二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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仕事の都合でなかなか執筆ができなくて申し訳ないです。
なんとか投稿できました。
今年中に間に合ってよかったです。


番外編:未来の提督

子供の成長は早いもの、そう認識する親は多い。

知らないうちに子供は自らが教えた知識に加えて自らが見たもの、聞いたことを吸収して成長していく。まるでスポンジが水を吸収するかの様に。

そして、ふとした事で大人は気付かされる。いつの間にか成長していた子供の姿に。

 

 

◇◇◇◇◇

 

岩川鎮守府に近い場所に中学校がある。

以前、コンゴウ達が講演会を行った中学校であり、おそらく現在の日本で初めて艦娘が正式に一般の場に出た場所でもある。

その校舎の一階にある一年生の教室。そこでは眠気を誘う日差しが差し込む中で午後の授業が開始されていた。

黒板に書かれた文字を満足げに眺めた女性教師が振り返って生徒達へと視線を向ける。

 

「さて、今回の授業のテーマは将来の自分についてよ。自分の夢や目標を書き出してどうすればその目標に到達できるかを考えてみましょう」

 

和かに笑う教師から最前列の生徒に記入用紙が配られ、順番に後ろへと配られていく。

ある生徒は将来の自分のビジョンを浮かべながら単語を書き殴り、ある生徒は将来の自分の姿が浮かばずに必死に白紙の用紙を睨む。

 

そんな教室の窓際の最後列に座る一人の少年がいた。

同学年の男子生徒と比べたら身長はそこまで高くない。少しツリ目がちな瞳は退屈そうに半開きとなっており、今にも寝てしまいそうな雰囲気を醸し出していた。

彼の用紙も白紙であり、文字は一文字も書かれていない。

少年にとって未来とはイメージできない空想の話であり、今から考えても大して役に立たないものだと考えていた。

 

(まだありもしない未来の事なんて考えて何になるってんだ……。そんなこと考えるくらいなら、俺は寝るね)

 

そう心で呟きながらも、少年は表面上は腕組みしながら考えている様子を見せる。本当に居眠りしようものなら罰掃除くらいは覚悟しなくてはならないからだ。よく一緒に悪戯をするクラスメイトの二人は常習犯だが、自分までそうはなりたくないと渋々ペンを取る。

 

そんな時、ふと少年の脳裏に数ヶ月前にあった講演会の光景が脳裏に浮かんだ。

これまで秘密とされていた艦娘という存在が一般に公開された日であり、少年にとって強烈な印象を受けた日でもあった。

 

◇◇◇◇◇

 

その少年は何処にでもいる普通の少年だ。

特別得意な事があるわけでもなく、特別苦手な事があるわけでもない。

思春期の男子らしく友達と気になる女子にちょっかいをかけては笑い合う。素直になれなくてついつい不器用な言葉を言ってしまう。

そんな何処にでもいる普通の少年だ。

 

少年の家は海が見える小高い丘の上にあった。

部屋が海側にあったので物心ついた時から今まで毎日の様に海を見て成長してきた。毎日の日課と言ってもいいこの行為はもはや少年の生活サイクルの一部となっていた。

深海棲艦の存在により本来は海が見える程の場所に家を建てるのは危険なので、土地は安く買えたと少年の両親は言った。避難用の地下室も備わっているが今のところ使用された事は一度もない。

運がいいのか、それとも奴らは陸地には興味がないのかは定かではない。それでも少年の家族は現在平穏無事な毎日を送っていた。

 

そんな少年は近所に住む1人の青年とよく話をした。

その青年は陸軍に所属していて基地と家が近いため休みの日には家に帰ってきては訓練の内容や武器の話をよく聞かせてくれた。少年も幼いながらも男の子、武器や兵器の話には興味があった。

そんな近所の青年と知り合って数年した頃、少年は小学生から中学生へと進学する時期になった。

 

休みの日で家に帰ってきた青年から艦娘の話を聞いたのはそんな時だった。

 

