とある科学の無尽火炎《フレイム・ジン》   作:冬霞@ハーメルン

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第2話 『男、少女、第六位』

 

 

 

「手を挙げろっ! 全員その場から動くなっ!」

 

 

 すぐさま風紀委員(ジャッジメント)の腕章に手を添えてカウンターに向かって走り出した初春を、年若い男の怒声が遮った。

 立っているのは二人の男。一人は何の変哲もない白いワイシャツに、学生服の黒いズボン。もう一人は醜悪な髑髏をデザインしたTシャツにジーンズ。どちらも時代錯誤な黒い目出し帽を、この暑い夏のさなかに被っていて、顔は分からない。

 ―――この状況を見て誤った判断をする者は一人もいないだろう。乃ち、強盗。

 

 

「おいコラ、店員のお前! 警報は無駄だぞ、電気系統は俺が電撃で全部潰した!」

 

「レジにある金を全部この袋に詰めなっ! 金庫の金もだ、早くしろ! 早くしねぇと丸焦げにするぞ貴様らっ!」

 

 

 状況判断。

 店の出口は一つだけ。非常口はどうやら、カウンターの向こう、キッチンにあるらしい。

 ガラスを破れば出られないことはないが、もちろんそれは犯人に気づかれる。そうしたら、カウンターの方にまだ残っている客が襲われるかもしれない。

 犯人の能力は、ざっと見て強能力者(レベル3)以上。簡単に人を殺せるだけの能力を持っていることは間違いないのだ。

 

 

「‥‥もしもし風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部ですか? 固法先輩、私です、初春です。第七学区中央駅前ファーストフード店で強盗事件発生、至急警備員(アンチスキル)の派遣を要請します!」

 

『初春さん?! ‥‥分かったわ、急いで白井さんを急行させるから、関係者の安全を最優先に行動しなさい!』

 

「了解しました!」

 

 

 再度、状況判断。

 犯人は二人。どうやら発言から鑑みるに、夏仕様の学生服は発電能力者(エレクトロハンド)、そしてもう一人の能力は不明。だが拳銃を持っている。

 既に店員は抵抗を諦めて金を集めており、犯人達はニヤニヤと自らの成功を確認して笑っている。

 

 

「‥‥佐天さん!」

 

 

 視線を移動すると、あろうことか犯人から一番近い場所に涙子がいる。

 拳銃の銃口は涙子に向けられており、わずかに身じろぎするだけで引き金は引かれてしまうことだろう。

 

 

「これじゃ手が出せない‥‥。お金、取られちゃう」

 

 

 再々度、状況判断。

 ここまで完璧にあいての思惑通りに言ってしまうと、この場での捕縛は不可能。なにせ自分は低能力者(レベル1)であり、戦闘手段は皆無に等しい。

 念のためスタンガンを携帯してはいるのだが、そういえば発火能力者(パイロキネシスト)に熱が効きにくいのと同様、発電能力者(エレクトロハンド)にはスタンガンなどの電気系の武器が効かないと聞いたことがある。

 ましてや拳銃やら能力やらで人質が取られてしまっている状況で下手に動くと、被害を拡大させる恐れがあるのは、風紀委員(ジャッジメント)の研修で耳が痛くなる程に聞かされていた。

 

 

「仕方ありませんね、ここは人質に被害が出ないように注意して、応援の到着を待つしか‥‥」

 

 

 一人の学生にやれることには限界がある。それに、事件を未然に防ぐのと同様に、事件が起こった後、あるいは完了してしまった後にも解決すれば良い話。

 逃げた犯人を追跡し、然る後に捕縛。これも十分に風紀委員(ジャッジメント)の仕事である。

 初春はカウンターから遠い位置のテーブル席にいることを利用して、犯人達から見えないように近くの監視カメラと風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部のPCとの接続を開始した。

 こんな大事件が起きてしまっては、支部のメンテナンスチェックも中止。となると諦めていたPCの魔改造《メンテナンス》だって出来るかも知れない。

 

 

「よし、これで全部か?!」

 

「は、はい、金庫の鍵は店長が持ってますので、開けられませんでしたが‥‥」

 

「ちっ、シケてやがるな。おい、ずらかるぞっ!!」

 

「お、おう!」

 

 

 どうやらレジの金だけを詰めたらしい。用意した袋はぺたりと残念な量を示しており、憎々しげに舌打ちをした夏服の男が、袋を掴んで走り出す。

 Tシャツの男は夏服の男に遅れること数拍、拳銃で回りを牽制してから走りだそうとして―――

 

