楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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能力がアプリトレーナーに近いという事はつまりそういう事である


3.ドキドキのデビュー戦!…になるはずだったもの

「あと一週間でメイクデビュー……うう……緊張してきた……」

 

「別に緊張する事も無いだろ。俺の期待値以上に成長したしよゆーよゆー」

 

「もうっ!トレーナーはのんき過ぎ!」

 

 胃を押さえながらトレーナーへのツッコミをするのはお馴染みあたしことモブウマ娘のブリッジコンプ。

 メイクデビュー日も決まり本格的に見えてきた夢舞台、もちろんそんな事を考えると胃痛がするのは当たり前。

 こんなあたしが立てる?あの舞台に?未だに現実味が湧かなくて、でも現実は待ってくれなくて、ああもうどうすれば良いのやら。

 

 そんななのにトレーナーは今日も呑気にソファでゲームしてるし。

 ……そんなこの人でも週末は良く遊びに連れて行ってくれるし、何だかんだ律儀なところはあるのかも知れないけれど。

 まあ大方は自分が遊びたいだけだろうけどね。

 

「呑気ねえ、俺はお前を信用してるだけなんだけどな〜」

 

「うっ……そ、その手には乗らないから!もっと練習とか追い込まなくて良いの!?」

 

「それこそ愚策だろ。レース前に追い込んでも許されるのは精神性と壊れにくいフィジカルの高いウマ娘、コンプみたいに今胃を押さえてるようなデビュー前の奴は寧ろリラックスさせるのが得策だ」

 

「い、言い返せない……!」

 

 そしてこの人は良く遊んでる以上に仕事が出来る。

 いや、仕事を効率良く終わらせてるから遊ぶ時間があるんだ、何より観察眼が凄くある。

 私の友達のあの3人もこの前、私のトレーナーともう1人知り合いっぽい?トレーナーと相談して指導して、そのもう1人のトレーナーに3人同時に引き取られていったけど2人して丁寧に指導してたし。

 というか3人同時に引き取ってったあの人も新人トレーナーだったけど大丈夫なのかな……

 

「なーに、メイクデビューはダート1600m左回り。目下目標のオープン競走カトレアステークスと同条件、前哨戦みたいに思えば良いって」

 

「何のフォローにもなってない!?」

 

「でもツッコミ入れたお陰でちょっとは胃痛和らいだんじゃない?」

 

「……何も言い返せない!ありがとうトレーナー!」

 

「構わん構わん。俺が儲かればコンプもそれだけ勝てて大金持ちだ、全て利害が一致するからな。大船に乗った気持ちでいりゃ良いのよ」

 

 って他人の心配より自分の心配しないとだった。

 この人、一応明確に『ジュニア級ではメイクデビューを勝った場合カトレアステークスを走らせて終了』って言ってるんだよね。

 あたしの緊張しいと自信の無さを考えてジュニア級重賞は重たいと考えてくれたみたい……曰く

「1つずつステップアップしてくれればいいし、重賞に勝てなくてもオープン競走に勝ってコンスタントに俺を儲からせてくれれば満足」

って言ってたから何かこう、素直に優しいとは言いにくいけど。

 

 ……カトレアステークス、1着800万円かぁ。

 ジュニア級で稼げる金額としては相当だよね。

 そこからトレーナーさん1割トレセン1割だから実質640万円だけど、それでも間違いなく学生が手に入れられる金額じゃない、何なら社会人でも一括で触る金額じゃとてもじゃないけど無い。

 本当にメイクデビューを勝てるんだとしたら……生唾が喉を通る。

 

「……金額を想像してドキドキしたか?」

 

「そりゃするよ……カトレアステークスだって1着800万円だよ?あたしの取り分でも640万円残る、オープン競走だって……ううん、何なら1勝する事自体が物凄く難しい世界なんだって改めて感じもした。重みを感じて、そしてそんな場所に行ける可能性があるんだとしたらと考えるとドキドキする」

 

「そうかそうか。こういう競技者ってのはな、いつもどこかに欲を持っていなきゃなんない。金、名誉、モテたい、そんな俗物的な欲望を抱えていた方が向上心ってのは出る。もちろんコントロールは大事だがな。だからそのドキドキは忘れるなよ、お前のモチベーションと俺の金に繋がるからな」

 

「良い事言ったから褒めようとしたのにオチ付けて来たぁ!!」

 

