二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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 片仮名ってスマホだと打ちにくいです。



遭遇★

 

 

「お騒がせしてごめんなさい」

 

 私に向かって深く頭を下げる比叡と、その隣で苦笑いする陸奥と長門。

 暴走した比叡は陸奥に取り押さえられた後、騒ぎを聞きつけた長門の拳骨により沈黙した。着崩れした服を直した直後に立ち直った比叡は深々と頭を下げ、謝罪をしてきた。

 

「いや、突然で驚いただけで私は別に気にしてないから……」

 

「お姉様……」

 

 比叡が何やら尊敬の眼差しを向けているが、長門や陸奥は溜息をつきながら頭を抱えていた。

 

 さて、ちょっとした騒ぎがあったが、いよいよ連合艦隊の進軍が始まった。

 前衛の連合艦隊は四十名、それを十人ずつ四つの艦隊に分けて四方向から北方海域全体の包囲を行いつつ、目的である飛行場姫の撃破を目指す。

 飛行場姫はその名の通り飛行場としての能力を持つ個体だ。自分から向かってくる事はなく、エリアの最後で要塞のごとく待ち受ける姿勢をとる。全方位からの一斉攻撃を行うことで被害を最小限に抑える作戦らしい。

 私は第一艦隊に組み込まれるみたいだ。

 

「金剛、君は私達と同じ艦隊だ。真正面から突撃する最も危険な艦隊となる。それでも構わないか?」

 

「大丈夫ですよ、戦えます」

 

 真っ直ぐこちらを見つめる長門を迷いなく見つめ返した。やがて、長門は笑顔を浮かべると私の肩を軽く叩き、艦隊の先頭に戻っていく。

 

「頼りにしてるぞ」

 

 そんな一言を残して。

 

 第一艦隊は真正面から突撃し、他の艦隊に注意が向かないように派手に戦う必要がある。その為にも第一艦隊は練度の高い戦艦や航空巡洋艦、空母で編成されていた。メンバーは……。

 

長門(旗艦)

陸奥

比叡

伊勢(航空戦艦)

日向(航空戦艦)

鈴谷(航空巡洋艦)

蒼龍

飛龍

大鳳

 

 これに私を含めた十人が第一艦隊となる。

 皆が高い練度を持つ強者達だけあって立ち回りにも隙がない。それに同じ目的を持つ者同士、互いを信頼し合っている。言葉で伝えなくともそれが理解できた。

 

「全艦抜錨!!これより作戦を開始する!!」

 

 長門の力強い声と共に全ての艦が前進を開始した。

 

◇◇◇

 

 鎮守府の執務室で椅子に座ったまま、七海はモニターを見つめていた。送られてくる映像は後方支援艦隊のもので、残念ながらコンゴウの様子は通信機から聞こえる音声のみでしか知ることができない。

 今回の作戦は複数の鎮守府による合同作戦であり、相手は負傷したままの姫級の深海棲艦。心配はいらない筈の作戦だった。

 だが、彼女には何か嫌な予感がして仕方がなかった。何かを見落としているような……何かを忘れているような……。

 より深い思考に潜ろうとしていた七海を通信機からの声が現実へと帰還させた。

 

『……ぃ…とく……提督?』

 

「……っ、ごめんなさい。何かしら?」

 

 思考の海に沈みかけていた七海はすぐに姿勢を正すと通信機を着けた耳元を押さえつけた。通信相手は作戦海域にいる大淀らしい。

 

『作戦海域に雨雲が接近中です。……おかしいですね、今日は天候に問題なしだと聞いていたんですが……』

 

「……確かにおかしいわね」

 

『とにかく、雨が降るのは確実でしょう。規模はわかりませんが……荒れそうです』

 

「そう、なら簡易機材で行われているこの通信は……」

 

『はい、恐らくノイズが混じるか……最悪、通信自体が不可能になる可能性があります』

 

「了解、もしもの時は呉鎮守府の佐々木提督の指示にしたがってね。はぁ……こんなことなら、予算を渋らずにしっかりした物を作ってもらうんだったわ」

 

 通信を終了したと同時に七海は椅子に深く座り直す。

 一度大きく深呼吸すると、通信機ではなく机の端に置かれた電話に手を伸ばした。慣れた手つきで番号を入力し、数度の呼び出し音の後に目的の人物が電話に出た。

 

