とある科学の無尽火炎《フレイム・ジン》 作:冬霞@ハーメルン
学園都市は、外の世界と比べて遙かに勝るオーバーテクノロジーを持つ。
数十年単位で進んだ科学は学園都市に住まう全ての住人達に恩恵を授け、しかしそれでも彼らの生活字体はそこまで変わっては居ない。
もちろんそれも、よくよく考えてみれば当然のことだろう。
人間、数十年の間に大きく暮らしぶりが変わることはあったとしても、その根本的な在り方が劇的に変わるなんてことはない。あるいは、日本の科学というのも頭打ちになっていたのだという可能性もある。
例えば2010年代を思い返してみても、数十年前との違いはネット環境や急速に発展した携帯電話の普及によって大きく変化を認識することが出来るが、その実システムとしてはすでにある程度完成されてしまったものであり、あまりにも便利に過ぎたそれは学園都市でも殆ど変わらずに運用されていた。
そして学生達の生活も、また同じ。
基本的に彼らの生活は、朝起きて学校に行き、帰って予習と復習をするというサイクルに固定されてしかるべきだ。
当然ながらそんな生活を想定されている以上、彼らの娯楽というものも今までの学生達と大して変わりはしない。ゲームやネット環境が整備されているからインドア派の学生も多いが、外にあるゲームセンターやカラオケなどにも出入りする。
とはいっても完全下校時間までの営業だから、ささやかなものだ。それに勉強も能力開発もあるのだから、そうそう遊んでばかりもいられない。
学園都市の学生達は、意外に勤勉で努力家なのだ。
「‥‥‥」
ちょうど放課後の時間帯、夕暮れにすらまだ早い。
学校によってはまだ授業があるところもあるだろうが、一部の学校はカリキュラムの関係で午前授業だったりするから、繁華街にもぼちぼち学生の姿が見えた。
「‥‥‥‥」
学園都市でも最大級の敷地面積を誇る第七学区は、各種学校とそこに通う生徒達が住む寮。そして娯楽施設や商店街などを完備している。
その中でもカラオケほど滞在時間が長くならず、かつ使う気が起きなければ全く金を使わなくても良い娯楽施設としてゲームセンターは特に人気であった。
まがりなりにも科学の進んだ都市、外の世界に比べてゲームの種類は非常に多い。特に一般的に知られているゲーム会社のゲームもそうであるが、一部に据えられている学園都市の学生たちが作ったゲームもかなりの人気を誇る。
なにせホログラム映像なども高水準のものが普通に出回っている―――流石に完全な商品化までは達していないが―――学園都市だ。それこそ外の世界ではとても体験できないようなゲームも数多く揃えられていた。
「‥‥‥‥‥‥」
しかし、いくら最先端の科学技術を駆使しているからといっても、ゲームの良さは決して技術力のみに左右されない。そのゲームが“面白いか”というのは、当然のことだが他にも様々な要素に左右される。
特に学園都市ほど最先端の技術を用いていないというのに、大手のゲームメーカーはそういったノウハウを大量に所持している。もちろん学園都市内部のゲームも面白いかと言われれば面白いが、やっぱり一歩劣ってしまう。
そして何より、ゲーム愛好家の中にはレトロゲームマニアと呼ばれる連中もいて、それこそ下手すれば自分が生まれる前に現役であったようなゲームを好んでプレイするのは、決して稀なタイプではない。
勿論その傾向を学園都市のゲームセンターとて把握しており、当たり前のようにハイテクな街のハイテクなゲーセンには、十数年前に流行した、いわゆる格闘ゲームの原型を未だに踏襲する古いタイプのゲーム機も備え付けられていた。
「‥‥おーい」
「‥‥‥‥」
「おーい、聞いてますかー?」
