二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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 前回の話から少し時間が飛んでいます。



番外編・幸運艦、雪風の出会い

「……はぁ」

 

 薄暗い部屋の中央にある巨大なテーブルを囲む椅子の一つに一人の艦娘が腰掛けていた。セーラー服調のワンピースに首から下げた双眼鏡。

 彼女の名は陽炎型駆逐艦の八番艦、雪風。数多の戦場を生き残り、無事に帰還した伝説を持つ奇跡の駆逐艦である。

 

◇◇◇

 

 呉鎮守府に所属する彼女は練度を上げるために演習に参加することになり、指定された海域へと向かっていた。しかし、演習開始直前に深海棲艦が海域に侵入。演習は中止になり、深海棲艦の撃退へと指令が変更された。

 運が良いことに侵入した深海棲艦は駆逐艦と軽巡洋艦だけで編成された偵察部隊。撃退は簡単であった。だが、その後、天候が急変し、嵐となった。雪風は高波に流され、沈まないように姿勢を維持するだけで精一杯だった。

 波が落ち着いた後、改めて辺りを見回すが味方の艦隊の姿は無く、彼女は一人で取り残されてしまったのである。通信機にも反応はなく、かなり遠くに流されたらしい。

 

 さて、ついてないと途方に暮れていた雪風だったが、彼女に降りかかる問題はまだ終わっていなかった。何故なら、今の彼女はたった一人で海のど真ん中にいる状態なのだ。いつ深海棲艦に襲われてもおかしくない。

 

「……でも、雪風は沈みません!!」

 

 気合を入れ直し、羅針盤に振り回されながらも鎮守府を目指して移動をしていた雪風だったが、遂に燃料の残量が無くなり、疲労も重なって近くの島に一時的に避難することを決断。移動ができないため、誰かが近くを通らない限り彼女は島から出られなくなってしまった。幸運なことに孤立してから一隻も深海棲艦には出会わなかったのでダメージは無く、弾薬の消費も無い。

 一日中海を走っていたために重くなった体を引き摺り、浜辺に座り込んだ雪風は疲労もあっていつの間にか眠りに落ちていた。

 

◇◇◇

 

「……あれ?」

 

 目が覚めた時、雪風は簡素な入渠施設の浴槽に浮いていた。体を起こし、周囲を見回すがどうやら知らない場所らしい。

 何処かの鎮守府に助けてもらったのかと思い、脱衣所へと向かうと自分の服が綺麗に畳まれて置かれていた。それを着てから出口へと向かうと、ドアを開ける。

 

「……は?」

 

 しかし、ドアを開けた雪風が見たものはどこまでも暗い廊下だった。あまりにも暗いため廊下の先が見えず、どこか空気も重い気がする。宛らお化け屋敷の様だ。

 最初は夜だからだと思っていたが、廊下には一つも窓がなかった。それが余計に恐怖を引き立て、思わず息を呑む。

 とりあえず自分を助けてくれた人物に挨拶をしなくてはと廊下をビクビクしながら歩いて行くと、一際大きなドアを発見する。静かに中を覗くと、どうやら食堂らしい。中央に大きなテーブルがあり、椅子がいくつか並べられている。その一つに腰掛けて小さく息を吐いた。

 

「……はぁ」

 

 これが冒頭での雪風の現状である。

 先程から艦娘どころか妖精一人見つからず、ここは一体何処なのかと頭を悩ませる。いっそのこと、もう勝手に出て行ってしまおうかとも考えたが、すぐに頭を振ってその選択肢を除外する。せめて一言でもお礼を言わなければ、と立ち上がった時だった。

 廊下からペタペタと裸足で廊下を歩く足音が聞こえてきた。

 

「こ、この鎮守府の人……かなぁ?」

 

 足音は扉の前で止まり、ガチャリとドアノブが回る音がした。ゆっくりと開くドアを緊張して見つめる雪風の前に、その小さな姿が現れる。その姿は雪風よりも幼い少女の姿をしていた。

 

「……ひっ!?」

 

 その姿に雪風は戦慄する。

 薄暗い部屋の中で輝く真っ赤な瞳、病的に白い肌と服、同じく真っ白な髪はポニーテールに結ばれていた。首から下げた白銀の指輪が僅かな光源に反射してキラキラと光る。

 姿こそ若干の違いがあるが、間違いなく目の前にいるのは深海棲艦、それも『北方棲姫』と呼ばれる姫級の存在だった。駆逐艦の自分一人では絶対に勝てない相手であると認識した瞬間、雪風の中の恐怖は一気に溢れ出す。

 幼い姿に似合うクリクリとした大きな目をパチパチと瞬かせながら、北方棲姫は雪風を見上げている。雪風は恐怖のあまり腰を抜かしてしまったのか、その場に座り込んでしまった。

 数秒間、お互いに見つめあっていたが、北方棲姫が徐に手に持っていた袋に手を突っ込んだ。

 

