駆逐棲姫ってかわいいですよね
提督が会議室で緊急会議を行った次の日、鎮守府の艦娘全てが執務室に呼び出された。本来事務仕事が専門の大淀さんや工廠の明石さんまでが呼び出されている。
「大淀さんや明石さんまで呼び出すなんて、何かあったのかしら?」
執務室に向かう途中、隣の大井がそう呟いた。後ろからついてきている駆逐艦の子達も頷いている。
七海がどんな理由で集合をかけたのかは分からないが、どうやら穏やかな話にはならないだろうという予想ができた。
執務室に集まった私達の前で椅子に座った七海と、隣で電がホワイトボードにどこかの海域のマップを貼っていた。細かい部分はもうあまり覚えていないが、あれは北方海域のマップだった筈だ。
全員が揃ったのを確認すると、七海は椅子に座り直してからこちらを真っ直ぐに見つめてくる。
「……全員が揃ったところで昨日の緊急会議の内容を伝えるわ。……っと、その前に皆は〝姫〟についてどれだけの知識があるかしら?」
七海の質問に私と事務の関係上知っているであろう大淀さん以外が首を傾げた。
七海がそんな話をしたということは、恐らく姫の姿が確認されたということだろう。後ろの席に座っていた私は前に座る駆逐艦達にも聞こえるように説明する。
「姫っていうのは現在確認されている深海棲艦の中で一番強い個体に付けられる名前だよ。姿は様々だけど、基本的に艦娘に近い人型をしてる。普段見る奴らと明らかに違う姿をしてたら姫かもしれないと警戒した方がいいね」
「はーい、金剛さん。姫ってどれくらい強いの?」
夕立が振り向きながら手を上げて質問してきたので、少し情報を整理してから答える。
「どの姫が相手かにもよるけど、基本的に私一人じゃ余程の奇跡が起きない限り、まず勝ち目はないね」
「金剛さんが勝てない相手なの!?」
雷が驚愕し、暁が呆然とする。
しかし、姫とはそれだけ強大な力を持っているのだ。一撃で大破させられる攻撃力と、フラグシップ級の倍以上にも及ぶ耐久力、中には雷撃が通用しない者までいる。
そこまで説明すると、大井が引き攣った表情を浮かべた。魚雷が効かない個体がいるということがショックだったのだろう。
「さて、金剛が今話してくれたけれど、姫の姿を北方海域で見たという報告があったわ。そこで、他の鎮守府の提督達が連携して連合艦隊を結成し、姫の撃破を行うことになったの」
「連合艦隊ですか……」
昨日の会議によると、確認されたのは飛行場姫であり、以前も提督達が挑み多くの犠牲を出しつつも撃破した筈だったが、どうやら生きていたらしいのだ。
しかし、飛行場姫のダメージは完全に回復していないらしく、艤装にはパーツが足りなかったのだとか。そこで海軍本部はダメージが回復してしまう前に完全に飛行場姫を撃破すべく連合艦隊の結成を決定したそうだ。
「私達は金剛以外、戦力的に力不足なので後方支援になるわ。主に資材の運搬と負傷した艦娘の手当かしら」
「なんだ、連合艦隊組むんだからオレ達も一緒に戦うんじゃないのかよ」
天龍が不満そうにするが、姫というのはそれだけ危険な相手なのだ。生半可な実力では返り討ちになるだけなのでこの配置は正しい。明石さんがいるのも納得できる。
「出撃は明後日よ。それまでに装備の調整や体調を整えておいてね」
「「「了解!!」」」
そのままその場は解散となり皆が退出するが、私はその場に残る。七海の正面の席に座ると、彼女も溜息をつく。
「やれやれ、厄介な時期に現れてくれたわね……」
「北方海域は敵の数や強さ的に練度上昇にもってこいの海域でしたからね。たしかにこの時期に現れたのは厄介です」
苦笑いする七海は一度咳払いして真剣な顔で私を見据える。
「金剛、貴女は支援ではなく他の連合艦隊と共に飛行場姫撃破に参加してもらうわ。貴女は三式弾が使えるし、少しでも戦力があった方がいいでしょうしね」
「了解です」
「……言うまでもないけど、無茶はしないでね?」
「わかってますよ」
それだけ言うと部屋を出る。
さあ、生き残るためにもこれから工廠へと向かうとするか。これから忙しくなるね。
◇◇◇
……で、出撃の日、私達は北方海域へと向かっていた。
暫く海面を滑りながら指定された海域を目指していると、同じ方向に向かう別の艦隊を見つけた。向こうもこちらに気がついたのだろう、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
「こんにちは、私達は呉鎮守府の艦隊だ。君達はどこの鎮守府所属の艦隊かな?」
「こんにちは、私達は岩川鎮守府所属の艦隊です」
「ほう……君達が噂の岩川鎮守府の艦娘達か、たしかに皆いい目をしている」
艦隊の先頭に立っていた長い黒髪の女性が頷きながら私達全員を見回した。
呉鎮守府は横須賀鎮守府と同規模の巨大な鎮守府だ。そこの艦隊となると皆が相当の練度であることがわかる。実際、目の前に立つ彼女も強者の雰囲気を漂わせている。
