『えー、協議の結果をお知らせします。本来は上位四チームが最終種目に参加する予定でしたが予想外の事態となりまして……』
騎馬戦終了後、競技の結果を待つ皆の顔は各自ちょっと違っていたよ。
第二試合を願う人や今にも爆発しそうなのとか落ち込んでるのとかの負の感情をぶち撒けてるの、そしてどっちに転んでも受け入れる覚悟の。
「これさあ、どっちに転んでもブーイングは待った無しだよね」
「私達は実力で勝ち残りましたが、四人では最終種目が盛り上がらない。それで第二試合をすれば私達に不平等ですから」
一大行事だけにこういう面倒な事態だって起きる。観客席の声を聞けば意見が分かれているし、私の耳で聞いた通りに第二試合が行われても批判は出るし、勝ち残ってもモチベーションに関わるだろうさ。
「それは駄目だね。全力でぶつかり合うから価値があるんだ。……ちょっとマイク借りて来る」
「おっ、何かするんだな?」
当然だよ。プルスウルトラ、常に上を目指すならば試練だって最高難易度を求めるべきだしさ。
私は個性の関係で周囲の声を遠くまで聞き取れるんだけれど、このままブーイングに中で第二試合が開かれては勘弁だと結果を公表しているミッドナイト先生の方に近付けば意図を察してくれたのかマイクを貸してくれた。
さて、煽るか。
「さてと、私達のチームを思って抗議の声を上げてくれた皆さん、ありがとうございます。でも、大丈夫。最終種目のライバルが幾ら増えても問題無し。元から他の科も含めて倒すべき対等な相手だったんだ」
これでブーイングをしていた人は少し減った。ついでに第一競技でやった事を正当化しておく。だってやり過ぎだし、自重はしないけれど。
そのままマイクを持って三人の所まで歩いた私は最高に勝ち誇った顔を皆に向ける。
笑顔のモデルは当然伯父さん、こういう時に色々便利。
次の私の言葉を聞こうと会場が静まり返る中、最後の言葉を口にする。
「本来は表彰台を独占する筈だった私達四人に挑みたければ敗者復活戦を勝ち上がってみなよ。王者として楽しみにしているからさ」
これで発破は掛け終えたし会場も大盛り上がり。
だからさ、いーちゃん!その、巻き込みやがって、って目を向けるのは勘弁して?
「挑発は結構ですが、巻き込むのなら事前に言うべきでは?」
「てへぺろ」
あっ、対応ミスったかも。
ちょっとお説教を受けながら生徒用の観覧席へ移動、そろそろ開始の時間だけれど選手の顔を見れば疲労が浮かんでしまっているね。
十五分という短時間を駆け抜ける戦いをしたんだ、視界も悪かったし精神的な疲労もあるだろうさ。
「ポップコーンとソーダが欲しくなるよね」
「これが終わったらお昼ですし我慢なさい」
私達は休憩を兼ねての高みの見物、観察に集中して想定するのは午後の最終競技だ。
例年通りなら個人戦、去年はスポーツチャンバラだったよね。
フィールドに聴覚を集中させた所で響く開始の合図、真っ先に動いたのは爆豪君の騎馬だけれど、テープみたいなのを腕から出す子の片足だけが沈んだ。
「うおっ!? 何でだ!?」
この疑問の言葉は現象その物に対してじゃない、第一試合の際に既に似た現象は見ているからね。
「でも、未だ狙いに荒さが見えるね。他は半分程しか沈めていない」
私と同じく推薦入学を受けた生徒である骨抜君は本来なら触れている場所を起点に物質を柔らかくする個性。範囲も速度も凄いけれど、起点を見られれば柔らかくした場所を見抜かれる。実際、一度大勢の足場を柔らかくして警戒されていた筈だ。
「何やってんだ、ボケェ!」
だから彼が伸ばしたのは範囲の指定。触れた場所を起点にするのは変わらずに、まるでパイプを伸ばすみたいに地中を細長く枝分かれさせながらピンポイントで沈める。
体育祭ギリギリに会得したから精度は甘いけれど不意打ちには十分、それを第一試合では使わなかったのは……。
「物間さんったら途中から流れを読んで温存していましたわね。相変わらずずる賢い」
「そう言ってやるなって。おっ、攻めに出るぞ」
さっきは後ろから鉢巻きを掠め取ったのに今度は正面から爆豪君に向かって行くけれど、骨抜君と取陰さんに続く三人目の騎馬、先頭の回原君の足元も柔らかくしてスクリューの役目を果たす足で加速している。
「情けないなあ、君! 一位になるんじゃなかったのかい! あれー? 皆揃ってさっき負けたよねぇ!」
一度見た個性だからと爆発の勢いで引っ張って脱出するのは流石の気転、それでも生じる大きな隙を見逃さないと迫る物間君は手を背中に回して隠している状態だ。
「同じ手に引っ掛かるかよ、モブが!」
両手を左右に広げて正面以外にも警戒を払う。完全に飛んで来る手を警戒した動きだ。
取陰さんの個性をコピーして第一試合では撹乱されているからね。舐めるなって事なのか随分と怒った様子だけれど、舐めているのは君の方さ。
「同じ手って誰か言ったのかい? だとしたら間抜けにも騙されたみたいだねぇ!」
背中に隠していた手を前に出して堂々と見せたのは何の変哲も無い手。
警戒してただけに一瞬だけ奪われる思考、彼は物間君の性格の悪さを見誤っているんだよ。
馬鹿にしながら掻き上げた髪が球体になり、それを投げれば反応が遅れた爆豪君の騎馬に命中した。足元は氷で防がれて、一部は爆発で落とされたけれど全部は無理だ。
彼と騎馬の仲間はくっ付いて、引き剥がそうにも剥がれない。
「良い個性ってあれか」
トリッキーだけれど競技次第では強さを発揮するから間違った選択ではない。
「それじゃあ騎馬から飛び出しての戦闘は無理だし動きにも制限が掛かるよねえ!」
「こんなん平気だ、ゴミがぁ!」
「怖い怖い。じゃあ、一旦退却するけれど精々頑張って!」
元々上位の二人が組んだ超攻撃的チーム、所持点数が高いとはいえ第一競技では狙われにくかった。
でも、今は私の絶対次に進める鉢巻きが無い以上は狙われやすい。
オマケとばかりに足元を柔らかくされて機動力を奪われた所を他の騎馬が取り囲む!