深海棲艦の標的となった灯台の近くにいたせいで巻き込まれそうになったところを艦娘に助けられたらしい。

これまで陸軍の話しか聞いてこなかった少年は授業でしか聞いたことがない艦娘という言葉に興味を持った。しかし、機密事項の艦娘の話を簡単に話すわけにもいかず、青年の話からは親切にしてもらった女性であるとしか聞かさなかったので程なくして興味を失った。

 

中学生になった少年は2人の友人とともに元気に遊びまわった。

外でよく遊び、授業は欠伸を堪えながら程々に受け、気になる女子を揶揄いつつ過ごしていた。

ある日、ホームルームで近々艦娘達が自分達の学校で講演会を開くという話が出た。少年はその時に青年から教えてもらった話を思い出し、再び艦娘という存在に興味を持った。

 

そして講演会の日、少年が目にした艦娘の少女達は彼の興味を惹くには十分な魅力を備えていた。

講演会にやって来た艦娘達は全員が美人であり、特に壇上に立って解説を行なっていた女性は少年の目には特別に映っていた。

流れる長い茶髪をポニーテールにまとめたその女性は生徒達全員を優しい眼差しで見渡すと、工夫を凝らした講演を行い全員からの注目を集めていた。

同年代の少女達とは違う大人の女性らしい体つきの女性を少年は母や友達の母親以外で見たことがなかった。母親達は40代前後の女性が殆どだが、その艦娘は20代前後の若い女性だ。

講演会の後には教室での親睦会があり、興味を持ったあの女性ではないにしろ別の艦娘と話をする機会はあった。

一年生の教室には眼帯をした気の強い艦娘がやって来ていたが、彼女も生徒達全員を相手に打ち解け、会話をしていた。

 

そんな時、少年の友達2人が艦娘へといつもの悪戯を仕掛けた。

講演会にやって来ていた艦娘達は全員がスカートだったので恒例のスカート捲りを仕掛けたのだ。正直に言えば少年はもう悪戯をしようとは思っていなかった。いい加減子供すぎるかとも思っていたのだ。

だが、壇上にいた艦娘の姿を思い出し、最後の一回のつもりで参加した。

 

結果は失敗。

それどころか逆に捕まってしまい、さらに密着する程の距離まで彼女は近づいて来た。遠くで見ていた美人が急に接近して来たこともあって少年の頭はパニックになっていた。

屈んだ事で強調された胸、軽く傾げた首に沿って流れる髪、そして自らを見つめる澄んだ瞳。

はっきり言えばその艦娘は少年の一番の好みの容姿をしていた。そんな女性に見つめられ、少年は思わず逃げ出してしまったが暫く顔が真っ赤なままだった。

 

それ以来、少年は時折艦娘の女性の姿が脳裏によぎるようになった。

いつか、またあの女性に会って、今度こそしっかりと話をしてみたいと思った。きっと自分の中の何かがこの衝動を起こしているんだと確信していた。どこか使命感のようなものもあったのだ。

 

ならば、どうすればいいのだろうか。

答えは出ていた。それが運命のような感じがした。

少年はそれを自覚してから変わった。

悪戯をやめ、勉強も今までよりは頑張り始めた。元来のんびりとした性格だったためかスピードは遅かったが、少年は確実に実力を付けていた。

少年の両親はその事に気がついていたが、息子の成長を感じて感慨深く頷いただけで何も言わなかった。息子の好きなようにしてあげたかった。

 

そして思った。ーーーああ、大きくなったなぁ。

 

少年の両親は何か大きな目標を持ったらしい息子の成長を喜び、そして少し寂しくなったのだった。

 

◇◇◇◇◇

 

「はーい、じゃあ記入用紙回収するよー!後ろから順番に集めてきて!」

 

「……おっと」

 

教師の声で我に返った少年は回収される前に記入用紙に一つだけ単語を書いて提出した。他には何も記入せず、たった一つだけの単語を。

 

〝提督〟

 

これが、将来これまでで最強の提督と呼ばれる男が提督への道を歩き始めた瞬間だった。

 

 

 


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