二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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 お待たせしました。
 仕事が忙しくて執筆が遅くなりました。ごめんなさい!!


コンゴウさん、交流する

 

 マイクのスイッチを入れ、何度か軽く手で触れて音量をチェックする。チェック、ワン、ツー……いやいや、これじゃ霧島じゃないか。

 流石に妹の十八番を奪うわけにもいかないので、出そうになる言葉を寸前で飲み込んだ。

 

「皆さん、はじめまして。私は岩川鎮守府所属の艦娘、金剛型戦艦一番艦、コンゴウです」

 

「同じく金剛型戦艦三番艦、榛名です」

 

「天龍型軽巡洋艦、天龍だ」

 

 敬礼をしながら三人で自己紹介をすると、一般席からいくつかのカメラのフラッシュが視界を白く染めた。写真に撮られるのは初めてだから少し恥ずかしい。

 

「今回は海軍の機密事項であった私達艦娘についての情報が公開される事になり、未来を担う学生の皆さんに少しでも私達を知っていただこうと講演会を開かせていただきました」

 

 私は事前にセットしてもらった大型スクリーンに向けて手元のリモコンのスイッチを押した。スクリーンには大きく『艦娘とは?』と映し出されている。

 

「では、まず最初に私達艦娘とはそもそも何なのか、という話からしましょう」

 

 マイクをスタンドから外した。どうやらワイヤレスタイプのマイクのようだ。リモコンを榛名に預けてマイクを片手にステージから降りる。

 講演会で大切な事は聞き手を飽きさせないことだ。そういう工夫をするためにも私自ら動いてみることにした。

生徒達の前まで歩き、少し眠たそうにしている男の子を指名する。

 

「そこの眼鏡をかけている君」

 

「ふぇ、ぼ、僕ですか!?」

 

 笑顔で声をかけた男子生徒は自分が指名されたことに気がつくと、一瞬で眠気が吹き飛んだのか緊張した顔で姿勢を正した。

 

「学校の授業で私達の事をどのくらい習ったか教えてくれるかな?」

 

「は、はい……えっと、深海棲艦っていう謎の敵と戦える女の人だって事くらいです」

 

「はい、ありがとう」

 

 笑いかけてあげれば赤くなりながらもほっとした様子の彼を見て少しだけ和むと、榛名に合図してスクリーンの画像を変える。映し出されたのは海面からどこかを狙っている駆逐イ級の姿だ。生徒達から驚愕の声がいくつか上がる。

 

「今、スクリーンに映っているのが深海棲艦と呼ばれる存在の一つです。この他にも様々な姿をした個体がいます」

 

 次に映し出されたのは戦艦ル級、空母ヲ級、飛行場姫の姿だ。この画像は人型の個体であるためか驚愕は少ない。

 

「深海棲艦は強い個体ほど人に近い姿をしている場合が多いです。彼女達には通常兵器ではダメージを与え難く、現在は艦娘の武装のみが有効です」

 

 画像を次のものに変える。映っているのは私と天龍、比叡に雷と電だ。全員が艤装を装備し、海の上を移動している様子を撮ったものらしい。

 

「あの背中や脚に付けているのが艤装と呼ばれる私達の武装です。見た目は小さいですが、威力は強力です」

 

 私は目の前の女子生徒の掌に妖精さんを一人乗せてあげる。弾薬を装填する係りの子で、茶髪のショートヘアーにチャーミングなアホ毛が跳ねている。

 

「うわぁ、可愛い!!」

 

「本当だ、可愛い!!」

 

 ドヤ顔で敬礼する妖精さんは次々と別の生徒の手を飛び跳ねていく。生徒達の興味が惹きつけられてきたところで妖精さんに帰ってくるように合図し、説明を再開する。

 

「今、皆さんの前にいたのが妖精と呼ばれる存在です。私は妖精さんと呼んでます。彼女達が発見された後、必要な資源を用意することで艦娘を生み出す力があることが判明しました」

 

 えっへんと胸をはる妖精さんを見て生徒や教員達から笑いが漏れる。どうやら興味を引くのは上手くいったらしい。

 次の画像を表示し、スクリーンを見るように全員に伝える。映っているのは暁、天龍、最上、赤城、そして私だ。

 

「私達艦娘は第二次世界大戦の時に実際に作られた艦艇の魂を宿した存在です。あの画像に映っているのは全員岩川鎮守府の艦娘です。左から駆逐艦の暁、軽巡洋艦の天龍、航空巡洋艦の最上、航空母艦の赤城、そして戦艦の私、コンゴウです。見た目は人間と変わらないですね。でも……」

 

 ここで再び生徒の中から一人指名することにした。今回は長い黒髪が似合う女子生徒だ。

 

「そこの長い髪のあなた。ちょっと前に出てくれる?」

 

「は、はい!!」

 

 緊張で上擦った声を出す女子生徒に立ち上がってもらい、全員に見えるように前に出てもらう。恥ずかしいかもしれないけど、ここは我慢してもらおう。

 

「艦娘は普通の人とは違うところもあって、例えば私達は普通の人間より力持ちです。この子もこうやって片手で持ち上げられます」

 

 ちょっとごめんね、と声をかけてスカートが捲れてしまわないように注意しながら片腕で女子生徒を下から慎重に持ち上げて見せる。驚く生徒達を見回してから女子生徒を降ろし、お礼を言って戻ってもらう。

 

「あの画像の左にいる駆逐艦の暁、彼女は見た目が皆さんよりも小さいですが満タンのドラム缶を一度にいくつも運べる力があります。このように私達は見た目は皆さんと同じ人間ですが、れっきとした軍艦でもあるんです。では次に……」

 