「逃すか」
それでも流石は推薦入試三位、自分達の足場を氷で盛り上がらせて脱出した上で物間チームを凍らせに掛かるけれど、それは柔らかくされれば拘束の意味をなさない。
「逃がさないんじゃなかったのかい? それに僕達にばかりかまけない事だ」
挑発に苦虫を噛み潰したみたいな顔になった轟君だけれど四方から迫る遠距離攻撃を氷の壁で見事に防ぎ切る。
「追うぞ!」
「指図すんなや、舐めプ野郎!」
すっかり頭に血が昇っているし、物間君はそういうのを掻き乱すのは得意、完全にペースを握られてしまっている。
他の妨害次第だけれどこのまま逃げ切りながら鉢巻きを集めれば……。
回原君の足元は浅く、それ以外は迫る氷も含めて柔らかくした上で粘着性の玉を投げ込んで隠す。
「あれって再生途中で個性の効果時間が切れたらハゲるのかな?」
体を切り離せる系の個性もそうだけれど、コピーの弱点と言えるだろうね。
逃げる物間君に追い掛ける爆豪君、周囲の騎馬はそれに巻き込まれて凍らされたり柔らかい地面に隠した玉を踏んで動けないでいる。
例外は端の方で機会を伺っている洗脳系個性(多分)の彼。
そして八分が経過、物間君の髪の毛は元に戻って勝負は此処からだ。牽制の手段が一つ減ったけれどどうするのやら。
「物真似も終わりみてぇだな、猿真似野郎!」
「そうだね。君のクラスの小さな子の個性はもう終わり。じゃあ、そろそろ僕も攻めに入らせてもらおうかな」
「上等だ。正面から叩き潰してやんよ!」
相当苛立っているのか両手を爆発させて迫ろうとした時、今度は物間君達が浮かび上がった。
あれは二位の子のチームメンバーの個性、間をすり抜ける時に触ってたな。
「うぷっ! 取か……」
「喋んな、馬鹿!」
触った相手を軽くする個性だけれど自分を軽くするには反動があるみたいだね。口を両手で押さえた彼を怒鳴りながら取陰さんが浮かぶ手で騎馬を押して空中を移動、逃げる際に地面を柔らかくする置き土産付きで。
「は、ははは、このまま逃げ切らせて……うっ!」
「吐くなよ! 絶対に吐くなよ!?」
そりゃ騎馬戦で吐かれたら悲惨だよ、先頭の回原君が特に。
「おや、逃走劇のどさくさに紛れて鉢巻きを幾つか手に入れてますね」
「流石だぜ、物間! B組で双璧をなす抜け目の無さだけあるな!」
「ねぇ、吹出君。双璧って事は私も同類扱いされてる?」
「ノーコメント」
そっか、ノーコメントかあ。
そんな風に言葉を交わす間も競技は進む。他の騎馬を盾にしつつ逃れ続ける物間君と追い掛ける爆豪君、他のチームも巻き添えになった騎馬から奪ったり自分達が巻き込まれて奪われたりと順位は変わって行くけれど……。
「あっ、物間君ったらA組ばかり意識してたから気が付いてなかったんだ」
『終~了~!』
試合終了間際、物間君は不意に動きが止まった所を狙われて普通科の彼に鉢巻きを奪われた。
残念無念、ご飯の時間だ。
「所で競技中に聞いてた情報なんだけれど……要らないか」
次は個人戦、全員ライバルだ。だから私からの提供は受け取らないと表情で返答された。
「滾るね、こりゃ。……うん?」
伯父さんが何か言ってるや。終わったら話? 一体何だろう?
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