楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
『……では勝利者インタビューへ参りましょう!凱旋門賞優勝は、日本勢初優勝となったブリッジコンプ選手です!おめでとうございます!!』
「ありがとうございますっ!」
『最後のスノーフォール選手との追い比べ、正に死闘と言うに相応しいお互いに譲らない走りでしたね』
「はい。途中で『一度抜かされても再度追い抜けば……』と考えていた時もありましたが、そんな考えは捨てました。最後まで前にいたいと、その想いで走りました」
走り終え、ウイニングライブが終わり。
一息ついたあたしはもう一度ターフに帰ってきてインタビューを受けていた。
まるであの追い比べが、レースが、夢だったように感じていたあたしをもう一度現実へと引き戻してくれる。
そう、あの瞬間は間違いなく現実だった、まるで一瞬だったとしても、幻なんかじゃない。
『ありがとうございます。素晴らしいものを見せていただき我々としても興奮冷めやらぬ、といった空気がまだまだ抜けません。次に、日本勢が凱旋門賞に挑戦し実に60年近く経っての初優勝、日本勢悲願の初優勝となります。今の気持ちをお聞かせ願えますか?』
「正直言うと、デビュー前から思っていたのは芝でも走れるのは2000mが限界だと思っていたので凱旋門賞に自分が出る……というのは、見る分には憧れでしたが当事者になるなんて全く考えていなくて。更に言ってしまうとデビューしてからは今年の三月末までずっとダート一本だったので60年近くの重みというのは、あたしから語れないかなと思ってます。
ただ、この歓声や充実感のある疲労、それに徐々に高まってきている嬉しさがこの勝利を実感させてくれるので。日本勢とかそういうの関係無しに、今はスノーフォール選手と、今日凱旋門賞で共に走った全員に感謝したいと思います」
『なるほど、ありがとうございます』
実際、凱旋門賞と日本との歴史を知ったのは凱旋門賞を目標に決めた去年のクリスマス頃だった。
だから日本勢初優勝の実感やら、その重みやら、悲願の涙なんかは間違っても流す事は無い……というか無理。
そういうのを期待していたメディアとか他の日本ウマ娘達には心の中で土下座して謝っとくから許してほしい。
「はぁ〜あ……楽しかったですよ、ブリッジコンプさん」
「あ、あれ!?スノーフォールさん!?いつの間に!?」
心の中で土下座をしていたらスノーフォールさんがひょっこりと顔を出してきた。
あの激闘をあたしが制したというのにその顔は清々しいもので、少し悔しそうではあるけど笑顔だった。
「ええ、少し顔を出したくなってしまったので。私のインタビューはもう少し後で、それも引退セレモニーなのでしばらくは貴方ともお話出来ないと思いますから。今の内に、と思いまして」
「そ、そうだったんだ……」
「ふふ、私の中で今日が何よりも一番楽しい日になりました。本当に……生きていて、あの時競技者を諦めなくて良かったと思うくらいに。でもやっぱり悔しい気持ちもありますから。だって私は競技者、どれだけ繕っても果てに欲するは勝利。なのに私はもう引退してしまう……
だから、待っています。ドリームトロフィーリーグで」
「……分かりました。またいつかそこで走りましょう」
わぁっとレース場が沸き立つ。
どうやらずっとさっきのインタビュアーの人がマイクを向けていてくれたらしい、正直そんなところまで考えずに話してたからお客さんにも聞かせられたのは嬉しいかも、と思ってしまう。
そしてスノーフォールさんからも出てきた『ドリームトロフィーリーグ』という言葉。
トゥインクルシリーズを引退した、相当な実績を持つウマ娘のみがその移籍オファーを受ける事が出来ると言われている強者の最果てに行く着く場所と呼ばれているリーグ。
……あたしは決めていた、凱旋門賞に勝ったら来年をあたしのトゥインクルシリーズラストシーズンにすると。
だから、今は言わないけれどその意味も込めて返答した。
『またいつかそこで』と、思ったより早くなる再会を約束した。
「待っていますよ、そしてまた走れた時には今日くらい、飛びっきり楽しみましょうね」
「はい!」
颯爽と去っていく彼女の後ろ姿は、輝いていて。
あたしにはあの人程のカリスマは目指せないなあと苦笑いしてしまう。
「あー……優勝おめでとうございますわぁ〜……我が英雄……」
「ぅえ!?今度はローズちゃん……って、大丈夫……?」
なんかドンドンあたしのインタビューに人が来るけど良いんだろうか……とインタビュアーの人の方を見るが寧ろとても嬉しそうだった。
やっぱりこういうの好きなのかなあと思いつつ満身創痍のローズちゃんを見やる。
ウイニングライブまでは平気そうな顔してたのに、やっぱりとんでもなく疲れてたんだなあとあの決死の末脚を思い出す。
あのお陰であたしは走り切れたし、ローズちゃんも3着だった。
