一対二という異色の決勝戦の提案、そんな物なんか自分の誇りに反する勝ち方は認めないと負けを主張する爆豪君が認める訳がない。
だから提案前に誘導しよう。
「ところで爆豪君、今度の自主練に君も参加しないかい? そこでガチバトルをしようじゃないか」
「……あぁん?」
訝しげな表情、そりゃそうだ。急な申し出に何を企んでいるんだって思うだろうさ。
でも、即座に拒否しない辺り、理由は分からなくても断ろうとは思わないって事だ。
「他の試合の為の温存も周囲への被害も一切気にせずに場外負けも存在しない力と力、技と技のぶつかり合いだよ」
監督の先生は大変だろうけれど、其処はプルスウルトラって事でさ。
残業時間もプルスでウルトラしちゃうけれど気にしなーい。
爆豪君は少し考え、凶悪な笑みを浮べる。
思った通り、彼は形式上の評価じゃ満足しない。誰よりも自分で認められない評価は受け付けないってタイプだ。
でも、称賛や喝采が欲しい面倒なタイプ。
「上等だ。それでどんな茶番に付き合わせる気だ? さっさと終わらせてやるからよ!」
「はい、言質貰い。……革命」
「あっ?」
革命、それは本人が口にした言葉なら信念も心情も塗り替えて、時に肉体にすら変化を及ぼす。
あの心操君の洗脳よりは使い勝手が悪いけれど応用は効く便利な力だ。
『ペッ!』
……力を司る悪魔は凄く嫌な奴だけれど、私の一部と分かっていても凄く腹が立つけれど!
「じゃあ、いーちゃんと組んで私に挑んで。連携か早い者勝ちかは先生に判断を委ねるからさ」
「糞がぁああああっ! 舐めやがって、速攻でぶっ潰してやる!」
あくまでも提案を受け入れるってだけで、その時の態度までは指定しちゃいない。
不本意な提案には不本意なまま受け入れて、凄く興奮している。
「じゃあ、本番が始まってから駄々を捏ねたらTSして物間君に惚れさせるから」
「悍ましい事を言ってんじゃねぇぞ、ボケがぁああああっ! てか、んな事まで出来るのかよ……」
あれぇ? 最後、引いてない?
「流石に人選が悪かったか。ブラキン先生、誰にすれば良いと思います?」
「いや、そもそも洗脳で惚れさせるのも性転換も止めろ。今の革命の使用は……まあ、不手際が此方側だから見逃すが、誉められた事ではないからな?」
怒られちった。
「……私としては妥協案として受け入れますが、舐めた扱いをしてくれた、というのが感想です。覚悟をしておく様に」
いーちゃんも怒ってるや。いやー、後が怖いな、マジで。
「おい、ツタ女。俺が前に出て此奴をぶっ殺す。テメェは適当に動いとけ、邪魔はすんな」
「ああ、主よ。この暴虐にして憤怒の獣を許したまえ。…。ええ、慣れない連携で二人共前に出るよりはマシでしょう。私も殺す気で行きますが」
わー、私への評価の賜だね、この対応は。
高火力高機動力の爆豪君と面制圧を物量で行ういーちゃんじゃそれで良いんだろうけれど、容赦無しだなあ。
こりゃ私も怪我を負う程度は有り得るかもね、ここ迄無傷で来たなら最後まで無傷ってのも面白いけれど、ヒーローってのは怪我して当然の役割だよ。
「ちょっと待って。この場合、轟君はどうするの?」
「あっ、そうか。二人揃って負けを主張するのなら轟君も同じか。じゃあ、三人同時に相手しちゃう?」
エンデヴァーとか自分の息子だけ参加しないのはどうしてだって言い出しそうだからね。
ミッドナイト先生の慌てた様子に当の本人に視線を向ければ、ベッドに寝かされたままの彼。
初戦の治療や二回戦で右を使いすぎて体を冷やし、私との戦いの治療もあっての事だとか。
「俺はこんな状態ですし、正直今の俺では連携は難しいので……」
それは残念、騎馬戦だって他のチームが一斉に来ていたんだ、ガチバトルで相手の数が多いのも変わらないよ。
バトルロイヤルだって厄介な相手を組んで潰すのが定石なんだから。
時計を見れば準決勝が終わってそこまで経ってはいないけれど、そもそも予定時間はかなり押している最中、このままじゃ打ち上げで遊びに行くのも無理になりそうだ。
「じゃあ、先に控え室に行ってるよ。楽しい勝負をしよう」
少なくてもヘロヘロ状態でモチベも下がってる相手とのタイマンよりは楽しめそうだしさ。
本人が構わないとは言っているけれど、多分五月蝿いエンデヴァーへの対処は大変そうだけれど、それは先生方のお仕事って事で。
「おい、ブラドキング。お前から見て八木はどんな奴だ?」
「……頭の良い馬鹿だ。そしてリーダー向きではないが、茨の道を平気な顔で進もうとするから結果的に周りを負けじとついて来させる。強くなる事に真面目な問題児とも言えるな」
「ああ、休日の施設使用申請を入学から毎週出しているんだったな。時には上級生に頼んで訓練に参加させてもらってると聞いた」
