二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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ようやく私生活が落ち着いて来たので投稿いたします。
これまで長らくお待たせしていた皆様、ごめんなさい。
そして、それでも待っていてくれて、ありがとうございます!


コンゴウさんの場合

ゆらり、ゆらり……

 

それは不思議な感覚だった。

水の中を漂うような、見えない何かに身を任せているような感覚。

自分の体なのに目を開くこともできず、指先一つ動かすこともできない。

 

ゆらり、ゆらり……

 

体は動かないがまるで手を引かれているかのようにどこかへと導かれていく。

その力はとても優しく、不思議と安心する温かさがあった。

感覚的には寝起きの状態に近いかもしれない。周りの気配は感じるのに頭が上手く働いていない。

 

ゆらり、ゆらり……

 

不意に〝左手を握られた感覚〟がした。

まるで「こっちだよ」と、そう言っているような不思議な感触だった。

誰かが、私を呼んでいる。

 

ゆらり、ゆらり……

 

徐々に鮮明になっていく感覚に私は逆らわずに身を任せた。

 

 

◇◇◇◇

 

次の瞬間、私は浜辺に立っていた。

まだ少し頭の中はぼんやりとしているが、体は自由に動かせた。

目の前には青い海が広がっていた。しかし、その水平線の向こうは霞みがかっていてよく見えない。ふと、空を見上げれば青空ではなく金色の空が広がっていた。分厚い雲があるのに日の光は問題なく届いていて明るい。

ああ、やっと頭が働き始めた。最近寝てばかりだから感覚まで鈍っているようだ。

とりあえず、この場所を調べなければいけないかな。

砂浜から出ようと海とは逆の陸地側へと歩いていく。小さな丘を超えると少し歩いた所に大きな建物があった。

海の側に作られたその建物は……どう見ても鎮守府だった。

 

◇◇◇◇

 

その鎮守府はかなり大規模なもののようだった。

正門に鍵は掛かっておらず、憲兵もいない。それどころか入ってくださいとばかりに開いている。不思議な場所なので罠かとも考えたが、此処以外で状況を把握するすべがないのも確かなので構わず中に入ることにした。

 

何故か丘の上からみた景色の中にはこの鎮守府しかなかったのだから。

 

敷地の中に入ったのはいいが人の気配がない。物音一つしないのは流石におかしいと思えた。

壁にそってぐるりと回り込む。本館の隣の工廠を通り過ぎ、たどり着いたのは艦艇を停泊させる港と整備用のドックだった。

その形は私が知る物ではなく、もっと大きな規模のものだった。

そこで、私は信じられないものを見た。

 

見上げる程に大きな船体。

強い破壊力を秘めた砲身。

海を駆ける為に鼓動するエンジン音。

 

見た瞬間に理解した。

これは金剛型戦艦四番艦、霧島だ。

反射的に隣のドックを見れば榛名、比叡も並んでいる。

ただ、その先に金剛(私)はいなかった。

 

……これは、一体何が?

 

「お待ちしていました。お父様」

 

それは透き通るような声だった。

一切の濁りもない、純粋で、温かい声だった。

驚いて振り返ると、そこには1人の少女が立っていた。第六駆逐隊の子達くらいの身長で神社の巫女が着る紅白の衣装に身を包んだ少女が柔らかな笑顔を浮かべながらそこにいる。先程まで全くの気配すらなかったのに。

いや、それより……今、彼女は何と言った?

私を「お父様」と呼んだのか?

 

「ああ、失礼しました。今のあなたはどちらかと言うならお母様ですね」

 

少女は微笑みながら丁寧にお辞儀をした。

その態度で十分だった。この少女は私を……本来の〝私〟を知っている。

 

君は一体、何者?

 

「あ、はい。私はこの鎮守府を管理している妖精です」

 

え、妖精?

 

「はい、妖精です」

 

妖精さんと言うには……その、サイズが大きいような……。

 

「ああ、私は原型ですから」

 

原型?

彼女はそう言った。原型と言うからには全ての妖精さんの元になった存在ということなのだろうか。

 

「貴女が今考えているであろう答えで間違いないでしょう。此処はそういう存在がいる場所ですから」

 

やはり、この場所は現実ではない?

 

「そうですね、半分正解です」

 

半分?

 

「そう、此処は間違いなく現実です。ただ、本来は生きている魂が来れる場所ではないのですよ。言うなれば、世界の狭間とでも言うべき場所ですから」

 

世界の狭間……そうか、じゃあ此処が……。

 

私の答えを肯定するように少女が頷く。

艦娘達には自らが艦艇だった頃の記憶があり、尚且つ同じ艦娘が複数人存在する場合がある。それは原型となる艦艇の魂があり、そこから生み出された分身が建造という形で呼び出されているのだと思っていた、

そう、此処は艦娘達の原型となる艦艇達が眠る魂の休息所。過去の大戦で散っていった英霊達の住む世界の狭間なのだ。

 

でも、私はまだ死んだわけではない。

肉体は消耗を抑える為に眠りについているが別に二度と目覚めないとかそんな悲しい別れはしないつもりだ。今は来たるべき時に備えて眠っているだけなのだから。

何故、私は此処に来ることができたのだろうか?