『もしもし?』

 

「岩川鎮守府の鈴音です。佐々木提督、貴方に少しお聞きしたい事がありまして……」

 

『おお、君か……』

 

 七海が電話をかけた相手は現在存在する鎮守府で最大の戦力を持つと言われている呉鎮守府の佐々木提督だった。

 今回の連合艦隊の総責任者であり、現在存在する提督の中で最も提督歴が長いベテランである。年齢も既に七十歳に近い。

 

「実は天候が悪くなりそうだと私の艦隊から連絡がありまして……」

 

『うむ、こちらも把握している。しかし、妙だな……気象庁から直接聞いた話では〝天候に問題なし〟だと伝えられたのだが……』

 

 ふむ、と考え込む声を聞きながら、七海の思考は高速で動いていた。そして、一つの疑問が浮かぶ。

 

「佐々木提督、その気象庁からの連絡はどの様に行われているんですか?私はまだ利用したことがないのですが……」

 

『専用の無線と周波数で行われる。何時もは秘書艦の一人である霰が行うのだが、生憎と飛行場姫の偵察で彼女は行方不明になってしまった……』

 

「そうですか……ん?」

 

 そこで七海は一つの結論を導き出してしまった。

 普通なら到底考えられない、突飛な考えなのだが、どうしても一度思いつくと頭から離れない。

 

「……まさか、無線を利用されたのでは?」

 

『……なに?』

 

 佐々木提督の疑問の声がするが、七海は続けた。

 

「もし、佐々木提督の霰が敵に捕まっていた場合、彼女から呉鎮守府の無線周波数を無理矢理聞き出すこともできるはず……もし、私の予想が当たっていた場合、最悪私達の無線が敵に傍受されている可能性もあります。知能の高い姫ならば意図的に偽の情報を伝えることも可能ではないでしょうか?」

 

『……しかし、彼女も歴戦の駆逐艦だ。そんな簡単に口を割るとは思えないが』

 

「……佐々木提督、艦娘には感情も、痛覚も、心だってあるんです。人と変わらない一人の少女なんです。物言わぬ鉄の塊ではないんですよ」

 

『……』

 

「もし、私の考えた突拍子もない考えが当たっていた場合、この作戦自体が最初から敵に筒抜けである可能性もあります」

 

『……これは、拙いことになったやもしれん!!』

 

「すぐに艦隊に指示を!!私も自分の艦隊を下がらせます!!」

 

 電話を切り、すぐに無線機のスイッチを入れる。彼女の顔には珍しく焦りの色が浮かんでいた。無線は先程話したばかりの大淀へと繋がった。

 

『……はい、大淀です。提督、どうかしたんーーー』

 

「今すぐに艦隊全体を下がらせて!! 敵にこちらの動きを知られている可能性があるの!!」

 

『そ、そんな!? ―――大変、すぐに皆に……この…ことを…………ぁ、雨が…………風も………………』

 

「大淀? ……大淀!? …………くそっ!!」

 

 どうやら天候が悪くなった所為で簡易機材の無線機ではもう通信ができないようだ。

 苛立たしげに七海は通信機を机に叩きつけた。

 今の彼女に艦隊の皆を助ける手段はない。血が滲む程に唇を噛み締めながら、彼女は工廠へと走るのだった。

 

◇◇◇

 

「……ん?」

 

 ぽたり、と頬に落ちてきた雨粒に気がついて顔を上げる。

 いつの間にか空には雨雲が広がっていた。次第に雨粒の数は増え、遂に土砂降りの雨となる。風も強くなりまるで嵐のようだ。

 

「うわっ、服と艤装が濡れちゃうよ……」

 

 鈴谷が眉を寄せて顔を歪める。伊勢や日向も航空戦艦の力を発揮し辛くなったのが不満なのか顔を顰めていた。

雨雲が日の光を隠し、辺りが薄暗くなる。途端に長門と陸奥の表情が険しくなった。

 

「あらあら、これは妙ね……天気が悪くなるなんて聞いていないわ。提督が見逃したとも考えられないし―――」

 

「……ああ、私達の提督がこんなミスをする筈がない」

 

