二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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私「さあ、皆オリョクルよー」

8「(´・ω・`)そんなー」
58「(´・ω・`)そんなー」
19「(´・ω・`)そんなー」
168「(´・ω・`)そんなー」



コンゴウさん、講演会に出る

 

「講演会……ですか?」

 

 桜が舞う春の季節。それは新たな一年の始まりを告げるかの様に私達の鎮守府にも新たな風を運んできていた。

 いつもの様に訓練をしていた私は七海に呼び出しを受けて執務室へとやってきた。そこで出された話題が〝講演会〟の話である。

 

「貴女達艦娘は海軍の機密扱いになってるのは知っているでしょ?」

 

「ええ、人類の共通の敵である深海棲艦に唯一対抗できる存在の私達は情報の悪用を防ぐ為に一般の人々には詳しい情報を知らせないようになっているんでしたよね」

 

 艦娘は深海棲艦を倒せる唯一の存在。その情報を悪用された場合、指揮の混乱や艦娘を利用しようとする悪人達の妨害によって士気の低下や国民達の不安を招くことになる可能性がある。考えすぎとも思えるが、もし艦娘に何かあったら人類は滅亡してしまうのだ。細かい事まで神経質になるのは当たり前だと言える。

 

「そうよ。でも、最近は海軍の力も大きくなってきたし、陸軍の支援も以前より強くなったわ」

 

「……それで艦娘の情報を一般に公開することにした、と?」

 

「深海棲艦の勢いも最近は弱まってきているし、海軍としては新たな鎮守府の建造も視野に入れているのだけれど、そうなると問題が一つ浮上するの」

 

「提督がいない……ですか?」

 

「そうよ」

 

 呉鎮守府の佐々木提督の様に高齢な提督が後継者も作らず今だに最前線を指揮している時点で予想はしていたが、やはり提督は貴重な人材のようだ。

 国内も艦娘のおかげで深海棲艦の恐怖は食い止められているため、以前の様な緊縛した内政ではなくなっている。

 人間は目前まで危機が迫らなければ動かない生き物だ。国の緊張が解けたことで提督に相応しい人材の育成にも影響が出ているのだろう。

 今はまだいい。しかし、現役の提督達がいなくなった後でいきなり新しい提督を用意するとなれば再び国の危機となるだろう。

 

「今回の件は未来を見据えて提督となれる人材を探し、人々に危機がまだ完全に去ってはいない事を再認識してもらう為の一つの措置なのよ」

 

「軍の政治的な力が強まった今こそ、私達が直接呼び掛けることで国民の意識を変えていこうというわけですね」

 

「そういうこと―――とはいえ、私達はまだまだ若輩者よ。難しい話なんかはベテランの先輩方に任せて、私達は地域の人達に艦娘の事を知ってもらう為の活動からやってみようと思うの」

 

「それで講演会ですか」

 

「ええ、先ずは近くの小中学校辺りでやってみて、それから徐々に……って感じかしら」

 

 学校で行うのには私も賛成だ。将来有望な少年少女達が少しでも興味を持ってくれたら万々歳なのだから。だが、そうなると問題になるのは……。

 

「誰を連れて行くか……ですね」

 

「そうねぇ……金剛は誰がいいと思うかしら?」

 

 この年頃の子供達というのはとにかく繊細だ。ちょっとした事で感情が揺らぎ、悪い印象を持たれれば一切の興味を無くしてしまうこともある。しっかりとした印象を与えるには少なくとも三人くらいは向かう必要がある。一人は私が行くとして、残りの二人を誰にするか……。

 若い彼らに堅物な印象を与えてしまうのは良くないので静かな雰囲気や力強さのある加賀や赤城、神通は向いていない。積極的なアピールが苦手な扶桑もダメだし、だからといって積極的過ぎる那珂もダメだろう。見た目が幼い第六駆逐隊やまるゆも初めての講演ではイマイチ雰囲気が伝わらない可能性があるのでダメだ。

