二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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お待たせしました!
今回は少し短いですが、第六駆逐隊の四人とコンゴウさんの話。



第六駆逐隊の場合

鎮守府の食堂は広い。

百人を超える艦娘が一度に食事をする事になったとしても問題が無い程に充実した設備を備え、いざとなれば更に増設できる様に設計されている。提督の中には二百を超える艦娘を所有する者もいるからだ。

現在の岩川鎮守府にそれだけの艦娘はいないし、出撃や休みで昼まで寝ている艦娘もいるので食堂は常に閑散としている。

しかし、そんな少ない艦娘達が我先にと取り合う席が存在する。それが一番奥の窓際にある四人用のテーブルだった。

この食堂は艦娘達の宿舎の隣にあり、その関係で窓からの眺めが非常に悪い。宿舎が邪魔をして景色を楽しめないのだ。だが、一番奥の席だけは視界に邪魔な物が一切映らずに景色を楽しむ事ができる。2つある窓から早朝なら登る朝日を、夕方なら地平線へ沈む夕陽を眺める事ができるのだ。

そんな艦娘達が我先にと狙う席に座る四人の姿があった。

 

◇◇◇

 

「また休みが重なったわね」

 

「四人一緒になるのは嬉しいことだね」

 

「本当にそう思うわ!!」

 

「なのです!!」

 

同じ服を着た四人の姉妹達。第六駆逐隊のメンバーは滅多に重ならない休みが重なり一緒に朝食を食べていた。

季節はそろそろ秋になろうかという頃で、開いた窓から入る空気は少しずつ冷たくなってきていた。

 

「そろそろ紅葉も始まる頃かしら?」

 

「去年は忙しくてゆっくり見る暇もなかったのです」

 

「裏山が一面紅葉してる時、私達は訓練三昧だったものね」

 

一年前の今頃はコンゴウが出撃するようになり、本格的に鎮守府全体の練度向上の為毎日訓練や演習を行っていた。皆がとにかく強くならなければならないと我武者羅だった。

その時の様子を思い出したのか暁が外の景色を眺めながら気怠げに息を吐いた。

 

「……あれからもう一年だなんてとても実感できないわね」

 

「大きな出来事が立て続けに起きたからね。無理もないさ」

 

呟くように言う暁の隣で響がしみじみと頷いた。

特に普段の訓練から一変した辛い日々が記憶に新しい。普段はおどおどしている神通が笑顔で鬼のような訓練メニューを伝えてきた時など四人揃って泣き出しそうだった。

しかし、現段階で既に当時の二倍近いメニューをこなせているのだから慣れとは恐ろしいものである。

 

「さて、今日は休みなんだけど全く体を動かさないわけにもいかないわよね」

 

「休みの日でも適度な運動は必要よね」

 

「いざという時に体が動かないと大変だし」

 

雷が呟き、暁と電が揃って頷く。

響は腕組みをして既にメニューを考えている様だった。

 

「……やっぱりあの人の所かな」

 

「そうよねぇ」

 

「なのです」

 

「……あぁ、皆考えてる事は同じみたいね」

 

同時に席を立った四人は食器を厨房の間宮へと返してからとある場所へと歩き出した。

 

◇◇◇

 

その場所は鎮守府の裏側にある学校の体育館程の大きさがある建物だった。建設されてまだ間もない建物は新築の匂いがして不思議とわくわくしてしまう。

それに、四人が事前に見ていた予定表が正しければこの時間はとある人物が利用中の筈だ。

四人は顔を見合わせると頷き合って扉を開けた。

 

視線の先に一人の少女が正座で座っていた。

目を閉じて瞑想しているのかまっすぐ伸びた背中はとても頼もしく見える。

 

「金剛さん」

 

電の声に座っていた彼女は立ち上がって振り返る。

ポニーテールにした長い茶髪がふわりと揺れた。いつもの微笑みを向けながら、コンゴウは手招きして四人を道場の中へ入るように促した。

 

「こんにちは、金剛さん!」

 

「いらっしゃい、四人とも今日は休日だったと思うけど、どうかしたの?」

 

雷の元気の良い挨拶に彼女は微笑みを浮かべながら首を傾げる。

四人は休日だが体を動かしたい事をコンゴウはに伝え、何かいい運動はないかを話した。

 

「なるほど、じゃあ丁度良かった。私も四人に新しい動きを教えたかったから、今からやろうか?」

 

「あら、ならお願いしましょうか!」

 

「お願いしますね、コンゴウさん!」

 

やる気に満ち溢れた返事にコンゴウは微笑みながら静かに頷いた。

 

 

◇◇◇

 

