうなった。但しこの世界線での川崎記念は4月末である。

*2
JRAの制度では一度登録抹消されると中央復帰は出来なくなる(地方での復帰は可能)。なのでドリームトロフィーリーグ移籍を迷ってる宙ぶらりんな背景が必要だった訳ですね!




スマートファルコン
元々リッキーとは同じチーム一豊にいて仲も非常に良かった
ダート界隈が盛り上がってるのを見て海外GIにあまり行けなかった事、勝てなかった事の後悔が強くなり現役復帰の道を選んだ

コパノリッキー
元々ファル子とは同じチーム一豊にいて仲も非常に良かった
トゥインクルを去ってから徐々に海外に挑戦しておけば良かったんじゃないかという気持ちになりファル子とは気持ちを共有していた

武田幸治
今回も解説者として呼ばれていた元トレーナー、代表的な教え子にティアラ二冠、GI3勝のメイショウマンボ
ちなみにマンボはドトウと仲がいい

武田一豊
武田幸治の兄であり現役トップトレーナー
サイレンススズカやスペシャルウィークのトレーナーでありスマートファルコンのトレーナーでもあった、みんなのお父さんのような存在

渡辺裕輝
コパノリッキーのトレーナー、若手ながらトップクラスの手腕を持つ
チーム一豊の元サブトレーナーだったがリッキーと共に独立
チーム渡辺の主なウマ娘に南部杯連覇のアルクトスや菊花賞、天皇賞春を勝ったアスクビクターモア、同じく天皇賞春を勝ったシャケトラがいる等ダートと長距離に強いのが特徴

一方その頃のサンライズローズ
「そう言えばローズちゃんいなかったなあ」
「あ?知らないのか?アイツ足の疲労が抜けないからって出走取り消しになってたぞ」
「そ、そうだったんだ…怪我じゃないなら良かった…のかな?」
「まあめちゃくちゃ悔しがってそうだがな。再戦楽しみにしてたからなあ」
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