少し駆け足気味ですが、長々と戦闘シーンを書くのは苦手なのでさくっと終わらせました!!
「……ッ、全員、回避を優先して!!」
「絶対に直撃は避けろ!!あっという間に轟沈するぞ!!」
比叡と天龍の叫びが響くと同時にレ級の尻尾の先から砲弾が発射された。艦娘全員が一斉にその場を離れ、バラバラに散らばって撹乱する。
レ級はバラバラに散らばった艦娘達をまるで玩具を選ぶ子供の様に眺めており、キョロキョロと忙しなく首を動かしている。
「もう一度陣形を組み直しましょう。練度が高い者を前に、低い者と空母の二人は後ろに!!」
「赤城さんと加賀さんは攻撃の手を緩めないでください!!制空権を取られると負けです!!」
「了解!!」
「……了解!!」
バラバラに散らばった艦隊が再び陣形を組み直し、再び激しい攻防が始まる。艦載機の練度は互いに互角。だが、数は向こうが上で撃ち漏らしは駆逐艦の高射砲でなんとかカバーしている状況だ。
「既にいくつも戦闘を行っている私達は燃料も弾薬も少なくなっています。時間が経つ程こちらが不利になるでしょう。つまり……」
『最悪の場合、撤退も視野に入れなくてはならないわ』
「提督!?」
今まで沈黙していた七海の声が通信機から聞こえてくる。その声は落ち着いている様だが、どこか悔しさを滲ませている様にも感じられた。
それは提督としては正しい選択だろう。艦娘は轟沈すれば助からない。ならば撤退し、準備を整え直して再び出撃するのが正しい判断だ。所謂〝帰ろう。帰れば、また来られるから〟の精神だ。
だが、それはコンゴウの救出が遅れるということであり、相対的に彼女の身の安全が低くなることを意味している。
「ふざけんな、あいつを見捨てて帰れるかよ!!」
「そうです。飛行場姫がいるということは敵の拠点が近い証拠です。なら、姉様だって近くにいるかもしれないんです!!」
『…………』
艤装を構えながら天龍と霧島が叫び、他のメンバー全てが頷く。その目には撤退など欠片も考えていないことがわかった。
七海は通信機越しに全員の覚悟を感じると、一度目を閉じてから深呼吸をする。1秒にも満たない時間で再び目を開くと、通信機のマイクを強く握りしめた。
『……貴女達の覚悟はわかったわ。でも、いざという時は私は躊躇なく撤退を命じるわ。金剛だって貴女達が沈むのは望んでいないはずだもの』
「……提督!?」
「司令官!!」
「……おい、提督!!」
『……でも!!』
次々と上がる非難の声に割り込む様に七海が叫ぶ。それに全員が一瞬息を呑み、しんと静かになった。
『……撤退をするのは本当に、本当に最後の手段よ。それまでは絶対に諦めない。必ず金剛を連れ帰ってきて……頼んだわよ、みんな!!』
「……へ、当たり前だぜ!!」
「やるよ、みんな!!」
「榛名、全力で戦います!!」
「気合い、入れて、いきます!!」
七海の言葉への返答と共に前衛の全員が動き出した。
最前線に出るのは機動力が高い高速戦艦の比叡、榛名、霧島の三人。霧島が真正面から、比叡と榛名が両側から回り込む様に挟み込む。
レ級は向かってくる三人を順番に眺めた後、笑みを深めてから徐に霧島へと主砲を向けた。
「……キシシ、レ、レレ!!」
「……どうやら、私に狙いをつけたみたいね」
「レ!!」
轟音と共に放たれる砲弾を大きく左に移動することで避ける。お返しとばかりに撃ち返せば素早く真横に滑るような動きで避けられた。艦種は戦艦に分類されるが思ったよりも動きが速いようだ。
楽しげに笑みが深くなるレ級の両側から榛名と比叡が挟み込む形で主砲を向け合う。どうやらレ級は霧島に夢中なのか二人を警戒している様子はない。
「当たって!!」
「いっけぇ!!」
比叡と榛名の砲弾が同時に放たれ、レ級に吸い込まれるように迫る。その場にいた誰もが直撃を確信した。更に比叡と榛名が使用していたのは一式徹甲弾であり、強固な船体だろうと抉り穿つその砲弾は直撃すれば大ダメージは確実な筈であった。
「……レ?」
