二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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 何故か空母ばかり狙われてバケツが次々にとんでいく不思議。



第一章・鎮守府の日常編
コンゴウと鎮守府の日常


 

 私がこの鎮守府に正式に着任した日から二ヶ月経った。

 最初こそギクシャクしていた艦隊の子達とも上手く連携がとれるようになり、着々と出撃回数を重ねていた。

 七海も提督としての業務や作戦の立て方、資源のやり繰りが随分と様になってきている。

 

 最初は大変だったものだ。

 七海は新人であるが故に資源の無駄遣いを避けようと、定期的に送られてくる資源は全て倉庫に仕舞いこんでいたのである。

 新米提督にありがちな建造のやり過ぎによる資源の枯渇よりはマシだと言える。しかし、いざ倉庫を覗いてビックリした。それぞれが5千を超える量の資源が眠っていたのである。聞けば父親が資材を送ってくれたおかげでいつの間にかこんなに溜まっていたのだという。

 流石にこれは勿体無いので私が電に秘書艦を交代してもらい、やり繰りの仕方を教えた。だが、どうやら七海には常に余裕を持った備蓄がないと落ち着かないという性格らしく、説得が大変だった。

 ゲームをしたことがある人にはわかるだろうが定期的に補充される資源は提督のレベルに応じて一定数値以上になるとストップする。新米のうちは艦娘と艦隊を増やし、出撃を繰り返してレベルを上げなければいつまで経ってももらえる資源が少ないままなのである。

 この世界はゲームではないが、しっかりとそのルールは存在していた。七海の場合はそのルールを知らなかったようで、資源は使わない限りずっと溜まって行くものだと思っていたようだ。

 遠征に向かわせる艦隊を編成するためにも艦娘を増やす必要があったので建造を何回かやってみたところ、駆逐艦が二隻、軽巡が三隻、重巡が一隻、戦艦を一隻建造できた。空母が建造できなかったのが少し悔しいが、新米提督には充分すぎる内容なので結果オーライだ。

 

 建造で誕生した新しい艦娘は「時雨」「夕立」「天龍」「神通」「那珂」「最上」「扶桑」の七隻で、一気に倍にまで増えた我が鎮守府は随分と賑やかになった。

 

 そんなこんなで今日も清々しい一日が始まった。

 私が起きるのは六時。もっと早く起きている艦娘もいるが、私はこの時間だ。

 起きてからの最初の仕事は七海を起こすことから始まる。七海は普段は人当たりが良くて努力家なしっかり者なのだが……非常に朝が弱い。

 部屋を出て廊下を真っ直ぐに彼女の部屋を目指す。私の部屋と七海の部屋は丁度鎮守府の両端なので長い廊下を歩いて彼女の部屋を目指していく。

 すると、廊下の途中にある部屋が開き、駆逐艦の艦娘が二人廊下に出てくる。こちらに気付くと、笑顔で手を振りながら駆け寄ってきた。

 

「金剛さん、おっはよー!」

 

「おはよう、金剛さん」

 

「おはよう、夕立、時雨」

 

 駆け寄ってきたのは白露型駆逐艦の二番艦時雨と、同じく白露型駆逐艦の四番艦夕立だ。

 元気な性格の夕立と落ち着いた性格の時雨は姉妹艦ということもあり同じ部屋で生活している。大抵は夕立が駆け回り、時雨がそれを止める役割となっている。

 

「金剛さん、提督を起こしに行くのかい?」

 

「うん、まぁね。二人はこれから食堂に?」

 

「夕立が珍しく早起きしてね。ボクまで叩き起こされたんだ」

 

 まだ眠いのか、時雨は小さく欠伸をしながら目をこすっている。反対に夕立はすでに完全に目が覚めているらしく、にこにことしているが……。

 

「金剛さん、今から提督さんの部屋に行くっぽい? なら、夕立も行く!!」

 

 そう言って、夕立は私の手を引っ張り始めた。

 小さい体なのに何故こうも力が出るのか不思議なものだ。自然と早足になってしまい、前に倒れそうになってしまう。

 

「ほら、はやくはやく、今日は夕立が頑張るっぽい!」

 

「ちょ、夕立引っ張り過ぎだよ、もっとゆっくり……」

 

「ふふ……」

 

 暁や雷とはまた違う元気の良さに頬が緩んでしまうのは仕方ないことだろう。私を心配してあたふたしている時雨の頭を軽く撫でてあげると、私は歩くスピードを上げるのだった。

 

◇◇◇

 

 七海を起こした後、彼女を含めた四人で食堂に向かう。

 艦娘になってから知ったことだが艦娘には基本、食事は必要ない。艤装を展開しない間は最低限の燃料を消費する程度なので、コップ一杯の燃料を飲めばそれで生活できるのだ。

 しかし、ならば食べ物が食べられないかというとそうでもない。味覚はちゃんと存在するし、食べたものは艤装に宿る妖精さんの力で燃料や鋼材に変えて保存しておいてくれるのである。これは戦闘中の緊急時に艤装の修理や一時的な補強として使われる。一種のダメコンみたいなものだろう。つまり、食事が全く無駄であるというわけではないのだ。