 

「おっ?」

 

「あン?」

 

 

 ドン、と軽い音がして、あからさまに緊急事態の店内に入ってきた一人の少年にぶつかった。

 見事なまでに真っ白な白髪に、小柄な体躯。牙か爪のようなデザインの黒いTシャツを着て、黒いジーンズを履いている。まるで女かと見まごう程の、華奢な少年だ。

 もしかしたら体重は自分よりも軽いのではなかろうか。腕や足は大の男が握ったら折れてしまいそう。

 ‥‥が、よろめいたのは少年ではなく、強盗の方。

 

 

「な、なんだよこのガキ?!」

 

「‥‥なンだよ、はこっちの台詞ですけどォ? つかホントに何なンですか、この有様はァ? 俺ァ新発売のトロピカルバーガーセット買いに来ただけなンだがなァ。

 あ、ドリンクはコーヒーな。アレ普通のドリンクよりも二十円高いからよ、セットにするとオトクなンだよなァ、そう思わねェか?」

 

「ば、馬鹿にしてんのか貴様!」

 

「‥‥はァ?」

 

拳銃(コレ)が見えねぇのか! さっさと其処を退きやがれ!」

 

「‥‥ハ、ハハ、ハハハ、もしかしてそんなチンケな玩具でこの俺にケンカ売ってやがンですかァ?

 冗談キツイぜおい、俺を殺すつもりなら核弾頭でも持ってきなァ!」

 

「な、嘗めんなこの野郎! ‥‥いいぜ、死ねクソガキ!」

 

「や、やめて下さいっ!!」

 

 

 銃声、二回。

 真っ直ぐに少年の額に向けた銃口から放たれた銃声は、過たず少年の額を穿ち、血の花を咲かせる。

 そう考えた初春は思わず風紀委員(ジャッジメント)の腕章を隠すことも忘れて身を乗り出し、叫び声を上げた。

 まさか、一般人に犠牲を出してしまうとは。こんなの風紀委員(ジャッジメント)失格―――

 

 

「―――が」

 

「え?」

 

「がぁぁああぁぁああぁッ?!」

 

 

 だがしかし、悲鳴を上げたのは少年ではなく男の方。

 拳銃を取りこぼし、自らの足を悲痛な叫びを上げながら押さえる。見ればジーンズは太股の辺りが真っ赤に染まっている。

 

 

「こ、このクソガキ、何しやがったぁぁああ?!」

 

「ハ、別に何もしてませンけどォ? テメェが何かしたンじゃねぇのかァ、ん? “俺に向かってその玩具ぶっ放す”とか‥‥よォ!」

 

「ご、ぉ‥‥ッ?!」

 

 

 一閃、少年の振り上げた足が唸りを上げて男の腹へと吸い込まれる。

 どれほどまでの威力だったのだろうか、その足は過たず“水月”と呼ばれる急所にぶち当たると、男の体を浮かせてカウンターの向こう、キッチンまで軽々と吹き飛ばした。

 

 

「な、何なのよコレ‥‥!」

 

「佐天さん大丈夫ですかっ?!」

 

「あ、あたしは大丈夫、けどコレはいったい‥‥」

 

 

 すぐさま涙子に近寄って安否を確認すれば、幸いにして無傷。ただし腰が抜けてしまったようで、ぽかんと今さっき強盗犯の片割れを蹴り飛ばした少年を目を見開いて見つめている。

 

 

「アー、悪ィけどトロピカルバーガーセット貰えますゥ? ドリンクはコーヒーで。あ、あとコーラ一つ追加で」

 

「す、すいませんお客様、こんな調子ですから、ちょっとご注文は‥‥。こ、こら君、早く警備員(アンチスキル)に連絡を!」

 

「チッ、使えねェ。‥‥オイお前、そこの脳天花咲か女」

 

「そ、それもしかして私ですかっ?!」

 

 

 こんな有様だというのに図々しく注文しようとする少年を、それなりの地位にいるらしい制服の違う店員が冷や汗混じりで丁重に断り、もう一人の店員に檄を飛ばす。

 苛々と舌打ちをする少年は続けて呆然としている初春達に振り向いて、言った。

 

 

「お前さァ、風紀委員(ジャッジメント)だろ? さっき逃げた片割れ、追っかけなくていいのかァ?」

 

「え? ‥‥あ、はい、佐天さん失礼します!」

 

「ちょ、ちょっと初春ッ?!」

 

 

