二度目の人生は艦娘でした   作:白黒狼

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 今回は会話が多いので少し読み辛いかもしれません。



第六駆逐隊と扶桑とコンゴウと……

「……あれ?」

 

「……ん」

 

「……あら」

 

「……ぁ」

 

 鎮守府内にある食堂にて、四人の少女達が偶然にも同じテーブルに集まっていた。

 食堂の一番窓際の海がよく見えるテーブル。それがこの四人……第六駆逐隊のお気に入りだった。

 姉妹艦だからといって、四人は鎮守府内で常に一緒に行動しているわけではない。出撃、遠征、入渠、休憩……。他にも幾つかの理由から就寝時間以外で四人が顔を合わせるのは珍しかった。

 

「こうして四人でご飯を食べるのは久しぶりだね」

 

「そうね、遠征とか哨戒警備とかで最近は常に皆バラバラ行動だったものね」

 

「……なのです!」

 

 間宮さんが作った朝食が乗ったお盆をテーブルに置きながら、四人は最近の鎮守府の様子を思い浮かべ、しみじみと頷いた。

 コンゴウが着任した後、建造で新たな艦娘が加わったことで鎮守府は以前よりも忙しくなっていた。まだ艦娘が少ない今の鎮守府は休む時間は最低限で、それぞれが別の仕事をこなしている。

 今日はそんな鎮守府には珍しい休日であった。

 秘書艦の当番であるコンゴウと哨戒警備で鎮守府を離れている天龍と夕立以外は一日自由行動となっている。

 

「疲れも溜まってたし、本当に助かるわ。金剛さんには後でお礼を言っておかなくちゃ」

 

「たしか、金剛さんが皆を休ませるべきだって司令官さんに提案したのです!」

 

「成る程、今日の自由行動は金剛さんの提案だったんだね」

 

「皆の体調まで細かく気にしてくれるんだもの。ほんと、レディの見本よね!」

 

 頷きあいながら四人は食後のデザートであるプリンに手をつける。間宮さん特製のプリンは口の中でとろける様な甘さで忽ち彼女達を笑顔に変えた。

 

「はぁ〜、やっぱりこれが一番よね〜」

 

「幸せな気分になれるのです〜」

 

 暁と電は瞳を輝かせながら次々にプリンを口に運んでいく。そんな二人を雷と響はクスクスと笑いながら眺めていた。

 

「……そういえば」

 

 プリンを食べ終えたタイミングで暁が思い出したかの様にそう呟き、三人の視線が彼女に集まる。

 

「幸せって言葉で思い出したんだけど、金剛さんって、指輪をしてるじゃない?」

 

「ああ、そういえばそうだね」

 

「たまに指輪を見つめながら上の空になってる時もあるのです」

 

「初めて会った時も指輪を見つめてたわね」

 

 暁の呟きに響が頷く。電も覚えがあるのか何度も頷いている。雷は医務室で初対面した時を思い出しているのだろう。

 

「ちょっと気になって司令に聞いたんだけど、あれは提督と深い絆を結んだ艦娘がもらえるものらしいの」

 

「絆……」

 

「えっと……それって?」

 

 よくわかっていないのか電が首を傾げる。響と雷はなんとなく理解したのだろう、ふむふむと頷いている。

 

「提督との絆が一番強い証。所謂、結婚指輪みたいなものよね」

 

「はわわ……け、結婚!?」

 

「電、落ち着いて……」

 

 雷の答えに電が顔を真っ赤にする。落ち着く様に肩を叩く響だが、言葉とは裏腹に瞳には興味の色が浮かんでいた。

 

「まぁ、艦娘は人間とは違うし、正式な結婚はできないから『ケッコンカッコカリ』なんて呼ばれてるみたいね」

 

「カッコカリって……」

 

「まぁ、間違ってはいないんでしょうけど……」

 

「名前はともかく、あの指輪をもらった艦娘は提督との絆によって限界を越えた力が出せる様になるらしいわ」

 

「そうなのですか?」

 

 暁の説明に三人はコンゴウの姿を思い浮かべる。

 まだ経験が浅い七海にアドバイスを出すコンゴウはまるで幼い娘に知識を与える母親の様に見える。それは長い間彼女が提督の仕事を間近で見ていたということであり、提督に一番近い位置にいたことの表れでもあった。

 

「そういえば金剛さんは秘書艦としての仕事も上手いのです」

 

「成る程ね……きっと秘書艦として提督の側にずっといたのね」

 

 うんうんと頷く電と雷。

 実際にコンゴウと一番共に時間を共にしているのは七海であり、電はコンゴウの手際の良さに感心している程であった。

 

