楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
「…………勝っ……た……?」
電光掲示板に映し出された『① プリンニシテヤルノ』の文字。
それをわたしは呆然と見つめる、まるで夢でも見ているんじゃないかと思うくらいの、全くもって現実感の無いそれを真っ白になっている思考で見つめる。
あれは本当にわたしの名前なのか、本当にわたしは勝ったのか……
「プリン!!プリンお前勝ったぞ!!勝ったんだぞ!!おめでとう!! 」
「プーーリーーン!!私は、私は信じてたよおおおおおおおお!!」
「もう……本当にカッコ良かったよ。ケーキちゃん見とれちゃったんだから」
「せんぱーーい!!おめでとうございます!!」
「涙がどまりまぜん〜!!」
「プリンちゃん!!!あたし……あたし、見届けられてほんっとうに良かった……!!」
「あ……みんな……」
でも、みんなが駆け寄ってきてくれた。
みんながみんな抱き締めて祝ってくれた。
少しずつぼんやりとした思考の霧が晴れてくる、そして霧が晴れてくると同時に歓声がわたしに向けられているのに気が付いた。
そうか、わたしは勝ったんだ、勝てたんだ。
重賞を……みやこステークスを、勝てたんだ。
ほんの少しだけの実感が心に宿った瞬間気持ちが湧き上がってくる、そしてその感情を止められなくなってしまっていたのは必然なのかもしれない。
「わたし……わたし、ね……勝ったよ……勝てたよ、みやこステークス……やっと届いたよ、重賞……あはは……お、おかしいな……やっと勝てて嬉しいはずなのにね……なのに、どうしてかなあ……な、涙がね……止まらないんだ~……」
「プリン……良いんだよ。今日は泣いても良い。俺の胸を貸すからさ、たくさん、たくさん……泣きたいだけ泣いて良いんだよ。プリンの気持ち、これまで勝てなかった悔しさも苦しみも、やっと勝てた安堵も嬉しさも全部全部、俺が受け止めるから」
涙が溢れて止まらなかった。
嬉しいはずなのに、嬉しい以外の気持ちも一気に押し寄せていて。
今まで負け続けた悔しさと苦しさが心の大半を占めていて。
そんなの、この舞台には似合わないはずなのに。
「バカ、我慢なんてすんなよ。今までプリンが隠れて泣いてた事も、苦しんでた事も、俺は知ってる。知ってて何も出来なかった。だからせめて受け止めさせてくれ……な?」
「あ……と、トレーナー……とれーなぁ……わたし……わたし……」
でも、それを全てトレーナーは受け止めてくれて、優しく抱き締めて、頭を撫でてくれて。
その胸はとっても温かくて、ホッとしてしまって。
そのせいで我慢していた気持ちなんて、すぐに緩んでしまって。
「今まで勝てなくてごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ずっと支えてくれてありがとう……こんなに……こんなに時間掛かっちゃったけどね……勝てたよ……重賞……」
「うん……うん……」
「ごめんなさい……ありがとう……トレーナー……ぁあ……ぅぁああ……」
絞り出すように、トレーナーの胸元で泣くしか出来なかった。
記憶に残ったのは、ここまでだった。
『プリンニシテヤルノ、涙の重賞初制覇。引退を来月に控えた中で堂々掴んだ栄光に
「これまでたくさん苦しんできたしたくさん悔しい想いをしてきた、そしてトレーナーにもさせてきてしまった。そういう苦悩を思い出したら涙が止まらなくなってしまった」』
『プリンニシテヤルノ、引退レースを名古屋大賞典から急遽変更!優先出走権を行使しチャンピオンズカップへ!!最初で最後のGI、そして親友・ブリッジコンプとのレース実現!!』
『プリンニシテヤルノ:もしもみやこステークスに勝てたらチャンピオンズカップに行こうと決心していました。
デビュー前、誰にも見向きされなかった頃から4人で誓い合った約束を全員で果たす事は出来ないですが、この舞台に立てなかった2人の分までわたしが背負って走ります。笑われるかもしれない、それでも勝ちたいです』
『チャンピオンズカップ、出走16人確定!アメリカからも3人出走、ブリッジコンプ世代は本人含め計7人参戦!これが最後のブリッジコンプ世代オールスターだ!!』
「プリン、ちょっと良いかー?」
「どうしたの〜トレーナ〜?」
「ほら、見てみろこれ!遂に届いたぜ……お前の勝負服!」
「ぁ……わた、しの……」
冬も近付いて、コンプちゃんとわたしの引退レースが間近に迫ってきているとある日遂にわたしの勝負服が届いた。
正真正銘これを着るのは引退レースの一度きり、たった一度きりだけど間違いなくこれはわたしの勝負服。
それはポップな色合い……とは言えない真っ赤な魔法少女衣装風のワンピース勝負服。
自分がずっと前から提案していたイラストをトレーナーと相談して、心変わりが無いという事で注文してくれていたものだった。
どこか諦めがちでネガティブな自分を変えたい、そんな魔法が欲しい。
わたしが見ていた魔法少女は、そんなネガティブな自分が魔法と出会って一歩ずつ踏み出していく物語だった。
だから自分だってそんな風に強くなりたいと、いつかこの勝負服が着られる日が来るならと夢見ていた。
そしてこの色、どこまでも強い強い赤。
自分の心の中にあるレースへの熱い想いがいつまでも消えないようにと願った、情熱の色。
もう着られないと思っていた、夢の中だけで満足しそうになっていた自分の勝負服が目の前にあった。
それを前にしてしまっては、言葉なんてまともに出てくるはずが無かった。