 でもちゃんと良い事は言ってるんだよねトレーナー。

 無欲な人より欲がある人間の方が上を目指す、目指せる、確かに理にかなっている……あたしも憧れのあの場所に立つ為に諦めずに頑張ってきたんだから。

 

「おっ、調子出てきたな。そんじゃ今日は走り込みより沢山食って体力付けとけ。最近胃痛でまともに食えてなかったろ」

 

「あはは……ありがとうトレーナー。でも明日はちゃんとトレーニングするからね!」

 

「おーう。そんじゃ俺はゲームするからお前ものんびりしとけよー」

 

「はいはい」

 

 あと、少しだけトレーナーの為にも……今は、勝ちたい。

 そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあいよいよメイクデビューだぞ、俺のコンディション調整は完璧だったろ?」

 

「正直、文句の付けようが無いとしか言えなかった……!」

 

 迎えたデビュー戦当日。

 昨日までは断続的に胃痛がしたり吐き気がしたりナーバスな気分になってたりしていたのに、いよいよ本番となった時想像以上に冷静になれてる自分がいる事に気が付いた。

 それもこれもトレーナーがいてくれたから……だと思う、変な事も沢山言われたけどその分気楽に言ってくれる言葉に緊張を忘れられる事も多かったし。

 

「後はこれまでのトレーニングの成果を見せれば良い、いつも言ってる通り気楽に行けよ」

 

「うん。……あのねトレーナー」

 

「どうした?」

 

 だから、少しくらいお礼を言いたくて。

 

「前も話したと思うけどさ、あたしって本当にメイクデビューすら遠い世界の話だと思ってて。だからこうしてこの舞台に立つ事が叶ったのは、自分ですら分からなかった素質を見抜いてくれて、ここまで手を引いてくれたトレーナーのお陰。この世界は……1勝すら出来ずに中央から消えるウマ娘が7割、オープン入り出来るウマ娘なんて3%」

 

「本当ならデビューしてそれで満足、そう思っていたのに……今は『勝ちたい』って思ってる。トレーナーの考える『ジュニア級でオープン競走勝利』、それに応えたいって思ってる。……だから、見てて。あたしの走り」

 

「……もしかしたら。コンプ、お前は俺の予想以上のウマ娘になるかもな。ま、頑張って稼いでこい!」

 

 だから、お礼を言われたトレーナーが優しい目でそう言ってくれた時に、グッと胸を鷲掴みにされたような感覚になったのは。

 それはただ単に錯覚だったのか、何なのか……分からないけど。

 

「凄く元気が出たのは事実……!!よし、やってやる!!」

 

 パドックに向かうあたしの足取りが軽くなったのは、事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまった、思わず本音が出ちまった……最初は金稼ぎだけのビジネスパートナーになれればそれで良いと思ったんだがな……いや、だがそれもまた面白い、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブリッジコンプ今、ゴールインッ!!1着はブリッジコンプッ!!終始影すら踏ませない圧勝6バ身差!!前代未聞デビュー戦で大逃げ大勝利です!!』

 

「……?」

 

 今、あたしが聞いているものは果たして本物の実況なのだろうか。

 まずあたしが勝った事すらちょっと信じられないのに、今この実況なんて言った?

 

 ……掲示板を見る。

 

 ちゃんとあたしが1着で、6バ身差。

 

「……嘘でしょ?」

 

 少し前まで、誰にも見向きすらされなかったモブウマ娘である自分が、この光景を作り出した張本人だと自分自身すら信じられなかった。

 

「おめでとう、コンプ」

 

「あ、と、とれーなー……」

 

「なーにマヌケな顔してんだ?お前にゃこの後ウイニングライブがある。ほら、レースはウイニングライブが終わるまでだろ?……行ってこい!」

 

「あっ!う、うん!!あたし行ってくる!!」

 

 でも、トレーナーに背中を押されて思い出す。

 そうだウイニングライブまでやらないと、憧れのセンターになったんだし!

 

 あたしは走り出す、それは新しい夢へと駆け出すように。

 ここから競走者ブリッジコンプの物語が……始まるんだ!!




※この世界では現実の賞金÷2が賞金として付与されているものとしています
※賞金の内8割がウマ娘、1割ずつをトレーナーとトレセンが貰う内訳になっている

明路
時坂を追い掛けて同期としてトレーナーデビューした努力の化け物
ブリッジコンプと練習してた友達3人を全員スカウトしたのもコイツである
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