 

「提督、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、うん……平気、だよ……」

 

 夕立によってベッドから盛大に引きずり出された七海は後頭部を床に強打し、涙目での起床を強いられてしまったのだった。

 まだ頭が痛むのか苦笑いしながら返事をする七海に同情しつつ、私は時雨と夕立に両手を掴まれたままカウンターへと向かう。

 

「おはようございます、間宮さん」

 

「あら、金剛さん。おはようございます」

 

 味噌汁の鍋をかき混ぜていた給糧艦(補給艦)の間宮さんへと挨拶をする。割烹着がよく似合うお母さんというイメージが一番当てはまるこの間宮さんは鎮守府の食料管理の全てを担っている。

 

「間宮さん、おはようございます」

 

「夕立、いつもの卵焼きが食べたいっぽい!」

 

「時雨ちゃんも夕立ちゃんもおはよう。すぐに準備するから待っててね?」

 

 駆逐艦二人が間宮さんと話をしていると、食事を終えたのか神通と那珂がトレイを持ってやってきた。

 相変わらずテンションが高い那珂と、落ち着いている神通の二人は川内型軽巡洋艦。全く反対の性格だが二人は姉妹艦だ。この鎮守府にはいないが夜戦主義な姉である川内を含めて三人ともゲームでは改二まで改造ができる人気の軽巡洋艦達である。

 

「あ、金剛さんだ。おっはようございまーす!」

 

「金剛さん、おはようございます」

 

「那珂ちゃんも神通ちゃんもおはよう。もう朝食は食べたの?」

 

「はい、今日は哨戒警備がありますから」

 

「ちょっと早目に起きて準備してたんだ。那珂ちゃん、頑張っちゃうよ!」

 

 腕を振り上げながら気合を入れる那珂と、それを微笑みながら見守る神通は仲良く食堂から出て行った。

 鎮守府近くの電波塔が破壊されて以来、鎮守府近海にも時々だが深海棲艦の姿が目撃されるようになり、最近は警戒を強化するのも兼ねて交代で哨戒警備を行っている。

 現れるのはまだ駆逐イ級程度だが、いつ強い深海棲艦が現れるかわからない以上、警戒は続けるべきだろう。

 

「金剛さん、準備ができたよ」

 

「あ、ごめんね時雨ちゃん。わざわざ私の分まで用意してもらって……」

 

「このくらい平気さ。それに、金剛さんのも準備するって言い出したのはボクじゃなくて夕立だからね」

 

 夕立にお礼を言ってから四人で朝食を食べることになった。

 ちなみに、四人がけのテーブルに座る時、いつも私の隣を狙う駆逐艦達の争奪戦が始まる。どうやら私は駆逐艦の子達やまるゆにかなりの人気があるみたいだ。

 今日は時雨と夕立の二人だけだが、第六駆逐隊の四人やまるゆまで加わるとそれはもう大変な騒ぎになる。あの電やまるゆまでもが本気で参加するのだから相当だ。

 大抵は提督か間宮さんに止められて終わるのだが、この二人がいないと本当に艤装まで持ち出しかねないのだからヒヤヒヤする。私が止めようとすると余計に悪化するので一切口出しはしないでいるのだが、そろそろどうにかしないといけないかもしれない。

 今日はじゃんけんに勝った夕立が上機嫌で私の隣に座っている。対面に座る時雨があまりにも悔しそうなので、お昼は隣に座らせてあげようと思う。

 

◇◇◇

 

 食事が済んだ後は暫く自由時間だ。

 私は元々練度が高いので積極的な出撃はしない。普段は鎮守府の掃除や秘書艦として書類の手伝いをしている。

 午前中は電がいるので私の仕事はあまりない。こういう時は食後のティータイムといきたいが、今回は少しばかり工廠に用があるのでそちらを優先だ。

 

 工廠には艤装に宿る妖精さんとは別の妖精さんたちが働いている。建造をしたり、開発をしたり、入渠の時にも妖精さんの力が必要となる。艦娘にとって妖精さんはもはや自分の一部と言ってもいいのかもしれない。

 

「あ〜、こんごうさんだ〜」

 

「こんにちは、頼んでた装備の確認に来たよ」

 

「は〜い、できてますよ〜」

 

 ふよふよと浮かんでいたツナギ姿の妖精さんに以前頼んでいた装備の確認をお願いする。

 個人差はあるが、妖精さんは大抵がマイペースでのんびりしている。見ていて凄く癒されるよね。近くにいた別の妖精さんの頭を撫でると、きゃっきゃと喜んでくれる。

 妖精さんを撫でるのに夢中になっていると、先程の妖精さんが装備を持って来てくれた。

 

「これですね〜」

 

 そう言って渡されたのは対空砲だ。

 10cm連装高角砲に少し改良を加えたもので、私が暁に頼んで貸してもらったものだ。

 以前、対空砲の砲弾の改良をお願いしたところ、思ったよりも上手くいったのである。ゲームでは決まった装備しか開発できないが、ここは現実だ。一度作った装備を更に改良することもできる。