 

「そう、もっと腕を伸ばして」

 

「う〜……こ、こうかしら?」

 

「うん、そうそう。そこから円を描く様に腕を動かして」

 

「えっと……こう?」

 

コンゴウの言葉に合わせて暁が動き、響と雷と電がそれを興味深々に見ていた。

コンゴウが教えているのは小柄な駆逐艦の艦娘でも戦艦級の敵にダメージを与える為の体捌きの方法だった。これなら相手が余程警戒していない限りは不意打ちで強力な一撃を与える事ができるだろう。

 

「うん、大丈夫だよ。あとはその動きをスムーズにできる様になれば完璧だね」

 

「ほんと!?やったぁ!!」

 

コンゴウに頭を撫でられた暁は素直に喜び、だがすぐに頬を膨らませて「子供扱いしないで!!」と文句を言い出した。プイと逸らした顔が赤かったのに本人は気づいているのだろうか。

そんな姉を見て妹三人が我慢できないとばかりに笑い出し、更に顔を赤くしてわたわたと腕を振る暁の姿を見てコンゴウも笑い出す。

 

「笑うなぁぁぁああ!!」

 

「だって……ねぇ?」

 

「暁があまりにも可愛くて」

 

「な、なによ、なら三人とも今から私がコテンパンにしてあげるんだからぁ!!」

 

「動きは見ていたからこちらも反撃するけど、構わないよね?」

 

「ちょっ、響!?な、なんか凄く動きが速いんだけど……ふぎゃ!?」

 

「ぷ、あはははは!!」

 

結局、全員の笑い声が止んだのは駆逐艦の四人が疲れて床に座り込んだ後だった。

 

 

◇◇◇

 

 

「あ〜、もう動けない」

 

「つ、疲れたのです……」

 

「私は……まだまだ、いけるよ」

 

「響、強がりは止めなさい。足がガクガクしてるわよ……」

 

疲れて四人が揃って座り込んでいると、コンゴウが同じ様に彼女達の前に座った。四人と違い、コンゴウにはまだまだ余裕がある様に見える。

 

「お疲れ様。どうだったかな、動きの流れは掴めた?」

 

「ふふん、バッチリよ!!」

 

暁が胸を張ってそう言うと、コンゴウは笑って頷いた。

そして四人を手招きして近くまで呼ぶと並んで座る様に言った。四人は首を傾げるが、言われた通りにコンゴウの目の前に並んで座る。

その途端、コンゴウは腕を広げ四人を抱きしめた。小柄な四人はぎりぎりコンゴウの腕の中におさまった。

 

「は、はわわわ!?」

 

「ちょっ、金剛さん!?」

 

慌てる四人を更に強く抱きしめる。まるで何かを確認するかの様に、しっかりと。

 

「こ、金剛さん、苦しい」

 

「一体どうしたの!?」

 

「……ごめんね、ちょっと力の加減が上手くいかなくて。でも、少しこのままでいさせて」

 

慌てる四人を宥める様に少し力を弱める。そのまま少し時間が過ぎたころ少しずつコンゴウが話を始めた。

 

「四人とも、よく聞いて」

 

「コンゴウさん?」

 

「私が今まで貴女達に伝えた技や技術をしっかりと、これからやって来る艦娘達にも伝えてあげてね。きっと皆の力になるから」

 

「こ、金剛さん?いきなりどうしたんだい?」

 

「貴女達四人は優しい子だから、きっと辛いと感じる戦いもいっぱいあると思う。だけど挫けたらダメだよ」

 

「金剛さん、何でそんなこと言うの?それじゃまるで……」

 

「辛かったら一人で抱え込まないで提督や他の仲間に相談するんだよ?」

 

「金剛さん、そんなこと言わないでほしいのです……ッ!!」

 

「ごめんね、これだけは今のうちに伝えておきたかったから。……ふふ、そんな顔しないで」

 

「でも、急にそんな話されたら心配するじゃないの!!」

 

不安そうな顔の暁の頭を撫でてそっと腕を離す。四人とも心配そうにコンゴウを見上げるが、コンゴウはいつもの笑顔のまま頷くと四人に背を向けて出口に向かって歩き出す。

暁が思わず呼び止めようとしたが、上手く言葉が出ないままコンゴウは建物から出てしまった。

 

「……まるで、いつかいなくなっちゃうみたいじゃない」

 

雷の呟きだけが、やけにこの空間で大きく響いた。

 

◇◇◇

 

それから四人は度々コンゴウの元に行くのだがコンゴウの様子は以前と変わらず、不安を残したまま月日は流れていくのだった。

 

 

 

 


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