 

「お母様が此処に来れたのは私がお呼びしたからです」

 

君が呼んだから?

 

「はい、詳しい話は中で致しましょう。ずっと立ち話というわけにもいきませんからね」

 

それもそうか。

なら、案内をお願いしてもいいかな?

 

「はい、では此方にどうぞ」

 

状況の把握には情報収集が一番。

先ずはゆっくりと話を聞くことにしよう。

そう思いながら、私は歩き出した少女の背中を追いかけた。

 

 

 

「さて、こちらがこの鎮守府の執務室になります」

 

案内されたのは鎮守府の最上階にある大きな部屋だった。

扉にはめ込まれたプレートに書かれた文字は『執務室』。文字通り執務を行う場所であり、提督が鎮守府全体を管理する場所である。

少女は執務室のドアを開くと私を中へと案内した。

執務室の中は物が少なく、シンプルな作りをしていた。執務用の机と椅子、青いカーテンの窓、真っ白な壁とその中で目立つ様に立っている柱時計、音楽が流れるジュークボックス。それ以外に物は一切置かれていない。

 

でも、この部屋には見覚えがある。

それに気が付いた途端、涙が溢れそうになった。

そうだ、この部屋を私はよく知っている。知っているとも。

何故なら、私は毎日この景色を眺めていたのだから。

何故なら、この部屋は私が作り上げたのだから。

しかし、足りない。この景色には一つだけ絶対的に足りないものがあった。

あぁ……そうか、ここは……。

 

「ここが全ての始まりになった部屋です。お母様はよくご存知の筈ですよね?」

 

少女が机の前で立ち止まり、振り返る。

そのままゆっくりと頭を下げ、また元の姿勢に戻った。

そして、その口から出た言葉は私の予想したものであり、私の考えが間違いではなかったことの証明だった。

 

「お帰りなさい。そして……ようこそ、貴方の鎮守府へ。提督が鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮を取ります」

 

そう、この部屋はかつて私のPCの中にあり、毎日の様に覗き込んだ私の執務室だった。

 

◇◇◇◇

 

 

少女に手を引かれ、私は椅子に座らされた。

最初は遠慮したのだが、此処は貴方の為の席だと言われ、結局座ることになってしまった。

気を取り直して、この場所がどういった場所なのか改めて説明してもらえると助かるんだけど。

 

「はい、わかりました。簡単に言えばこの場所は貴方が毎日プレイしていた『艦隊これくしょん』が元になって生まれた世界です」

 

私がプレイしていたゲームの世界!?

それはつまり人間だった私が落雷によって死亡する直前までプレイしていた艦これがそのまま現実になったという事なのか!?

 

「そうですね、世界というのはその世界を生み出す可能性があれば存在します。一人の人間が作った物語やゲーム、子供が描いた落書きにだって世界が生まれる可能性があるんです。

勿論あくまで可能性なのでその世界が実際に作られるかどうかはわかりません」

 

そうなのか……。

でも、私がプレイしていた艦隊これくしょんには自分の鎮守府と他の鎮守府、そして戦闘に向かう海域しか登場しない筈だ。一般人が暮らしている町の様子は一切無かったと思うのだけど?

 

「そうですね。ですが、先程も言ったようにこの世界はあくまで貴方のプレイしていたゲームが元になっているだけですから、ゲームに登場しなかった部分も世界に合わせてしっかりと創造されていると思いますよ」

 

そういうものなのだろうか?

この世界に生きている人達が私の作り出した世界の可能性から生まれたものだとしたら、やはり私は創造主とか…そんな扱いになるのだろうか。

でも、私には創造主らしい力とかそんなものはない。ただ一人の艦娘としてこの世界を生きている。

 

「そうですね……お母様の場合はかなり稀少なケースです。普通は創造主が自ら生み出した世界を認識する事はありません。創造主の知らないうちに世界は生まれて、成長していきます。

しかし、貴方は自らの生み出した世界に入り込んでしまった。あの金剛が貴方の魂を呼び込み、この世界の肉体を与えてしまったからです」

 

あの時、消えていくだけだった私を救ってくれた金剛。

彼女に救われたあの瞬間、私はこの世界の存在として認識されたから消えずに済んだのだろう。益々彼女には感謝をしなくてはいけないな。

……しかし、そこで一つ疑問があるんだけど。

 

「はい、何でしょう?」

 

さっきこの鎮守府の周りを歩いた時に見つけた実際の戦艦の姿をした比叡、榛名、霧島を見たけど……なんで、〝金剛だけがいなかった〟のだろうか?