 慌てふためき、走り出す。幸いにしてもう一人の犯人が逃げ出した方向は目にしていた。

 応援が来るまで、せめて力のない自分でも相手の居場所ぐらいは把握しておかなければいけない。風紀委員(ジャッジメント)としての使命感から、初春は自分の出来る限りの力で足を動かした。

 

 

「ま、待って下さい! 風紀委員(ジャッジメント)ですっ!」

 

「何ぃっ?! くそ、こんなに早く‥‥! んの野郎なにしてやがった?!」

 

 

 人通りが邪魔したのだろう、男が通った後は人が疎らになって逃げた方向を見ていたから、追うのは足が遅い初春でも何とかなった。

 そも覆面なんて付けた人間が目立たないわけなどないのだ。どうしようもなく、分かりやすかった。

 

 

「クソが! こんなところで捕まるわけにはいかないんだよっ!」

 

「きゃあっ?!」

 

 

 電撃、疾る。

 流石に逃げながら正確に電撃を追っ手である初春に当てるのは難しかったらしく、それでも低能力者(レベル1)の初春を怯ませるには十分だった。

 

 

「なんだよ、途中まで上手くいってたのに‥‥こんなところで‥‥やめられねぇだろうがぁ!」

 

 

 焦燥感ばかりが先行し、走り続ける。

 粗雑な計画に見えて、実は入念に練っていた。人の出入りをしっかりと観察して、店員のシフトも確認していたし、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の巡回が無い時間帯も見計らった。

 もう止められないのだ、ここまでやったら途中で投げ出すことなど出来ない。後ろについていた相方は既に捕まってしまったのかもしれないが、ここまで来たら徹底的に、逃げ切ってやる。

 

 

「チィッ、通行人か! おいテメェ、そこを退けぇ!!」

 

 

 そう必死で思いながら走っていると、目の前に人影が見えた。

 長身で肩幅は広く、髪の毛を無造作にオールバックに纏めた男。年の頃は高校生か、ともすれば大学生ぐらいか。この暑いのに長い白衣を着込み、奇妙な存在感を辺りに振りまいている。

 顔立ちはごくごく普通。どちらかといえば精悍な方かもしれないが、表情はぼんやりと、何処か空虚な色をたたえていた。

 細身の体には強大な力が眠っているようには、ちっとも見えない。確かに骨格はがっしりとしているかもしれないが、全体的に肉が足りない印象で、何処はかとなく不自然。

 しかしどんな存在かは知らないが、無視できない。そんな空気を感じ、強盗犯は足を止めた。

 

 

「ん?」

 

「そこを、退けって、言ってんだろうがぁぁあ!!」

 

 

 右手に電撃を収束、放電。

 何条もの、何万ボルトもの電流が立ちつくすままの白衣の男を襲う。人体を感電死に追い込むには、いや、もはや感電などという生温いものではなく、やけどにまで追い込んでもおかしくない威力の電撃。

 それが何の容赦もなく、炸裂した。

 

 

「‥‥ん?」

 

「え?」

 

「‥‥ふむ、何をしたのかな、キミは?」

 

「何ぃ?!」

 

 

 間違いなく全力の電撃だった。自分に放てる、最高の電力だ。

 冷静になって考えてみれば人一人ぐらいなら十分に殺せるだけの威力だったはずなのに、直撃したはずなのに、どうして目の前のこの男は平然と立っているのだろう。

 

 

「‥‥あぁ、なるほど、キミは発電能力者(エレクトロハンド)か。悪いねボーヤ、僕にはそういうの効かなかったりするってことです」

 

「き、効かない?! お前まさか俺と同じ、いや、俺より高位の発電能力者(エレクトロハンド)?!」

 

「お? あー、いやいや別にそんなことはないさ。僕の能力は何の変哲もない『発火能力(パイロキネシス)』だよ」

 

 

 白衣の下に着込んだ白いワイシャツに焦げを作りながらも、合点がいったように白衣の男は笑った。

 ぞくり、と背筋に悪寒が走る。“とある事情”で自分の能力に最近自信がついてきたというのに、圧倒的な差を感じさせられる、恐怖。

 

 

「―――ただし残念なことに、キミと僕では強度(レベル)が違うってことです」

 

「おああああああああああ?!!!!」

 

 

 瞬間、周りの大気が燃え上がり、強烈な熱を感じた。

 それは自分を焦がすわけではない。が、不思議にも意識―――が―――遠のい―――て―――

 

 

「‥‥ふわぁ~、凄い」

 

「まぁ、こんなモンかな。怪我させないように制圧するのも、僕の能力だと一苦労ってことです」

 