「(ま、まさか……この場で雪風を沈めるつもりなんじゃ!?)」

 

 何とか立ち上がろうとするが、立ち上がれずにただ身を捩らせただけになってしまった雪風に、北方棲姫が袋から取り出した物体を差し出した。

 

「……ひぇ!?」

 

 攻撃かと思って頭を庇う姿勢で縮こまる。しかし、いつまで経っても痛みが来ないのを不思議に思い、恐る恐る顔を上げてみる。そこには燃料缶らしき物を此方に差し出しながら首を傾げる北方棲姫の姿があった。

 

「……コレ、ノムカ?」

 

「……ふぇ?」

 

 これが、雪風と北方棲姫の出会いであった。

 

◇◇◇

 

 あの後、恐る恐る燃料を受け取り、飲んでも大丈夫なのかと悩んでいる雪風に北方棲姫は詳しい話をしてくれた。

 どうやら雪風は浜辺で寝ているところを北方棲姫の部下が発見。損傷はないものの燃料が尽きていることや、疲労が蓄積しているのを確認したため連れて帰ったという。

 雪風からすれば何故敵である自分を助けたのか理解できなかったのだが、助かっただけマシかと本日何度目かになる溜息をついた。

 

「……あの、あなたは深海棲艦、だよね?」

 

「ウン、北方棲姫。ミンナカラハ〝北方チャン〟トヨバレテル」

 

「あ、そう……なんだ」

 

 北方棲姫は袋から別の燃料缶を取り出すと飲み始める。その姿は只の少女であり、とても深海棲艦とは思えない。ジッと北方棲姫を見つめていると、視線に気がついた北方棲姫が首を傾げ、何か思いついたのか手に持った新しい燃料缶を差し出した。

 

「コッチノ味ノ方ガイイノカ?」

 

「……え、あ、いや、そうじゃなくて」

 

 誤魔化そうと手に持っていた燃料を一口飲んでみる。そして驚愕した。普段飲んでいる燃料とは違う柑橘系の風味が舌を潤していく。その燃料はオレンジ味だった。

 空腹だったこともあり、気がつけば中身が空になるまで缶を傾けていた。雪風とて艦娘である今は少女だ。甘いものには目がない。

 

「オイシイカ?」

 

「……あ、うん。美味しかった」

 

「ソウカ、マダアルカラ好キナダケ飲ンデイイ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 それから暫く雪風が燃料を飲むのを北方棲姫が眺めるだけの時間が続き、雪風自身もだいぶ落ち着いてきた頃、彼女は一番聞きたかった事を聞くことにした。

 

「あの……なんで雪風を助けてくれたの?」

 

「助ケルコトニ、理由ガイルノ?」

 

「いや、その……艦娘と深海棲艦は敵同士、なんだよ?」

 

 緊張して声が強張る雪風に北方棲姫は一度目を伏せると、首から下げている指輪を掴んで雪風に見える様に持ち上げた。

 

「それって……」

 

「少シ前二、ワタシハ艦娘ニ助ケテモラッタ。ダカラ、ワタシハ艦娘ヲ沈メナイ。ワタシヲ信ジテクレタコンゴウノタメニ……」

 

「金剛さんって、少し前にあった大規模作戦で無事に帰還した岩川鎮守府の金剛さん?」

 

「ソウ、コンゴウハワタシヲ信頼シ、友達ニナッテクレタ。コノ指輪モ、コンゴウガクレタ」

 

「そう、なんだ……」

 

 無表情に見える北方棲姫の表情がコンゴウの話をする時だけ嬉しそうに変わる様子を見て、雪風は完全に警戒を解いた。

 

「(きっと、この子は嘘をついてない。優しい良い子です。雪風にはわかります!!)」

 

 それから暫く北方棲姫からコンゴウの話を聞いた雪風は用意された部屋で眠り、翌日の朝日と共に基地を後にした。北方棲姫の艦載機に途中まで道案内してもらい、昼には自分の鎮守府に到着することができた。提督や仲間達から心配され、一体何処にいたのかを聞かれたが、彼女は北方棲姫の事は何も話さなかった。

 

 それから数日後、漸く周りが落ち着いてきた頃、雪風はとある場所へと電話をかけた。

 

『もしもし、コンゴウです』

 

「あ、はじめまして金剛さん。呉鎮守府の雪風です!!」

 

『ああ、呉鎮守府には以前の作戦でもお世話になったね。そちらの提督にも是非改めて御礼を言いたい』

 

「はい、しれぇにも伝えておきます!!」

 

『それで、私に話があると聞いたけど、何かな?』

 

「あ、はい……実は――――」

 

 その後、呉鎮守府では頻繁に何処かに笑顔で無線を繋げる雪風の姿を見かけるようになったらしいが、誰と話しているのかは決して教えてくれないという。

 




 北方ちゃんの持っていた甘い燃料缶はコンゴウさんがレシピを教えたので作れるようになりました。実際に作っているのは離島棲鬼ですが……。

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