「……そして、提督との恋に発展したのね!」

 

「そうだね………って、え?」

 

 突然力強く声を荒げた暁に思わず肯定の答えを返した響だったが、直後に話がおかしな方向に向かい出したと直感で悟った。

 いやいやちょっと待て、と響が口に出そうとするが時既に遅く、雷と電は顔を真っ赤にしながら暁を見ていた。

 

「こ、ここ恋、なのです?」

 

「だってそうでしょ?いくら仮だとは言っても結婚指輪だもの、恋仲じゃない相手には渡さないわよ」

 

「待つんだ暁、いくらなんでもそれは考え過ぎなんじゃ……」

 

「響だって見たでしょ?コンゴウさんが指輪を見つめる時の顔。あれは絶対恋する乙女の顔に間違いはないわ!」

 

「……む」

 

 暁を止めようとした響だったが、彼女の言葉で医務室で雷と共に見たコンゴウの顔を思い出した。

 指輪を見つめる瞳は潤み、頬はうっすらと染まって切なげな溜息が口から零れているコンゴウの姿。

 一緒に想像したのであろう雷は珍しく口をぱくぱくとさせてフリーズしてしまっている。電は逆にキラキラとした瞳をしながら惚けていた。

 

「はわわ……」

 

「やっぱり、金剛さんって憧れるわ。私もあんなレディになりたい!」

 

「扶桑さんも憂いを帯びた感じが大人っぽいし、戦艦って皆あんな感じなのかしら?」

 

「私がどうかしたの?」

 

「うひゃあ!?」

 

 突然背後から声をかけられた雷がびっくりしながら振り返ると、たった今名前を言ったばかりの扶桑がトレイを持って立っていた。

 これから朝食を食べようとしていたのだろう。トレイに乗った朝食からは湯気が上がっている。

 

「ふ、扶桑さん……」

 

「金剛さんと私の名前が聞こえたものだから、気になっちゃって……」

 

「いや、ちょっと金剛さんや扶桑さんみたいな大人の女性になるにはどうしたらいいかと話していて」

 

「あらあら……」

 

 困った顔で笑いながら、扶桑は電の隣に座る。

 長い黒髪と、美しいスタイルは四人の目を自然と惹きつける。特に間近で見た電は扶桑の豊満なタンクへと視線が釘付けになっていた。

 

「金剛さんが指輪をしている話から始まって、戦艦の二人は大人だなって話になったんです」

 

「金剛さんの指輪ですか?」

 

「扶桑さんは気になりました?」

 

「そういえば金剛さんとはよく話すけれど、指輪の話は一度もしなかったわね」

 

「………」

 

「響、どうしたの?」

 

 暁と電が扶桑へと話を振り始めた時、響の様子がおかしいことに雷が気が付いた。

 

「……暁、やっぱりこの話はやめよう」

 

「……響?」

 

 響の言葉に暁や電、扶桑も首を傾げながら彼女へと視線を向ける。

 響は顔を隠す様に帽子を被り直し、バツが悪そうに続けた。

 

「雷、思い出して……金剛さんは何でこの鎮守府にいるんだった?」

 

「それは前の鎮守府が解体されたからで……ぁ」

 

「それって……」

 

 直接報告書を読んでいた雷と響の顔色が悪くなり、扶桑の表情も暗くなる。今の会話で事情を察したのだろう。

 暁と電は急に暗くなった三人に困惑している。

 

「えっと……どうしたの?」

 

「暁、金剛さんの提督はもう……」

 

「もしかして……」

 

「そんな……」

 

 響の言いたいことを理解した二人も表情を暗くする。

 先程までの雰囲気は全くなく、通夜の様な暗い雰囲気になってしまった。

 扶桑も食事の手を止め、どうにか雰囲気を変えようと必死に考えを巡らせる。しかし、四人の悲痛な表情に何も言えず、視線を逸らすことしかできなかった。

 

 そして、逸らした視線の先に見えたものに驚愕した。

 

 話題に上がっていた彼女が此方を見ていた。

 扶桑の視線に気がつき、微笑みながら左手の人差し指を口の前に立てる。静かに、というサインだった。左の薬指の白金の指輪がキラリと光る。

 動揺のあまり取り落としそうな箸を慌てて持ち直す。緊張に息が詰まりそうになった。

 

「(いつの間に!?……あぁ、何で私こんな目にあってるのかしら、不幸だわ)」

 

 近づいてくる彼女が悪魔に見えて仕方ない。絞首台に登る死刑囚というのはきっとこんな気持ちなのだろうと、扶桑は今はまだこの鎮守府にいない妹の山城の顔を思い浮かべていた。

