楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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ああ!俺は止まらねえからよ!
この作品の展開も爆走するんだ!色んな意味で!


38.こういう話は得てしてフラグになる

『……嫌だな』

 

 サウジカップ連覇が目前に迫った2月中旬。

 去年の今頃なら意気揚々と金の計算をしていたはずだが、今年はあのペガサスワールドカップ直後の自分の吐いた言葉が脳裏から離れなかった。

 自分でも何故、どうしてあそこで口が滑ったのか分からない。

 いや、自分の気持ちは本当は理解している。ただアイツの大事な時期に水を差す行為を、それも大人である俺がする訳には行かないと気のせいである事にしたまで。

 

 だがそれとこれとは話が違う。

 

 全てコントロールしきっていたはずだった。

 それが思わず自分のコントロール外で漏れ出た、というのはあまりにもこの先面倒を起こしかねないものだ。

 さて、どうしたものか……と普通は思うのだが俺には生憎と『そういう時の為に』トレーナーの教科書としていた人物がいた。

 笠松にいた頃、オグリキャップの観察をしていた頃に世話になっていたオグリキャップの笠松時代のトレーナーであり、彼女を追って中央のトレーナーになった努力家でもある。

 

 年齢は40代と大分なベテランだが、だからこそ経験豊富なあの人からはトレーナーの実務やウマ娘との付き合い方や姿勢等学べる事が多かった。

 そういう訳だ、まさかトレーナーになっても相談事が出来るとは思わなかったが何かしら良い答えが得れるだろう。

 

 スマホを手に取り慣れた手付きで電話帳から『師匠』と書かれた番号を押す。

 

『おお、なんだ時坂んとこの坊主か。珍しいなお前から電話なんて』

 

「お久しぶりです師匠」

 

『ったく、もうとっくの昔に天上人みたいになってんのにその呼び方は変わんねえのな』

 

「俺にとってトレーナーの基礎や姿勢は師匠から学んだものなので」

 

『そりゃありがてえな。んで、どうしたんだ?今予定通りならサウジカップに向けた遠征中だろ。お前なら俺の助言が無くてもここまで順調だったんだから問題は無いと思ってたんだが』

 

「ええ、まあ。……本当はそうだったんですが一つだけイレギュラーが出てしまいまして」

 

『イレギュラー?完璧主義者の坊主がか?』

 

 この人からは俺がトレーナーを明確に目指そうと思う前から学ぶ事が多かった。

 成功だけじゃない、師匠の苦労も失敗も苦悩も全てが俺の中ではトレーナー以前に人生の教材として非常に貴重なものだった。

 だから他の人間……光利にさえ話すかどうかを迷うこの事柄に付いて躊躇無く話そうと思えた。

 

「はぁ……自分でも呆れてしまうんですが、少し感情のコントロールが効かなくなる出来事がありまして」

 

『ほう』

 

「恐らく、なんですが。そのせいで自分の担当に俺が恋慕している事を少なからず悟られました」

 

『はい?』

 

「それで、人生経験とトレーナー歴の長い師匠であるなら『担当に恋慕がバレた時の対処法』なんかもご存知では無いかと思いましてね」

 

『待てっ!!待って!!急展開!!いきなり急展開!!俺に恋愛相談は聞いてない!!俺独身なんだけど!?』

 

 そういえばこの人独身なんだよな、高身長で収入も中央赴任してオグリ担当してるからかなりある上に40過ぎとはいえ男前な顔立ち、モテないとは思えないんだがな。

 

「ですが恋愛経験程度は何回かあるのでは?」

 

『いやあるけども……あるけども……!俺にわざわざすんのかい!』

 

「どうせ周りにも恋愛経験と信頼どちらも兼ね備えた大人はいませんからね。おかしいですよね、信頼出来る大人の中に既婚者いないって」

 

『親御さんに聞くとか選択肢に無かったのか?』

 

「担当相手ですからね。特殊な状況過ぎて相談のしようもありませんよ」

 

『ううーん、確かにそうか……分かった、俺の事を師匠と呼んでくれる奴の頼みだ俺にやれる事だって言うんなら協力しようじゃないか』

 

 実際この相談をするとしたらまずはトレーナーに相談者が絞られる訳だが、既婚者で親しいトレーナーと言えばサイレンススズカ等のトレーナーをしている一豊さん、タルマエのトレーナーである小牧先輩。……うん、くらいじゃないのか。

 とはいえ親しいにもレベルというものがある、あの二人にこの事を話すというのは中々憚られる。

 おいそれと話す仲には至っていないというのが俺の見方だ。

 

 他にも親しいトレーナーはいるんだが……俺の親友こと光利はそもそも現状恋愛どころじゃない、学生時代も恋人を作っていた事は無いから参考にならん。

 あとリリカルブロッサムのトレーナーとも仲はいいが奴も恋愛経験無しだった、という訳で相談出来る条件が整っているトレーナー自体師匠しかいなかったことになる。

 

『そんで、まずは何から聞きたい?』

 

「取り敢えずはトレーナーとウマ娘の恋愛がどれくらい世間に認知されてるか、というところからですかね」

 