「向上心が高い、それこそヒーローを目指すなら死に物狂いで頑張るのは当たり前だと疑問すら浮かばない。……少し心配になる位だ」
そして準備は進んで決勝戦、コンビで戦う事を受け入れたけれど不満自体は消えちゃいない爆豪君は今にも飛び掛かって来そうな様子、いーちゃんも普段から爆走脳筋列車の鉄哲君と組む事だってあるんだから慣れっこだよね。
『それじゃあ決勝戦特別ルールを説明するぜ! 基本ルールはこれまでと同じだが、制限時間は十五分。それを過ぎれば八木の優勝だぜ。んじゃ、散々待たせたからさっさと始めるとするか!』
ふんふん、妥当なルールだね。二人の体力を考えたら長期戦はちょっと厳しい、そしてヒーローを目指すなら時間を稼いでルール勝ちを目論むなんて論外だ。
不利な状態で救援を待つのとは違うんだよ。
……なのに観客の中には逃げ回る事を前提に話している職業ヒーローがいるのはちょっとな。
聴覚が優れているってのも考えものだと悩みつつ手足をブラブラと動かして開始を待つ。そして……。
『それでは決勝戦! 此処までで超圧倒的な実力で勝ち抜いて来た姿はまさに魔王! 八木裁兎……』
「あっ、ちょっとストップ、マイク先生ストップ! 魔王はちょっと……」
『え? 魔王はちょっと嫌だった?』
幾ら私の個性が悪魔で角と翼があるからって魔王はね。ヒーローと悪の親玉って正反対みたいな存在だし、そもそも……。
「魔王とか安直だし、この歳で中二病っぽいのはちょっとヤダ。それに突き抜けるなら大魔王の方が良いな。魔王すら私の下僕の一体に過ぎない、的な?」
『あっ、うん……』
なんだよー! その微妙な反応とか酷いなー!
『時間が惜しい。さっさと始めろ』
『それじゃあ決勝戦、試合開始!』
「ああ、そうだ。私って此処まで無傷だし、傷を負わせたら使っていない切り札を見せてあげる」
「おらぁあああっ!」
挑発には特に返答も無しか。いーちゃんは地面に向かって髪の蔦を伸ばし、爆豪君は爆破での加速と跳躍、その勢いを乗せた左手の叩き付け。
「……さて」
父さんが私やミリオさんに戦闘を指導したのは経験の蓄積による先読み。だから此処は回避は選ばない。
その代わり、前に進み出た。
『おおーっと! 八木、左手の爆破を掻い潜り、本命の右手での爆破の瞬間に体制を崩して地面に叩き付けた!』
私に向けられた右の爆破は地面に叩き付ける瞬間に地面とは真逆の方向に。
自分の爆破の勢いが加わった叩き付けに彼は息を吐き出し、追撃のストッピングをしようと振り上げた足に地面を突き破って出て来た蔓が絡み付いた。
「これで……!」
拘束、からの爆豪君の待避か反撃、彼の性格からすれば間違いなく反撃。
「ほいっと」
「きゃっ!?」
でも、それは私の動きを封じる事が出来ていればの話なんだよね。足に絡み付いた蔦を切断するよりも速く、伸ばす勢いでも殺せない強さで引っ張ればいーちゃんの体勢が崩れて前につんのめる。
この程度なら持ち直すのに二秒って所だろうね、その二秒は致命的なのさ。
爆破の勢いで飛び退こうとしていた爆豪君の体に足を引っ掻けて飛ばす。
「プレゼントフォーユー、なんちって」
向かう先はいーちゃん、爆豪君も咄嗟に爆破で勢いを殺しはしたけれど、爆破の煙と音で二人の視界は塞がれて一瞬だけ私を見失う。
「何処に行きや、がっ!?」
『八木が二人の頭上に移動、そのまま顔面を掴んで地面に押し倒したぁー! おいおい、二人とも動きが悪いぜ!』
『此処までの戦いでの個性の使用に治療で体力を削っているが、対する八木は速攻で決めているからな。大技も飯田相手の一度だけ。それ以上に動きを完全に読んでやがる』
いーちゃんの髪が手に絡む前に待避、指先に僅かに掠るけれど傷を負うまではいかない。あんな大口叩いて開始早々に傷を負ったら情けないからね。
「テメェ、どうして能力を使ってこねえ。舐めてんのか、コラ!」
「その気は無いよ。ただ、君みたいに能力不使用状態でも全力で来てくれる相手は限られていてね。欲しいんだよ、そんな経験が」
彼が苛立つ理由も分かる、ふざけるなって思うだろうさ。
でも、私の能力が事前に溜め込んだ力を消費する以上は常に戦いで使える状態な訳がなく、だからって使えない状態を想定しての戦闘訓練で遠慮無しに来てくれるのは僅か。
皆、優しいからブレーキが掛かるんだよ。
「絶対使わしてやる」
「良いね。是非そうしてくれ」
両手を前に突き出して全力ぶっぱの構えに思わず口がつり上がる。確信したんだ、この戦いは私を成長させてくれるって。
「敵を前にして素直にチャージはさせないよ!」
大技を放つ迄の僅かなタイムラグ、それはこの距離なら接近可能だって状況じゃ悪手、それでも自棄になったりしてはいない。何かを狙っている。
敢えて乗る……筈が無しだよ!
