楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
この話は大分前、まだ10話も行ってない時にもらった感想から閃いたものになります
ちょーっとシリアスめが強いけど、見てってくれよな!
『残り200を通過!ウイングスロー先頭!更にジャーニーも伸びてくる!熾烈な争い!!制するのはどっちだ――』
――ああ、まただ。
また何も出来なかった。
「……お疲れ様」
「ごめんねトレーナ〜、また勝てなかった〜みんなつよすぎ〜」
「俺が不甲斐ないばかりにこんな」
「トレーナーは不甲斐なくなんて無いよ。だからほらほら〜元気出してって〜」
そう、トレーナーは何も悪くない。
いつもわたし達の事をたくさん考えてくれて、必死にトレーニングメニューもローテーションも決めてくれて、不満なんてただの一つだって持った事は無い。
……全部、わたしが悪いんだ。
弱いわたしが悪い。
悔しかった、勝ちたかった、でも掲示板にすら入れなかったわたしに……重賞競走で一度も掲示板に入れていないわたしにそれを口にする権利なんて無い。
だけど、だけども。
「……それじゃあわたしはちょっとお手洗い行ってくるから〜」
「あ、ああ。気を付けてな」
「も〜トレーナーは過保護なんだから〜」
一人になると、感情が爆発する。
「……わたしだってッ!!わたしだって勝ちたいのに……!!あの子みたいに、とまでは行かなくても!!重賞で……GIIIで一つ勝ちたいって、勝てないのは分かってても、それでも諦めたくないのに……!!なんで……」
涙がボロボロと溢れてくる。
根岸ステークス10着、それが現実だった。
それまでも何回か重賞に挑戦した事はあった、全てGIIIだったけれどそこに挑戦できるだけでも夢物語だと思っていた。
だから最初は結果が付いて来なくても良かった、走れるだけありがたいと思っていた。
……でも。
でも、あの子が、わたしの親友がドンドンと遠く遠く離れていってしまう度に焦燥感を覚えた。
他のチームメンバーがまだ条件戦にいるのは分かってる、わたしだけが重賞に挑戦する権利を得ている事は自覚している。
それでも、それでも……ここまで何も出来ないレースが続いて、トレーナーにすら『自分が不甲斐ないせいで』なんて言わせてしまって。
あの人はわたしの恩人で、ヒーローなのに。
そんな人になんで自分のせいで悲しい顔をさせないといけない、なんでわたしはこんなに走れない、なんでこんなにも弱い。
「……ねえ、みんな。私さ……今年の夏くらいで引退しようと思うんだ」
それは突然だった。
チームメンバーの一人、親友の一人がそう切り出した。
いつもは天然だけど元気印なその親友の顔は、少し諦めを割り切ろうとしているような顔で。
「理由を……聞いても良いか?」
「うん。私ね、走るのが大好きだしまだまだ走りたいって思うけどさ、トレーナーは……気付いてるんじゃないかなって。私の能力の衰え。ここまで3勝、良くやったと思うしトレーナーに拾われてなきゃ私多分デビューすら難しかったと思うよ?
