楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
『……つー訳で数時間後の便でそっち向かうわ。ちなみに応援団にはリリカルブロッサムとそのトレーナーも着いてくことになったからよろしく』
「おう。……いや待てリリカルブロッサム陣営は今年TCクラシックに出るのにフランスに来て大丈夫なのか」
『ああ、なんでもブロッサム本人が「1週間もあれば調整は終わる、ぶい」って言ってたからな』
「……らしいと言うかなんと言うか」
本番数日前、光利からのビデオ通話でフランス入りがギリギリになるのが伝えられたがどうやらギリギリになる代わりにリリカルブロッサム陣営が着いてくるらしい。
確かにコンプとも仲は良好、だとすれば来るのは納得出来るがTCクラシックの為のアメリカ遠征ギリギリに良くフランスになんて来るもんだ。
奴ら以外では考えられないだろう。
それで、光利がなんでこんなギリギリの入りになるか、だが。
『ご、ごめんなさい……私のメイクデビューのせいで……それも負けて……うぅ……影も薄いのに……』
『だー!だからメルのせいじゃないって言ってるだろ?お前の大事なメイクデビューだったんだから!そっちもこっちもどっちもやる、やりたいからやった、それだけのことなんだからさ』
「ま、気にすんなよ。そいつは本当にそういう奴なだけだ。気にしたら負けってやつだ」
サムソンゼットをスカウトした後、8月辺りにまたもや新しいウマ娘をスカウトしていた為だった。
中々スカウトされずに落ち込んで泣いていたウマ娘を、最初は親切心で話を聞いたり色々アドバイスを出していただけが気付いたら放っておく事が出来ずにスカウトしてしまったのだとか。
そんでそのメイクデビューが今日だから予定より入国が遅れたらしい、本当にコイツは『らしい』というかなんと言うか。
『そ、そうだよ!私だってメイクデビューは10着だったし!ほら、それでもトレーナーさんの為に頑張ろう!』
『うぅ……ゼットせんぱぁい……』
ちなみに名前を『メールドグラース』というらしい。
『とにかく、応援自体は問題なくやれるはずだから心配すんな!』
「おう、そんじゃな」
『ああ。次は応援席にいる俺らを見つけてくれよな!』
通話を切る。
しかし面白いものだ、5人以上いれば1チーム……ともなれば俺より先に光利がチームを組む事になる。
本当に俺の親友は面白い奴だ。
……まあ、だがそんな親友にもやはりというべきかコンプの引退話は打ち明けられなかった。
これについては少なくとも凱旋門賞が終わるまでは公表出来ない、たとえ親友相手だとしてもだ。
どこから何の拍子に漏れ出るか分からないからな、それが世界的に有名なウマ娘ブリッジコンプの機密情報ともなれば何が起こるか分かったものではない。
最後まで気を抜くな、後は本番を見守るだけといえどその本番を安心安全に迎えさせてやるのがトレーナーの務め。
それが世界最強同士の最初で最後の対決であるなら尚更だ。
「さ、俺も英気を養っておかないとな。ここから本番が終わるまではきっと休んでる暇なんぞどこにも無い、だとするならばほんの少しの休息とて怠れないというものだ」
「……遂に本番だね、トレーナー」
「そうだな、緊張してるか?」
凱旋門賞当日、あたしは控え室で目を瞑ってトレーナーにそう問い掛ける、トレーナーの声はいつもより柔らかく優しいものだった。
「緊張……ケンタッキーダービーの時と比べたら全然してないかもね」
「少なくともそれが言えるって事はコンディションは完璧だな」
「でも……色んな感情が巡って、ちょっと消化しきれないみたい。お願い……手を、握ってほしいな」
「ああ、それくらいいくらでもしてやる」
本当は思っちゃいけないんだろうけど、もし負けたら今後どうして行くのか、とか。
今まで背負っていたのがあたしとトレーナーの想いの2つだったのが今回ばかりはダート全体と日本も背負っていく事になるからその感覚が上手く作用してくれるのか、とか。
それ以外にもお父さんやお母さんから貰った応援の言葉にみんなからもらった言葉、様々なものがあたしの中にある。
それは嬉しい事ではあるんだけれど、それ以上にあたしというまだまだお子ちゃま精神な学生にとってはちょっと重たくて。
どうしても消化しきれないところがあるから、そんなワガママをトレーナーに言っちゃったりしちゃって。
実際、トレーナーの手はとても温かくて安心する。
「安心したか?」
「……うん、これでもう大丈夫そう」
でも、正直これだけでどうにかなるようならお子ちゃま精神だなんて自覚はしていない。
消化なんてしきれているはずがない、未だにぐちゃぐちゃになりながらも貰った大切な想い達に応える為に心に嘘をついて立ち上がろうとする。
「――おい待てコラ」
「え?な、なにトレーナー?」
