楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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44.迎え撃つに相応しいか

「――ムーラン・ド・ロンシャン賞。彼女、ブリッジコンプが初めて走るフランス、ロンシャン芝のGI。迎え撃つに相応しいかどうか判断するのにこれ以上の条件は無いでしょう」

 

 フランスの夏、そしてマイルを代表するGIレース、ムーラン・ド・ロンシャン賞。

 例年であれば私自身には関係の無い欧州マイルレース、何せ私にマイルは短過ぎる、ジュニア時代スプリントとマイルを計7戦走って1勝しか出来なかった苦い思い出もある。

 正直言えば、あまり関わりたくは無いとすら思う程。

 

 とはいえ今年はそうも言っていられない。

 私の引退レース、凱旋門賞4連覇の懸かるレースに出てくるダート史上最強ウマ娘とすら一部では言われている《THE FIRST EMPEROR》ブリッジコンプ。

 彼女がフランスで走るのは凱旋門賞とこのムーラン・ド・ロンシャン賞だけだ、だとするならばこれを見逃すという選択肢は自ずと消える。

 日本の芝マイル頂点を決めるGI、安田記念でも彼女は現役日本芝レース最強と言われたウマ娘相手に圧倒して見せた。

 

 もしも、あの走りがフランスでも再現されようものなら……

 

私のフィナーレ(凱旋門賞)を飾るに相応しい、そう言えるでしょう」

 

 

 

『夏のフランスマイルGIと言えば、ジャック・ル・マロワ賞とこのムーラン・ド・ロンシャン賞でしょう。ですが今年は例年以上の盛り上がりを見せています。それもそのはず、ここまで無敗17勝、GI14冠のダートキングがフランスに乗り込んできました。安田記念でもその圧倒的な強さで戴冠した彼女は果たしてここロンシャンでもその力を発揮出来るのか注目が集まります』

 

『さあパドックが映ります、見ていきましょう。5番人気は2番、日本からテイエムクロード。日本マイルでは無類の強さを誇っています』

 

『しかし前走ではブリッジコンプの前に惨敗。着順こそ2着だったものの精神的なコンディションに不安が残るかもしれませんね。仕上がり自体は問題が無いので思った以上に人気が出なかった、という印象もあります』

 

『なるほど、5番人気はやや低いと』

 

『そう捉えられますね』

 

 

 日本からはもう1人参戦してきている。

 安田記念2着のテイエムクロード、彼女も既定路線ならば凱旋門賞に乗り込んでくると聞いている。

 実際5番人気ではあるものの身体の出来は出走ウマ娘の中でもかなりの上位に位置する、精神的コンディションにおいても肌ツヤの細かな面を見れば分かるがほぼ問題無し。

 

 好走すれば益々面白くなる1人に違いない。

 

 

『2番人気は12番、ブリッジコンプ』

 

『彼女が1番人気を外れますか。これは意外ですね』

 

『ええ、芝でも実績を残しての参戦ですからかなり異例の事態と言って良いかもしれません』

 

『芝での実績が安田記念のみである事と、1番人気に推されたのがGI2勝、前年度同レース優勝で地元パリ出身ウマ娘のガルーダナイトとなるとブリッジコンプの人気薄と言うよりガルーダナイトの人気が高いという事に繋がるのではないでしょうか』

 

『しかし本人は人気薄も何のその、気にせずいつも通りのパドックといった印象ですね』

 

『彼女はレースでの人気には一切こだわりを見せませんからね。我々の心配も人気薄もブリッジコンプの耳に入ったとて何一つ影響は無いと思いますよ』

 

 

 ……しかしブリッジコンプが1番人気ではないとは、些かガルーダ贔屓が過ぎるのではないだろうか。

 いや、彼女ガルーダナイトも強いウマ娘だ。

 GIこそ2勝だが国や芝の質を不問としてGIで好走を重ねている実力者、普段なら1番人気に推されるのは寧ろ当然と言われても過言では無い。

 

 問題は『ダート13冠、更に安田記念で10バ身差の大勝、息の一つすら上がっていなかったブリッジコンプが1番人気になっていない』その一つだった。

 

「……言いたい事は分かるんですがね。あのパワーとスピードを見て1番人気にならないのはどうにも納得が行きません。ここで凡走をするウマ娘でない事は分かりきっているというのに」

 

 私が見に来たのはあくまでも彼女が勝つ姿ではない。

 彼女の勝ち方だ、どう勝つか、上がり3ハロンは、タイムは、スタミナ残量はどうか。

 その全てを余す事無く見定める為にここにいる。

 

 そう、ブリッジコンプが勝つのは大前提。

 負けるはずが無いという確信を持ってここにいる。

 

