楽して大金だけ稼ぎたいトレーナーと魔改造されるブリッジコンプちゃん 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
というかこの作品の現状が頭おかしい
日間1位/週間1位/月間8位/四半期34位/年間229位/総合評価1万超え…?
日間1位初めてだし週間1桁初めてだし月間50位以内も初めてだし四半期以降に至っては初ランクインなんだが…?これもうケンタッキーダービー1着にビビってるブリコンの気持ちそのものだろ…
『ブリッジコンプ、日本勢史上初アメリカクラシック三冠の頂点の偉業成る!!18人立て18番人気から下克上!!』
『ブリッジコンプ次走は勿論プリークネスステークス!二冠目へ気合い充分!無名の挑戦者から一転、シンデレラストーリー描いたチャンピオンとして迎え撃つ!』
『ブリッジコンプ:初GI挑戦が海外で、それもアメリカでも最大級のレース。なるようになれと腹を括っての挑戦で無我夢中で走っていたので覚えている事はほぼ無いです……本当にゴール直後掲示板を見た時はせめて掲示板に少しの可能性で載っていてくれないかな〜なんて思って見たので自分の事のようには思えなくて。
ただ、トレーナーとのトレーニングの日々が、最高の舞台、結果に結びついたんじゃないかなって思ってます。感謝してもしきれません。本当に、本当にありがとうございます』
『トレーナー:え?ブリッジコンプは感動してたのにトレーナーはあっけからんとしてるって?そりゃそうですよ。俺は彼女が勝つと渡米前の、アメリカクラシック三冠路線に決めたあの瞬間から確信していたんですから。しかも挑戦はまだありますからね。……プリークネスステークス、勿論出ますよ。ま、今度はウチの担当が1番人気なんじゃないですかね、ははは〜』
いつからだろう、あたしがどう考えても何かがおかしい位置にいると気付いてるようで気付いてなかったのは。
いつからだろう、ケンタッキーダービー戴冠の意味の本当の重さに気付いていなかったのは。
最早なんであたしが地元ケンタッキー州だけじゃなくて全米のインタビューを受けて一躍スターみたいな立ち位置になってるのか以前に自分が本当に自分なのか日に日に疑わしくなっていた。
「はい、それじゃあ明日からのプリークネスステークスへの練習も頑張って!チャンピオン!」
「ウェッ!?あ、はい!!頑張ります!!」
「期待してるよ!」
あの日から三日経って今日までは休日。
ここから2週間足らずで今度はプリークネスステークスを走る事になるから休んでる暇はほぼ無い。
チャンピオンとか言われてるけどそんな事言われたってあまりにも実感が湧かなくて不安になる。
「よっ、チャンピオン」
「ちょっとトレーナーぁ!あたしがそう言われてるの困ってるの分かってて言ってるでしょー!?」
「あ、バレた?」
すぐ隣にはそんな事を知ってか知らずかヘラヘラしながらさっきの人と同じようにチャンピオンと呼んで茶化してくるトレーナーもいるから尚の事不安になるけど。
いやアンタは少しくらい安心出来る存在でいてよ。
「バレた?じゃないのー!正直実感無いままプリークネスステークス迎えたらどうしようってちょっとだけ不安なんだからね!」
「あ、それでもちょっとだけなんだ」
「……まあ、実感無くてもあたしはGIウマ娘、それも日本勢史上初の快挙とか言われてるくらい凄い事を成し遂げた。だったら訳分からなくても自信と誇りにしないとそれは他の負けたウマ娘達や応援してくれた人達、それにトレーナーにだって失礼になっちゃうし」
「律儀なもんだ。俺なんて金稼ぎしか考えてないのに」
「アンタはもう少し考えろ」
まあ、そうやってツッコミは入れてしまうもののトレーナーがあの手この手で最善を尽くしてくれたから勝てたのも事実。
金稼ぎしか考えてないと言いつつちゃんとレース間隔はしっかり考えてあたしの脚を気遣ってくれたり、毎レースメンタル管理もしてくれたり、明らかにぶっ飛んだ思考をしつつも真剣にあたしというウマ娘の事を見てくれてるのが伝わるのは嬉しい。
言っても変なリアクションしか返ってこないだろうから言わないけど。
「でもまあ、なんにせよ次走はほぼ確実にお前が1番人気だぞ。ケンタッキーダービーを、しかも逃げて差す戦法で一度も追い付かせず逃げ切ったお前を全員がライバル視するだろう」