地面スレスレを飛んで急接近、その直後に無数のローズクラーケンが地面を突き破って私を取り囲む。茨とコンクリートの牢獄。
「切り札とやら使わせてやんよ!」
何度も見た全力爆破、だけれど構えが違う。右手の前に左手を筒状にしての一点集中式の構え。
この土壇場で新技、それもぶっつけ本番か、面白いね。
四方を茨の牢獄に囲まれて、いーちゃんも限界なのか膝をついて息を荒くした状態、これはタイムアップまで持たないだろうね。
それは目の前の彼も同じ、気力だけで立っている状態。
さて、どうする? 暴虐の怪力で吹っ飛ばす? いやいや、ヒーローが広範囲に被害を出すのは駄目でしょう。
「謝罪するよ。ちょっと思い上がっていた!」
回避は不能、此処まで来たら体術のみでの勝利は捨てようか。
放たれる圧縮された爆撃、流石に先生も止める様子を見せるけれど間に合わない。
「A・P・ショット!!」
だからエネルギーを纏う手刀を正面から振り下ろした。数秒の拮抗、凝縮された爆撃は手刀とぶつかり合って動きを止める。
数秒の経過後、私の前で二股に分かれた爆破が破戒の跡を舞台に刻み付けていた。
「これも通じねえのかよ、糞がぁああ……」
掌から血を垂れさせながら歯噛みをして私を睨み付けるけれど、そんな彼に私は手刀を見せつけた。いや、正確に言うならば手刀から垂れる血をだ。
「うん、もう少し慣れていたらこんな程度じゃ済まなかった。じゃあ、約束通り……変身!」
ドラゴンの時は蛇の入れ墨が膨れ上がる感じだが、こっちは少し不気味。耳障りな羽音と同時に私の体の表面から真っ黒な羽虫が湧き出して全身を包み込み、その速度は加速度的に上がって行く。
その姿はドラゴンと同じ大きさの……。
『きょ、巨大な蝿に変身したぁあああああああああっ!?』
『ああ、蝿って悪魔の象徴の一つだったか?』
そう、今の私は巨大な蝿になっている。取り囲んだ檻は吹き飛ばし、羽が起こす風は推薦入試の夜嵐君よりも上。
「この姿って視界が複眼のせいで気持ちが悪いんだよね。毒ガスの威力も洒落にならないし。……アメリカでテロ組織の基地に単騎で乗り込む用かな?」
「此処は日本だろ。使えねえな……」
「ウドの大木の方が無害なだけマシでは?」
わー、いーちゃんまで凄く辛辣。確かに使い勝手悪いけれど、ドラゴンと違って見た目も悪いし羽音が不愉快だし。
あれ? 使えない方が便利でさえあるかも?
「……終わらせてカレーを食べよう」
二人に向かって少し強めに羽を動かして風を起こす。それだけで爆破の噴射も地中深くに突き刺した蔦すら無意味に二人を場外まで吹き飛ばした。
ついでにミッドナイト先生まで吹き飛ばしちゃったけれど、モーマンタイ、モーマンタイ。
蝿から元の姿に戻って周囲を見るけれど視界が戻って気持ち悪い……。
『爆豪・塩崎ペア場外! 勝者八木さん!』
数秒の静寂の後で会場に響き渡る大歓声、それに応える様に取ったポーズは伯父さんリスペクト。
「ポーズのキレが甘いな」
「ポーズのキレがちょっと……」
うーわ、父さん&緑谷君からのダメ出しだ。オタクって厄介……。
書きたいところは書ききった!
職場体験何処が良いかな?
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リューキュー
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ホークス
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サーナイトアイ
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ミルコ