楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
『ハナを奪ったのはなんとスモモ!本日引退レースのスモモです!逃げというのは初なんじゃないですか!?』
『僕の知る限りスモモ選手は先行主体、たまに差しという感じではありましたが逃げを打ったのは僕も見た事が無いです。
……解説とはズレるかもしれませんが、もしかしたら親友であるブリッジコンプ選手の走りで彼女にこのレースを捧げる。そんな想いがある……というのは流石に考え過ぎですかね』
スモモの引退レース、それは夏真っ盛りの燦々と太陽が照り付ける凡そレース日和とは言い難い日だった。
それでも京都レース場には普段の条件戦とはとても思えない数のお客さんが詰め掛けスモモに声援を送ってくれていた。
それはレースだけじゃなくて、クラシックの時に
「レース以外でも頑張れる事をしよう」
とトレーナーと相談して始めたウマドル活動の成果。
条件戦で歓声に送られて引退レースを走れるウマ娘なんて一体どれだけ存在したのか……少なくともわたしは見た事も聞いた事も無い事だけは確かだった。
「ケーキちゃんのパワーは送ったからね!!もう勝てる!!」
「頑張れ頑張れスモモ〜!!」
「大丈夫……なんたって今日はコンプちゃんも見に来てくれてるんだもん」
わたしの隣で大きな声を飛ばすのは、親友の一人でありGI21冠というハチャメチャをやってのけているブリッジコンプその人。
実は今日の作戦は次が引退レースと聞き付けたコンプちゃんが宝塚記念の後から1ヶ月掛けて逃げの走りをスモモに伝授していたからこういう事をしている。
『さあスモモのリードは2バ身半程度か!スモモが先頭のまま最終コーナーへと差し掛かる!!』
『いつもは少し膨らんでしまうんですが今日は完璧ですよ!』
たった1ヶ月じゃ確実なものにはならない。
それどころか付け焼き刃にしかならない。
だとしても、ここでなら……条件戦でなら、通用する。
最初で最後だからとスモモも快諾したそれ、初めてみんなで作り上げた一つのレース。
『追いすがれるウマ娘はいるか!?いやスモモ更にリードを広げている!!こんな脚の使い方はそうそう見ませんよ!!』
『下手をすればもう二度と走れなくなる脚の使い方……正にこのレースに命を懸けていると言っても過言ではありません!!』
「いっけースモモ!!」
「あと少し!!頑張れ!!」
「いけるいけるいける!!」
「うおおおおおおおおスモモおおおおおおおお!!」
『ベイルが迫ってくるがスモモとはまだ4バ身あるぞ!!これはスモモか!!これはスモモか!!』
――スモモは笑っていた。
最近は少し辛そうな走りをしていたスモモが、今日は笑っていた。
こんな破滅的な走り方なのに、もう走れなくなるかもしれないのに。
それでも、今日という日を全力で走れるのが、きっと。何よりも。
『引退レースで真夏の京都にスモモ満開!!最後の最後にオープンウマ娘となって、トゥインクルシリーズを、競技レースの舞台から降ります!!有終の美を飾りましたスモモ!!』
『これは文句無しで会心の走りでしたね。脚が心配ですが気にする様子も無いので今のところは問題も無さそうです。良くぞ怪我なく30戦走り切りました。……お疲れ様でした、と今は伝えてあげたいですね』
そう、何よりも楽しかったのだと、そう感じて。
大歓声に包まれて嬉し泣きしながらそれに応えるように手を振り返すスモモを見て、わたし達が感化されないはずが無かった。
「……ふぅ。どうですか〜デジたん先輩?タイムの方は〜」
「いやいや凄いですよプリンちゃん!またまたタイムが縮んでます!これもプリンちゃんの弛まぬ努力の成果……!!なんて尊い……!!そしてこれを間近でコーチング出来るなんてあたし生きてて良かったよ三井ちゃん!!」
デジたん先輩とのトレーニングにももうかなり慣れてきた。
慣れてきたというのは先輩のわたしへの接し方もそうだった、この前までは恐縮しまくりで胃を壊さないかとかいつ昇天してしまうかとかヒヤヒヤしていたけれど今となっては凄く親身に接してくれる年上の友人みたいな感覚で、そんな関係性になれたのがとても嬉しい。
ただ、事ある毎にトレーナーさんの名前を叫ぶのは多分本人が恥ずかしがってると思うから辞めてあげた方が良いと思う。
「……わたしは人に教える、なんて事した事も無いし出来るような実力も無いから分からないけど〜……やっぱり教え子のタイムが縮むのってそんなに嬉しい事なのかなあ〜」
「それはもう!!」
「うわあ近い」
そして距離の詰め方もとんでもない差し脚でスパートしてきている。
いやわたしの方からもっと近寄って近寄ってと甘えまくったのがこれを生み出してしまったのは分かってるけど、ここまで来ちゃうとはわたしでも思わなかったり。
でもデジたん先輩とっても小さくて可愛いし……これはこれで役得と言いますか、眼福と言いますか。