 こんな私を尊敬してくれる可愛い妹を残して再び沈んでしまうのだろうか……。そこまで考えたところで彼女がもう目と鼻の先にいることに気がつき、扶桑の思考は停止した。

 

「……扶桑さん?」

 

 隣の電が顔面蒼白の扶桑に気が付いたところで彼女の手が電の肩に置かれる。驚いた電の肩が跳ねた。思わず振り返ってしまった電の表情が扶桑と同じ様に蒼白になっていく。

 

「は、はわ、はわわ……こ、こここ……」

 

「はい、電ちゃん深呼吸して」

 

「……え!?」

 

「……ぁ」

 

「金剛さん!?」

 

 話題にしていた本人の登場にその場の温度が一気に下がる。特に話題を提供した暁などガタガタと震え始めていた。

 

「こ、金剛さん……いつからいたんですか?」

 

「ケッコンカッコカリの話になった辺りかな。間宮さんに用事があってね」

 

「ほ、ほとんど最初からなのです……」

 

 暁の顔色が更に悪くなる。

 知らなかったとはいえきっと触れて欲しくない話題だろうということは暁にもわかった。きっと怒られるに違いない……そう考えた瞬間、暁は目の前が真っ暗になりそうな錯覚に陥った。

 

「まぁ、私は別に気にしてないから安心していいよ」

 

「………へ?」

 

 その言葉に気絶しそうだった暁が口を半開きにしたまま反応した。

 金剛はこう言っては失礼だがちょっと間抜けな顔だな、と思って笑ってしまった。

 

「ほ、本当に怒ってない……?」

 

「うん、だから安心して。特に暁ちゃんは酷い顔だよ? レディなんだからしゃんとしなくちゃ」

 

「……ぁ…う、うん」

 

 コンゴウが暁の頭を撫で、肩をゆっくりとしたリズムで叩いてあげると徐々に顔色が良くなってくる。他の四人もホッとしたのか椅子に背中を預けて脱力していた。

 

「……ごめんなさい。金剛さんには辛い話だったでしょ?」

 

「辛い、か……たしかに彼女が先に逝ってしまったのは辛いけど……約束があるから」

 

「……約束、ですか?」

 

「そう、約束。……また会おうねって言ったんだ。別れる時にした最後の約束……。彼女の分まで精一杯生きて、胸を張ってまた会うためにね。――――じゃあ、私はもう行くね」

 

 もう一度暁の頭を撫でてからコンゴウは五人に背を向ける。ポニーテールにした長い茶髪が一瞬だけふわりと舞い上がった。

 暁には歩き出す彼女の背中がとても大きく見えて、同時にとても儚く、脆いものに見える。きっと、それがあの人の強さなんだと思った。

 とても強いのに、その内側には大きな寂しさと脆い心を持っていて……でも、あの指輪で繋がった絆が今でも彼女の中で生きている。その絆のために彼女は歩みを止めないのだ。

 食堂を出て行く瞬間、最後に一度だけ振り返って微笑んだコンゴウの顔はとても美しかった。

 

 コンゴウが去り、再び五人だけとなった食堂で最初に我に返ったのは響だった。

 今まで忘れていた様に止めていた息を吐く。自分で思っていたよりもずっと緊張していたのか、強く握りしめていた手を開く。汗ばんでいた手をおしぼりで拭うと、雷や電、扶桑も自分の世界から帰ってきたのかお互いに視線を合わせて乾いた笑みを浮かべている。

 

「あ、あはは……凄く緊張したのです」

 

「私もよ……今も嫌な汗が止まんないし」

 

「私、同じ戦艦なのに金剛さんにはこれからもきっと勝てないと思ってしまったわ……」

 

「そうだね……あれ?」

 

「響、どうかしたの?」

 

 何かに気がついたのか響が首を傾げる。

 もう何があっても驚かない。そう思っていた他の四人は次の一言に固まることになる。

 

「金剛さん、指輪の相手を〝彼女〟って……」

 

「……え?」

 

「……あれ?」

 

「………」

 

 全員の視線が再び食堂の出入口へと向けられる。

 その視線には先程とは違う、何とも言えない微妙なものになっていた。

 

「……ねぇ、金剛さんってもしかして―――」

 

「……お姉様って呼んだ方がいいのかしら?」

 

「……暁、それはいけない!!」

 

「はわ、はわわ……」

 

この日から暫くの間、この五人とコンゴウの間に微妙な空気が流れ、七海や他の艦娘が首を傾げるのだが、それはまた別の話である。

 

 


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