『……まあ、お前の思ってる通り割と認知されてるぞ。それにかなり寛容な見られ方もしている、構図としちゃ教師と生徒みたいなもんなんだがこれは昔からの伝統ってやつだろう。大昔からトレーナーとウマ娘の恋愛ってのは鉄板ネタとして扱われてきている』

 

「ふむ……そうなると世間体は問題無しか」

 

 個人的に調べていた時に見たどの時代の文献にも確かにその時代のトレーナーとウマ娘の恋愛については割と載せていた。

 そうなると世間体というものは問題が無い。

 だが大きな問題点はある。

 コンプの気持ちだ……アイツの場合LIKEとLOVEとの境界線が分からん、懐かれているのは確かだが恋愛経験0のガキだと自覚というものが持てないから困ったものだ。

 俺は大人だから自覚は持てたが。

 

『ちなみにだが、お前の担当がお前に惚れてんのは俺から見ても分かるくらいだったからそこも問題無しだぞ』

 

「……分かるものですか」

 

『あとお前もな。双方分かりやすい癖に全く進展が無いからやきもきしてたんだぞ』

 

「成程……やはり人生経験の差か……師匠に相談して良かったです」

 

 驚いてしまう。

 まさかそんなにアイツのそれが分かりやすかったとは……俺の恋愛経験の無さのせいで感知出来なかっただけという事か。

 それに俺のそれまで既に見透かされていたとは。

 やはり師匠が師匠で良かったと噛み締める。

 

『多分俺じゃなくても分かると思うが……拗れそうだしやめとこ』

 

『ああ、それはそうと双方の親御さんの許可は取れよ?一応トレーナーって保護者代わりみたいな存在だからさ』

 

「それなら問題無いですね。相手方のご両親からは寧ろオススメされましたしこっちの両親はコンプ相手に『婿に貰ってやってくれ』なんて言ってましたから」

 

『お前それシレッと外堀埋められてないか?』

 

「今回ばかりは好都合ですがね」

 

『平然としてんなお前……』

 

「それ程でも」

 

『いや褒めてねーよ』

 

 まあ平然としている訳ではないんだが、現状色んな意味で、そう色んな意味で開き直った方が良い状況である事に気付いた為わざわざそうしている。

 悟られない為に平然としている風を装ってはいるが。

 

『ま、何にせよだ。……選択を間違えるなよ。俺と事情は違えど同じトレーナーとしての岐路に立たされてんだ、軽率な行動で俺みたいにはなるなよ』

 

「ええ、勿論分かってますよ。どれだけ苦しんできたかなんて俺は師匠をずっと見てきたから痛いくらい分かっています。そして師匠がそれを逆に成功に変えた事も……ですがね」

 

『あんなのは奇跡に近い、自分でも良く成功に変えられたもんだと思ってるよ』

 

 選択を間違えない。

 俺が何よりもトレーナーとして重要視している項目だ。

 分かっていても間違えてしまうトレーナーも人間も数多くいる、だからこそいついかなる時も心には師匠の言葉がある。

 だからここまで失敗せずにコンプを育て上げられた。

 

 それはとても誇らしい事であり俺にとって最高の数年間だったと言える出来事だ。

 

 ……そう、ここまでは、の話だが。

 

「師匠」

 

『なんだ?』

 

「良いニュースと悪いニュースがあるんですがどちらから聞きますか?」

 

『え?……じゃ、じゃあ良いニュースから』

 

「良いニュースは今俺が史上最高に焦っているというプレミア級の珍しい状態にいるという事です」

 

『は?』

 

「悪いニュースはその理由がそこのクローゼットの中に恐らくコンプがいるという事です」

 

『え』

 

 つい、さっきだった。

 そこのクローゼットから『ごとん』という音と『ミッ』というコンプ特有の断末魔が聞こえてきたのは。

 

「はい、つまり全て聞かれていましたねこれ」

 

『おいおいおいおいおいおいおい冗談だろおいぃ!!』

 

「ハッハッハッ、いやはやどうしましょこれ」

 

 今回ばかりは本当の本当に本音で笑うしか無かった。

 

 

 ……本当にどうしようか、これ。




師匠
オグリキャップのトレーナー
時坂が幼少期の頃からの知り合いであり時坂がトレーナーの道をある程度躊躇していたのはカサマツトレセンがベースイメージだった為
笠松時代からトレーナーだったがオグリの中央移籍当時に中央ライセンスを持っていなかった為猛勉強の末にライセンスを取得しベテラントレーナーから引き継いだ
無類のレース好きで長身、ハンチングキャップが目印の40代
オグリキャップからはもう1人の父親のように慕われている(オグリからの恋愛感情はガチの方で無い)
中央トレーナーになって良かった事は『オグリと再会出来た事』と『財布を気にせずめいいっぱいオグリに腹いっぱい食わせてやれる事』
独身だが数年前にスカウトした、頭にティアラを乗せたツインテールのウマ娘にものすごい感情を抱かれている事には気付いていない

数年前にスカウトされた師匠のウマ娘
『師匠』が中央トレーナーになって初めてスカウトしたウマ娘
ティアラ二冠にエリ女杯、大阪杯に有馬記念を勝っている超エリート
師匠に馳せる想いが何なのかは、本人のみぞ知る
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