楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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無事逃走完了したので初投稿です
みんなも13時間労働はさすがにおかしいと気付こうな!


54.side『P』5話「ラストチャンス」

「……うん。わたし、がんばるよ。コンプちゃんの引退レースにもしかしたら出られる可能性もあるし……もしかしたら、だけどね。でもこれが最初で最後のチャンスだもん、やれる事はなんだってするつもりだから」

 

『プリン……嬉しいよ、デビュー前にした約束覚えててくれたんだーって思うと』

 

 コンプちゃんのこれからのスケジュールはトレーナーズカップ・クラシックを走って日本でチャンピオンズカップで引退レースになる。

 本来ならまだ渡米はしない時期だったけど、アメリカ凱旋という名目で8月辺りからコンプちゃんはアメリカにいる。

 今度帰ってくるのはわたしがみやこステークスを走り終わった後。

 泣いても笑っても今度会う時にはわたしの引退レースもどこになっているか決まっている。

 

 ううん、それよりもまずは『重賞を勝つ』という最初の目標を達成しないといけないよね。

 

 それに……コンプちゃんもあの約束を覚えていてくれたし。

 

「覚えててくれたんだ〜」

『忘れる訳ないよ。親友との約束だもん……本当は4人で走れたら良かったんだけど、やっぱりそう上手くはいかないよね』

 

「……覚えててくれただけで、わたしとしてはすっごく嬉しいから。それだけでがんばれるよ」

 

『あたし応援してるからね。プリンがチャンピオンズカップまで来られるように、重賞を勝てるようにって』

 

「……うん」

 

 でも、なんというか。

 コンプちゃんの純粋な応援とか聞いてると、嫉妬していた自分がバカみたいに思えてきちゃう。

 こんなに応援してくれているのに、感じていたのは嫉妬や劣等感。

 これも心の余裕の差なのかなあなんて考えちゃったり、一流になると考え方も一流になるんだなあなんて思ってしまったり。

 

 ……よし、雑念ばっかりになってきたし振り払おう。

 

 とにかく今は目の前のシリウスステークスとみやこステークスに照準を合わせてがんばる、それ以上も以下も無し!

 絶対に届かせてみせるという強い思いをもって、グッと拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、これを機にチャンピオンズカップの賞金を大台に乗せる。そういった方針で間違いないと?」

 

「そうなります。ブリッジコンプの引退レースですから、思い切ってこの際ダートの格をこの日本でも見直し、その先駆けとしてチャンピオンズカップの賞金を1着6000万から9000万に上げたところを更に1着1億にしようという事で纏まりした。

それによってその優先出走権のある武蔵野ステークス、及びみやこステークスもキリ良く1着1900万から2000万とします。今はこれくらいが限界ですが、何れ世界各国に劣らない整備にして行く事を誓います」

 

 

 

「……本当にすごい。たった1人でこんなに人を動かすなんて。わたしにはもう後がない、本当の意味でコンプちゃんと走れるチャンスを掴めるのはここが本当に本当の最後。重賞を取るという意味でももうここを含めて2回しかない」

 

 シリウスステークス、そこでわたしは2着だった。

 あと少し、あと一歩、ほんの僅かが届かなかった。

 確かに優先出走権は無かった、それでもここで勝てば制度上チャンピオンズカップの枠を取れる可能性はあった、それは今までも同じだ。

 どうして届かなかったのか……7着の時も5着の時も嬉しさの方が勝っていたのにここに来て、やっぱり悔しかった。

 

「プリンちゃん……」

 

「デジたん先輩……ごめんなさい、弱気な姿見せちゃって」

 

「あ、謝らないでプリンちゃん!ラストチャンス、そりゃ誰だって追い込まれてしまうのは仕方ありませんって!それより気の利くような一言も出せないあたしの方が謝らないといけないです!」

 

 何よりも、トレーナーやコーチングをしてくれているデジたん先輩にやはりいつまでもそんな事を言わせてしまっている事も悔しかった。

 1着と2着、2着でも偉いと人は言う。

 賞金も手に入るし重賞、GIでの2着は限られた実力のウマ娘しか手に出来ない偉業それは分かっているし少し前の自分なら2着でも喜べたはずだった。

 