 長門型姉妹の緊張した面持ちに私は嫌な予感を覚える。

 同時に、電探に奇妙な反応を捉えた。反応は二つで、一つは深海棲艦、もう一つはあやふやでよく分からない。しかし、二つの反応はほぼ同じ位置にあり、風雨の影響でよく探知できなかったのだと思うことにした。

 

「……皆さん、電探に反応です。数は二つ、深海棲艦です」

 

 私の声と同時に皆が一斉に艤装を構える。空母の三人は艦載機を複数展開させて待機させた。その時間はほんの数秒で、彼女達の意識の切り替えの早さに驚かされる。

 

「ふむ、異様に敵が少ないと思ってはいたが、やっとお出ましということか」

 

 長門が獰猛な笑みを浮かべて艤装を構える。陸奥はそんな長門を微笑ましそうに眺めているが、その瞳からは同じく獰猛な気配を感じる。やはり姉妹艦だということだろう。思わず苦笑いしてしまった私は悪くない。

 

 だが次の瞬間、私の顔は盛大に青褪めた。電探に多数の反応が増えたのだ。それも三つや四つどころではない、十を超える数が一気に増えた。

 

「……なっ!?」

 

 私が驚愕すると同時に敵の艦載機が発艦したのを電探が捉えた。数は六機、すぐに空母のメンバーへと知らせる。

 

「敵の数が一気に増えました!! 艦載機も六機、向かってきてる!!」

 

「なに!?」

 

「……くっ、攻撃隊、発艦はじめっ!!」

 

 飛び立った艦載機が視界に入った敵の艦載機に対峙する。敵の艦載機は暗くなった空とは真逆の真っ白な色をした球体だった。小さな耳の様な突起があり、裂けた球体の中央からは赤いひび割れの様な裂傷と、白い歯が覗いていた。

 

「……っ、あれは!!」

 

「……まさか!?」

 

 数でこちらが有利だったので、すぐにこちらの烈風により撃ち落とされた。だが、あの球体の艦載機には見覚えがある。あの艦載機を使う深海棲艦は少なく、限られている。

 

 最悪の答えを想像した瞬間、彼女達は現れた。

 

「……アラ、イイ子達バカリジャナイ……」

 

「…………」

 

 真っ白な髪と紅い瞳、風雨の中で〝二人〟の姫が立っていた。

 私と同じ位の身長の姫と、私の腰に届くかどうかの身長の小さな姫。大きな姫は歪な笑顔を浮かべながら、小さな姫は無表情にこちらを見つめている。大きな姫……飛行場姫は艤装を展開しているが、情報にある通り艤装の一部が足りなかった。見た目でわかるのは主砲の上にあった副砲らしき砲塔がないくらいだが……。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……バカな、姫が二人だと!? それに、予定海域はまだまだ先の筈だ!!」

 

「こんな手前の地点にいるなんて聞いてない!!」

 

 戦闘態勢になる私達の目の前にずらりと深海棲艦達が集まってくる。その中にはエリート級やフラグシップ級も何体か混ざっていた。その光景に冷や汗が流れる。姫だけならまだ良かったのに、他の深海棲艦まで集まってきた。明らかに数はこちらが少ない。圧倒的に不利だ。

 

「……陸奥、他の艦隊と連絡は取れるか?」

 

「……いいえ、妨害はない筈だけれど」

 

「他ノ艦隊ナラ、別ノ仲間ガ遊ンデアゲテルワ」

 

 険しい表情の二人に飛行場姫がクスクスと笑いながら答えた。きっと、戦闘中で通信する暇すらないのだろう。

 

 その時だ、飛行場姫の前にいた小さな姫……北方棲姫が動いた。

 ミトンの様な手袋に包まれた手を真っ直ぐに私に向けたのだ。視線も私を真っ直ぐに見つめている。何にも関心がない無機質な瞳なのに、私に向ける視線には何かの感情が込められている気がした。

 

「……フフフ、ワカッタワ……アレガイイノネ?」

 

 飛行場姫の問いに北方棲姫は頷いて答えた。

 その瞬間、全身のあらゆる感覚が警鐘を鳴らし始めた。直感的に気がついてしまった。

 

 奴らは、私を捕まえるつもりなのだと―――

 

 そして、ついに深海棲艦と艦娘の砲塔が同時に火を噴き、戦闘が始まった。

 

 


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