「そうだよ、プリンのだ。ここまで良く頑張ったね。……1回着てみない?」
「……い、良いの?」
「良いも何も、これはプリンのだって。だから思う存分着てくれよ。俺はその間にカメラ用意してみんな呼んでくるから」
「う、うん……」
震える手でトレーナーから渡された勝負服を見つめる。
小さい頃からずっとずっと憧れてきた、勝負服を着て走るという事が実現するのだとほんの少しだけ実感が湧いてくる。
1人それを実感すると、やっぱり涙が零れてしまう。
これからみんなで撮影会だって言うのに泣いていたらせっかく撮ってもらえるのに台無しになってしまう、誰にも見られない内に涙を拭いて勝負服に袖を通す。
自分の少し緑がかった落ち着いた鹿毛色の髪にも黄色のリボンが装飾品として着いて華やかになった気分にさせてくれる。
鏡を見てみる。
そこには夢見ていたよりもずっと輝く自分がいた。
まるで自分ではないかのような、それでいてちゃんと自分だと分かるくらいに。
「これが……わたし……」
やっぱりこの衣装は魔法だと感じた。
たった一度着ただけでまるで本当にそんな力があるかのように、諦めずに走れるそんな気持ちが湧いてきた。
チャンピオンズカップ、その出走者を今朝確認した。
アメリカからコンプちゃんと走った事のあるライバルが3人来るのとわたしとコンプちゃん、それにあの日のフェブラリーステークスで見たセイウンムラクモさんにそのコンプちゃんのお友達でもあるリリカルブロッサムさん。
コンプちゃんの世代が7人いる、そしてそれを『最後のオールスター』と謳って大々的に取り上げていた。
……その中にわたしもいた。
そう、ちゃんと世代として取り扱ってくれていた。
やっと、やっと同じ舞台に立てるのだとあの時初めてしっかりと認識出来たんだ。
わたし以外の6人はもちろん、何ならそれ以外の世代の人の中にも国際グレード云々を気にしないならGI獲得経験のあるウマ娘は複数人いる。
合わせて述べ10人、これが今回出走してくるGI獲得経験者。
それに16人全員が重賞獲得経験者というとてつもないラインナップ。
その中でGIII1つだけのわたしは間違いなく実力最下位だ、誰の目から見てもそんなものは明らかだ。
それでも、そうだったとしても。
「勝ちたい……!!」
そう呟く。
夢のその先へ、わたしは確実にその一歩を踏み出した――
-一方その頃-
「頼む!サブトレーナーって話じゃないから!同じ立場のトレーナーって事でブリッジコンプちゃんとアスケラに入ってくれないか!」
「いやだから何度も言ってますがね福嶋トレーナー。俺はコンプ以外面倒見る気は……」
「そこをなんとか!君の知恵を借りたいんだ!それに時坂くんのような逸材が1人でおしまいなんて業界の損失だよ!だから頼む!チームを持ってほしいとかじゃないから!」
「ええ……」
35話で『この作品のラスボスが決まった』俺は確かにそう言いましたね
ええ、この作品のラスボスはブリッジコンプサイドから見たスノーフォール
そしてもう1人……プリンニシテヤルノサイドから見たブリッジコンプなのである!!主人公でありラスボスであり、それでいて全てを照らす黄金の光!!それが本作のブリッジコンプだ!!
これにてside『P』完結です!ここから本編ラストと合流してチャンピオンズカップとなります!
福嶋悠市トレーナー
GIウマ娘を多数輩出しているチームアスケラのトレーナー、一昨年の凱旋門賞で2着だったキングヘイローのチームトレーナーでもある
ブリッジコンプの凱旋門賞で時坂の勧誘を決意したらしい
主な所属ウマ娘はメインシナリオのアスケラ組に加えフサイチパンドラ、ワグネリアン、コントレイル、カフェファラオ等
元ネタは福永祐一
時坂
まずいのに目を付けられたと思っているが逃げる気満々である
プリンニシテヤルノ
現在37戦8勝
内OP競走3勝重賞1勝
スモモ(引退)
現在30戦4勝
ケーキキャッスル
現在37戦4勝
サムソンゼット
現在14戦4勝
メールドグラース
現在11戦2勝
ここから先side『P』裏話です、興味があれば閲覧下さい
そもそもこの話を書こうと思ったのは6話時点でした
6話執筆時点では実は引退まで書く気は無く、俺達の戦いはこれからだ!みたいなエンドを考えていました、それも明確な着地点は未定で
そんな時にとある感想をいただいたんです
『プリンがみやこステークスを勝つ姿を見たい』
その方曰くプリンニシテヤルノが出てくる二次創作を見つけては片っ端から言っていたらしく、恐らくそこまで意図した感想では無かったのだと思います
ですが、その感想を見てみやこステークスを調べた結果チャンピオンズカップの優先出走権が付いている事を初めて知ってビビッと来たんです
あ、これ綺麗にまとまるなと
その時からプリンがみやこステークスを優勝してチャンピオンズカップに出てくるのは確定していました、そしてそのお陰でここまでの道筋を問題無くスラスラ描く事が出来ました
あの時感想をくれた方、本当にありがとうございました
誇張無しにこの作品の結末を決めてくれたのは貴方です
今見ているかどうか、それは作者からは分かりません
ですが今見ていなかったとしても、プリンの勇姿をいつかどこかで見ていてくれればと思います
また、様々なネタを提供して下さった読者の皆様にも本当に感謝が尽きない思いです
共に作品を作り上げてもらえて楽しかったです
最終話に先立ってお礼を申し上げます
残り本当に僅かですが、これからも楽しんでもらえれば嬉しいです
ではまた