楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
――私はきっと、あの日を忘れない。
『スペードラン!!スペードラン!!いやもう届かない!!ムーンフェザー先頭!!ホッコータルマエは届くか!!届くか!!届くのか!?届くのか!?届いた!!届いた!!届いた!!差し切った!!!ホッコータルマエ遂に念願の海外GI初戴冠なる!!』
海外GIは取れないかと諦めかけていた闘志が蘇り、そして全力で走り海外GIを初戴冠したあの日。
キッカケはそこまで変わった事じゃなかった。
「私に解説のお仕事?」
「海外ダートGIとはいえ全国放送だしどうかなって思って」
「……うん。気分転換になると思うし苫小牧の宣伝にもなると思うし……受けます!」
「よし、それじゃそれ用に僕はスケジュール組み直してくるよ。取り敢えずそんな訳だし今日はもう休んでて。明日には渡せると思うから」
「トレーナーさんも、無理はしないでくださいね?」
「うん、ありがとねタルマエ」
舞い込んできた全国放送でのケンタッキーダービーの解説。
ダートに詳しくて実績のある、テレビ露出を嫌わない、出来ればそういったメディア露出を積極的にやっているウマ娘を起用したいからという事で話が来た……とトレーナーさんは話していた。
実際苫小牧を有名にしたい一心で積み上げてきたGI級レースの勝利数はあの時点で9個、更に言えば地元を盛り上げる為にメディア露出のチャンスがあるならあるだけ欲しいとも思っていたし断る理由が無かった。
この時はトレーナーさんの優しさや良い仕事を貰えたといった感じで、レース自体がどうなるかなんて全く予想もしてなかった。
だと言うのに。
『頼む!!行け行け行けええええええ!!よおおおおおおし再加速したああああああああ!!!!あたし達の夢が届いたああああああああ!!!』
気付けば私はロコドルである事を忘れて叫んでいた。
ただひたすらに目の前のレースに、同胞の日本のウマ娘に向かって声援を送っていた。
――ブリッジコンプ、それが彼女の名前だった。
名前だけは国内で走ってた時から少し話題になっていたから知っていて、どんな子かはサウジダービーの走りを観て知っていた。
でも今日のパドックではガチガチで、大丈夫かななんて思っていた。
それが間違いだと気付かされたのはゲートが開いた瞬間だった。
見た事が無いくらいの力強さ、スピード……何より輝いている彼女を見たら我慢が出来なくなっていて。
この解説の少し前に走ったドバイワールドカップで勝てなかった心残りがふつふつと蘇ってきて。
彼女が四冠を達成したあの日、私は決断をした。
「トレーナーさん、私TCに出たい」
「そう言うと思ってスケジュールはもう組んであるよ。……勝つ為に出るならブリッジコンプちゃんの出るクラシックじゃなくてダートマイルになるけど良いかい?」
「トレーナーさんの判断を信じてるから大丈夫。……必ず、勝ちますから」
「ああ!一緒に勝とうな!」
そして私はアメリカ遠征で遂に悲願を達成した。
TCシリーズを勝った日本ウマ娘はそれまでたった2人、困難な道のりになると思ったけど絶対に諦めないという想いが届かせてくれたんだと確信している。
「改めておめでとう、タルマエ!!」
「ありがとうございますっ!勝てたのは……トレーナーさんのお陰です……!」
「ああ……これで、僕の心残りも解消されたか。これなら……言える」
「え?」
「タルマエ……僕は君が好きだ。トゥインクルを引退したら結婚を前提に僕と恋人になってくれないか?」
「私で……良いんですか?」
「ううん。僕には君しかいない。だから『君が良い』」
「あ……ありがとう、ございます……!!こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
ずっと秘めていた想いも伝えられた。
それも、これも。全部キッカケはブリッジコンプちゃんのお陰。
あの子が私に諦めない心と闘志をもう一度くれたから。
だから私は『ありがとう』を伝える為に。
トゥインクルシリーズのラストシーズンに彼女と走る事を決めた。
「……今日はよろしくね、ブリッジコンプちゃん」
「まさか先輩と走れる日が来るなんて思いませんでした。……デビュー前から、あの時はあたしの路線は芝だったので道は違いましたが……その時から見ていた憧れの1人だったので」
「嬉しいよ、とっても。……私ね、貴方のお陰でTCダートマイルに挑戦しようって思えた。そして勝てた。だから、ありがとうって伝える為に、貴方を超える為に今日は走る」
「あたしも全力で走ります。今日はよろしくお願いします」
3回目のドバイワールドカップ。
最初の挑戦では掲示板にすら入れなかった。
2回目は去年、ギリギリの5着だった。
これが泣いても笑っても最後の挑戦。
後輩だけど手が届かないくらい強くて憧れてしまう、そして何より恩人であるブリッジコンプちゃん。
最後の挑戦で1番の強敵。
