なぜ砂木沼治は聖堂山のコーチになったのかを考えてみた話

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ドリルスマッシャーは溶かせない

傾き出した陽の差すサッカーコートにサッカーの練習を終えたばかりの子供たちの声が響き渡る。

「せんせー!ありがとうございました!」

練習終わりの子供たちに元気な声を掛けられた砂木沼治も、溌剌とした声で返した。

「少年たちよ!忘れ物がないか確認し、車に気をつけて帰るのだぞ!!」

「は〜い!」

 

順々に帰っていく子供たちの姿が見えなくなるまで手を振った彼は、キーパーグローブをポケットに入れると練習用に置いたミニコーンを片付け始めた。積み上げたコーンを鞄に入れ、アルミのベンチに座り一息つくと、軋んだ音を立てて閉めたはずの扉が開く音が聞こえた。誰かが忘れ物を取りに来たのだろうか。そう思い振り向くと、そこには赤スーツに金髪の非常に目立つ男がいた。

「久しぶりだな、砂木沼」

唐突に現れ、そう声を掛けた彼に驚きながらも、椅子から立ち上がり顔を向ける。

「かつてデザームなどと名乗り、エイリア学園の手先になっていた私が言うべきことではないが、随分と変わったな、イシドシュウジよ」

やや皮肉めいたその口調に対し、イシドは微笑みを向ける。

「こんな場所に来て何用だ。サッカー教室に参加したいならもう終わったぞ?」

「つれないな、砂木沼。今日はひとつ頼みがあって来た。」

「頼みとはなんだ?」

「お前に、俺が監督を務める聖堂山中のコーチをしてもらいたい。」

思いもよらない話に、砂木沼の顔が曇る。

「...それは、私にフィフスセクターの手先になれということか?」

「やはりそう言うか。フィフスセクターは嫌いか?」

「当たり前だ。管理されたサッカーなど言語道断!!サッカーは誰のものでもない、自由であるべきなのだ!」

そう熱く語る彼を前にイシドは口角を緩める。

「だが貴様がどうしても頼みを聞かせたいのであれば、サッカーのことはサッカーの勝負で決めよう!」

「勝負?」

砂木沼の提案に、思わず聞き返す。

「そうだ。貴様が蹴ったボールを止められたら私の勝ち、ゴールに入れられたら負けでどうだ?」

「なるほど、わかりやすい話だ。」

「それでどうだ?やるのか?」

「そうだな。それで聞いてくれるのであればそれが一番だ。」

 

それを聞くと砂木沼は倉庫の方に行き、ボールを取り出す。イシドはネックレスを外し、スーツを脱いでベンチの少し凹んだ部分に置き、グラウンドへ向かった。

 

「さあ、準備は出来たぞ!いつでも掛かってこい!!」

ゴールの前に陣取り、両手を叩いて気合を入れる。ゴールから10数メートルほどの所に置かれたボールの所にイシドが来るのを見届け、両手をパンと胸の前で叩いた。

二人の間に緊張が走り、やがてそれが頂点に達した瞬間イシドが動く。両手をクロスさせ、ボールを高く上げると共に炎の魔神を顕現させ、回転を加速させる。

「やはりそれで来たか!!豪炎寺!!!」

顔を刺すような熱を感じた砂木沼は思わずイシドの本当の名を叫びながらも技を作る動きを止めない。手を高く掲げ、己の手にドリルを作り上げた。

「爆熱ストォォォーム!!!」

「ドリルスマッシャーァァァ!!!」

 

刹那、10年の時を経て磨きあげられた技同士がぶつかり合う。ギリギリと唸り暴れるドリルの先にそれを溶かさんとばかりに燃え上がるボールが突き刺さり、技の衝突が生み出す光が辺りを照らした。砂木沼とボールの行く末を認めるイシド。すぐにその均衡は破れ、ドリルが消えたと同時にゴールポストの上側にボールがぶつかった。跳ね返り、前に飛ぶボールを掴もうとするが、僅かに届かない。ボールはイシドへ吸い寄せられるように転がり、それをトラップしたイシドとゴール前に戻った砂木沼が再び向き合った。

 

再び緊張が走るが、直ぐにそれは緩む。イシドがボールをゴールへ緩やかに蹴りだし、それを砂木沼がキャッチしたのだ。

「流石だ砂木沼、俺の負けだな」

「いや、実戦ならば体勢の整ってないうちにゴールを決められていたやもしれぬ。私の勝ちとは言いきれぬだろう。」

「ならばどうする」

「その前に一つだけ聞いていいか?」

「いいぞ」

「ならば聞こう。お前にとってサッカーとは何だ?」

少し目を付し、覚悟を決めたように顔を上げる

「俺の全てを懸けてでも護るべきものだ」

その答えに満足し、砂木沼もその思いに応える。

「わかった。お前の提案に従い、聖堂山のコーチとして、私の持てる全てを伝えよう!」

「本当にいいのか?」

「ああ、貴様の蹴った玉からは、昔と変わらぬサッカーへの思いがよく伝わってきた。貴様の元でコーチができるのなら、きっと良いサッカーができるだろう。」

「お前ならそう言ってくれると思ったぞ、砂木沼」

そう呟くとイシドは椅子の方に踵を返し、砂木沼はボールを倉庫に戻す。ジャケットを着直し、ネックレスを付けたイシドが椅子に座ると、片付けを終えた砂木沼が横へ腰掛けた。

「そういえばなぜ私なんだ?貴様の仲間にもコーチができる者が何人かいるはずだろう」

「俺の聖堂山のコーチは強い奴が必要だ。お前の強さは充分それに足りるものだ。そして俺の作るチームに必要なのは不屈の精神。かつて日本代表に選ばれずともネオジャパンとして俺たちの前に立ちはだかったお前なら、それを伝えられることが出来るだろう。」

「なるほど、それならば私が適任というわけだ。この砂木沼、必ずやチームを鍛え上げて見せよう!!」

「頼んだぞ。じゃあ詳しいことは後に話す。今日はここまでとしよう」

「あぁ。私は鍵を返してから帰ることにする。次は聖堂山で会おう。」

 

そして近況などを一通り語った後、2人は扉を開き、イシドは近くに停められていたリムジンへ、砂木沼は管理事務所へ向かう。

眩しいくらいの赤さで輝く夕日が、2人の背中を照らしていた。

 

 


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