 

 追いかけてきた初春は、その一部始終を見て息を呑んだ。

 白衣の男から疾った炎は強盗犯の周囲を囲み、燃焼によって酸素を奪い、それによって強盗犯の意識を奪ったのだった。

 倒れた強盗犯を見れば、集中的に酸素を奪ったはずの顔面には焦げ一つない。どれだけ精密な能力制御だろうか、尋常ではない精度だ。

 

 

「‥‥おや、キミは確か前に不良に絡まれてた残念な風紀委員(ジャッジメント)?」

 

「残念な?! ていうか貴方はあの時の?! そ、その節は本当にありがとうございましたっ!」

 

 

 ちらりと視線をこちらに移した白衣の男が、ぱちくりと目を瞬かせる。

 初春にとっては、街中ではあまりにも特徴的な服装と、遭遇した状況からしっかりと記憶にあった人物。

 

 

「いやぁ悪いね、街中で能力使っちゃったけど、これ見逃してくれると嬉しいってことです」

 

「あ、それは犯人逮捕に協力してくれたということで処理できるから、問題はありませんが‥‥。って、あぁ早く警備員(アンチスキル)に連絡しないとっ?!」

 

「事情聴取とか、必要なのかなぁ。連れがいるから勘弁して欲しいんだけど」

 

 

 慌てて携帯を取り出し、警備員(アンチスキル)へと逮捕の要請をする。実際に護送などの機材を所持しているのは風紀委員(ジャッジメント)ではなく警備員(アンチスキル)だ。

 犯人を引き渡し、報告書を作成して風紀委員(ジャッジメント)の仕事は終わる。ここからが本番だと言っても過言ではない。

 

 

「‥‥そうですね、そちらは警備員(アンチスキル)の方の管轄ですから私には何とも。でも協力者ってことですから、簡単に終わらせてくれると思いますよ! わ、私も協力しますし!」

 

「そりゃそうかい。いやぁ、ありがたいってことです。連れはすぐに機嫌を悪くするもんで‥‥」

 

「はい、ありがとうございます。‥‥あ、そういえば電撃受けてましたよね?! だ、大丈夫なんですか?!」

 

 

 へらへらと笑う白衣の男の腹を、慌てて初春は確認した。

 傍目に見ても強力な、事故レベルと呼んでも良い電撃だったのだ、某かの手段で防御したのかもしれないけれど、不安は残る。

 

 

「あれ、本当に無傷‥‥?」

 

「‥‥あんまりジロジロ見ないで欲しいんだけどな。少しばかり恥ずかしいってことです」

 

「うわぁっ?! す、すいませんっ!」

 

 

 見ればシャツに焦げ跡はあるが、確かに掠り傷すら見あたらない。一体どういう理屈だろうか、服が焼け焦げていて、肌は無事というのは不可思議なことだ。

 例えば服越しにスタンガンを押し当てられたりしたならば焦げ跡が無いのも納得できるが、実際に服が焦げているのだから、電流を無効化したとしても、熱の跡が残っていておかしくないのである。

 

 

「ホントに、大丈夫なんですか‥‥?」

 

「あぁ、ちょっとした体質ってことです。ああいう攻撃は効かないんだよ。

 それよりも服を焦がされた方がよろしくないね。まぁ、白衣の前を閉じれば問題はない、か」」

 

 

 不思議そうな初春に、白衣の男は苦笑してみせる。

 はぁ~と目をぱちくりさせれば、確かにぴんぴんしている。何か能力が関係しているのかもしれないし、大丈夫なのだろう。

 確かに焦げたのはシャツの腹の部分だから白衣の第三ボタンあたりからしたを閉じれば見えることはないだろうが、まったくもって暑苦しい。

 

 

「しかし二度目となると、何か運命じみたものすら感じるね。名前を聞いてもいいかな?」

 

「あ、はい! 私、風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部の初春飾利といいます! あの、貴方のお名前もお伺いしても‥‥?」

 

「ありゃ、言ってなかったっけ」

 

「はい、前回はドタバタしててお伺いしてなかったので‥‥」

 

 

 ゆらりと首を傾げる白衣の男の仕草は、その外見に似合わず妙に子供じみていて、違和感を感じる。

 いわゆるギャップ萌えというヤツを狙っているのかと、初春は全くもって見当違いのことを考えた。

 

 

「僕は―――」

 

「おう、こンなとこで待ってたのかよテメェは? 探したぜェ、さっきの広場にゃいねェんだからなァ」

 

 