「ふぅ……」
少し遠くには明らかに異質なオーラを纏ったゲートが1つ見える。
間違いない、あれがあの子のゲートだ。あの子自身は気付いていないその圧は間違いなくこのゲート全体を覆っている。
数人は既に顔が青くなっている、私も危うくのまれるところだった。
でも私はそんなに柔じゃない。
今まで走ってきた、獲得してきたGI達が、そしてここまで支えてきてくれたトレーナーさんが勇気をくれるから、今更ここで立ち止まる私じゃない。
――ゲートが開く。
私は駆ける。
きっと今日は、トゥインクルシリーズの中でも1番の思い出になるのだと確信を持って。
「……引退しちゃったね、タルマエ先輩」
「だな。だがまあ既定路線ならドリームトロフィーリーグ移籍だろ、そうセンチメンタルになる必要もねえよ」
「そっか。でも出来る事ならもっと一緒に走りたかったかも。ドバイは本当に楽しかったもん」
「お相手さんは最初で最後の覚悟で来てたけどな。ま、走るのが楽しいって思う気持ちは大切にしろよ。それもまた才能ってやつだ」
「うん」
4月になりあたしは高等部へと上がった。そしてその月末にタルマエ先輩はトゥインクルシリーズからの引退レースを走り切った。
同時に先輩の三連覇が懸かった、このレースと言えばで真っ先に先輩の名前が出てくる程になった川崎記念。
ほぼ同着で並んだそれはほんの僅かに先輩の方が先着という判定になり、三連覇。
引退レースで川崎記念三連覇を決めてこのシリーズレースから別れを告げた。
『写真判定の結果……先着はホッコータルマエ!!ホッコータルマエ三連覇!!川崎記念三連覇で、このトゥインクルシリーズに別れを告げます!!』
「……あたしも。あんなすっきりした顔で引退セレモニー出来るかな」
「さてな。まあ、俺が俺である限り後悔はさせないだろうさ。お前の無敗も継続中だしな」
「ほんと、トレーナーって意味分かんないくらい説得力あるよね。言ってる事はめちゃくちゃなのに」
「くくく、もっと褒めても良いんだぞ?」
「いや最後のは褒めてないからね?」
あの日、ドバイワールドカップでもあたしは優勝を飾った。
タルマエ先輩は3着。
ただ……間違いない、途中後ろから感じた凄まじい気迫は先輩のものだった。
それだけの想いを抱いてくれているのだと思うと光栄で、そして何より下手な走りなんて出来ないと気を引き締める事が出来た。
何より。
『こんなに悔しいって思えたのは久しぶり。でもね、それ以上にとっても楽しかった。――ありがとう、ブリコンちゃん』
そう言われたのが今でも心の奥底で響いている。
あの日はあたしにとっても凄く大事な日になったのだと、確信出来たのだから。
これからもあの人に誇れる走りをしたいと青空に誓った。
-ホッコータルマエ引退セレモニーの言葉-
「……これまで私の事、ホッコータルマエの事を支えてくれた皆さん。本当に、本当にありがとうございました。私は今日この時をもってこのシリーズから引退させていただきます。最後を三連覇で飾る事が出来、そしてトレーナーズカップでも戴冠が出来、本当に幸せなトゥインクルシリーズを過ごさせてもらえました。
今日までの全てのレース、勝ったものも負けたものも、練習も、関わってきた事も、人も、全てが私の大切な思い出としてこれからも生きていきます。
……これからどうして行くかはまたトレーナーさんと考えていきますが、ロコドルは辞めないので!!これからも私と苫小牧の事、どうか応援していてください!!ありがとうございました!!!みんな大好きだよーー!!!」
正直な話、ここまでなんでネームドをあまり出さないまま来たかと言うと『戦わせたくなかった』からです
あくまでもネームドウマ娘には史実がある、元ネタがある、そういったウマ娘相手に所謂『ぼくのかんがえたさいきょうのウマ娘』を当ててしまうのは個人的なポリシーの観点からどうしても許せなかったんですよ
…で、そんな事言ってる癖になんでこうなったのか?
脳内で話を組み立ててる時にタルマエちゃんがずっと話し掛けてきたんですよ『あの子と戦わせてほしい』って
それと同時にエピソードが浮かんでしまったのが敗因です(白目)
マジでこの1回きりです
Q.ブリコンの固有演出ってどんなの?
A.簡単に言うならギル様の天の鎖です
ホッコータルマエ
あのセレモニーの最後の言葉を言い終わった後
「でも一番好きなのは小牧の事だろー!」
と言われ恥ずかしそうにはにかみながら頷いた事で交際発覚、大歓声に包まれたそうな。結局お互い引退まで待てなかったらしい
なおその頃スレ民は血の涙を流しながら祝福していた
一方その頃のサンライズローズ
「むぅ……」
「ダメですよローズ様。クラシックで走り過ぎて脚の疲労抜けてないんですから。今年のサウジとドバイはお預けです。代わりに5月から沢山走りましょう?」
「うぅ……分かりましたわ……ですが!今年のTCはクラシックにしてくださいまし!コンプちゃんと走りたいんですから!」
(いつの間にコンプちゃん呼びに……?)