楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
あざすあざす
『6月〇〇日メイクデビューは大波乱!8人立て8番人気・ブリッジコンプがまさかの大逃げ6バ身差圧勝!次走は!?』
『ブリッジコンプ、次走決定的!!GIII・JBCジュニア優駿へ!!』
『トレーナーコメント:彼女は元々スカウト前から注目されない子でした。なのでまずは少しずつ重圧に慣れさせていく為に年内はJBCジュニア優駿、そこで打ち止めという形を取らせていただきます。代わりにそこで好走出来れば年明け以降はあっと驚かせるのでお楽しみに』
「……ねえ、トレーナー?」
「なんだ?」
「あたし、次走聞いてないんだけど」
「まあ、あの場で決めたからな。今から言おうとはしてたんだが」
「勝手に次走がカトレアステークスじゃなくなってるんだけど!?」
「そりゃあメイクデビューで6バ身圧勝したウマ娘がオープン競走でジュニア級を終えるのは勿体ないじゃん?」
「ぐうの音も出ないけど昨日相談してほしかった……!!」
あたしは翌日絶句していた。
それもそのはず、朝刊で次走がカトレアステークスではなくJBCジュニア優駿に変更されていた事を知ったからだ。
確かに言ってる事は正しいけどさ……どうして担当が翌日の朝刊で次走を知る羽目になってるの!?
そもそもあたしは大逃げなんかしてないけどね!?
普通に逃げを敢行してたはずなんだよ……信じてほしい、嘘じゃないから、本当に。
「でも勝ちゃ賞金1750万、お前の取り分は1400万もあるぞ。メイクデビューの248万で手が震えてたコンプからしたら天上人みたいな金額だ」
「ば、倍額以上……なんで第2戦でもう重賞なのよ……重賞なんてGIIIでも取れるウマ娘は1%すらいないのに……」
「大丈夫大丈夫、お前がその0.何%の内の1人になるだけだから」
「何も大丈夫じゃないってぇ!!」
「これでも全日本ジュニア優駿出ない選択しただけでも褒めてもらいたいもんだがな」
「……本音は?」
「JBCジュニア優駿と日程がそこまで空いてない上に賞金も前者とほぼ変わらないから下手にGIの重圧与えるよりは休ませた方が良いかなと」
「割とまともな事言っててツッコミどころ逃した……!!」
でも本当に全日本の方は出ない判断してくれただけ優しさはあるんだよね……多分。
そうだよね、そうだと信じたい。
まあ、もう少しあたしが重圧とか大舞台に強いようなウマ娘ならそっちも出てたんだろうけど……と思うと少し引け目を感じてしまうところも無きしもあらず。
ちょっとだけ優しさが痛い。
「引け目とか何とか考えてそうな目してるな」
「うっ、なんで……」
「コンプが分かりやすすぎるんだよ。そう思うなら気楽にやれ、どうせ11月頭のレースなんだから今からあたふたしてても意味無いしな」
「それもそうかぁ……ここまで来たら腹を括るしかない……」
「おうおう、多少はプレッシャーに強くなってもらわないと困るからな。来年は嫌でも賞金貯めてGI連れてくし」
「そ、そうだよねっ頑張らないとっ」
「とは言っても変に力んでトレーニングしたり過剰なトレーニングはすんじゃねえぞー、どうしても変えたいと思ったら俺に言う事。状態と本番までの日数次第だが組み直す可能性はあるからな」
「分かってるよ、『いつも通り気楽に』でしょ?」
ニヤリとトレーナーが笑う。
あたしだってそろそろこの人の単純な思考くらい読めてきている、自慢じゃないけど。
「分かってんじゃねえか、健康な身体は健康な精神から生まれる。特にウマ娘のレース競技者としての全盛期は長くても大抵5年も無い、貴重な時間を怪我で終わらせたら俺の計画も台無しって訳だ」
「……もーほんと、いつもの『それ』さえ無ければ良い事言ってるのになあ」
「俺のスタンスは金稼ぎだ、それは変わらねえ。だがこのノリに着いてこれるコンプ、お前の事は嫌いじゃない」
「そっか……えへへ」
トレーナーにそう言われると嬉しいと感じてしまう。