 くるり、と突然聞こえた声に振り向くと、そこには先ほど店で強盗犯の一人を豪快に蹴り飛ばした少年が立っていた。

 片手にはマクロナルドの近くにある牛丼チェーンの袋を提げている。どうやら近場で昼食をとることにしたらしい。

 

 

「あぁ、そういうキミも随分と遅かったじゃないか。何やってたんだ、一方通行(アクセラレータ)?」

 

「うっせェなァ、メシ買いに行ったら絡まれたンだよ。しょうがねェから別の店探して来たンだ、俺ァトロピカルバーガー楽しみにしてたンだけどなァ‥‥」

 

「あれ、お連れさんって‥‥?」

 

「うんうん、コイツってことです。あれ、もしかして二人は知り合いだったり?」

 

「あぁ? 知るかこンな歩く花瓶娘」

 

「花瓶‥‥ッ?!」

 

 

 さもどうでもよさそうに、空気を吐くように自然に悪態をつかれ、思わず衝撃に思考が停止する。

 初対面の人間相手にここまで好き勝手言える人間に未だかつて会ったことがあるだろうか、いやない。(反語)

 そもそも下手すると自分よりも年下の相手から、言いように扱われるのはどうなのだろうか。実際問題、年上の威厳とか何とか。

 

 

「まぁまぁ初春堪えて堪えて」

 

「って佐天さん、どうしてここに?」

 

「この人がフラフラ歩いていったから、私も初春追っかけなきゃって思ってさ。そしたら方向が同じだっただけだよ。‥‥それにしても派手にやったねぇ」

 

 

 周りを見れば確かに、狭い路地裏は強盗犯が放った電撃によってあちらこちらが焼けこげており、白衣の男の炎にしても、強盗犯に怪我を負わせないように配慮はしても周囲は気にしていなかったらしく、見事に焦げを作っていた。

 見るも無惨、というのが当てはまる有様である。

 

 

「オイオイこれはテメェがやったんですかァ? ちょっとはしゃぎすぎだろ、いくら何でも」

 

「‥‥強盗犯の片割れ蹴飛ばしてカウンターの向こうに吹っ飛ばしたアンタにゃ言われたくないと思うんだけど」

 

「ありゃ正当防衛だっつの。俺に楯突くのが悪いンだろォが」

 

 

 全く悪びれもせずに言い放つ少年、白衣の男の呼びかけを信じるならば名前は『一方通行(アクセラレータ)』。

 能力の正体は分からないが、至近距離で放たれた銃弾をはじくところから、それなりの強度(レベル)の能力者らしい。

 

 

「オラ用事が終わったンなら行くぞ。ゲーセン巡りは終わってねェんだからよォ」

 

「やれやれ、マイペースな人に振り回されるのは、残念ながら慣れてるってことです。‥‥悪いね、警備員(アンチスキル)にはキミの方からよろしく頼むよ、初春飾利サン」

 

「え? ちょ、ちょっと待って下さい! せめて連絡先‥‥お名前だけでも!」

 

 

 勝手に歩き出してしまった一方通行(アクセラレータ)に連れられて、白衣の男も歩き出す。

 それは、困る。なんていうか状況的に止めるのも無理そうだが、せめて警備員(アンチスキル)に説明する時のために連絡先、最悪名前だけでも聞いておかなければ風紀委員(ジャッジメント)の仕事が立ち行かない。

 

 

「‥‥あぁ、それもそうか」

 

 

 ゆらり、と男は振り返る。

 何処か空虚な瞳と薄く微笑んだ唇。前に会ったときもフラリと消えてしまった、つかみ所のない姿。

 その男は今回もまた、とらえどころのない様子で口を開いた。

 

 

「―――カガリ、だ。

 みんな僕のことをそう呼ぶよ。僕はよくあっちこっちブラブラしてるから、もしかしたらまた、こうして会うこともあるかもね。

 その時にはまた、よろしくってことです」

 

 

 結局フラリと男‥‥カガリは消える。

 入れ替わりのように警備員(アンチスキル)の護送車のサイレンが聞こえ、初春は自分がしなければいけない仕事を思い出した。

 とりあえず鞄の中に一つだけ持っている手錠を犯人にかけて、もう片方の強盗犯も回収に行かなければいけない。あちらは一方通行(アクセラレータ)が吹っ飛ばした後そのままだが、この短時間で目が覚めるようなことはないだろう。

 

 だからそれは確かに“いつも通り”というわけではなかったけれど、十分に風紀委員(ジャッジメント)としての初春飾利の日常だった。

 

 

 

 

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