「‥‥‥‥‥‥」
「聞いてんのかって言ってるんですけどー? 聞かないふりか? それとも集中してんのか?」
そんな懐かしい系のゲーム、略して懐ゲーのコーナーに、1人の少年が座っていた。
染めた訳でも、年を経たわけでもない見事な白髪。そして今さっき人を殺して来ましたよとでも言いたげな凶悪な赤い瞳。全体的に不機嫌そうな気配を辺りに振りまき、年頃はおそらく中学生ぐらい。
あまりにも不穏な気配から、それなりに人が多いゲーセンの中でも彼の両隣の筐体には人影が見られなかった。誰もが彼に怖じ気づき、避けているのだ。
そんな彼の背後に、彼を恐れぬ一人の勇者が現れた。
特徴的なツンツン頭はウニかハリネズミか、白い無地のワイシャツと黒いスラックスは、女子の制服にばかり気を遣う学園都市の高校にはありがちな夏服で、どこでも見ることが出来るスタンダートなものだ。
顔つきも平凡で、どちらかといえば冴えない印象を受ける。別に道で肩が触れあったとしても軽く会釈をして何も気にせず通り過ぎてしまうような、そんな只の男子高校生である。
強いて特別な点を挙げるとすれば、袖に緑色の、盾の意匠が施された腕章を付けていることだろうか。
学園都市の治安維持組織の一つである
「‥‥おいアンタ。ゲームが楽しいのは分かるけどさ、いい加減に返事ぐらいしろよな」
「―――ッ?!」
遂に痺れを切らしたのか、ツンツン頭の
それは別にイラついているとか、相手をどうにかしてやろうとか、そういった悪意を持った叩き方ではなかった。
例えるならば、電車が終点に着いたというのに眠りこけている乗客を駅員が起こすよりも、さらに気を遣った叩き方。流石に叩かれて痛いなんてことはないが、背後の人物に気づくには十分な圧力。
不良ならば、そのぐらいの叩き方でも喧嘩を売ったかもしれない。ヤのつく自由業の方々でもちょっと嘗められていると思うけどかもしれない。
しかし白髪の少年が振り返った顔に浮かべた感情は、怒りでも苛立ちでもなく、驚愕。
この世でありえるはずがない、それこそ何の兆候もなく周りのありとあらゆるものが爆発したり、地球が真っ二つになったりするようなレベルの出来事。
触れられた肩を確かめ、自らの手をしげしげと眺め、次いで目の前でポカンと目をぱちくりさせているツンツン頭の
正しく仰天動地。彼以外の者がこれほどの驚きに遭遇したならば、おそらくもんどり打って座っている椅子から転げ落ちてしまうだろう程の。
「‥‥テメェ、何しやがった?」
「は?」
「だから、テメェ何しやがったって聞いてンだよ、三下ァ」
いつもの若干甲高い声からとは異なる、押し殺した低い声。そこには抑制された驚愕と、警戒が含まれている。
体は十分過ぎるぐらいに警戒を表し、すぐさま飛び退さる、あるいは迎撃が出来るように臨戦態勢。頭脳は相手の一挙一投足を見逃すことのないように、次の策を練ることが出来るように、未だ且つて無かったぐらいに明晰に。
まるで戦時下にいるかのような
「何したって‥‥別に、何もしてないぞ? そりゃ肩は叩いたけど、もしかしてアレ痛かったのか?」
「そォいうワケじゃねェ。なンで俺に
「‥‥あのなぁ、お前ずっとこの筐体で遊んでるだろ? 連コインはマナー違反だぞ。他に遊びたそうにしてる子どもとかいるだろ? もういい年なんだから、ある程度遊んだら周りに譲るのが気遣いってもんだと上条さんは思うんですがね」
「‥‥あン?」
白髪の少年の詰問に、ツンツン頭の
確かに
しかも白髪の少年は、紛うことなき臨戦態勢なのである。ここまで露骨な警戒を示されたことは、当麻としても覚えがない。
「ふざけてンのか、テメェ? 俺ァなンでテメェが俺に触れたのかって聞いてンだぞ?」
