楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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たとえそれが、道半ばで消える運命だとしても
この想いだけは共に――


32.それぞれの想い、託す想い

『注目の3番人気は6番、ワンダーアキュート。前走ホイットニーステークスではサンライズローズに敗れ2着、そして前走の数日後ワンダーアキュートはトレーナーズカップ・クラシックではなくそのチャレンジレースのGIであるここパシフィッククラシックステークスでの引退レースを選びました。

 

「完敗という言葉以上の何か大きな壁を感じた。トレーナーズカップは自分の立つ舞台では無いと確信してしまった」

ワンダーアキュートはそう語ります。本当は昨年末での引退を考えていた彼女はホッコータルマエの走りに

「もう1年頑張りたい。海外に挑戦したい」

そう言い今日まで走りました。泣いても笑ってもこれが最後の挑戦、実に8年、52走目の集大成を飾るのが今日です。

 

――ひとつ、空を仰ぎます。青くどこまでも続く空は勿論、日本にも、そして韓国にいる2人にも繋がっています。8年で繋いだ、紡いだ想い、人、日本から、韓国から見ているその全てに託して――さあ、ファンファーレです!』

 

 

 

「……がんばれ」

 

 私は今アメリカにはいない。

 声援を送るのは韓国から、中継のテレビ画面越しに言葉を送る。

 それは自分の夢の為、トレーナーズカップという、海外GIで勝ちたいという一度は諦めた夢の続きを見る為。

 隣にはリッキーちゃんもいる、2人揃ってこの招待レースを勝ってトレーナーズカップに駒を進めると気合いを入れてはいる。

 でも、それはそれとして今日この時間だけは、一緒に走ってきたライバルで仲間のアキュートさんの最後の勇姿を見届けたい。

 

 遠い韓国の地から想いを馳せる。

 

 

 

 

『選ばれし11名によるパシフィッククラシックステークス。さあ最後にワンダーアキュートがひとつ大きく深呼吸をしながら11人目のゲートイン、ゆっくりと歩を進めます。

全バのゲートインが完了しました。運命の10ハロンへ――スタート!!』

 

『まずハナに立つのはロケットスタート3番レンゲルストーム次いで11番リードパールは今回逃げ宣言そして9番スカイシャークで逃げ集団構成、次いで先行集団には内に6番ワンダーアキュート1番サマーフラワー4番スピードフラッグ後方集団に2番ダンスインザロンド5番ホークアロー7番セイバー10番マジックロッド8番ゴールドクロック。どうですかここまでの展開は?』

 

『そうですね、UAEダービーから好走は多いんですが勝ちから遠ざかっているリードパールが最終直線の短いデルマーレース場で逃げ宣言してきたのが中々不気味ですね。持っているものは一級品、GIを取ってもおかしくはありませんよ』

 

『やはりそこですか、さあ逃げ集団が1000m通過!日本のワンダーアキュートは依然4番手キープ!』

 

『この距離をキープしきればチャンスはありますよ!』

 

 

 

「アキュートさん……」

 

 リッキーちゃんが不意に呟きながら祈るように手をギュッと合わせる、それくらいアキュートさんの鬼気迫る表情そして全てを出し切る、何もかもを擲ってでも勝ちたいという想いが伝わってくる。

 私達に出来る事なんて祈るくらいしかないけど、それでも。

 

「心はいつでも一緒だよ……!」

 

 

 

『さあ最終コーナーに差し掛かるがレンゲルストームとスカイシャークは落ちていく!しかしリードパールは落ちない!リードパール落ちない!先頭で最終コーナーを回り切る!ワンダーアキュートは2番手だが差は4、5バ身あるか!!249mの最終直線で差し切れるか!?』

 

『ワンダーアキュート渾身の加速!!その差をグングンと縮めていく!!詰めていくぞ!!!届くか!?いや、届かせろワンダーアキュートッ!!!並んだぞ!!並んだぞ!!!――これがッ!!最後のッ!!!闘魂注入だッ!!!ワンダーッアキュートおおおおおおおおおおおお!!!!差し切った!!!間違いなく差し切りました!!!引退レースでアメリカGIの夢掴む!!8年の集大成に花道を作りました!!』

 

 

 

 

「アキュートさぁん……!!良かった……良かったよぉ……」

 

「おめでとう……!!おめでとう……!!」

 

 涙が止まらなかった。

 トレーナーズカップの出走を取り消してパシフィッククラシックを引退レースにすると聞いたあの日を今でも思い出す。

 寂しそうに、でも納得したようにそれを語るアキュートさんに私は何も言う事が出来なかった。

 何年も一緒に走って、プライベートでも仲良くなっていたはずだったのに、気の利いた言葉一つ言えなかった。

 後悔していた、何か言える事があったんじゃないかって、ずっと競い合って笑い合ってきたのに。

 だからこそ。彼女が立ち上がる事も出来ずに涙を流す姿を見て、心打たれない訳が無かった。

 