迫る脅威に気がついたのか、レ級が両側から迫る砲弾へと素早く視線を移す。既に回避が間に合わない距離であり、ダメージは免れないのは明白だった。だが、次にとった行動に艦娘全員が驚愕した。
レ級は咄嗟に右腕を振り上げると砲弾の側面を殴ったのだ。反対側から迫る砲弾も尻尾を側面に叩きつけて逸らした。当然一瞬の後に爆発が起こり、レ級の姿が見えなくなる。しかし、彼女達はレ級がまだ健在であることを確信していた。
あの一瞬で戦闘における最もダメージが少ない部分を的確に使い、最速の速さで最小限の被害に抑えていたのがわかったのだ。煙が晴れた場所には右手を多少損傷しているものの、不敵な笑みを浮かべたレ級が立っていた。砲弾を叩き落とした尻尾にも大したダメージは無い。あれでは小破にすら届かないだろう。
「あいつ、砲弾を素手で殴りやがった……とんでもないな」
「……小破までもっていけたら良かったのですが」
「硬いね……」
「キヒ……キヒヒ……」
口元を歪め、笑みを浮かべたかと思うと今までその場を動かなかったレ級が遂に動き出した。
目の前にいる霧島に一直線に突き進むと、大きく体を捻って尻尾を鞭の様に叩きつけてくる。
「シャアァァ!!」
「……ぐっ!?」
「霧島!!」
同じ戦艦といえど霧島はほぼ大破状態。ほぼ無傷のレ級のラムアタック(体当たり)を受けたらタダでは済まないことは火を見るよりも明らかだ。
霧島は咄嗟にレ級の体の回転に合わせる様に脇をすり抜けて回避しようとするが、突然後ろに引っ張られる感覚を感じて振り返る。
左右に展開していた艤装の砲塔の一つをレ級が握りしめていた。
「―――ッ!?」
「キシシ……アアァァァ!!」
レ級が掴んだ艤装ごと霧島を投げ飛ばした。駆逐艦の艦娘と同じ細腕で霧島は宙へと投げ出されたのだ。
「きゃあああ!?」
「させない!!」
「霧島ぁ!!」
投げ飛ばした霧島へと砲塔を向けたレ級を榛名と比叡が止めに入る。だが、レ級は素早く背中のリュックから魚雷を取り出すと、二人に向かって投げつける。
「きゃあ!?」
「く、この……!!」
回避せざるを得なかった二人の背後から大井と北上が飛び出す。
「まぁあれだよ、とりあえず―――」
「くらいなさい!!」
「シャアァァ!!」
二人の両腕に装着された魚雷発射管から一斉に酸素魚雷が放たれるが、同じくリュックから勝手に飛び出した艦載機達が魚雷に突撃し、自らを犠牲にして魚雷を破壊した。
「なんてやつなの!?」
大井が戦慄している間にもレ級は霧島に狙いを定めていた。バランスを崩した比叡と榛名も、攻撃直後の北上と大井もレ級を止める手段がない。完全に霧島はレ級の的になってしまっている。
「霧島!!」
「霧島ちゃん!!」
「キシシ…………アァ?」
だが、レ級が砲撃する瞬間、高速で飛来した何かが砲塔にぶつかり、軌道がずれた砲弾は霧島の艤装の一部を抉る程度で逸れてしまう。遅れて起きた爆発に霧島が吹き飛ばされたのに見向きもせず、レ級は不思議そうに尻尾の先にある砲塔へと視線を向ける。すると、砲塔の側面に何かが衝突した跡があった。
周りに視線を向けるが、近くにいた比叡達は動いた様子がない。ふと、レ級は空母の護衛に付いている駆逐艦達へと目を向ける。
今も飛行場姫と戦っている空母と航空戦艦、航空巡洋艦を護っている駆逐艦の中に一人だけこちらに砲塔を向けている者がいた。
長い銀髪と帽子の隙間から覗く瞳は鋭い。本来装備している筈の12.7㎝連装砲ではないその砲は異様に砲塔が長く、可変式らしいスコープが装着されており、宛らスナイパーライフルを彷彿とさせる。
「……
不敵に笑う暁型二番艦・響は次弾の装填を素早く済ませるとすぐさま砲撃を再開する。
通常よりもずっと小さく、高い音を出しながら砲弾が発射される。だが、その弾速は今この場にいる誰の砲弾よりも速い。咄嗟に首を捻ったレ級のすぐ真横を空気を切り裂いて通り抜けていった。
「……レ」
