楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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57.これが最後の祭りだ

『一つの歴史が終わりを迎えようとしています。そして新たな門出を迎えようともしています。晴天の空模様はその特別な日を刮目せよと言わんばかりに冬にしては少し暖かな気温を与えてくれました。さあ、ブリッジコンプ世代最後の祭り……チャンピオンズカップが今幕を開けます。実況解説は私赤嶋達也と』

 

『とまこまーい!ホッコータルマエでお送りします。……しかしとてつもないお客さんですねこれ』

 

『中京レース場のこれまでの歴代来場者数レコードが7万4201人ですが……今日は計測されているだけでも8万5000人が来場しています。

更に大混雑が予想された為に本日は来場規制を8万5000人とし、バンテリンドーム、東京ドーム、神宮球場、東京レース場では来場落選者を集めたライブビューイングも行われています。

そこでの合算も含めますと35万人以上が現地若しくはライブビューイングしている事になりますが35万人以上が詰めかけようとしたと言う事実、最早これは前代未聞という話では無いですよ』

 

『そうですね、何せアメリカやフランス、中東やアジア諸国からもわざわざこのレースを観にやってきたお客さんが多いと聞きます』

 

『ブリッジコンプという一つの歴史の一区切りですからね、それに世代だけでもGI勝利数合算67、他4人がGI獲得経験者で総GI獲得数77。更に全出走者が重賞獲得経験者で重賞総数は100を超えますからね……こんな何百年何千年と語られるレースを、それも二度も我々が実況解説出来るなんて夢みたいですよ……』

 

『ほんと、願わくば私もあの中に交ざりたいくらいです』

 

『そんな歴史的レースチャンピオンズカップは間もなく出走です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、コンディションバッチリだな。勝負服も問題無いな?」

 

「うん、大丈夫。いつも通りだよ」

 

「なら構わん。……しかしもうお前と出会って5シーズン、そんなにも過ぎたとはな。コンプもそう思わないか?」

 

「最初から最後までしっちゃかめっちゃか振り回されたお陰であっという間だったよ……夢みたいだって思ったりちょっとチャンピオンの重圧ってのもあったけどさ、楽しかった。トレーナーのお陰なんだから」

 

 控え室、静かな空間であたしとトレーナーは最後の調整をしていた。

 不思議とこれまで多少なりずっとあった緊張は、今回ばかりは全く無くてただただトレーナーとの思い出が脳裏に蘇ってくるだけだった。

 

「俺も……最初は金稼ぎの為だけにトレーナー業やってたが、なんというかお前と過ごした時間を振り返ってみると案外楽しかったわ。俺からも言わせてもらうが、それは間違いなくお前のお陰だ、コンプ。俺と出会ってくれてありがとう」

 

「うぇへへ……なんか照れるなあそういう感じでストレートに言われちゃうと」

 

「今日は特別な日だからな。言いたい事は言っとくのが吉ってやつさ」

 

「んふふ~ありがと」

 

 だからこんな本音を言ってくれるトレーナーの言葉にも驚く事無く受け入れられたのかもしれない。

 スカウトを受ける前のあたしが今のあたしを見たらどう思うだろう。

 本当にこれが自分なのか疑う以前に欠片も信じないだろうか。

 まあ、トレーナーが付くかどうかさえ不透明だったのに未来の自分がトレーナーを付けてこんなに勝ってお付き合いもしてるなんて、そりゃあ思う訳ないもんね。

 

「んじゃま、楽しんでこい」

 

「そうする」

 

 いつも「勝ってこい」というトレーナーが今日は「楽しんでこい」とあたしに声を掛ける。

 その言葉の意味はちょっと形にはしにくいけれど、でも心ではしっかりと伝わっている……だから笑顔で応えるだけ。

 

 とびっきりの笑顔をトレーナーに向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……トレーナーから聞いてたけど、これで来場希望者の1/4かあ……自分の影響力がいまだにたまに分からなくなる事があるよほんと」

 

