楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
「あー……また模擬レース負けたぁ……」
「はぁ~今日も勝てなかったよ~」
「え?」
「え?」
出会いは単純なものだった。
お互い模擬レースで惨敗して木陰で愚痴っていた時に偶然出会って。
2人とも長期間勝ててなかった事もあって、話が合って。
いわゆるそんな些細なところから始まった関係性、一人ぼっち同士で心細かったから仲良くなるのに時間なんて全く掛からなかった。
そしてその輪は次第に大きくなっていって。
「私はスモモ、よろしくね!」
「ケーキちゃんはケーキキャッスルって言うの!仲良くしてね!」
やがて勝てなくても頑張る4人として、他のウマ娘からもトレーナーからも見向きさえされなくてもみんなと一緒であるなら頑張ろう、頑張れる、そんな気がしていた。
そんなある日。
「君、少し良いかな?」
「え?あたしですか?」
最初に出会った子がスカウトをされた。
4人全員で「誰が最初にスカウトされても恨みっこ無し!」とは言っていたけど、それでも悔しくて拳を握りそうにさえなった。
でも『恨みっこ無し』だ、だったら今はこの子のチャンスを応援してあげないといけない、そうして3人で躊躇するその子の背中を押してあげた。
「みんなありがとう。あたし、契約決まった!」
「おめでとうー!」
結局のところその子はその日の内に契約を決めていて、それはとても嬉しそうな笑顔だったのを覚えている。
これも運命だ、自分達がスカウトされなかったのは仕方ない事なんだと薄く諦めも持っていた。
「え?わたし達を見てくれるトレーナー?」
「ああ。お前らは俺が契約を決めたブリッジコンプの友人って話だろう。努力もしている様だから特別に俺の親友である、まだ担当も付いてない同期のコイツが担当付くまで練習を指導する。これに関してはコイツも同意の上だから問題無い」
「俺の名前は明路光利、練習期間は気軽に明路トレーナーとか呼んでくれると嬉しいな」
でもそんな折チャンスが巡ってきた。
コンプちゃんをスカウトしたトレーナーはわたし達の事も見ていてくれたのか、担当の付いてないトレーナーをあてがってくれて練習を見てくれる事になった。
「よし……良いよ、タイムが少しずつ良くなってきてる。凄いじゃないか!」
「ありがとうございます!」
そしてそのトレーナーは臨時で付いてくれた新人とは思えないくらい熱心で、全員の事をとても褒めてくれた。
トレセンに来てから褒められた事なんて一度も無かったわたし達はすっかりその人の事が大好きになってしまって……でも、その人は新人だ。
選ぶとしてもこの中から1人、それは誰しもが分かっていた話。
「……よし、俺決めたよ」
「遂に決心が付いたか?」
「ああ……俺は、3人とも担当したいと思ってる」
しかしその予想は大きく裏切られた、良い意味で。
あの人は、光利さんは全員を担当したいって断言してくれた。
「良いのか?負担は3倍どころじゃないぞ?」
「分かってるさ、俺の考えが甘いって事くらい。でも……『ここで誰かを見捨てたら絶対後悔する』、その選択をするくらいなら全員を担当する」
「あー……お前は本当に昔から不器用な奴だよ。分かった、困った事があれば手助けくらいはしてやる、だから最後まで面倒見てやれよ」
「おうよ!って訳で、これから3人ともよろしくな!」
夢みたいだと思った。
でもこれは現実、今こうして引退レースを走っているという現実があの日を現実だと鮮明に見せてくれていた。
「さ、3人みんな一緒にいられるの?」
「ああ」
「これからもトレーナーとみんなで暮らせるの?」
「もちろん!」
「ケーキちゃんの事……みんなの事も、たくさん褒めてくれる?」
「当たり前だ」
3人してトレーナーに抱き着いて涙を流した日を、きっと忘れない。
そしてそれから今日までの辛かった事、苦しかった事、悔しかった事……そして楽しかった事や幸せだった日々も、きっとわたしは何年、何十年経っても、しわくちゃのおばあちゃんになっても忘れないだろう。
何よりも、コンプちゃんと、スモモちゃんとケーキちゃんと、そしてトレーナーと。
それぞれと出会えた最初のあの日を忘れる事は無い。
あの日それぞれ出会えたからこそ、今のわたしがここにいる。
大観衆の中からだってみんなの声と姿は聞き分けて見せるし見つけてみせる、何万人いたって絶対に。
だから見ていて。
最後の灯火を。
わたしの、最後の走りを――
『ブリッジコンプが、ブリッジコンプがやはり全てを置き去りにするのか!?後続は必死に追いすがる!!総勢9人のGIウマ娘が!そして総勢15人の重賞ウマ娘が追いすがるが最終コーナーに辿り着く前に既にサンライズローズ以外に10バ身以上リードを広げている!!』