 

 

 

『では勝利者インタビューに移りますが……大丈夫ですか、ワンダーアキュート選手?』

 

『ぁ、ああ……ごめんねぇ……もう大丈夫だから……手を貸してくれるかい、トレーナーさん』

 

『ほら……立てるか、あーちゃん?』

 

『よいしょ……っと。――ああ、空が青いねえ』

 

『そうですね。この空はきっと日本にも……そして、韓国にも繋がっています。今のお気持ちを聞かせて頂けますか?』

 

『正直言うと……未練が無いとは言えない。でも、少なくともあたしじゃあの舞台には立てない、だからこの舞台に全てを懸けた。悔しいけれど、清々しい気分だよ……』

 

『ありがとうございます。我々の胸にも響く、そんな言葉でした。最後に、応援してくれた皆さんへ何か言葉などありますか?』

 

『お父さんとお母さんには、ここまで長く走れるくらい元気に育ててくれた感謝を、日本のみんなには「今まで応援してくれてありがとう」を』

 

 

『そして――ファル子さん、リッキーちゃん、観とるか?あたしはねぇ、後悔が無いと言えば嘘になる。納得もしとるし清々しい気分なのも本当だけどねぇ、それでも湧き出てくる気持ちはあるんよ。だから――だから。今度は2人の番じゃよ。タルマエちゃんの走りに応援を貰ったように、あたしからは今日の走りを2人への応援にする。代わりに……ちょっとしたワガママだけれどね、もしもファル子さん、リッキーちゃん。許されるなら――あたしの……この、想いだけでも、トレーナーズカップに……連れてって……もらえん、かな……?』

 

『あーちゃん……本っ当に良く頑張った……今は、今だけは泣いたって良いんだぞ……』

 

『彼女はいつも言っていました、《いちばん大事なのは諦めないこと》と。その彼女が道半ばで諦める選択肢を取りました、自らの意志で8年という長い、長い現役生活に終止符を打ちました。ですが彼女は《このレースを諦めなかった》。その想いが、この結果に、優勝に繋がったのではないでしょうか。私は、そう思っています』

 

『ありがとう……ありがとう……トレーナーさんっ……』

 

 

 

「絶対……!!絶対連れてくから……!!アキュートさんの想いまで一緒に連れていくから……!!」

 

「大好きなライバルがここまで言ってくれたんだもん、ファル子は必ず勝つよ……!!」

 

 思い出すのは何年も昔の東京大賞典、あの時は最終直線で伸びてきたアキュートさんとの壮絶な追い比べ、死闘の末に私が勝ち取った。

 とっても悔しいけど楽しかった――あの時の言葉を良く覚えている、いつもの朗らかさは無かったけど本当に心の底から楽しかったんだろうと感じたアキュートさんは笑顔だった。

 

 その、負けても最後には笑顔だったアキュートさんが今日は最後まで、担当のトレーナーさんに連れられて帰っていく時でさえずっと、ずっと泣いていた。

 そこに、その涙に一体どんな想いが込められていたか……そんなもの一緒に走ってきた私に分からない訳が無い。リッキーちゃんも同じ気持ちのはずだ。

 

 そう、ウマドルはみんなの想いに応える為の存在。

 そのウマドルにこんなに大きな想いを伝えてくれたんだもん、だったら負けられるはずがないよね。

 

「……がんばろ、リッキーちゃん。必ずアキュートさんの想いも乗せて、アキュートさんの分まで勝って笑顔で帰ろう」

 

「うん……うんっ!!」

 

 2人で誓う、それは最初で最後の託された想い。

 ギュッと、どちらからともなく手を握るのだった。






ウマ娘の年齢云々とか学園在籍云々とか良く分からないんでフィーリングで見てくれ!8年とかどうすんねんこれってなったけど無理や!

ワンダーアキュート
実のところ大きな壁というのは衰え云々の話もあったので単純に諦めたという話ではなかったりする
そら8年も現役してたら限界迎えるって…
トレーナーとは幼なじみで『大きくなったら一緒にGIを勝ちたい』と約束していた
普段はずっとトレーナーと熟年夫婦みたいな仲を見せている

ワンダーアキュートのトレーナー
元はチームリゲルという現在テイエムオペラオーやテイエムクロード等が所属するチームのサブトレーナーでありワンダーアキュートは1人立ちの為に自分のメニューで育てていた
独立して初めての担当は勿論ワンダーアキュートで8年一筋でサポートしてきた、20代後半のトレーナー
このトレーナーやアキュートを見掛けたウマ娘曰く
「どっちもなんですけど、たまに左手の薬指が光ってる時があるけど気付くと慌てて隠すんですよね。それが不思議で不思議で…」
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