 聞いた話じゃ今日ここ中京レース場に来たお客さんは8万5000人、でも来場規制をしててそこで落選した人によるライブビューイングも合わせると35万人とかなんとか……35万人ってどうなってるんだって自分の影響力にドン引きしてしまう。

 自分の引退レースだって言うのになんだか緊張はしないし、とことん不思議な気持ちになってしまう。

 

 ……でもそう悠長にもしていられない。

 

 ここから先はあたしと同じ世代を走ったライバル達がきっと声を掛けてくるはず、トゥインクルシリーズでは彼女達と走るのは最後なんだから気は抜けない。

 

「久しぶりですね、ブリッジコンプ」

 

「リードパールさん……確かにもうしばらく走ってなかったね」

 

 リードパールさん、ケンタッキーダービーで走ってからちょくちょく一緒に走る事があったけれどここ1年以上出走表にはいなかった記憶がある。

 そしてその間に初戴冠含むGIを2勝、サブトレーナーにワンダーアキュート先輩を付けてから躍進を続けている。

 

「覚えていてくれていたんですね」

 

「ケンタッキーダービーの出走表見た時に、ダービーウマ娘特集でローズちゃんとあたしと一緒に写ってたのが貴方だったからね。それにずっと走ってる姿見てたから」

 

「そう……嬉しいです。今日は負けませんよ」

 

「あたしも負けないよ」

 

 彼女からしたら覚えてもらえていないと思ってたのか、嬉しいと言った時の彼女は本当に嬉しそうだった。

 同じ中東のダービーを勝ったウマ娘として密かに応援していたからGIを勝った時はホッとしたのを覚えている……また走れるのは純粋に嬉しい。

 

 

「寂しくなりますね、貴方が引退というのは」

 

「ロイヤルちゃん」

 

 ロイヤルダーツ、この人ともクラシック時代から良く走ってきた。

 でも仲良くなったのは今年の凱旋門賞を見に行った時だったけどね。

 あたしの事を恩人だと言ってくれたのはとても嬉しかった。

 

「貴方はワタシの恩人でありヒーローです。しかし今日ばかりは、今日こそは越えさせてもらいますからね」

 

「待ってるよ、あたしも全力で走るから」

 

 静かでありながらも見える闘志は凄まじいものだった。

 だからこそ正面から迎え撃ちたいと、そう思えた。

 

 

「正直、私とブリッジコンプ……貴方との絡みはそんなに無かったように思える」

 

「だよね、でもずっと意識はしてたよ」

 

 セイウンムラクモさん、初めて走ったのは3年目だったから少し遅かったけれどその執念深さや潔さはとても印象に残っていた。

 リリちゃんとは仲良しだって聞いたしそういうところでも気になっていた存在ではあった。

 

「ライバルだと思われていたのだとしたら光栄。……今日は貴方の不敗神話をこの手で終わらせたいという思いで走るので」

 

「あたしだってここまで来たら終わらせる気は無いからね!」

 

 しかし自分とて負ける気は更々無い。

 ライバルだと思っているからこそ、全力で走って全力で勝ちたい。

 その想いは不変だ。

 

 

「……コンプちゃん。今日は全力で行くよ」

 

「いっつも全力だったの知らないはずないでしょ」

 

「…………そっか」

 

「うん、だっていつも後ろから想い感じてたもん」

 

 リリちゃん、この子はいつも平然としてるように見えて本当はちゃんと悔しがっていたのをあたしは知っていた。

 ここに、競技者ウマ娘としている以上負けて悔しくないウマ娘なんて存在する訳が無い……あたしはちゃんと分かっていた、走っている時後ろから感じる闘志も負けん気も。

 

「ありがと、コンプちゃん。でも負けないよ」

 

「あたしだって負ける気ないもんね!」

 

「ふっふっふっ、それでこそコンプちゃんだよ」

 

 いつもとは違ってそんな闘志を剥き出しにしていたけれど、やっぱりリリちゃんはリリちゃんだった。

 最後には飄々とした雰囲気でパドックへと向かっていった。

 