『これが引退レース……?明らかに彼女は進化を続けている……それも、レースの中で……!!』
『さあ最終コーナー回ってやはりブリッジコンプのみが最終直線へと向かってくる!!リードパール上がってこれない!ロイヤルダーツも早仕掛けだったが距離を離され過ぎている!!セイウンムラクモ、リリカルブロッサムは上がってきているがこのペースでは苦しい!!そして!そして!唯一喰らいついていたサンライズローズも徐々に引き離されていく!!』
それはたとえ、どれだけ絶望的な状態だったとしても構わない。
『やはり!やはり!世界最強は最後までブリッジコンプなのか!!』
それはたとえ、どれだけ自分にスポットライトが当たっていなくたって構わない。
『いや待ってください!!1人上がってきますよ!!』
それはたとえ、泥臭く醜くても構わない。
『最後方からものすごい脚を使って上がってくるバ体が見えるぞ!!』
これは文字通り、わたしの、全てを……命を賭した最後の走り。
『大外から真紅の勝負服が上がってくる!!』
『これは……!!』
『ぐんぐん差を詰めてくる!!これは、これは――』
『プリンニシテヤルノだッ!!』
『プリンニシテヤルノだ!!プリンニシテヤルノだ!!とんでもないペースだ!!』
『このペースならッ或いは……!!』
脚が悲鳴を上げる、肺も悲鳴を上げる、身体の全てが悲鳴を上げる。
これ以上走れば多分もう二度と選手として復帰は出来ない、それが分かっていても尚、それでも……それでも、あの人に勝ちたい、あの人に近づきたい、全力で走りたい……!!
「だああああああああああああ!!!!」
『なおも追いすがる!!ブリッジコンプまで残り7、8バ身か!?残り200m果たしてどうなる!?』
そしてそれは、とても幸せな時間だったと――
「はぁ……はぁ……」
一瞬の静寂。
あたしは疲労で顔を俯かせながらも、人差し指を天に突き立てる。
瞬間、まるで時計の針が一斉に動いたかの様に歓声が響き渡る。
これはあたしへの祝福の歓声だ、最後まで頂点であり続けたあたしに対する歓声……いや、それだけじゃない事くらい当事者である自分が分からないはずがなかった。
突き立てた腕を降ろし、大きく深呼吸をする……そして振り向き、今にも倒れそうな親友に……最高のライバルの肩をそっと支える。
苦痛に顔を歪ませながらもそれを悟られないように歩く彼女に、今はただそっと寄り添って。
「…………無理したな、このおバカ」
「で、も……わたし……コンプちゃん、に……追いつけ、なかったなあ……」
「何言ってるの、最終コーナーから15バ身も縮められたんだけど?あと100mあったら負けてたのはあたしだって」
「……わたし……がんばれた……かな?」
「頑張ったよ……あたしが走った中でも最高のレースだった。……ウイニングライブ、大丈夫そう?」
「コンプちゃんの……引退レースだもん……台無しになんてさせない……から」
「無理だけはしないでよね?」
そして寄り添うあたしとプリンに、これまた大きな歓声が届く。
――3バ身、それがあたしとプリンの着差だった。
あたしが最終コーナーに入る直前、恐らくその時点で20バ身前後あった差をここまで縮ませてきたウマ娘は後にも先にもプリンだけだった、スノーちゃんでさえそこまでの差を詰めては来ていなかった。
間違いない、あたしの中で一番のレースだ。
「全く、まさかワタクシが2着どころか3着に終わるとは。お見事でしたわ、2人とも」
「ん、やっぱりコンプちゃんはすごい。プリンもすごかった」
「これだから走る事をやめられない……」
「今日このレースに挑戦した事、生涯ワタシは忘れないでしょう」
「ああ……惨敗だった。でも、とても良かった……」
今日共に走ったライバル達。
「おめでとうございます、コンプさん。プリンさんも……やはり貴方は素敵な運命に導かれていますね」
「いやー本気で声出して応援しちゃったよ!コンプちゃん、ほんっとーにお疲れ様!応援出来て良かった!」
かつて走った戦友……スノーフォール、テイエムクロード。
「コンプ……ま、おつかれさん。楽しめたみたいだな」
「うん。……とっても、楽しかった」
そして何より、最愛のトレーナー。
祝福の声は止まるところを知らなかった。
あたしは親友の腕を天に突き上げる。
それは最高のライバルの戦いを讃える為に、それを観衆にもう一度焼き付けさせる為に、そしてこの全てを永遠の歴史に刻む為に。
歓声は、いつまでも、いつまでも、止む事は無かった。
次回(多分)エピローグ!
恐らくこの世で最も出世したプリンニシテヤルノです、お納めください