 こうやって敢えて印象に残るような事をやって全員の注目を集めながら説明することで聞き手を飽きさせず、覚えてもらいやすい説明をするように気をつける。

 そのまま艦種の簡単な説明、私達の生活の様子、戦闘の流れなどを天龍や榛名にも手伝ってもらい、クイズや映像で時々クスリと笑えるネタを混ぜながら伝えていく。

 

 そして、あっという間に時間が過ぎ去り、残り数分となった時に一番伝えたい事を話す。

 

「さて、これまで私達の事をたくさん話しましたが、今私達は大きな問題を抱えています」

 

 全員が真剣に聞いてくれているのを感じながらマイクを握る手に力が入る。

 

「今、私達艦娘を指揮する提督の数が減っています。もしもこの中で将来、私達と共に働きたいと思った人がいたら是非提督を目指してほしい。共にこの国の人々を守っていきましょう。それでは、これで講演を終了します」

 

 一礼してそう締めくくると、一斉に拍手が鳴り響いた。小さく息を吐いて自分達の席に戻る。わいわいと自分達の教室に戻っていく生徒達を見送りながら天龍と榛名にお疲れ様と声をかける。私にできることは全てやったと思う。でも、これはまだ未来に繋がる始まりに過ぎない。頑張るのはこれからだ。

 

 さて、まだ今日の仕事は終わっていない。これから少しでも生徒達との交流を深めておくとしよう。

 

◇◇◇

 

 この中学校は給食があるらしく、私達は一年生から三年生の一組の教室に一人ずつ別れて昼食を食べつつ交流を深める事にした。天龍は一年生、榛名は二年生、私が三年生の教室に向かう。

 階段で二人と別れてから三年一組の教室に入ると、私が来る事は既に伝えられていたのか、大して驚いた様子もなく生徒達の視線が私に集まる。しかし、やはり普段いない人物がいるのは緊張するのか視線に戸惑いが混ざっている。

 ここは一つ、皆の緊張を取り除くとしよう。私は息を吸い、笑顔で〝彼女〟の様にポーズを取って言い放った。

 

「英国で生まれた、帰国子女のコンゴウデース!!ヨロシクオネガイシマース!!」

 

 胸を張って堂々とそう言うと、教室の全員が驚いた顔で固まった。よし、先程とは違う私の態度に全員が驚愕している。その隙に教室に入ると、黒板の前に立って自分の名前を書く。一瞬、片仮名にしようとして漢字にする。この場は私の私情を挟んではいけないから。

 

「Hey、皆さんどうシマシタ?表情が暗いデース!!…………なんちゃって」

 

 最後に素に戻って首を傾げて見せると、途端に教室内の空気が緩んだ様に感じた。どうやら張り詰めた空気を一新させる事には成功したようだ。

 

「さて、改めまして自己紹介をしましょうか。金剛型戦艦の一番艦、金剛です。短い間だけどよろしくね」

 

 挨拶と同時に教室の真ん中に移動し、両手を広げて皆を見回す。さぁ、頑張るぞ!!

 

「今日は私から皆さんにプレゼントがあります。……妖精さん、お願いね」

 

 私の艤装から妖精さん達が何人か飛び出すと、生徒達の机に一つずつ小さな器に入った間宮さん特製のカレーを並べていく。事前に給食の献立を聞いておいて食べきれる量で人数分作るように間宮さんにお願いしておいたのだ。

 生徒達は突然飛び出した妖精さんとカレーに驚愕していたが、やはり好奇心もあるのだろう、男子生徒の中にはカレーに釘付けの者もいる。

 

「私達の鎮守府の食事を作ってくれる給糧艦、間宮さんの特製カレーです。給食もあるから量は少ないけど、よかったら食べてくださいね」

 

 それから私は机を一つ用意してもらい、持ってきた弁当を広げると手を合わせた。生徒達も給食の準備が終わったのか全員が着席する。

 

「いただきます」

 

 どうやら今日の給食は白ご飯に味噌汁、ほうれん草の和え物に出汁巻き卵らしい。自然と生前の自分の学校生活の記憶が蘇って懐かしくなる。私の通っていた中学校も給食があったから余計にその気持ちは大きくなって、気がついたら近くにいた女子生徒に声をかけていた。

 

「ねぇ、良かったら私のおかずと一品交換しない?」

 

「……え?……あ、はい、いいですよ」

 

「ありがとう。じゃあ、好きなおかずを選んで?」

 

 女子生徒は少し迷った末に隅にあったきんぴらごぼうを選んだ。私の弁当は大きいからもっと取っていいのだが、普通の学生である彼女には十分な量だったようだ。美味しいです、と笑う彼女から交換でほうれん草の和え物をもらい、それをゆっくりと味わう。

 それはずっと昔に味わった事があるような懐かしい味だった。思わず涙ぐみそうになるのを堪えて彼女にお礼を言う。すると、私の弁当の内容が気になったのか他の生徒達が何人か私の所に集まってきた。

 

「金剛さんってたくさん食べるんですね」

 

「私は戦艦だからね。食べる量は多いんだ」

 

「あ、あの……この唐揚げもらってもいいですか?」

 

「うん、いいよ。じゃあ、代わりに出汁巻き卵をもらってもいいかな?」

 

「は、はい!!」

 

「あ、じゃあ私はこの春巻きがいいです!!」

 

「俺も唐揚げが食いたい!!」

 

 気がつけば私の周りにはたくさんの生徒達が集まってきていた。私の食べる分が無くなりそうな勢いで減っていくけど、もともと私には燃料さえあれば食事は必要ないし、どうにでもなる。生徒達と仲良くなるきっかけになるなら惜しくはない。

 

 こうして、私は無事に生徒達と仲良くなれた。艦娘についての質問や妖精さんについての話で盛り上がり、まるで学生時代に帰ったかの様な懐かしい体験ができたのだった。

 


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