「おっと、名乗りもしないで申し訳ない。私は今回の連合艦隊総旗艦を任されている長門だ。敵戦艦との殴り合いならまかせておけ!!」
「総旗艦でしたか、こちらこそ未熟な者達が多いですがよろしくお願いします」
なんと、目の前にいる長門は今回の連合艦隊の総旗艦であるらしい。私が頭を下げると、苦笑いしながらも私の肩に手を置いた長門に顔を上げるように促される。
「いやいや、そう畏まる必要はない。私達は共に戦う仲間なのだ。厳しい戦いになるからこそ、仲良くしていきたい」
「はい、了解です」
私が笑うと、長門達は手を振りながら先へと進んで行った。こちらも手を振り返しながら指定された場所へと向かう。
「長門さん、カッコ良かったわね!!」
「凛々しくて素敵なレディだったわ!!」
「立ち回りに無駄が無かった。あいつ相当強いぜ」
「……彼女達が共に戦ってくれるなら心強いわね」
「でも、ボク達も負けてられないよ」
「そうそう、支援頑張るっぽい!!」
後ろで皆が戦意向上する様子を感じながら、流石は長門だと感心する。あの僅かな会話でこの艦隊の緊張を解き、不安を取り除いてみせた。あれが歴戦の強者の風格というやつなのだろう。私も旗艦を任せられる身なので彼女を見習わなければならないだろう。
遠ざかる呉鎮守府の艦隊の後ろ姿を見ながら、私はそう気合を入れ直すのだった。
◇◇◇
それから暫くして予定された地点に到着した私達は七海へと通信回線を開いた。
「提督、岩川艦隊、予定地点に到着しました」
『了解、金剛は事前に説明があった通り呉鎮守府の艦隊に合流して』
「了解」
通信を終えると、振り返り皆を呼び集める。
全員の顔を見回し、七海から伝えられていた内容の確認と私が別行動する旨を伝えた。
「……と、いうわけでここの指揮は一旦霧島に預けます。しっかり皆をまとめてね?」
「はい、お任せください金剛姉様!!」
笑顔で頷く霧島に艦隊の指揮を任せると、最前線である呉鎮守府艦隊へと合流すべく移動を開始した。
◇◇◇
道中で出会った他の艦隊に挨拶をしながら最前線へとやってきた。最前線というだけあって艦娘の数も多い。恐らく40人はいるのではないだろうか。こんなに多くの艦娘が一度に出撃するなんて、原作では絶対に見られない光景だろう。
その中から長門を探し出すと、隣に移動して敬礼する。
「岩川艦隊所属戦艦コンゴウ、到着しました」
「うむ、待っていたよ。丁度今から皆に作戦の説明をするところだったのだ。私達の艦隊に加わってくれ」
「了解しました」
笑顔で頷く長門に笑顔を返し、呉鎮守府の艦隊へと移動する。ダメージを受けやすい前線の艦隊だけあって戦艦や航空戦艦、航空巡洋艦が多い。ふと他の艦隊に目を向ければ装甲空母である大鳳の姿まであった。どれだけ今回の出撃が本気なのかが伺える。
と、そんな事を考えていると背後から元気のいい声と同時に衝撃が襲いかかった。
「お姉様ぁぁぁぁぁあああ!!」
「うきゃあ!?」
突然の衝撃に思わず変な声が出てしまった。
振り返れば器用に私の艤装に巧みに組みついた明るいショートヘアの茶髪少女の姿があった。目があった瞬間、その瞳を輝かせて艤装から飛び降りると高速で私の前に回り込み、抱きついてきた。よく見れば金剛型戦艦の服装をしている。つまり……
「ひ、比叡?」
「やっと会えました!! お会いしたかったですお姉様!!」
私の胸元に顔を押し付けて鼻息を荒くしているのは間違いなく金剛型戦艦の二番艦、比叡だ。金剛型姉妹の中で一番元気がある子で、金剛のことが大好きなお姉ちゃんっ子である。
「どこの鎮守府にもいないので、もしかしたらもう会えないのかと思っていました!!」
「そ、そうなんだ……」
潤んだ瞳で迫る比叡に思わず苦笑いしてしまう。と、いうか何だか徐々に力が強くなってきてる!?
ちょっ、待って、皆が見てる前で何をするつもりなんだこの子は!?
「ハァ、ハァ……怯えてるんですかお姉様?……でもそれもいいかも…………じゅるり」
「……や、ちょっ……ど、どこ触って……ぁ、比叡……だ、誰か助け……」
「こらこら、作戦前に何してるのよ」
完全に危ない目の比叡が私の服の中まで手を伸ばした瞬間、その手を隣から一人の艦娘が掴んで止めた。
比叡と同じくショートヘアだが、露出が少し多めで大人の色気が漂う女性だった。艤装や服装から長門型二番艦の陸奥であるとわかった。
「はぁ、はぁ……た、助かった。陸奥さんですよね?」
「ええ、そうよ。大丈夫かしら?」
「は、はい……びっくりしたけど大丈夫です」
「陸奥さん離して、お姉様分がまだ足りないですぅぅぅ!!」
暴れる比叡に拳骨を落として溜息をつく陸奥と、それを見て笑う周りの艦娘達。そして一連の流れを見られて顔を赤くする私。
何というか、大掛かりな作戦前だというのに緊張感も何もない連合艦隊なのであった。
E-3攻略中ですが、仕事が忙しくて準備が不十分だったので資材がなくなりそう…