 ウマ娘達がゲートに入る。

 周りがどうあれ、私がやる事は一つ。

 それ以上も以下も無し。

 

「見せてくださいね……貴方の強い走りとやらを 」

 

『さあ各ウマ娘がゲートに収まりました。……スタート!8番フォッグザインパルスと1番クロスアルタイル出遅れた!3番ミストゲイルハナを狙うがブリッジコンプには届かない!やはりハナを奪ったのは12番ブリッジコンプ!やはり彼女のコンセントレーションは絶品ですね』

 

『ええ、本当に洗練されていますよ。それにスピードもパワーも芝でも問題にしていないです。いやあ……本当に凄い。彼女からハナを奪うのはフランスからサッカーが消えるのと同等レベルの難しさなんじゃないですか?』

 

 

「やはり彼女の強味はスタート、それにスピードとパワーも見立て通りですね」

 

 何年も芝の頂点に立ってきた私ですら絶品だと感じてしまうスタートの第一歩目、それに加速力の高さと最高速度。

 どれを取っても息を飲むようなそれは思わず魅入ってしまう程。

 

 なんて美しいんだろうか。

 

 ――それに、この生命が輝くような走り。

 漲る生命力の塊のような走りは、否が応でも私が魅入ってしまうのは当然だった。

 

 

 

 かつて私は大きな怪我を負った。

 シニア一年目の年明け、これから前年に負けた凱旋門賞へのリベンジに向けてトレーニングを積んでいた、そんなある日。

 

 事故だった。

 ウマ娘なら誰しもが恐れ、そして隣り合わせである『走行中の転倒事故』。

 そこで骨盤の骨折、それに頭部強打による長期間意識不明の重体に陥った。

 幸い今こうして健康に走れる程に回復しているとはいえ、目を覚ました瞬間身体が全く言う事を利かない事に深い絶望を覚えたのは今でも記憶に刻み込まれている。

 

 もう走れない、とまで言われた。

 

 それでも、ああそれでも。

 私はまた走りたい、凱旋門賞でもう一度、今度こそは栄冠を掴みたい。

 その想いだけで地獄のようなリハビリに耐えた。あの舞台に立つ為ならなんだってしてやるという覚悟の下で。

 

 だから。

 

 

 

「だから、この走りは……こんなにも生命力に満ち溢れた走りは、惚れ惚れとしてしまいます」

 

 こんなにも心酔してしまいそうになる。

 彼女に、彼女の走りに。

 

 

『最終コーナーを回ってブリッジコンプがやってくる!ブリッジコンプが先頭で迫ってくる!日の丸の黄金バ体が先頭だ!!ガルーダナイトはまだ伸びてこない!そして2番手もテイエムクロード!日本勢だ!!なんと!なんと!!日本勢ワンツーフィニッシュ!!ここロンシャンに、確かに日の丸の旗が突き立てられた!!』

 

『やはりブリッジコンプは魅せてくれますねえ!これは凱旋門賞も楽しみですよ!』

 

『しかしテイエムクロードも2着ですか!日本のウマ娘はロンシャン芝に苦しめられる事が多い傾向にありますが、これは苦にしていないと見て間違いなさそうですね』

 

『ええ、ブリッジコンプとは離されましたがこのタイム。1600から2400まで一度も3着以内を外していない実力がある以上、凱旋門賞でも良い走りが期待出来るでしょう』

 

 

 やはりこの目に狂いは無かった。

 テイエムクロードの2着に思わず笑みが溢れる。

 あのコンディションまで仕上げられてしっかり2着に食い込んでくるのであれば、本番でもマークに入れる1人として認識しておきたい。

 

「……ふふふ、いやしかし。それ以上にやはり彼女の上がり3ハロンには驚かされてしまいますね」

 

 ――31秒ジャスト。それが彼女の上がり3ハロンタイムだった。

 

 あれが大逃げウマ娘の計測したタイムとは到底思えない、正しく彼女にだけ許された『神速の末脚』。

 しかし勝てないタイムではない、こちらとしても伊達に世界最強の芝ウマ娘を名乗っちゃいない。

 

「だからこそ胸が高鳴る。走り甲斐がある。――ああ、待ち遠しい。私達の名が歴史に未来永劫語り継がれる日が、100年200年、1000年2000年経っても褪せる事無い伝説を紡ぐ日が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-オマケ-

 

「思惑通りワンツーフィニッシュ決められましたね」

「これでひとまずフランスに僕達の印象を鮮烈に残す事は出来ただろうね。後は本番だ」

「ええ。勿論凱旋門賞でも負けませんがね」

「いやあ流石にいつまでも負けっぱなしじゃいられないよ」

 

「ふっふっふっ」

「ふっふっふっ」

 

「何やってんだろあの二人……」

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