「だから、お前が連コインで周りに迷惑をかけてっからだろーが!」
「そうじゃねェっつってンだろォが三下ァ! 俺に、
どうやって、触ったのかって、聞いてンだっつってンだろォがァ―――ッ?!」
「うおぉっ?!」
白髪の少年は能力を解放、その右手を力任せに当麻へと振るう。
彼の能力によって、貧弱に見える女子よりも細い右腕は破城槌もかくやという威力を発揮する。人間など木っ端微塵だ。
「‥‥おィおィどォいうことなンだよこりゃァよォ」
‥‥だがしかし、振り下ろした手はいとも容易く当麻の手によって受け止められる。
信じられるだろうか、ベクトルを操作する学園都市第一位の大きく振りかぶった一撃を、軽く差し出した右掌だけで受け止めた上条当麻という
それこそ天地神明が全く信用ならない事態。それこそ自分の頭の中で行われた計算、1+1が2ではなく、他のトンデモない数に変化してしまったかのような、常識を土台からひっくり返す出来事。
絶対に通用するはずのことが、通用しない。周りにとってみれば普通に不可解なだけの出来事が、彼にとってみればどれほど、正気を疑うまでに異常なことだったか。少なくとも目の前でポカンとしているツンツン頭の
「この
白髪の少年、学園都市に七人しかいない
自分の能力が効かないなど、正しく彼にとってみれば、どんな冗談かという出来事である。
確かに今の拳は、単純にベクトルを操ることで“威力を飛躍的に上昇させただけ”の拳だ。
人間だろうが片手で造作もなく吹っ飛ばし、コンクリートの壁だろうが呆気なく粉砕するだけの威力を持ってはいるが、あれだけならば例えば
もちろんベクトルを操ることによって生まれる威力は生半可な能力者では対抗することが出来ないものである。それは間違いないのだが、理論の段階で話をすれば不可能ではないことだ。
「あぁ、もしかして今、能力使ってたのか?」
「煩ェな、喧嘩売ってンのかテメェ」
「わ、悪い。別に嘗めてるわけでも怒らせたいわけでもないんだぜ? ただちょっとほら、俺の能力じゃ打ち消したかどうかなんて分かりやすいエフェクトがないと判断できないからさ」
ため息をついて頭を掻く当麻の様子からは、別段おかしなところは見えない。とてもじゃないが
ならば目の前の
恐怖を感じない程の実力者か。本人も言っていたが、そもそも
「テメェの能力? オイオイ冗談は程々にしとけよ三下ァ。俺の能力を打ち消せるなンてトンデモな能力、見たことも聞いたこともねェぞ?」
「まぁ確かに、学園都市の方でも解析出来てないらしいからな、俺の
「
「あぁ。俺の右手で触れれば、どんな能力でも例外なく消し飛んじまうんだ。それこそ神様の奇跡だって、殺せるかもしれないな」
「右手‥‥?」
スッと視線を当麻が掲げた右手へと移す。成る程、そう言われてみれば自分の肩に触れたのも、毒手を受け止めたのも、あの何の変哲もない右手だった。
別段、変わったところなどない。光り輝いているわけでもなければ、変色しているわけでも変形しているわけでもない。
どこの男子高校生でも持っていそうな、右手だ。
「どンな能力も、ねェ‥‥?」
「まぁ流石に全部試したわけじゃないけどな。学生の数だけ能力はあるし、上条さんが見たことない能力だってたくさんあるでしょうからねー」
「実戦経験豊富ってことですか。ハイハイ格好いいですねェ」
「‥‥そういう言われ方すると、非常に他意を感じるわけですが」
ありとあらゆる能力を打ち消す能力。
その看板には全く嘘偽りない。事実、当麻が
全て例外なく、当麻の右手の前には無力だった。どんな能力者も自分の能力には自信を持っているもので、その能力が通用しなかった瞬間に必ず囚われる一瞬の驚愕を利用し、当麻はいつも暴れる学生たちを押さえ込んできた。
