二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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 あけましておめでとうございます。
 少し短いですが新年一発目です!!



決意

 何時間眠ったのだろう。

 視界に入るのは相変わらず変わらない薄暗い部屋で、今が朝なのか夜なのか全くわからない。艤装の妖精さんに聞いても全員が首を横に振った。

 ふと、視線を下せば私にもたれ掛かって寝ている北方ちゃんの姿。そういえば一緒に寝ることになったんだっけ……。私も懐かれるとは思っていなかったし、本当に困ったものだ。

 

 暫く寝顔を見つめていたが、突然ゆっくりと扉が開き始めたので思わず立ち上がりそうになって北方ちゃんを落としそうになってしまい、慌てて支え直す。だが、やはりその衝撃で北方ちゃんも目を覚ましたようで、不思議そうにこちらを見上げてくる。

 北方ちゃんを抱き抱えたまま一応艤装を展開してドアを睨みつけると、少しだけ開いたドアの隙間から駆逐イ級が部屋の中へと入ってきた。何故か頭の上に燃料缶をいくつか乗せている。

 

「……ソコニ、置イテケ」

 

 北方ちゃんがそう言うと、イ級はその場に燃料缶を置くと静かに部屋を出て行った。どうやら燃料を運びに来ただけのようだ。北方ちゃんが私の膝から飛び降り、燃料缶を拾うと戻ってきて私に二つ差し出した。

 

「……コンゴウ、ゴハン」

 

「あ、ありがとう」

 

 渡された燃料缶を受け取り、飲んでも大丈夫なのかと一瞬迷うが、北方ちゃんが躊躇いなく飲み始めたのでとりあえず毒ではないと判断し、恐る恐る蓋を開けて中身を口にしてみる。だけど…………

 

「……っぐ、げほっ、げほっ……」

 

 はっきり言えば凄く不味かった。例えるなら料理で焦げた部分だけを水に溶かしたみたいな、そんな味だ。普段飲んでる燃料はスポーツ飲料みたいな味だったから完全に不意をつかれた。

 慌てて艤装に蓄えていたイチゴ味の燃料缶を取り出して一気に半分ほど飲み干した。甘い味が口の中に広がり、思わず小さく溜息が漏れる。

 しかし、驚いたからとはいえ、貴重な保存用の燃料をすこし消費してしまった。やってしまったと後悔しても今更遅いので、できるだけ今後は我慢しよう。まだいくつか残っているが、たくさん残しておく方がいいに決まっている。

 と、そんな事を考えていたら視線を感じた。振り返れば北方ちゃんが首を傾げて私が持っている燃料缶を見つめている。

 

「……ソレ、コレトハ違ウノカ?」

 

「あー、えっと……まぁ、少しだけ違う……かな?」

 

「ドウ違ウンダ?……コレシカ飲ンダコトガナイカラ、ワカラナイ」

 

 その言葉に私は驚愕する。彼女はこれ以外の燃料を口にしたことがないらしい。

 こんな生まれたばかりの小さな子に、明らかに上質とは考えられないようなものしか与えていないなんて……。

 

「北方ちゃん、これあげるよ」

 

「……イイノ?」

 

「うん、いいんだよ……」

 

 勿体無いとか言うくらいならこの子に飲ませてあげた方が何倍もいいに決まってるじゃないか!!

 私から受け取った燃料缶を不思議そうにいろんな角度から一通り見た北方ちゃんは蓋を開けると残り全部を一気に飲み干した。その瞬間、目を大きく見開いて数秒間固まったかと思えば必死に燃料缶をひっくり返して中身が残っていないかを確認し、残っていないとわかると途端に悲しそうな顔になった。

 

……もう、なんと言うかさ……凄く、可愛いんですけど。

 

 見ているだけで何だか自然と微笑ましく思えてしまう。見た目が小さい子供の姿であることもあってかどうも守ってあげたくなってしまうし、北方ちゃんは普段は無表情みたいだから今のようにころころと変わる表情を見ていると良かったって思う。

 

「北方ちゃん、どうだった?」

 

「……甘クテ、イツモノヨリモ、オイシカッタ!!」

 