何せ『私を選んでくれた』と言ってくれてるようなものなんだから、誰でも良かったと言われたら流石のあたしでもちょっとばかりはショック受けてたと思う。
「何照れてんだか」
「だってほら?トレーナーの事だから『金が稼げるなら誰でも良かった』とか言いそうで」
「いんや?こう見えてノリに着いてこれそうかどうかはかなり大事だからな。反りが合わないと契約解除なんて事にもなるしな、特にシンボリルドルフやエアグルーヴみたいな厳格なタイプ、マルゼンスキーやミスターシービーみたいな自由人はまず合わない。個人的には好きだがグラスワンダーやキングヘイローも無理だろうな。あの辺で合うのはナイスネイチャってところか」
「……ちゃんと考えてるんだ、ちょっと嬉しいかも」
「そう思うなら次のレース、俺の為に頼むぞ」
「はぁ……はいはい、こうなったら重賞ウマ娘になってやる!」
こうしてあたしの人生の大きな転換期であるレースに向けて練習が始まる……はずだった。
『1着はなんとブリッジコンプ!!6番人気ブリッジコンプがまたしても大逃げでゴールインッ!!なんと8バ身差!!圧倒的な実力差で逃げ切ったああああああ!!!』
「いやだからなにこれ」
デジャブでしょうか、いいえこれは現実でした。
おかしい、メイクデビューで見たバ身差にデジャブを覚えるとか何かの記憶違いでも起こしてるあたし?
頬をつねる……あ、これやっぱりどこまで行っても現実だわ。
というかこのレース、GI全日本ジュニア優駿のトライアルレースでもあるからほぼ全てのジュニアダート組が集まってるはずだよね?え?これであたしトライアルだけ出るの?
自分の所業に絶句しながらもウイニングライブが踊れたのは恐らく「ウイニングライブの人気度合いによってはグッズ収入もあるから絶対怠るんじゃねえぞ、良いな?」と念押しされていたからだろうか。
「今回は事前に言っておくが次走は二月末」
「あ、結構空くんだ」
「サウジアラビアだから」
「はい?」
「海外遠征、サウジダービー。GIIIだからそんな気負わなくて良いよ」
「唐突な海外遠征は流石に気負うわ!!それに1着45万ドル*1だよ!?一気に賞金跳ね上がってるって!!」
「ダートウマ娘はただでさえ国内じゃ不遇なんだから海外遠征は基本だろ、それに高額レースのあるサウジアラビアだからこそ俺の趣旨に合ってる。勝てば俺の年収以上の収入が一気に入ってくるしなグヘヘ」
「いやあたしダートには詳しくないからね?まだダート転向して7ヶ月だからね?言ってて自分でも何やってんだろうって感じ始めてるけど」
そしてライブ後、あたしはまたもや絶句していた。
プレッシャー云々言ってたから国内でじっくりやって行くのかと思っていたけどサラッと海外遠征、それも世界最高金額レースサウジカップでお馴染みサウジアラビアだし。
「ったくコンプ、お前はもうジュニア級GIIIとはいえ重賞ウマ娘なんだぞ。それくらいでビビってたらGIになんて心臓がいくつあっても出られねえ。ちょっと旅行行ってくるわウェーイw的な感覚でいれば良いんだよ」
「それはそれでどうなの……」
でも毎度言われてる事自体は事実なのがまた何とも。
うぐぐ、ここまで言われると流石の自分でも受け入れないと行けないのだと言う自覚を持たされる。
もう自分はモブウマ娘と言ってられる程傍観者じゃいられない、何がどうしてこうなったのかは未だに分からないけどこうなったらとことん付き合うしか無い!
「……ん、覚悟決まった?」
「よ、よしこうなったらとことん付き合うんだから!待ってろダートクラシック三冠*2!!」
「おう、その調子その調子」
なんか上手く乗せられた気もしないけど、目指すは国内ダートクラシック路線で一冠!
こうなればGIウマ娘にだってなってやるんだから!見ててよね、トレーナー!!
「トレーナー!!勝ったよサウジダービー!!」
「いやーおめでとう、じゃあ次のレースは――」
「……はい?いや嘘だよね?」
でもまだまだあたしは、この人の頭のネジの外れっぷりの真骨頂を知らなかったのだとサウジダービー勝利直後に実感させられるのだった――
「やっぱりこの人何かおかしいよね?あたしがおかしいんじゃないよね?」