 でもいざ2着になって、それは間違っていたと気付かされた。

 

 あと一つ届かなかった後悔はいつまでもいつまでも脳裏に焼き付いて離れない。

 

 ……とあるウマ娘の話を見た。

 それはトゥインクル生涯戦績17戦2勝、重賞13戦12掲示板GI8戦7掲示板としながら一度も重賞を勝てなかったウマ娘の話。

 数年前には既にドリームトロフィーリーグを引退したそのウマ娘は引退レースで遂に1着となった。

 怪我でドリームトロフィーデビューが遅れたもののトゥインクルシリーズ含め8シーズン走ったそのウマ娘は言った。

 

『やっとこの景色を見る事が出来た。やっと心の底から笑える日が来た』

 

 大粒の涙を流して今までの苦難や苦労、トレーナーへこれまで報いれなかった後悔やそれに混じった勝った喜びと安堵の表情をする彼女、それを見てわたしは感じた。確信した。

 2着では満足なんて出来るはずが無いんだと、1着でなきゃ、勝たなきゃ意味がないんだと。

 通用するから満足だなんて、そんなものに意味は無いのだと。

 

「弱気になるなよ。まだチャンスはある、目の前のレースだけ見るんだ」

 

「トレーナー……」

 

「シリウスステークスは2着だったかもしれない、だがここまで成長してきただろ?やっと勝てる位置まで来たんだろ?だったら振り返っちゃあいけない。前だけ向いて走り続けろ、走って走って走って、それで走り切った時に振り返れば良い。

そん時は俺もみんなも一緒になって思い出を振り返ろう、そんでもって酸いも甘いも一緒に共有して笑ったり泣いたりしよう。俺達は家族だ、チームは家族だ、それは臨時コーチに来てるデジタルだってそうだ。

共に家族として支え合い、助け合い、笑って泣いて苦難を乗り越えていこう……な?」

 

 でもそのウマ娘にもずっと支えていたトレーナーがいたように、わたしにもずっと支えてくれるトレーナーがいる。

 ここまでどれだけ劣等感があっても悔しくても絶望を感じても挫けなかったのは、この人がいたからだった。

 

「うん。あきらめないよ〜、絶対コンプちゃんの隣に立って走るんだから……あきらめるもんか」

 

 もう、遠い夢とは言わせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今年も年の瀬のチャンピオンズカップに向けたレースが始まります、京都1800mみやこステークス。しかし今年はそのチャンピオンズカップが日本の伝説ブリッジコンプの引退レース。そのステップレースでも注目度が段違いです。

注目のウマ娘はいますか?ホッコータルマエさん』

 

『そうですね、シリウスステークスでしのぎを削り合ったタシェーアラ選手とプリンニシテヤルノ選手、この2選手にはやはり注目していきたいところです。どちらもこのレースに懸けて来ていますよ』

 

『タシェーアラ選手はここまで重賞3勝、今年も好調を維持。プリンニシテヤルノ選手は重賞未勝利もここに来ての5着、2着と急成長。更にストーリー性も加えるのであれば、プリンニシテヤルノ選手はブリッジコンプ選手とはデビュー前からの親友ですよね』

 

『プリンニシテヤルノ選手にインタビューしてきましたが、そのブリッジコンプ選手と共に同じレースで走るのが夢と語っていました。今年をラストイヤーと語っている以上ここが最初で最後のチャンス。

しかしタシェーアラ選手も戦績こそ勝率9割に近いですが怪我続きでGI出走はここまで無し。ここに勝てば遂にデビュー前から期待されていた逸材がGIに立つとあり、こちらもストーリー性は抜群ですよ』

 

『どちらが勝ってもドラマチック!GIIIみやこステークスはまもなく出走です!』

 

 

 

「大丈夫……大丈夫……」

 