だが
能力者は
どんなに理不尽で、
圧倒的な地力の差、実力の差によって理不尽が生じることはあっても、それを“理解できない”ことはないのだ。ましてや学園都市最高の頭脳を持つ、
「はぁ、とりあえず他のゲームに移れよ。お前なんか気配が怖いし、周りの小学生とか怯えてるんだよ。なんつーか、存在が迷惑? いや、まぁそこまでじゃないけどさ」
「おいテメェ殺されてェのか‥‥?」
ミシリ、と
こんなに失礼な奴は今すぐに愉快なオブジェに変えてしまいたいものだが、確かに辺りを見回せば、本気で殺しにかかるには不似合いな場所であった。
自分の筐体の周りにプレイヤーの姿は無く、かなり離れて遠巻きに他の学生がチラチラとこちらを横目で確認しながらゲームをしていた。何人かは、既に荷物をまとめてそそくさとこの場を離れようとすらしている。
‥‥自分は確かに純粋な脅威でありたかった。純粋な恐怖そのものでありたかった。けれど、別に年端もいかない小学生を怯えさせて満足するような人間であるつもりもない。
というか、どっちかっていうと情けない部類に入るだろう。人は人、自分は自分と分けて考えるにも限界はある。
「‥‥チッ、表に出ろ三下」
「お、おう」
ゲーセンの中、全ての人間の視線を浴びながら二人は出口へと向かった。別に逃げ去るようにでもなく、威圧しながらでもなく、努力して自然体を装って。
途中で筐体の裏にいる幾人かが小さく拍手をしていて、
顔をしっかりと記憶した。いつかそれらしい因縁つけて懲らしめてやろうと思って。
「ふぅ、全く巡回始めてすぐこれだよ。ホント不幸だ、事件に出くわす確率おかしすぎんだろ‥‥。つかどうして上条さんはいつのまにやら
ゲーセンから出た瞬間、当麻は人目も憚らず盛大な溜息をつき、掌で顔を覆うと空を仰ぐ。
なんというか、紆余曲折あって
なにしろ外を巡回していれば、必ず事件に遭うのだ。というか、巡回してなくて、非番の時だって必ず何かしらの面倒事には直面することになる。正直、いつもの口癖の信憑性すら揺らぐ。自分が不幸なのではなく、不幸が自分なのではないかと。
「おいコラ三下、何勝手にどっか消えようとしてやがンですかァ?」
「ぐぇ」
そのまま溜息混じりにその場からそそくさと立ち去ろうとした当麻の襟を、
男子高校生とは思えない華奢な体と低い身長の
「‥‥へェ、右手以外だと能力を無効化出来ねェのか。ホント訳分かンねェ奴だな、テメェは」
「上条さんはこれから
「いィぜ、なンでもテメェの思う通りに行くってンなら、まずはその幻想をブチ殺す」
「なんかデジャブ?! ていうか痛いんですけど?! 襟に引っ張られて首しまってる! 首首首首ビビビビ‥‥!」
当麻が襟を引き戻そうとする力のベクトルすら操作して、
その向かう先は、人気のない路地裏。基本的に学園都市の学生達は目的地に一直線で、必然的に、特に昼間は殆ど人気がない空間である。(そもそも寄り道なんてものは時間に余裕が出来て“しまう”大人になってからするものなのだバーカバーカ)
「おらよ、ありがたくも離してやったぞ三下。泣いて感謝しやがれ」
「痛ぇ?! もうちょっと優しい離し方だと嬉しいんですけどねぇ?!」
それなりに鍛えてるとはいえ、流石に尻までは鍛えていない。そもそもいくら寛容な当麻でも、ここまで体格差のある少年に良い様に弄ばれるのは、それなり以上にプライドに障る。
もちろん相手が学園都市序列第一位という化け物であることを知れば、そんな些細なプライドなんて大抵の人間は吹き飛んでしまうことだろうが、当然、当麻はそんなことを知りはしない。