 適度にフランクで子供にも受けがよく、しかし適度に緊張が伝わる人物……。この鎮守府でそれを満たしているのは……。

 

「天龍と最上……榛名でもいいですね」

 

「やっぱり貴女もそう思う?」

 

 天龍は子供の世話が上手ですぐに仲良くなるし、最上は頼りになる雰囲気があって装備の開発に貢献しているので鎮守府の裏の功労者と呼ばれている。榛名は歳下からすれば優しいお姉さんという雰囲気が子供達の緊張を解いてくれるだろう。

 だが、三人とも戦闘になれば一気に力強い雰囲気へと変わり、頼り甲斐のある姿を見せてくれる。

 

「鎮守府近海の哨戒警備もあって最上は連れて行けないでしょうから、今回は天龍と榛名と金剛の三人にお願いしようと思うの。大丈夫かしら?」

 

「はい、了解です」

 

 敬礼をする私に七海は満足そうな笑顔で頷いたのだった。

 

◇◇◇

 

 時間は過ぎて一週間後、私と天龍と榛名は近くにある中学校へと向かって歩いていた。食材の買い出し以外では滅多に陸地を歩かない私達は何時もとは違う足元の感覚に戸惑いながらも海を横目に景色を楽しんでいた。

 

「何つぅかさ、不思議な気分だよな……」

 

「はい、普段は鎮守府から外には出れませんから。任務の一環とはいえ、少し慣れない気もします」

 

「私達の本来の持ち場は海の上だからね。私は買い出しによく行くからそこまで気にならないけど、二人はやっぱり違和感がある?」

 

「ああ、なんつうか……落ち着かねぇ」

 

「でも、普段は見れない景色が見れて……榛名、楽しいです」

 

 きょろきょろと辺りを見回す榛名と、観察する様にじっくりと景色を楽しむ天龍。やはり普段とは違う事を体験すればそわそわしてしまうのは人間も艦娘も変わらないようだ。私の中の妖精さん達も楽しそうにしているのを感じる。

 

「じゃあ、今回の講演会についてもう一回確認しておこうか」

 

 歩きながら二人に視線を向けて言うと、二人とも頷いて答えてくれた。

 

「今回の講演会は私達艦娘について知ってもらう為のものだよ」

 

「ああ、深海棲艦も艦娘も最低限の知識だけは教科書に載ってるのに詳しい事は機密扱いだったからな」

 

「私達の事は文章のみで挿絵は禁止。内容も深海棲艦を倒せる唯一の存在だという事だけ……」

 

「そうだよ。そして、今回の講演会で私達の存在が正式に一般公開される事になるんだ」

 

 講演会の場所は近くの中学校。学校外の一般人も参加可能な公開型の講演会だ。今回は学業の一環として全校生徒が参加することになる。未来を担う子供達が今回のメインターゲットであり、彼等彼女等に良い印象を与えていくのが一番重要な事だ。

 といっても講演する側の私達もされる側の相手にも初めての試みなのだから上手くいくかはわからない。私達の今回の働きが今後の架け橋になるのだから。

 

「講演は三、四限目。給食と昼休みを挟んでお昼からは近くの海で私達の演習。今日の日程はこんな感じ、頑張っていこう!!」

 

「了解だ」

 

「了解です、お姉様」

 

◇◇◇

 

 それから暫く歩いた後、目的の学校に到着した。先ずは職員室へ挨拶に行かなければ。

 正門から敷地内に入ると静かな空気が伝わってくる。どうやら授業中らしい。ここから見える誰もいないグラウンドはどことなく寂しく感じてしまう。

 人間だった頃の記憶が蘇り、少しばかり懐かしく思って足を止めてしまったが、天龍と榛名が不思議そうに振り返ったので何でもないと首を振って歩みを再開する。

 職員玄関に向かい、呼び鈴を押して事務員さんを呼び出すと、ほんの数秒で年輩の事務員さんがやって来た。

 