 

「遂にここまで勝てずに来てしまいましたわね……ですが!今日という今日は必ず勝たせてもらいますわよ、コンプちゃん!」

 

「あたしだってローズちゃんにはいつまでも負けたくないよ!」

 

 ローズちゃん、一番沢山あたしと走ってきて一番のライバルで、一番の戦友だと思っている子。

 ずっとあたしのすぐ後ろを走っていてくれるローズちゃんがいたから自分は走り続けられた、凱旋門賞だって勝つ事が出来た。 

 あたしにとっても恩人と呼ぶべき人でもある。

 

「……ケンタッキーダービー、あの日ワタクシは負ける気なんて全く感じていなかった」

 

「……」

 

「でも実際はアナタにぶっちぎられて、でもそうやって負けた事でアナタの走りに惚れて自分を見つめ直して一流のウマ娘となる事が出来た。感謝してもしきれないんです、ここまで来れたのはコンプちゃんのお陰ですから」

 

「あたしだって同じだよ。チャンピオンとして未熟で右も左も分からなかった時声を掛けてくれたのはローズちゃんで、凱旋門賞でもローズちゃんが背中を押してくれたから勝てたんだもん。

だから恩人だって思うのはあたしも同じなんだよ」

 

「ふふ、光栄ですわ。だからこそコンプちゃん、アナタを超えたい」

 

「受けて立つよ」

 

 お互いにお互いがいない事が考えられないと思っている。

 そんな関係になれた事に心から感謝しているし、そしてだからこそ絶対に負けられない。

 最後まで勝ちたいんだと心の底から感じる。

 

「お互い健闘を祈りましょう」

 

「うん」

 

 グータッチを交わして彼女はパドックへ向かっていった。

 

 

「やっと……やっと、ここに来られた。コンプちゃんの隣に立つ事が出来る……」

 

「あたしだってずっと待ってたよ、プリン」

 

「約束、遅くなったけど果たしに来たよ。わたし……でも、謝らないといけない事も……」

 

「……全部知ってたよ、あのインタビューが出る前に」

 

「……えっ」

 

「とは言っても、知ったのは少し前だけど」

 

 そして最後に来たのは一番の親友であるプリン。

 この子も今日が引退レースで、ドリームトロフィーリーグからのオファーは無かったからここが本当に最初で最後の一緒に走るレース。

 あの日4人で交わした約束は完全に果たされる事は無かったけど、それでもみんなの想いを背負って来てくれたプリンには感謝しかない。

 

 ……そして、プリンがあたしに嫉妬していたのもこの前知った。

 

 偶然スモモやケーキと話してる時に、こっそりとだけど。

 そんな事全く知らなかったけど、振り返ってみれば当然なのかもしれないとも思うし恨まれて当然だった。

 それでも謝ってくれようとしているプリンを見たら、どうしても謝らせたくなくなってしまった。

 

 これは、あたしが背負うべきものだから。

 

「だから謝らなくて良いよ。代わりに今日目一杯走ろう、それで全部チャラって事にしない?」

 

「良いの?」

 

「いーの、あたしがそうしたいから。だから笑って、笑って楽しもう?」

 

「……はぁ、もー、これだからコンプちゃんには敵わないんだよ」

 

 2人見つめ合う。

 一瞬周りの音が聞こえなくなるくらい、これはあたしとプリンだけの、一番の親友同士の目と目の会話。そこにはそれ以外何もなくたって良い。

 

「負けないよ、プリン」

 

「わたしだって!」

 

 ふっと笑い合いハイタッチを交わす。

 そうして今度はあたしがパドックへ向かう。

 さあ、ここからはみんなに捧げるトゥインクル最後の走りを見せる時だ……気張って行くぞ、あたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、最後に王者ブリッジコンプが堂々とゲートに入っていきます。全員がゲートイン完了。……これがブリッジコンプ世代最後の祭りだ――スタートッ!!』




ハーメルン死にかけててヒヤヒヤした
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