あと地面、埃っぽい。ていうか汚い。標準的な男子高校生なら制服は毎日洗ったりしないから替えなんてないのに、あんまりだ。
「てゆーかさ、マジで仕事あるから勘弁してくれねーかな? そりゃイライラすんのは分かるけど、連コインしてたお前が悪いんだぞ?」
「そンなつまンねェことで怒るかよ。嘗めてやがンのか三下」
「いや、明らかに機嫌悪くしてんだろ。顔怖いんだよ、顔が」
「‥‥ホントに愉快なオブジェにされてェらしいなァ。これァ素だよ、素。顔怖いとか余計なお世話なンですよォ!」
コンプレックスの一つを刺激されて、
あ、いや、確かに脅威でありたいとは思ったが、別にそこら辺の子どもに泣かれるのは望んでいたことじゃないのだ。
挙句の果てには騒ぎを聞きつけて既に顔なじみになってしまったガミガミ喧しいメガネで巨乳の
どこかに隠れても必ず見つけ出されるのは、あのアマ、
「‥‥チッ、おィテメェ、三下」
「だから三下じゃねぇって‥‥なんだよ白髪灼眼」
「メタっぽい渾名はヤメロ。‥‥名前、聞いてやるよ。言いな」
‥‥この場に彼の
基本的に他者に無関心、というより関わりを断ちたがる
「‥‥
「
学園都市序列第一位であり、押しも押されぬ
なにせ
能力者としては十分にエリート。ここから研鑽を積めば、
「‥‥しょうがねーだろ、右手だけでしか能力を無効果できないんだから。上条さんとしては
「
「まぁ路地裏で喧嘩に巻き込まれてた時に
「‥‥そいつァ御愁傷サマ」
現在進行形で
だが確かに、目の前のツンツン頭の能力が『異能を打ち消す』というものならば、
何せ普通の
もっとも、それが『超能力である』以上は、専門の研究機関が行う精密なスキャンで結果が出ないなど、どう考えてもおかしいことであるのだが。
「まぁおかげで奨学金も増えて上条さんとしては万々歳なんですけど、無理やり
「‥‥小せェなァ」
「バイトもしてない普通の学生にとっては、お金は死活問題なんだよ! お前みたいな奴には分から‥‥
って、そういえばどうしてこんなところまで連れて来たんだ? ていうか上条さんはお前の名前、聞いてないんですけど?」
おや、と当麻が気づき当然の疑問を口にする。
確かに自分は強引に釣れられ‥‥もとい連れられて来てしまったが、いくら注意されたとはいえ
もちろん今まで
「‥‥あァ、そォだったな。ついうっかり本題の方を忘れちまってたぜ。悪ィ悪ィ、待たせたなァ」
瞬間、突風。
ビルの隙間にある路地裏は元々ビル風が激しいが、その風は
「俺ァよォ、今まで何でも自分の思うとおりにしてきたつもりだったンだ。まァ思うとおりっつっても、何も考えなくてボーっと突っ立ってても別に不自由ねェだけの“力”があったわけだよ」
何でも“反射”してしまえばいい。
攻撃も敵意も、好意も。人と人との関わりも、思念すら自分は反射出来る。操作出来る。
今までそのやりかたで通用しなかったのは一人だけ。だが、それはソイツ自身の中で完結する力だったから、そこまで自分は気にしなかった。
例えば全力で殴ってソレが壊れなかったとしたら、自分の込めた力よりソレが硬かった、頑丈だったというだけの話。そこに自分が主体になる問題は存在しない。
「なンつゥか、つまンねェよなァ。そりゃやることは結構あるけどよォ、やりてェことだってあるけどよォ、結局それも作業ゲーみてェなもンだから、そこまで熱くなれねェわけよ」
「‥‥何言ってんだ、お前?」
「いいから聞けよ三下。今、すっげェ気分がいいンだ、久しぶりにワクワクしてきやがる」