「……だよね。1番人気、か……どちらにせよチャンピオンとして恥じない走りをしないと」
だからそんなトレーナーが誇れるウマ娘にもっとなるために、二冠目は無我夢中なんかじゃダメだ。
実感が無くたって良い、チャンピオンはチャンピオンなんだからそれに相応しい走りをしないと。
「……あ?バカかよお前は」
「え?な、なんで?」
でもそんな思考を切り裂くように、トレーナーはそう言い切った。
いつもの得意気な顔で。
「良いかコンプ、チャンピオンだろうがそうでなかろうがお前はお前だ。雑音なんか中指立ててfuckYouでもしとけ。誰になんと言われてもコンプは自分の思うがままに走ればそれで良い。一番勝率が高いのがそれだ」
「中指立ててfuckYouは治安悪過ぎでしょ……でも、何となく分かった。あたしちょっと固くなり過ぎてたかも。ありがとう、トレーナー」
「なーに良いって事よ」
トレーナーはいつもこれだ。
あたしの凝り固まった考えを改めさせてくれる。確か本当は高校1年生時点でT大首席合格確実視されてたのをトレーナーになる為に進路変更したって聞いたけど……そう思うと、本当にこの人と出会えたのは奇跡なんだなあとしみじみしてしまう。
でも一つ不思議な事がある。
その知識は一体どこから出てきているのだろう、という事だ。
「ところでトレーナー?」
「なんだ?」
「大舞台への心構えとか、凄く分かりやすくていつも助かってるんですけど……その知識はどこから?」
「んふふ、秘密」
「えー、教えてくれないのー?」
「こういうのはミッ〇ーマ〇スの着ぐるみの中身を詮索しないのと同じ、気にしちゃいけないし気にしたら負けだ」
「例えが妙に生々しい……!」
教えてくれなかった。
というか着ぐるみの中身詮索するのを例えに持ってくるのはなに?そんな事言われたら余計知りたくなるんだけど。
……アメリカ遠征終わったらもう1回聞こうかな?
『ここは負けられない1番人気、5番ブリッジコンプ。身体の完成度もより良くなっていますね』
『ええ、そもそも前回のケンタッキーダービーも人気が無かったのは距離適性ありきで身体の仕上がりは文句無しでしたからね。それを2000mは走れると優勝して払拭したのですから、それより少し短いこのプリークネスステークスで1番人気なのは当然でしょう。スピードとパワーも申し分が無い』
『懸念点はありますか?』
『彼女はデビュー前の模擬レース含めこれが初の1番人気出走と聞いています。これまでで一番高かったのがサウジダービーの3番人気。マークされる事への経験が0なのがどう出るか。最大の懸念点とも言えますし最大の見どころとも言えるでしょう』
遂に迎えた、迎えてしまった。
パドックではキリッとシュピシュパと決めポーズをしながら人生で浴びた全ての歓声の1万倍くらいの歓声を浴びているあたしだけど心の内では絶賛冷や汗ダラダラである。
それこそ緊張はあまりしなかった、もう前回嫌というくらい大きなレースで緊張したからしばらくはアレを超えない限り『良い緊張感』程度にはなると思う。
問題はプレッシャーだ。
澄まし顔で、あたかもチャンピオンとして堂々と迎え撃ってる構図に見えるのかもしれないけど周りの……特にケンタッキーダービーで敗北したウマ娘から向けられるとてつもない視線とか色々と怖すぎる。
「……これがチャンピオンの重圧、かぁ」
パドックから降りてゲート前へと向かう中でボソリと一人呟く。
想像していただけでも胃がキリキリと痛んでいたのに、しかも舞台は日本じゃなくてアメリカ。
ダート競走の本場アメリカのGIチャンピオンとして立つなんて、あたしの人生ほんとどうなっちゃってるのやら。
『HAHAHA、レースを見ていたがまだまだ勝負服に着られる初々しさがあったな。それに相応しくなるにゃもう少し経験が必要だな?』
でも結局のところ一番勝ってる感情は『次こそ似合ってるって言わせてやるんだから』という気持ち。
「――次こそ言わせてやるんだから」
ふぅ、と一息吐いて先導されるがままにゲートインする。
さあ頑張るぞ、あたし。
トレーナーの秘密
学生時代は勉強漬けで大舞台みたいなものとは縁遠かった
心構えとかそういう助言は実は全部何かからの受け売り
トレーナー「受け売りだろうがなんだろうが相手の心に刺さりゃなんでもいいっしょ」