 GII以下共通レース服の体操服にはスモモちゃん、ケーキちゃん、後輩のメルちゃんとゼットちゃん、それにトレーナーから『みんなの想いを込めた』お守りが一つ着いている。

 だから寂しくない、1人じゃない。

 

 ゆっくりと深呼吸をし、最後にゲートインをする。

 

 

 

『さあ、最後にプリンニシテヤルノが収まりまして……各ウマ娘一斉にスタートしました!少しバラついたスタートになったか、7番タシェーアラは3番手先行では先頭に付けたかそして15番大外プリンニシテヤルノはそのまま大外後方で脚を溜めます』

 

『注目の2人は問題無いスタートになりましたね。どちらも理想の展開でしょう、しかし今回は逃げ集団が様子を見合っているのか若干のスローペースなのが気になります』

 

 

 

 スタートは良好、でも問題はこのペース。

 スローペースは前目のウマ娘の脚が残る為差しや追い込みにとっては不利な状況……このままだといくらわたしの脚が残っても追い付けるかどうかはかなり不利。

 特にわたしの脚は速さに関してはどちらかと言えば鈍足、それを補うのがスタミナと加速力でここまで来たとはいえ……

 

 ……どうする、なんてわたしの中では決まりきっていた。

 

 このまま負ける可能性が高い走りをするくらいなら、勝負に出る。

 その為のバ群に埋もれない大外位置確保なんだから。

 

 

 

『おっとここでプリンニシテヤルノが一気に上がります!まだ1000m通過前ですがこれは勝負に出ました!』

 

『ペースを読んで不利な位置から有利な位置にポジション取りをしてきましたね、その分スタミナは大きく削られますがプリン選手最大の特徴は理論上3000mでも衰えないと推察されているそのスタミナです。それを最大限に活かすのであればこの大胆な作戦も合理的と見れます』

 

 

 

 スタミナは結構使うけど、わたしの一番の長所はそのスタミナ。

 しっかりと競技者として走るだけなら4000mだって楽勝だって自負出来るそれを使って位置を差しから一気に加速させていく。

 

 

 

『なんとそのまま先頭に出ますプリンニシテヤルノ!!ペースが一気に変わりますよこれは!!』

 

『私でもこのケースは見た事が無いですね……スローペースだったレースが一気にこの終盤ハイペースに変わって各選手が乱されています。ダートウマ娘でもトップクラスのスタミナを持つプリン選手だからこその一世一代の大勝負、これは目が離せないですよ!!』

 

 

 

 タシェーアラ選手の目が驚愕に開かれるのが、抜かす瞬間に見えた。

 こんな作戦わたし以外じゃ出来ない、それこそコンプちゃんよりもスタミナだけはあるって自信持って言えるんだから。

 わたしでさえ脚に多大な負担があるからって理論上出来たとしてもやって来なかったけど……やるのに対して恐怖だってあったけど……でも。

 

 今日だけは。

 今日だけは全て振り切る。

 

 

 

『さあなんと!!プリンニシテヤルノが先頭で最終コーナー回ってくる!!先頭はプリンニシテヤルノだ!!悲願の重賞初制覇なるか!?しかし!!タシェーアラも内を突いて懸命に上がってくる!!2人の意地と意地のぶつかり合いになるぞ!!』

 

 

 

 後ろから迫ってくる息遣いも足音も鮮明に感じる。

 それでも前だけ向いて。

 

 確かにわたしは弱い。

 それは今だって変わらないと思っている。

 そんなわたしにだって、譲れないものが、譲れない勝ちが。

 

「負けられない時が……あるんだああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………強くなったよ、君は」

 

「ああ……全く、涙を流している暇も無いじゃないか」

 

 

「だってそうだろ?君の引退レースの為の……『勝負服』を、ずっと昔から君が想い続けてきたそれを形にしなきゃならないんだからさ」

 

「おめでとう。今はただ、それだけ言わせてくれ」




ここから毎日投稿復活…したいんですが最終話までじっくりと書きたいので不定期になると思います!完結までの構想は完璧なのでお待ちを!
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