 前回は砲弾が炸裂する時の衝撃を強くして命中率を上げることができないかをお願いしたのだが、妖精さんは喜んで改造に手を貸してくれた。

 今回は対空砲自体を改良して標準性の改良と反動の軽量化をお願いしてみた。後はこれを暁に使ってもらって感想を聞いてからまた試行錯誤するのである。

 いつか私も装備の改良をしてみたいものだ。戦艦である私は駆逐艦や軽巡洋艦に比べたら遥かに燃料や弾薬の消費が多い。溜め込んだ資材が多くともまだまだ節約が大切な我が鎮守府にとって改二である私の消費する資材の負担は決して軽くないのである。万が一、出撃して夜戦にまでもつれ込んだ挙句に大破でもしようものなら決して楽観視できない量の資材がなくなってしまうだろう。

 現在の私の装備が低レベルなのはたまたま〝彼女〟だった時にレベルが低い他の艦娘の方に装備を融通していたからなのだが、もしも本気の装備でこの鎮守府に来ていたらと思うと想像するのも恐ろしい。

 新米提督の鎮守府にレベル122で大和砲とホロ以上の装備をガン積みした戦艦がやってくるなど、資材が食い尽くされる未来しか見えない。

 

 結局、私が普通に出撃できるようになるまではまだまだ時間が掛かるみたいなので、私は今のうちに資材の消費を抑える装備の開発をすることで出撃している子達の負担を減らそうと工廠に足を運んでいるのである。

 決して妖精さんと戯れたいからとか、そういう理由ではない。……本当だ。

 

◇◇◇

 

 午前中を工廠で過ごした後、お昼ご飯を食べてから七海のいる執務室へと向かう。

 今日は午後から電は出撃だった筈なので秘書艦としての仕事を交代するのだ。

 執務室の前で立ち止まり、扉をノックする。

 

「失礼します」

 

「はい、どうぞ」

 

 中に入ると机に向かって書類と格闘している七海と隣の机でそれを手伝う電、出来上がった書類を纏めている大淀さんの姿があった。

 大淀さんはこの鎮守府の事務員さんだ。一応艦娘ではあるのだが処理能力の高さを生かすために事務の仕事に就ている。艤装もあるので戦うこともできるのだが、まだ政府の管轄らしく、ここの鎮守府の権限ではまだ出撃させることはできない。工廠にいる明石さんも同じだ。提督の中には彼女達を正式に艦隊に加えることができた人もいるらしい。

 

「電ちゃん、交代に来たよ」

 

「あ、金剛さん、ありがとうなのです!」

 

「あら、もうそんな時間だったっけ?」

 

 書類から顔を上げた七海に大淀さんがお茶の入った湯呑みを差し出した。それを飲んで一息ついた七海はゆっくりと背伸びをすると、無線機を取り出してスイッチを入れる。私も耳に着けている無線機のスイッチを入れた。

 

「七海です。扶桑と最上、暁、響、雷は出撃前のミーティングをするので執務室に集合してください」

 

『こちら扶桑です。最上と一緒にいるので二人で今から向かいますね』

 

『こちら暁、了解したわ。響と雷と一緒に部屋にいるから、すぐに向かうわ』

 

 無線機を通して聞こえる扶桑と暁の声を確認すると、電の座っていた机に座る。私はいつもこの場所から出撃している艦隊にアドバイスを出しているのだ。映像も専用のカメラを積んだ偵察機と妖精さんが送ってくれるので、それを見ながら七海と一緒に指示を出している。

 

「いつも思うんだけど、金剛は指示が上手いわよね」

 

「うーん……そうかな?」

 

「そうよ。貴女の指示で何度も渦潮を避けられてるし、戦闘中も敵の細かい動きに気がつくし、本当に助かってるんだから」

 

 凄く褒められているが、これは海図や敵のデータを艦娘のスペックで回転の早い頭を使って分析した結果なのだ。私というよりは〝彼女〟の体の能力が高いのだろう。艤装の妖精さんが手伝ってくれてるのも大きいかもしれない。敵の砲塔の向きから大まかな弾道を教えてくれるのだ。以前から第一艦隊旗艦だった〝彼女〟を支え続けた妖精さん達なだけあってとても的確でわかりやすい内容の指示をくれる。私はそれを伝えているだけなのだ。

 だから私の力は微々たるものだと言ったのだが、それを含めて貴女の実力だと言われてしまった。

 

「金剛さん、今回もよろしくお願いしますね!」

 

「あ、はい、サポートは任せてください」

 

 私が考え事をしている間にミーティングは終わっていたようだ。電からの声を聞いて我に返った私は出撃組を見送り、サポートの準備をする。

 今日の出撃は南西諸島方面に向かうための偵察とそこに集まっている深海棲艦の撃退が目的だ。

扶桑さんや最上もいるし、駆逐艦の子達の練度も上がってきているから苦戦はしないと思うけど何事にも例外はあるし、警戒は怠らないようにしよう。

 無線機の調子を確かめながら、私は深呼吸して気持ちを落ち着けるのだった。

 

 

 


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