レ級の表情に初めて焦りが現れた。最初は艤装に当たったから良かった。だが、二発目は確実にレ級の〝目玉〟を狙って放たれていた。あれだけの弾速と戦艦を動かせるだけの威力がある砲弾なら、あれが生身の部分に当たったならどうなっていただろうか。考えるだけでぞっとする。離れた場所にいた飛行場姫さえも顔を歪めている。
「……レェェ!!」
レ級は響が脅威であると判断したのだろう。強張った表情のままそちらに攻撃しようとした瞬間、背後から強力な力に吹き飛ばされた。
「……ガァ!?」
「よくもまぁ、派手にやってくれたわね……」
レ級の背後にいたのは霧島だった。どうやらレ級を殴り飛ばしたらしい。
霧島はボロボロになりながらも確かに立っていた。背中の艤装は先程のレ級の攻撃を防ぐ盾として使い、大破を通り越してもはやガラクタと言っていい。修復する以前に間違いなく廃棄確定だろう。霧島は何の抵抗もせず艤装を捨てた。
今の彼女は艤装から避難させた妖精さん達のおかげで何とか水面に浮かんでいる状態だった。左手は攻撃から顔を庇った際に負傷したのか深い裂傷を負い、指も骨が折れたのか歪んでいる。お気に入りの眼鏡には罅が入り、いつも着けていた金剛型お揃いの電探カチューシャは無くなっている。
だが、彼女の視線にはまだ闘志が宿っている。無事だった右手を握りしめ、半身で軽く重心を落とし、構える。それは彼女が憧れ、この場にいる艦娘全員が尊敬する姉から教わったもの。
「チェック……ワン!!」
「ガァ!?」
全力の拳がレ級の顔面に吸い込まれる様に打ち込まれ、その体がよろめく。
「ツー!!」
「グゥ……ァ……ガ!?」
更に追撃で掬い上げる様な蹴りがレ級の顎を蹴り上げ、強く頭を揺らされたレ級が更によろめいた。
当然、その絶好のチャンスを黙って見ている者はいない。比叡と榛名がすぐに艤装を構える。
「今度こそ……」
「当たってぇ!!」
バランスを崩したレ級は二人の放った砲撃を回避できず、左足と尻尾の付け根に直撃。爆発と同時に足は吹き飛び、尻尾も皮一枚で繋がっている状態となった。
「これで終わりなんて……」
「思っちゃダメなんだからね!!」
大破になったレ級へと神通と那珂が更に魚雷を放ち、攻撃する。練度が低いこともあり、大したダメージにはならないかもしれないが、レ級は片足が無いため更にバランスを崩し遂にその場に倒れた。
「これでぇ!!」
「終わりだよー」
駄目押しとばかりに大井と北上が酸素魚雷を撃ち込み、巨大な水飛沫が起きたと同時にレ級の姿は完全に見えなくなった。撃沈できたのだ。
レ級がいなくなったことで大量にいた艦載機も次々に落下し、海へと沈んでいく。制空権の心配はもういらないだろう。
「やったのです!!」
「いくら強くてもチームワークがなっていません。これなら負けないわ」
「これで……残るのは……」
全員の視線が飛行場姫へと向けられる。彼女はレ級が撃沈されたことなど気にしていないかの様に艤装に腰掛けている。その表情には余裕が浮かんでおり、全員が警戒した。
「ソウ、コノコデモダメナノネ。……次ハ誰ニシヨウカシラ?」
飛行場姫の言葉に全員が顔を青くした。これだけ強い深海棲艦を出しておいてまだ次がいるというのだ。
「……どうする。霧島はもう限界だし、弾薬も燃料も少ないぞ」
「しかし、お姉様をもうすぐで救い出せるかもしれないんです!!」
艦娘達が悔しそうに顔を歪めるのを見た飛行場姫は更に笑みを深くする。彼女にとっては艦娘達の苦しむ姿が楽しくて仕方がない様だ。それを理解できた艦娘達もますます顔が険しくなる。
「本当に、嫌な奴だぜ!!」
「オ褒メニ預リ光栄ダワ。ソレジャア、次ノアイテモガンバリナサ……」
『いや、終わりだよ……飛行場姫』
「……ナニッ!?」
次の仲間を呼ぼうとした飛行場姫と艦娘達の耳に通信機を通して七海ではない声が聞こえた。それは不思議と耳に届く凛とした声。そして、岩川鎮守府に所属する全員が助けに行こうとしていた艦娘のものだった。
「おい、この声……まさか!!」
「はい、間違いないです!!」
「金剛さん!?」
いつの間にか水平線へと沈みそうな太陽を背に、ゆっくりと、強い意志を宿した目をしたコンゴウが現れた。