 

「………」

 

ここが私の作り出した世界の中心であり艦娘達の本体が眠る場所であることも理解できたし納得もできた。

でも、何故金剛だけがいなかったのか……それには特別な意味があるんじゃないの?

 

「……それは」

 

あるのならば教えてほしい。

きっと、それこそが君が私を此処に呼んだ理由であり、私の今後に繋がることだと思うから。

 

「わかりました……お話しましょう。この世界の〝歪み〟について」

 

歪み?

それはこの世界に何か不測の事態が起きているということ?

 

「そうです。そして、その歪みの原因はお母様になります」

 

私が歪みの原因?

もしかして、創造主である私がこの世界に入り込んでしまった事が原因で?

 

「そう…ですね……それも原因でしょう。貴方を助けるために本来の金剛が行なった事が一番の原因なのですが」

 

私を助けるための行動といえば自分の肉体を私に与えたことだと思うけど、それが原因なの?

 

「あの時、まだ世界は創造されている最中でした。……いや、お母様と金剛が出会ったあの時、あの場所がこの世界の始まりと言ってもいいでしょう」

 

思い出すのは遠い水面と、そこから降り注ぐ微かな光。

魂だけだった〝俺〟が感じた確かな冷たさ、寂しさ、そして何処までも落ちていくという確かな恐怖と、ほんの少しの安堵。

そして……水面から沈んでくる金剛の姿。

 

「あの時、あの瞬間、まだ世界は形を成していなかった。世界の法則や概念ですら創造されている途中だった。そんな時にお母様は金剛という〝存在〟を貰い受ける形で誕生しました。

しかし、その結果お母様が金剛と混ざり合う事で世界の創造時に記録されていた元々の金剛という存在そのものが消失したのです」

 

金剛という存在が…消失した……。

なら、私は一体どういう存在なんだ?

彼女と混ざり合った私は…金剛ではないのなら何なんだ……。

 

「お母様にあえて名前を付けるなら〝存在しない筈の者〟でしょう」

 

存在しない者……。

本来ならこの世界にいる筈がない存在。

創造主でもなく、艦娘の金剛でもない。この世界にとって異物でしかない存在。それが……私。

 

「はい、そうなります。外のドックに金剛の船体が無いのはこの世界に艦娘としての金剛が存在しないからです。戦艦としての本来の金剛は歴史に存在していますが、艦娘としてはまた誕生していないということになります」

 

艦娘として誕生していない?

もしかして私がいるからこの世界には艦娘としての金剛が生まれないということなのだろうか?

 

「正解ですお母様。そして、存在しない筈の存在である貴女が本来存在する筈の金剛という場所に収まっている今の状況こそ、この世界の歪みの正体です。

世界は歪みを正さなければ崩壊してしまう。だから世界は歪みを正そうとする力を使います。お母様が急激に体調を崩したのはこれが原因になります」

 

私が体調を崩したのは指輪を失った事によって弱った魂が肉体に影響を与えているのが原因ではないの?

 

「それも原因ではあります。しかし、本来ならお母様の魂はあと数年は問題なく活動できるだけの力がありました。世界が歪みを治そうとする力がお母様の魂に負荷を与えているんです。

この力は目には見えず、感じることもできない力です。防ぐことも、逃げることもできないのです」

 

防ぐことも、逃げることもできない力……か。

この世界では私は異物であり、どうやっても逆らえない力に狙われている。

つまり、私は……もう……。

 

「一つだけ、方法があります」

 

……っ!?

私が助かる方法が、ある!?

 

「貴女が、本物の金剛として世界に認識されればいいのです。此処なら、それができます」

 

私が本当の金剛として世界に認識される……。

でも、そうするには金剛の原型となる艦娘本体が世界に記録され、この場所に固定されなければならない。

つまり、それは……。

 

「はい、お母様がこの場所で金剛として世界に記録されればいい。しかし、それは同時にお母様がもうあの鎮守府に戻ることができないことを意味しています」

 

そう、私自身はこの場所に固定され、私の分身が建造という形をとって世界へと旅立ち、その記憶が私へと還元される。

金剛という艦娘の原型となり、二度と表の世界に戻ることはできなくなる。

 

「さあ、貴女はどうしますか?」

 

鈴音提督、比叡、榛名、霧島、暁、響、雷、電、夕立、時雨、最上、天龍、北上、大井、神通、那珂、赤城、加賀、まるゆ、明石、間宮……そして北方ちゃん。

 

私の大事な仲間達。

彼女達を守るために、私は……。

 

「……答えは、初めから決めていたのでしょう?」

 

うん、そうだね……。

答えなんて、初めから決まっていた。

なら、いつまでもふわふわしてる場合じゃないね。

喉に力を入れろ、目を開け、自分の形を思い出せ。

これは、私の声で言わなきゃならないのだから……。

 

「そう、私の答えは………」

 

 

◇◇◇◇◇

◇◇◇◇

◇◇◇

◇◇

 

 

 


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