「だ、大丈夫ですわ……そ、それでこそコンプちゃんです……最高の走りを特等席で見られて感謝ですわ……ふ、ふふ……あ、バトラーおぶってくださいまし……」
「はいはい、ローズ様。まったく無茶するんですから……」
「ろ、ローズちゃんもお疲れ様……それと、本当にありがとう!!ローズちゃんがいてくれたからあたしは走り抜く事が出来たんだから!!」
そのローズちゃんはバトラーさんにおぶられて退場していった。
最後に感謝だけ伝える為に投げ掛けた言葉に、彼女は疲れきった身体で、それでもしっかりと右腕を天に突き上げ応えてくれた。
それがとてもとても、あたしは嬉しかった。
「うへ〜お疲れ様、優勝おめでと!」
「あ、クロードちゃん!」
3人目はクロードちゃん。
彼女も4着好走、意地を見せていた。
「いやー2人の走りは参っちゃうね。ほんとーに凄いったらありゃしないよ」
「えへへ、ありがとう。あたし頑張った!」
参った参ったと頭をかきながらも祝福してくれる。
「あ、一緒に写真とか撮る?うぇーい!」
……は、良いけどカメラマン相手にノリよくあたしとツーショットを撮らせるのは大丈夫なのかな……
『どうぞどうぞ、こちらはこちらで楽しんでますから』
「そ、そうですか?」
めちゃくちゃ大丈夫そうだった。
これで良いのか凱旋門賞の勝利者インタビュー。
「そんじゃまた後で!ばいびー!」
「うん、また後でね」
まるで嵐みたいだったなあと思いつつ見送る。
……何だかまだ来そうな気がするけど、果たして次は誰が来るやら。
「よぉ、俺の事忘れてんじゃないだろうな?」
「トレーナー!忘れる訳無いじゃん!」
多分これが最後だと思うけど……来たのはトレーナーだった。
忘れる訳が無い、この人がいてくれたからあたしはなんだって出来たし今日勝つ事が出来たんだから。
「まずは……ほんっとうにおめでとう。ま、俺としてはお前が勝つとは思ってたが……流石に少し緊張したわ」
「……意外かも」
「そうか?俺だってまだまだ20歳少し過ぎただけのペーペーだって事だよ」
「いや普通の20歳過ぎのペーペーはこんな稼げないからね?」
少し意外だったのはトレーナーが緊張していた事だったけれど。
それだけ真剣に見てくれていたと思えば心から嬉しかった。
「お陰で勝った瞬間アメリカ大統領とドバイ大統領とサウジアラビア国王とURAの代表と抱き合っちまったよ」
「はい?」
ただ、なんかよく分からないというか分かったら卒倒しかねない事を言っていたのはやっぱりいつものトレーナーだったけど。
でもそれが、現実なんだと教えてくれる。
「……ほら、こっち来い。抱きしめてやんよ」
「もう……人目があるのにトレーナーは躊躇無いよね」
「良いだろ別に。これくらい大した事はない」
だから、ちょっとだけトレーナーにお礼をしよう。
これはレース前には決めてた事だしね。
「じゃあ……これは大した事?」
「なんだ?……んぐ」
トレーナーの唇にあたしの唇を当てる……まあ、キスだよね。
『勝ったら今度はあたしからしてやる』と宣言したんだからしたって不思議じゃないもんね。
恥ずかしいけど……恥ずかしいけど!今日は特別!
「…………っぷは」
「…………ったく……大胆な事しやがるよ、お前は」
「ふ、ふふん!だってこれはレース前に言った事だもんね!」
「そうかそうか……それじゃ……『おかわり』貰おうか?」
「へ?あっ、えっ、んぐぅ!?」
……結局トレーナーにやり返されたけど。
うぅ……この人にはやっぱり勝てないや……
なんて。
こんなやり取りをずっと見せつけられて寧ろボルテージが上がり大歓声鳴り止まないロンシャンレース場で思うのだった。
-オマケ-
「スノーフォール選手……我々FNSUFは貴方というウマ娘と出会えて良かった。そして貴方が諦めずに再起し凱旋門賞を走ってくれて良かった。我々は……心から貴方に敬意を示します。本当に、本当に……お疲れ様でしたッ……!」
「ありがとうございます。……もうおじ様方、泣くほどの事ではありませんよ?私はまだまだ、母国でもフランスでもドリームトロフィーリーグで走るのですから」
「ええ、ええ……!!いつでも我々はお待ちしていますよ……!!」
「……おじ様方がフランスウマ娘レースを支えていてくれていればこそ、私も凱旋門賞を諦めなかった。こちらこそ……心より感謝を」
時坂「ちなみにだが」
ブリコン「なに?」
時坂「お前、レコードタイム出してるけど気付いてたか?」
ブリコン「!?!?!?!?!?」
時坂「ほらこれ。2:23:60な」
ブリコン「ちょっと待ってこれロンシャンレース場の記録じゃなくてレースレコードじゃない!?」
※レースレコードは第95回シャンティイ競馬場での2:23:61、ロンシャン記録は2:24:49なのでロンシャンで23秒台は頭がおかしい記録です
時坂(プロポーズはもうちょい不意打ちでやってやろ…)