二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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いろいろと忙しくて執筆が遅れてしまいすいません。
ついに大きく話が動きます。



金剛型姉妹の場合

朝日の眩しさに目を覚ました。

どうやらカーテンの隙間から光が私の顔を照らしているらしい。ぼんやりとする頭を働かせて起き上がる。

ふと、隣のベッドを見れば比叡お姉様と榛名お姉様の姿がない。二人は既に朝食に向かったらしい。

肌寒い部屋の空気に耐えられずにベッドの中の温もりに逃げたくなるが我慢する。今日は午後から接近戦の訓練と出撃の予定があるから朝からしっかり食事をとらなければ体が動いてくれないだろう。

 

「おはようございます、金剛お姉様……」

 

隣で寝ている金剛お姉様に挨拶をして立ち上がる。その際にシーツと毛布をしっかりと整えるのを忘れない。お姉様が寒くない様に。

 

「……さて」

 

顔を洗いに洗面所まで行くと冷たい水で一気に顔を洗い、眠気を飛ばす。櫛を使って髪を梳くと金剛型姉妹お揃いのカチューシャを付けて鏡の隣に備え付けてある棚を開く。

中に並んでいるのは眼鏡だ。数は10個でそれぞれ色や形が違う。私が休日に自分の足で街に出かけて買ってきたお気に入りの物たちだ。

 

「……今日はこれにしようかしら」

 

レンズの下半分だけを覆うアンダーフレームとワインレッドの縁が大人らしさを感じさせるこの眼鏡は、私が初めて自分の給金で購入したものだ。初心忘るべからず、今日はこの眼鏡で過ごすとしよう。

歯を磨いて部屋に戻り、朝食の準備のために着替える。姿見で最後のチェックを行うと、部屋を出る前にもう一度金剛お姉様の顔を覗き込む。静かに眠るお姉様は普段の凛とした姿とはまた違った美しさがあって不思議と眺めたくなるけれど、いつまでもこうしているわけにもいかないので、名残惜しいが朝食に向かうとしましょう。

 

「……お姉様、いってきます」

 

部屋のドアを閉めて、いつまでも側にいたい気持ちを振り払う。

立ち止まってはいけない。お姉様もきっと自分の為に私達が立ち止まることを良しとしないから。

部屋の外に出ると、丁度第六駆逐隊の四人が立っていた。

 

「……おはようございます、霧島さん」

 

「ええ、おはようございます。今日は貴女達がお姉様の担当だったわね」

 

「うん、金剛さんの事は私達が見ておくから……」

 

「そうね、ありがとう。お姉様のこと、お願いしますね」

 

本当は私達だけでやりたいのだが、私達は戦艦だ。深海棲艦の攻撃が激しくなってきた今の状況で火力の主力を担う戦艦が出撃しないのはよろしくない。第六駆逐隊の四人に手を振りながら廊下を歩く。深呼吸をして気持ちを切り替える。さぁ、今日も一日が始まった。お姉様がいない鎮守府の一日が。

 

金剛お姉様が目を覚まさなくなって、ちょうど1ヶ月目の朝だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

お姉様の異変を知ったのが丁度一ヶ月前。

一週間程真剣な表情で艤装の改良に取り組む姿を心配して姉妹全員で早朝に様子を見に行った時だった。

 

明石さんの工廠の奥にある扉を抜けてお姉様の工房へと足を踏み入れた私たちが見たのはおそらく最後だったであろう艤装の改良を終えたまま机に突っ伏しているお姉様の姿でした。

これまでも徹夜して途中で寝てしまっている事が何度もあったので今回もそうだと思っていた。

右手には最後のボルトを締める際に使ったであろうレンチを持ち、整備オイルが少しだけ付いた頬。余程疲れていたのか静かに寝息を立てている姿は死んでいるのではないかと錯覚する程に生気を感じなかった。

 

「あぁ、お姉様ったらまたここで寝てしまったんですか?」

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか。金剛お姉様らしくて………え?」

 

せめてベッドまで運ぼうと触れたお姉様の体はびっくりするくらい冷たかった。一瞬だけ思考が真っ白になり気が付いたら反射的にお姉様の肩を揺らしていた。

 

「お姉様、しっかりしてください!!お姉様!!」

 

「き、霧島!?」

 

「霧島ちゃん、どうしたの!?」

 

私の行動にお姉様達も駆け寄り、皆で金剛お姉様を起こそうとするが全く反応が無かった。呼吸はしっかりしているし脈も正常だが体が冷たい。まるで冬眠している様だと、混乱した思考の片隅で思った。

 

「そ、そうだ!!明石さんを呼んで来ましょう!!」

 

「え、ええ……私が呼んで来ますから比叡お姉様と榛名お姉様は金剛お姉様を部屋に運んでいてください!!」

 

「わ、わかった!!」

 

「は、はい!!」

 