だからゲームは楽しい。自分の指先を、タイミングを、効率よく使ってクリアしていくのはベクトル操作とは別の問題で、そこでは敢えて反則的に優秀な自分の演算能力を行使しないで楽しめる。パズルゲームの類は別だが、格闘ゲーやレースゲーム、
シューティングは負けても楽しい。
だが戦闘は別だ。つまらない、とんでもなくつまらない。自分の能力を適当に現状維持しているだけで終わってしまう。自分に干渉出来る奴なんて存在しない。それこそ、絶対無敵の第六位であろうと。
「だってのによォ、クク、だってのによォ、なンだよ『
笑いが、止まらない。嗤いではなく、久々の笑いだ。
知りたい、試したい、未知の存在への興味が尽きない。
あぁなンてこった、こんなに面白いことが転がってるなンて、やっぱり面倒くさがらずに外に出てみるものだ。
‥‥カガリに会う以前の自分なら、こうして人目の多いところまでわざわざ用事もなく出てフラつくようなことはしなかっただろう。
今日は一緒にいない友人が頭をよぎり、理解していながらも頭を振って脳の片隅へとやってしまう。なんというか、認めてしまうのは癪だった。
「おいおい勘弁してくれよ、またこういうパターンですか‥‥?」
「あァそォだよ三下。分かってンなら話は早いぜ、諦めて俺の実験に付き合いな」
ベクトルを操作、砂塵を巻き上げて路地裏の出口を覆う。
別に壁にこそならないだろうが、人目を避けることは出来る。今はこの楽しみを邪魔してもらいたくなかった。
「さァ、構えな三下。安心しろよ、殺すつもりはねェ。ただ全力で、俺の実験に協力してくれりゃぁいい。‥‥あァでも、あンまり期待外れだと勢い余って殺しちまうかもなァ?」
「‥‥‥‥」
一度巻き上げた風のベクトルを操作して、自分の周りをくるくると回らせる。
特に意味はないが、
もっとも学園都市序列第一位である彼にとってみれば、それは自分の実力に裏付けされた十分すぎるほど十分な余裕なのだろうが。
「‥‥しょうがねーな」
「あン?」
笑い続ける
その顔を見た
「
当麻は、笑っていた。それも嘲笑うわけでもなく、自らの上位を確信した笑いでもなく、ただ純粋に、不敵に笑ってみせていた。
誰でも
「‥‥テメェ、ホントわかンねェ奴だな」
「あ?」
「普通はよォ、俺みてェな奴に喧嘩売られたら逃げたり命乞いしたりするもンだろォが。右手だけなンだろ? 能力を無効果出来ンのは。だったら俺に、身体の何所か触られただけでアウトだろォが。ヒーロー気取ってンですかァ?」
嘗められている、のだろうか。
学園都市序列第一位と名乗ってこそいないが、ある程度場数を踏んだ者なら対峙している相手がヤバイかヤバくないかぐらいは判別出来て然るべきだろう。
「まぁお前が殺し合いしたいっていうなら話は別だけどさ、たかが喧嘩だろ? そのぐらいだったら毎日みたいに大立ち回りやってるから、今更身構えろって言われましてもね‥‥。
もちろん上条さんとしては喧嘩しないで済むならそれに越したことはないわけですが、どうよ?」
「ふ ざ け ん な」
「ですよねー」
じり、と当麻が戦闘体制を取る。狭い路地裏、正直この逃げ場のない戦場で
だが
「ていうかお前さ、自信満々すぎるだろ。自分が負けねーとでも思ってるんですか?」
「当たり前だろォが。俺ァ学園都市最強だぜ?」
「へっ、ご大層なこと言ってくれるじゃねーか。
いいぜ、お前が何でも思い通りに出来るってなら―――」
その仕草、わずかな仕草が喧嘩開始の合図だった。当麻も、
「―――その幻想をぶち殺す!!」
‥‥結果、
調子に乗った
研究所や第一位という称号の関係で厳重注意で済んだ
そのあと二人がごくごくたまに街で出会った際には立ち話をするような関係になったのも、それはまた、別の話である。
「不幸だぁぁぁあああーーーッ!!!!」