……そんな私が3勝も出来たのはトレーナーのお陰だけど、ここがやめ時かなって」
「……そうか。俺としても、そう言われた以上引き止められない」
「ケーキちゃんは……って、自分のワガママ言う程子どもじゃないよ、ケーキちゃんだって。親友の決断に口はだせないよ」
実際、親友が……スモモが、少しずつレース間隔も空いてきて戦績も振るわなくなってきていた事には気が付いていた。
引退が近い……そう感じてもいた、それでも言えなかった言えるはずがなかった、あんなにも走るのが好きなスモモに、ほんの少しでも悟られるような事なんて。
そんなスモモが自ら決断した、引退を。
GIを勝ったウマ娘やGIで複数回の好成績を出したウマ娘ならたとえ重賞未勝利でもドリームトロフィーリーグに行く権利を持つ事が出来る。
でもわたし達は、自分以外重賞に挑戦する権利すら得られずその自分自身も全て二桁着順。
『次』は存在しない。
つまりここで競技者を辞めるんだ、遠い存在になってしまった親友の一人である『コンプちゃん』のトゥインクルシリーズ引退とは全くの別物。
それを決断した親友に、わたしが思う事。
「……おつかれさま、スモモちゃん。この決断するのに、多分物凄く悩んだと思うけど……良く決断したよ〜」
先の無い選択を自分でするなんて、どんな気持ちなんだろう。
でも、気持ちは分からずとも分かった事があった。
「……………」
それは『恐らく自分もリミットは年末までだろう』という事。
もう5年目、競技者ウマ娘としては長く走ってきたと確実に言える年月が過ぎていた。
だとするなら、このままの自分のままなのだとしたら。
決断したって許されるはず。
きっとケーキちゃんもスモモちゃんもトレーナーも、後輩のゼットちゃんとメルちゃんだってそれを受け入れてくれるはず。
……なのに。
「でもウマドルは辞めないからね!みんなとずっと一緒にいたいし!」
なのにどうして。
今言えば良かったはずなのに。
「夏以降はみんなに託すからねー!」
なんで言えなかった。
『わたしも引退しようと考えてる』そう言えばもう苦しまずに済んだはずなのに。ウマドルだけして過ごせたのに。
「……プリン、どうかしたか?」
「ううん、なんでもない」
『それ』に気付いたのはそれから少し経った頃だった。
「……うん、今日は勝てた。まだ……まだ、衰えてない……」
2月。オープン競走で久々に取れた1着。
タイムリミットを感じながらも、まだ何とか衰えという衰えが無い事を実感する。
ふぅ、と一息吐き出す。
「ムラクモ選手!今日の意気込みは如何ですか?」
「ブロッサムがサウジアラビア遠征に行っている以上国内は私が盛り上げる、それ以上も以下も無し。折角国内ダートの整備も進んできているのだからその広告塔として恥じない走りを見せます」
……今通り過ぎていったのは、わたしの同期だった。
GIを何個も勝っている、アメリカGIだって戴冠している。
所詮、自分は前座だと思い知るにはあまりにも分かりやすかった。
彼女が今日走るのは『フェブラリーステークス』、国際グレードの付いたGIレースだ。
見向きもされないなんて、そんなのは当たり前。
『最終コーナー回ってセイウンムラクモが一気に上がってくる!中団割って一気に出てくる!!先頭とは4バ身程だ!!』
『速い速い!!セイウンムラクモ一瞬で先頭捉えた!!そして抜き去る!!圧巻の走りだ《将軍》セイウンムラクモ!!これでフェブラリーステークス三連覇!!』
「無理だと分かってるのになあ……」
何もかも、全ての次元が違ってると分かっているのに。
湧き上がってくる感情は『走りたい』だった。
あのキラキラしたGIのレースを走りたいと、諦められないんだと。
だからきっと、引退したいと言えなかったと気が付いて。
「GIIIですら勝負にすらなってないのに……なのに……それでも、それでも走りたい……勝ちたい……あの子みたいに……輝く一番星になりたい……」
絞り出した声は誰にも届かなくて。
大好きな親友。
デビュー出来ない同士で、最初の共通点なんてそれくらいしか無くて、そこから少しずつ仲良くなっていった。
そんな親友と同じレースで走るのが夢だった。
どっちが勝っても恨みっこ無しで、笑顔で、全力で競い合ってレースが終わった後にはまた笑い合って。
たったそれだけだった。
なのにあの子だけ遠く遠くに行ってしまって。
気が付けばわたしに残っていたのは幻に縋り付くだけの自分だった。
羨ましかった、妬ましかった、悔しかった。
思っちゃいけないのは分かっていた、あの子自身の努力だから、それをするのは、思うのは最低の行為だ。
引退する、というその一言だけでその最低の事を思ってしまっていた自分自身がどれ程醜いか。
「バカだなあわたし。分かってても走りたいなんて、本当にバカだ」
誰に届くでもないそれを空につぶやく。
その顔は、きっと自嘲気味に笑っていた。
思ったより重たかった!(小並感)