「こんにちは、本日講演会を行う岩川鎮守府の者です」

 

「ええ、話は聞いています。本日はよろしくお願いします」

 

 和かに笑う事務員さんに三人で敬礼を返し、職員室に連絡してもらう。職員室隣の来客用の部屋に案内され、ソファに座りながら待っていると校長らしき男性が入ってきた。

 

「本日は我々のために講演場所を提供していただき、誠に感謝致します」

 

「いえいえ、こちらも子供達への良い教育となると思っていますよ。どうかよろしくお願いします」

 

 校長は今回の海軍の考えに賛成らしく、喜んで場所の提供をしてくれたらしい。予定の時間まで話をしていたのだが、どうやら軍に友人がいるそうで、こうした講演会が開かれる予定があることを事前に聞いていたらしく、随分と前から準備をしていたそうだ。

 

「私自身、艦娘という存在と会ったのは初めてです。友人から話して良い範囲の話だけ聞いていましたが、本当に見た目は人間と変わらないのですね」

 

「ええ、深海棲艦に対抗する力があることを除けば、私達は普通の人間と殆ど変わりません。精々力が強いくらいでしょうか」

 

「そうですね、妖精さん達の力があって私達は本来の力が発揮できますから……」

 

「言い換えれば、妖精達の管轄外の部分は普通の人並の力しか出せねぇってことだな」

 

 榛名や天龍も鎮守府以外の関係者と話すのは珍しいからか多少は緊張しているものの、何時もの調子を取り戻してきたようだ。……だが、天龍の言葉遣いはどうにかならないのか。仮にも場所を提供してもらう立場なのだから、もう少し丁寧な言葉を使わなければ失礼になる。

 

「天龍、もう少し言葉遣いをどうにかしないと……」

 

「いえいえ、構いません。普段通りにしていただいて結構ですよ」

 

「はぁ、そう仰るなら……」

 

「金剛は固すぎなんだよ」

 

「お姉様も緊張してるんですね」

 

「……そうかも」

 

 榛名の言葉に自分が随分と余裕が無いことに気がついた。一番しっかりしないと、なんて思いながら私が一番焦っているのかもしれない。深呼吸して気持ちを落ち着かせると、随分と楽になったように感じた。

 

「天龍、榛名、ありがとう」

 

「おう」

 

「はい!!」

 

 天龍と榛名にお礼を言って、その様子を見ていた校長から微笑ましい顔をされて少しばかり恥ずかしかった。

 それから他愛のない話をしていると、いつの間にか随分と時間が過ぎていたらしい。チャイムが鳴って廊下が賑やかになるのが聞こえてきた。

 

「授業が終わった様ですね」

 

「ええ、こちらも準備をしましょうか」

 

 講演会場は体育館らしいので、生徒の移動が終わった後で私達も移動する。

 

 既に生徒達は移動を終えているらしく、全員が並んでパイプ椅子に座って待っているようだ。体育館後方の一般席にも大勢の人がいるのが見える。カメラを持っている人も見えるし、やはり皆、艦娘に興味があるのだろう。

 後ろの二人に視線を送り、頷きあってから扉をくぐる。多くの視線がこちらに向くのを感じながら、用意された席へと座り、周りに気付かれない様にもう一度深呼吸をした。

 

「それでは、時間となりましたのでこれから岩川鎮守府の艦娘さん達による講演会を開始致します。……それでは、よろしくお願いします」

 

 進行役であろう先生に視線で合図をもらったので、静かに椅子から立ち上がる。天龍と榛名が後に続くのを確認しつつステージに上がると、全員に視線を向けてみれば、全員の視線が送られてくるのがわかった。さあ、ここからが本番だ。

 今日何度目かわからない深呼吸をしてから、私はマイクのスイッチを入れた。

 

 

 


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