 少し興奮気味に瞳を輝かせながらそう言うと、北方ちゃんは私の腕にしがみついてきた。また力加減を忘れていて少し痛かったけど、それだけ北方ちゃんが喜んでくれたのだと思えば悪い気にはならない。

 しかし、本当に困った。北方ちゃんに構えば構うほどこの子を放って置けなくなるし、同時にどんどん懐かれてしまう。

 

「……本当に、困った」

 

 そう言いながらも、緩んでしまう自分の表情に気づいたのは北方ちゃんが再び私の膝に座ってお昼寝を始めてからだった。

 

◇◇◇

 

「……では、予定通りに明日、出撃ということでよろしいですね?」

 

『うむ、他の艦隊も準備は終えているらしい。やはり、皆が彼女の奪還に向け闘志を燃やしている』

 

「若輩者の私達の為にわざわざすみません……」

 

『そう言うな。君達は他の艦隊にはない何かを秘めている気がするのだ。だから、皆も応援してくれるのだろう』

 

 受話器越しに聞こえる佐々木提督の声に七海は静かに瞼を閉じる。

 七海はずっと自問していた。自分に何ができるか、何をしてきたのか。

 彼女はコンゴウに提督としての仕事や役割を教えてもらった。実際、コンゴウの行動は艦娘以前に提督らしいものがある気がしていた。資材の備蓄に注意し、他の艦娘達を気にかけ、装備の開発を行う。もしかしたら、自分よりもコンゴウの方が提督らしいことをしているのかもしれない。

 だから、七海は彼女がいない現状に少なからず焦燥を覚えていた。彼女がいないと、何をするべきなのかわからない。まだまだ自分は未熟であると痛感してしまう。それが堪らなく悔しくて、コンゴウの存在がどれだけこの鎮守府で大きな存在だったのかを理解させられる。

 

「……彼女は私に提督のするべき役割と姿を教えてくれた恩人です。だから、必ず助け出したい」

 

『……そうか、ならば私も協力は惜しまんよ。そろそろあの四人がそちらに到着する』

 

「本当に良かったんですか?彼女たちは貴方の艦隊の中でも屈指の実力を持っています。それを私達に……」

 

『構わんさ……私はどのみち今回の作戦が終了すれば引退するつもりだった。それに、彼女達が自らそちらに入りたいと願い出てきたのだよ』

 

「……ありがとうございます」

 

 その後、またいくつか確認を終えてから受話器を置き、七海は小さく息を吐いた。

 そのまま椅子に背を預ける様に座り直す。不安と緊張が一気に押し寄せてくるようで、堪らなく怖かった。

 

 気をしっかり持とうと呼吸を整え始めてどのくらいの時間が経ったのか、辺りが薄暗くなってきた頃に執務室のドアがノックされた。入るように指示すると、電が足早に中へと駆け込んでくる。

 

「司令官さん、連絡にあった四人が到着したのです!!」

 

「ありがとう、電。執務室まで案内してもらえる?」

 

「了解です」

 

 到着した四人を呼びに執務室を飛び出していく。その背中を見送った七海は一度静かに瞼を閉じ、再び開く。その瞳は鋭く、つい数秒前までとはまるで別人のようだった。

 

「……そう、何時までも頼ってちゃいけない。私はここの……提督なんだから」

 

 同時にドアがノックされ、開く。七海はゆっくりと椅子から立ち上がり、入ってくる四人を見据えた。電に連れられた四人は七海の視線に一瞬だけ驚くが、すぐに力強い笑顔を浮かべて敬礼した。

 

「一航戦、赤城です。よろしくお願いします!!」

 

「アタシは軽巡北上。まぁ、よろしく頼むよ」

 

「金剛お姉様の妹分、比叡です。気合い、入れて、いきます!!」

 

「比叡姉様と同じく、金剛お姉様の妹の榛名です。榛名、全力で戦います!!」

 

 四人の自己紹介を聞いた七海は小さく頷くと敬礼を返す。それは七海をよく知る電さえも見惚れる程に力強い姿だった。

 

「私が提督の鈴音七海です。私の大切な仲間を救う為に、貴女達の力を貸して」

 

 四人が彼女の言葉に頷くのに、躊躇いは一切なかった。

 

 


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