「コンプ……俺が何年お前を見てきたと思ってやがる?」
「えーっと……3年と半年くらい?」
「だな。デビュー前から含めたらそれくらいザラで見てきた。だから言うがそんな子ども騙しの強がりで俺を騙せると思うなよ?3年半、ずっとお前の為だけに時間を捧げてきたんだからな」
「うっ……」
ただ、そんなものはトレーナーにはお見通しだったようで。
両肩を掴まれ座らされる、抵抗なんてそこまで見通されているあたしには出来る訳が無かった。
大人しく座り直す。
「何もかも我慢して抱え込もうとすんじゃねえよ、何の為にトレーナーがいると思ってやがる」
「いや、あはは……おっしゃる通りで……」
「……後な、俺はお前の彼氏であり未来の旦那だ。そんな奴に隠し事してんじゃこの先上手く行かねえぞ?ま、俺が俺だからそんな事は無いんだがな」
「何言ってんだか……でも、そうだよね。あまり消化しきれなくて、どうしようかとは思ってたし」
この人はこんな時でも通常運転か、と苦笑いしてしまう。
そんなこの人の事を好きになっちゃったのはあたしなんだけど。
「ったく、そんなんじゃ気が散って走れねえだろうが」
「で、ですよねー……」
「だからほら、ちょっとしたおまじないってやつ掛けてやるよ。少し目ェ瞑っとけ」
「え?」
「良いから俺に任せとけって。変な事はしねえよ」
「う、うん?分かった……」
で、この人は何をしようとしてるのやら。
目を瞑れなんて……トレーナーが今まで変な事や悪ふざけをこういう真剣な場面でしてこなかったから信じるけどさ、変人である事には変わりないから何をするか分かったもんじゃないんだよなあ。
なんて思いながらも大人しく目を瞑る。
一体何をするつもりなんだか……
……あれ?なんだかトレーナーの匂いが近くまで来てるような?
あれ?あれれ?ちょっと待って?これほんとに何するつもりなの?
「!?!?!?!?!?」
「こら、ジタバタすんな。…………ま、今はこれくらいで良いだろ」
「っぷは……いやいやいやいや!?何やってんの!?」
「何ってキスだが」
「サラッと言わないで!?それにこれファーストキス!!付き合って半年経つのに一度もしてなかったファーストキスなんだけど!?」
何をするつもりなのか……なんて思った時にはもうくちびるとくちびるが触れ合っていて考える時間も無かった。
でも間違いなくこれはキスだった、甘い甘い恋人同士のキス……になったのはあたしが受け入れてからだからちょっとラグはあったけど。
ってそうじゃなくて、ここでキスは聞いてない!
「だから言っただろ?これはおまじないだ……確かに今までと違って背負うものの重さが段違いだろう、戦う相手だってスノーフォールだ、今までとは訳が違う。だがな、お前には俺がいる。1人じゃない、2人だ。これが俺の気持ちってやつだよ……お前の事を世界で一番想ってるからこそ、想いを形にして伝えた。何があっても俺だけは味方だから安心して走ってこいよ」
でも……でもでも。
こんな事言われたら文句なんて言える訳が無い。
しかもファーストキスをここでそんな……うぅ……これが惚れた弱味なのか……あたしのバカぁ……
「わ……分かったよ!こ、ここまでされて負けたら流石に恥ずかしいし!?やってやるもん!勝って今度はあたしの方からキスしてやるんだからなー!!見とけよー!!」
「おーう、楽しみにしてるわー」
心が、身体が軽くなったのが分かった。
これなら何があっても負ける気がしない。
ビシッと宣言をする。
その顔はきっと、笑顔だった。
☆ブリッジコンプ(現役・シニア)
トレーナー:時坂敦史(21)
中央獲得賞金:9310万円
地方獲得賞金:5750万円
海外獲得賞金:3194.5万ドル(49億4085万円)+12.85万ユーロ(2150万円)
合計獲得賞金:51億1295万円
主な勝ちレース:TCクラシック(GI) ペガサスWC(GI) サウジカップ(GI) ドバイWC(GI)
受賞歴
×△年度アメリカクラシック三冠最優秀ウマ娘
WBURレーティング1位(×△年度下半期、××年度上半期・下半期・×□年度上半期)
エクリプス賞年度代表ウマ娘(×△年度、××年度)
エクリプス賞最優秀ダートウマ娘(×△年度、××年度)
エクリプス賞最優秀クラシックウマ娘(×△年度)
中東年度代表ウマ娘(××年度)
URA年度代表ウマ娘(×△年度、××年度)
URA最優秀クラシックウマ娘(×△年度)
URA最優秀ダートウマ娘(×△年度、××年度)
競走成績
次走予定:凱旋門賞
《通算成績》18戦18勝【18-0-0-0】
時坂敦史
合計賞金ボーナス:7億3330万円
時坂「さあ本番だぞ……世界一になってこい、コンプ」
カルティエ賞「中東年度代表が倒されたようだな……」
カルティエ賞「…………え?ウマ娘レース主要国家の年度代表残りここだけ?」