「終わりの無い地獄のようなトレーニングを、それでも諦めずにやりきる姿を見ているからこそ!!それを間近でコーチングする人間だからこそ!!努力が形として見えた時の感動はそれはそれはもう!!デジたん感動で前が見えませんッ……!!」
「いやあ〜わたしって凄く良い人に指導してもらえてるんだなあ〜」
それにこんなにも親身になってくれて嬉しさを熱弁もしてくれて。
指導される側としてもここまでしてくれると満たされる気持ちになる。
将来はウマ娘を指導するトレーナーになるって言ってるけど、この人ならどんなウマ娘でも後悔の無い競技者人生を送れるんじゃないかと思ってしまうほど。
「そ……そう……ですかね?」
「うんうん〜これならトレーナーになってもウマ娘から人気を集めると思うよ〜。現にわたしがこ〜んなに嬉しいんだし」
「そう言われると……ちょ、ちょっとだけ照れちゃいますね……」
わたしだってサラッと言ってるけど、気持ちに表すだけじゃ絶対に足りないくらいの嬉しい気持ちになっている。
「あ、済まないね遅れて。どうだったプリンのタイム」
「お疲れ様です明路さん。プリンちゃんのタイムですがまたまた縮みましたよぉ!!……これならマーキュリーカップでも充分戦えるだけのタイムです。初の掲示板入りだって夢じゃありませんよ!」
「ほんとか!?ありがとうデジたん!!親友に土下座してでも紹介を手伝ってもらった甲斐があった……!!」
「今あたしとんでもない事を聞きませんでしたか?聞き間違いだと思うんですが」
「デジたん先輩、それ幻聴じゃなくて本物かも〜」
「ええ……」
二人をガッカリさせるようなレースなんて出来ないよね。
待ってろマーキュリーカップ、少なくとも掲示板入りはしてやるぞ!
『5着にはプリンニシテヤルノ、プリンニシテヤルノが入着しました!35戦、苦労に苦労を重ねて掲示板まで来ましたね』
『ええ、2戦前までは一桁着順さえ厳しい状況でしたがここに来て一気に成長を見せてきています。これなら引退までに重賞を勝つチャンスは充分ありますよ!』
「少しずつ……少しずつだけど、確実に成長してる。あと3回チャンスはある……でも、わたしは……」
チャンスは残り3回。
残されているのはシリウスステークスor白山大賞典、みやこステークス、名古屋大賞典。
でも……特別勝ちたいレースが出来てしまった。
『引退レースをチャンピオンズカップと東京大賞典どちらにするか迷っていましたがチャンピオンズカップに決まりました。ま、最後くらい中央ダート走っておけばURAの面子も保てるでしょ。
え?本音がダダ漏れ?ハッハッハッ俺はいつでも本音ダダ漏れですからね!』
GIレースには『優先出走権』が存在するものがある。
レーティング上位だったり、そのレースに出る為に別のGIIGIIIで優秀な成績を納めればそれが貰える。
……みやこステークスは『チャンピオンズカップの優先出走権』がある、優勝者のみに。
練習するのは最悪2000だけで良い?そんなもの前言撤回するに決まっている、最初で最後のコンプちゃんと走れるチャンスをふいにするなんてそんな事出来るはずが無い。寧ろみやこステークスがわたしにとっての最後だと思って走らないといけない。
……勝てば最初で最後のGIレース。
それは、重賞を勝つだけじゃない、コンプちゃんと一緒に走るだけじゃない……様々な意味を持っているから。
「落とせない、落とせる訳が無い。他のレースで負けても、このレースだけは何があっても。もう一緒には走れないと思ってたコンプちゃんが待ってるから」
その小さくて大きな背中が、薄ら見えた気がした。
アグネスデジタル
懐っこいプリンがめちゃくちゃにベッタリ甘えたお陰ですっかりプリンへの距離感がバグってしまった
ただリスペクトは忘れていない辺り実にデジたん
ドリームトロフィーでも芝にダートに暴れ回っているらしい
サイドストーリーを明るくしてる最大の要因
ブリッジコンプの大ファンでもあるらしく、時坂曰く「捕まえるのはコイキングより簡単だった」との事
三井ちゃん
デジたんのトレーナー
自分の実力を疑った試しが無い自信家でカッコ付けたがり
歴代、現役担当ウマ娘にウオッカ、ディープスカイ、サトノアレス等
サトノアレスにサトノにされているらしい
あと何故か知らないがオグリキャップのトレーナーのところにいるティアラを付けたウマ娘とウオッカが良く喧嘩をしているらしくそこのトレーナーとは仲がいい
元ネタは四位洋文
ブリッジコンプ
宝塚記念ぶっちぎり一番人気で前年度ダービーウマ娘(GI計3勝)を蹂躙していた、まーたやってるよあの人
時坂「え?TCCに出ないか?でも今回は前年度アメリカ全く走ってないしステップレース必須では?……前々年度のTCCチャンピオンオファー権利を使ってないから出られる?……全く仕方ない人達だなあ。ま、コンプを育ててくれたのはアメリカだし、最後に恩返ししときますか。という訳で今からアメリカ行くぞ」
コンプ「はい?」