そう言って工房を出た私は工廠内を見渡すが明石の姿はない。やはりこの時間は食堂で朝食を食べているのだろう。

工具の隙間を駆け抜けて一気に鎮守府本館の食堂へと駆け抜ける。途中で駆逐艦の子達や妖精さんとぶつかりそうになるが構わず走る。今は金剛お姉様を助ける事だけを考えていたかった。

 

食堂の扉を開けて中を見渡せば食事を終えた明石と北上が奥の席で真剣な顔で何かを話しているのを見つけた。

 

「明石さん、大変です!!」

 

必死な様子の私を見て驚愕した明石は事情を聞くとすぐに準備をして私達の部屋に向かうと言ってくれた。

食器を間宮さんに渡して食堂を出て行く明石を見送ってから私も食堂を出る。

 

「……そっか、金剛さん……もう限界なんだね」

 

一人食堂に残った北上さんの呟きは私には聞こえなかった。

 

◇◇◇

 

私達の部屋にお姉様を運び終わった後、提督と明石さん、北上さん、比叡お姉様、榛名お姉様、そして私の6名が会議室に集まっていた。

どうやら明石さんから話があるらしく、提督と姉妹以外には内密にしたいらしい。

でも、それなら……どうして北上さんもいるのだろう?

 

「お集まりいただきありがとうございます。早速ですが、金剛さんの体調についてのお話をさせて頂きます」

 

「お姉様は大丈夫なんですか!?」

 

比叡お姉様が明石さんに詰め寄るのを提督が手で制する。お姉様を想う気持ちはここにいる全員が同じなのだ。

明石さんは比叡お姉様が席に座るのを見てから手に持っていた書類を全員に配った。内容は金剛お姉様のカルテだった。私の分析によればこの内容は……

 

「霧島さんは気づいたみたいですね」

 

「これは間違いないのですか?」

 

「ええ、間違いないわ」

 

「あの、それは一体どういう……」

 

状況が読み込めていない提督やお姉様達が首を傾げる中、ついに明石さんが真剣な目で口を開いた。

 

「結論から言えば……金剛さんの体に異常は見つかりませんでした」

 

明石さんの言葉に部屋の中は一瞬だけ静まり返った。

金剛お姉様の体に異常は見つからなかった。ならば、何故お姉様は目覚めないのか。

 

「どういうことなんですか!?」

 

今度こそ明石さんに詰め寄った比叡お姉様が明石さんの肩を掴んだ。明石さんは真剣な顔のまま比叡お姉様の手を握ると、ゆっくりと引き剥がす。その表情は何かを耐えている様だった。

 

「確かに金剛さんの体に異常はありません。しかし、私が言ったのはあくまで病気や怪我ではないということです」

 

「……それじゃあ、一体?」

 

「……寿命だよ」

 

「……え?」

 

今まで一言も喋らずに椅子に座っていた北上さんがぽつりと呟いた。

寿命……確かにそう言った。

寿命とは生物がその生命を維持できなくなるまでの期間。北上さんの言葉からして、お姉様の寿命が尽きたということなのだろうか。

そんな筈はない。お姉様が艦娘として生まれた時期は詳しく知らないが、お姉様自身が普段から話している経験談からしてここ五年以内に生まれた可能性が高い。

ならば、まだまだ寿命とは言い難い筈だ。

 

「……金剛さんは少し前から明石さんに相談してたんだよ。あたしはたまたまその場に居合わせてさ……それ以来時々相談に乗ってたんだ」

 

お姉様が明石さんに相談していた?

なら、金剛お姉様は自分自身に起こっている異常について知っていたというのだろうか。何故私達姉妹に相談してくれなかったのだろう。

いや、お姉様のことだ、私達に心配を掛けない為に何も言わなかったのだろう。

 

「金剛さんに最初の異常が出たのは講演会があった日の演習後から。左腕の麻痺が始まって……それは徐々に左半身を中心に広がっていたようです」

 

「あの講演会から!?」

 

「今は11月だから……半年以上前から!?」

 

「……そんな、お姉様」

 

提督が驚愕し、比叡お姉様と榛名お姉様が悔しげに俯いた。きっと私も同じ顔をしているに違いない。

 

「私も最初の相談を受けたのは2ヶ月前でした。腕の調子が悪いから検査してほしいという内容だったんですが、その時点で身体的におかしな場所は見当たらなかったんです」

 

明石さんが椅子に座って深い溜息をついた。それは疲労などではなく精神的なショックを受けた様な、胸を締め付けられる様な様子だった。

 

「それから何度か相談を受け、彼女自身の経歴も聞きました。そこで確信とは言えませんが原因となる話を聞きました」

 

「原因となる話?」

 

提督が緊張した面持ちで明石さんに尋ねる。隣を見れば比叡お姉様も榛名お姉様も緊張しているのがわかった。

明石さんは提督と正面から向き合い、意を決した様に告げた。

 

「恐らく、金剛さんはこの鎮守府にやって来た時から既に限界に近い状態だったんです」

 

その言葉に、私達の思考は完全に停止した。

 

 

 

 

 


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